闇子さん 04
「いないねぇ」
「ええ、本当にここにいるのかしらね」
僕と闇子さんは夜の高校校舎を歩いていた。もちろん仕事のためである。
「まったく、どこにいるのかしら」
実はというと、校舎のほとんどを既にまわっていた。
まだまわってない所といっても二、三ヶ所くらいしかない。
「じゃあ先にトイレの場所でも確認しておこっか」
僕達はこの学校のトイレの位置を確認すべく、再度校舎をまわった。
「各階、だいたい同じ位置にあるみたいだね」
「配管の関係上そうなるのよ」
「へぇ、そうなんだ。闇子さん物知りだね」
「当たり前じゃない。トイレに何年いたと思ってるのよ」
胸を張り誇らしげな闇子さん。
なんだか可愛い。
「あとは、体育館あたりにも有るはずね」
なんだか、心なしか闇子さんの機嫌が良さそうだ。
「物知り」と褒められたのが嬉しいのだろうか?
「物知り」と褒められたのが嬉しいのだろうか?
「この体育館のトイレで全部ってとこかしら」
「みたいだね」
トイレの位置の確認は終わった。
これで、敵に出会っても真っすぐトイレに逃げ込むことができる。
これで、敵に出会っても真っすぐトイレに逃げ込むことができる。
「じゃあ、また探しにいこっか。
あとは、理科室と理科準備室とかかな…」
あとは、理科室と理科準備室とかかな…」
「いるわ」
突然の一言だった。
「や…闇子さん?いるって……」
「や…闇子さん?いるって……」
「ここよ」
闇子さんが指差すのは……
「この…トイレ?」
え…じゃあ、それって……
「私と同じ、トイレの怪談、都市伝説みたいね…」
闇子さんの表情は険しい。
大丈夫なのだろうか?
トイレの都市伝説ということは、闇子さんの唯一の武器である、
トイレでは絶対的有利という特性が意味を成さないということになる。
トイレの都市伝説ということは、闇子さんの唯一の武器である、
トイレでは絶対的有利という特性が意味を成さないということになる。
「闇子さん…一旦帰る?」
「それはできないわ。何故だかわからないけど、ここで逃げてはいけない気がするの」
そう言い闇子さんはトイレのドアに手をかけた。
「闇子さん!」
少し大きな声を出してしまったみたいで、闇子さんの体がピクリと震える。
「な…なによ急に」
「僕が開けるよ」
闇子さんは僕が守ると決めたんだ。
このくらいはやっておかないと。
このくらいはやっておかないと。
闇子さんは僕の言葉を聞くと、無言で後ろにさがった。
ドアに手をかける。今度は僕が。
闇子さんを守るように彼女の前に盾になるように。
ドアをゆっくりと開く。
暗い場所になれたはずの目なのに、中は暗く感じた。
ドアをゆっくりと開く。
暗い場所になれたはずの目なのに、中は暗く感じた。
「なっ!?」
僕の後ろにいたはずの闇子さんが、僕を押しのけて前に出る。
「どうしたの闇子さん」
「まさか、あなたが今回の敵だったなんてね」
闇子さんの視線の先
そこには一人の女の子がいた。
オカッパ頭、白いシャツに赤いスカートの女の子。
そこには一人の女の子がいた。
オカッパ頭、白いシャツに赤いスカートの女の子。
「花子さん」
「は…花子さん?」
花子さん、トイレの怪談でもっともポピュラーなものだ。
闇子さんも花子さんの怪談の派生にすぎない。
マズイ……
これはいくらなんでも相手が悪すぎる。
マズイ……
これはいくらなんでも相手が悪すぎる。
「お前も契約者なのか?」
花子さんが敵だという現状に僕達が絶望にうちひしがれてる中、予期せぬ声がした。
「え?」
だから、思わず間抜けな声が出てしまったのだろう。
声のする方向を見てみる。
花子さんの少し後ろあたりだろうか。
花子さんの少し後ろあたりだろうか。
「あ、聞こえなかったか?」
高校生くらいのお兄さんがそこにいた。
ここの生徒だろうか?
ここの生徒だろうか?
「あ、聞こえます」
ん?今、「お前も契約者なのか」って言ってたよね。
「お前も」ということは、このお兄さんも契約者ということだろう。
ということは、敵ではないってことかな?
ん?今、「お前も契約者なのか」って言ってたよね。
「お前も」ということは、このお兄さんも契約者ということだろう。
ということは、敵ではないってことかな?
「もう一度聞くぞ。お前も契約者なのか?」
お兄さんが再度質問をしてきた。
「は、はい」
慌てて返答する。
「そっか、で、その子も花子さんか何かか?」
お兄さんが闇子さんを指差す。
あ……マズイかも……
ちょっと前に、闇子さんが、花子さんと間違われ怒っていたことがあったような……
あ……マズイかも……
ちょっと前に、闇子さんが、花子さんと間違われ怒っていたことがあったような……
「闇子さんよっ!」
ああ、やっぱり怒った……
「私は闇子さん。そこの花子さんの…」
「お友達なんだよ」
闇子さんの台詞を遮ったのは花子さん。
闇子さんと背格好は、たいして変わらないのだが、
闇子さんと比べると随分と幼い感じがする。
闇子さんと背格好は、たいして変わらないのだが、
闇子さんと比べると随分と幼い感じがする。
「そうか友達か、あえてよかったな」
「うんっ」
なんだか和やかなムード。
しかし、そんな中、一人だけ全く逆の空気をかもしだしている。
闇子さんだ。よく見ると、肩をわなわなと震わせている。
闇子さんだ。よく見ると、肩をわなわなと震わせている。
「ライバルよっ!!!」
それは、今までに聞いたことのないほどの、闇子さんの激しい叫び声だった。
「らいばる?」
花子さんはその言葉の意味がわからないのか首を傾げている。
「ねぇ、けぇーやくしゃ。らいばるって何?」
「好敵手のことだ。友とも言う」
お兄さんは微妙に間違った説明をしていた。
「なんだぁ、やっぱりお友達なんだぁ」
花子さんの笑い顔は、にぱーっという子供らしいものだった。
花子さんの笑い顔は、にぱーっという子供らしいものだった。
「ちっがうわよ!」
闇子さんがその場でダンダンダンとじだんだをふむ。
闇子さんがここまで取り乱す姿を見たのは初めてかもしれない。
闇子さんがここまで取り乱す姿を見たのは初めてかもしれない。
「違うの?」
再度首を傾げる花子さん。
その様子を見て闇子さんはさらに苛立っていた。
その様子を見て闇子さんはさらに苛立っていた。
どうやらこの二人、かなり相性が良くないらしい。
「もう、いいわ…勝負よ花子さん!」
ビシッと花子さんを指差し、キッと睨み付ける。
「あ……え?えっ!?」
流石にこれには僕も驚く。
「仲良しじゃなかったのか?」
ああ…お兄さん…火に油を注ぐ発言はやめて。
「だ・か・ら・違うって言ってるでしょ!」
闇子さんの声のボリュームとキーが上がっていく。なんとも耳に優しくない。
「いいよ、しょーぶしよう」
意外な返答が返ってきた。
もしかして花子さん、闇子さんが何を言いたいのかよくわかってないのだろうか?
もしかして花子さん、闇子さんが何を言いたいのかよくわかってないのだろうか?
「闇子さんと遊ぶのなんて久しぶり」
うん、確実にわかってない。
そのニコニコとした表情が、それを物語っている。
そのニコニコとした表情が、それを物語っている。
「い、いいわ、わからせてあげる」
闇子さんの頬がピクピクと痙攣していた。声も震えているいる。
どちらも怒りからくるものだろう。
どちらも怒りからくるものだろう。
闇子さん、サッと手をあげた。
その瞬間、闇子さんを中心に、ふわっと風がふいたような気がした。
その瞬間、闇子さんを中心に、ふわっと風がふいたような気がした。
すると、個室のドアが開き、そこにあった全てのトイレットペーパーが宙を舞い闇子さんのまわりを浮遊する。
「ふふふ、今現在、このトイレの全ての物は私の支配下よ。
蛇口、便器のひとつひとつにいたるまで全部」
蛇口、便器のひとつひとつにいたるまで全部」
「闇子さんずるい」
花子さんの言い分は正しい。
卑怯だった。闇子さんは大人げないほどに卑怯だっだのだ。
どちらが年上かはわからないけど。
「勝負の世界にずるいなんてないのよ花子さん」
トイレットペーパーが花子さん目掛けて一直線にのびていく。
「あうっ」
そして花子さんを縛りあげる。
「やった!やったわ!花子さんに勝ったわ!」
それを確認した闇子さんは、その場でぴょんぴょんと跳びはねた。
そして
「花子さん。
ごめんなさい、闇子さんには敵いません。
って言ったら許してあげてもいいのよ」
ごめんなさい、闇子さんには敵いません。
って言ったら許してあげてもいいのよ」
外道な言葉をはなつ。まさに外道。
………が、
「闇子さんのばんはおわり?じゃあ今度は私のばんだね」
花子さんは、現在の圧倒的不利な状況を何でもないかのようにかえす。
「へ?」
そんな花子さんの予期せぬ返答に、闇子さんは間抜けな声と表現になっていた。
その瞬間、
その瞬間、
ジャーゴボゴボゴボ
と、トイレの水が流れる音がした。
と、トイレの水が流れる音がした。
「な、なに?なによこれ……」
闇子さんの支配下にあるはずの、このトイレ内。
おそらく闇子さんは何もしてないはずなのに、何故かトイレの水が流れる音が聞こえた。
おそらく闇子さんは何もしてないはずなのに、何故かトイレの水が流れる音が聞こえた。
「かえしてもったよ」
つまるところ、支配権を無理矢理力技で奪い取ったというところだろうか。
トイレから水が吹き出し、花子さんと闇子さんのちょうど中間あたりのトイレットペーパーを濡らす。
どんなに強固になっていても所詮はトイレットペーパーだ。
水に濡れると、花子さんを縛っていた強い力も無くなり、
シュルシュルと解けていく。
水に濡れると、花子さんを縛っていた強い力も無くなり、
シュルシュルと解けていく。
「な……によそれ……」
闇子さんのその光景をみて思わず後ずさる。
だが、まだ勝負を諦めているわけではないようで、踏み止まる。
だが、まだ勝負を諦めているわけではないようで、踏み止まる。
「な、なら、もう一度」
再度トイレットペーパーを操ろうと闇子さんは手を振る。
しかし、
「あ……ら?」
トイレットペーパーはピクリとも動かない。
「ごめんね。それもかえしてもらったの」
闇子さんの周囲を浮かんでいるトイレットペーパーの支配権までも奪い取ったということか。
もしかしたら今現在、このトイレの全ての支配権は完全に花子さんに移っているのかもしれない。
「ひ、卑怯よ。こんなの!」
すでに、闇子さんは涙目になっていた。
なんだか可愛そう。
なんだか可愛そう。
「しょーぶにずるいは無いんじゃなかったっけ?」
ごもっともな意見だ。
そう言われては、闇子さんも何も言えない。
そう言われては、闇子さんも何も言えない。
その後、闇子さんは悲鳴をあげながら、トイレットペーパーにより、ぐるぐる巻きにされたのであった。
「いい加減解きなさいよ」
トイレットペーパーにより身動きのとれない闇子さんがじたばたと、もがいていた。
「だって、今解いたら闇子さんまた暴れるでしょ」
そう言うと闇子さんは大人しくなる。ぶすっとした表情だが。
「んで、お前達は何のためにここに来たんだ?」
高校生のお兄さんが洋式便器に腰掛け尋ねてきた。
「あ、はい、都市伝説の退治に」
「退治?わざわざ小学生が?この高校に?」
「あー…はい」
ん?もしかして、このお兄さんは「組織」に属していないのかな?
闇子さんのほう見ると、口パクで何か伝えようとしてるみたいだ。
おそらく「ひ・み・つ」と言ってるみたいだ。
おそらく「ひ・み・つ」と言ってるみたいだ。
このお兄さんに組織のことは話さないほうがいいということだろうか。
「その都市伝説なら俺と花子さんで倒したけど」
そう言い、お兄さんは花子さんの頭を撫でた。
撫でられた花子さんは嬉しそうに笑う。
撫でられた花子さんは嬉しそうに笑う。
「そうなんですか」
なんだ、つまりは無駄足だったということか。
「そうだ。だから、小学生はさっさと帰ったほうがいい。こんな遅いんだし。
それに、都市伝説よりやっかいな奴らが出るんだよ、この高校は」
それに、都市伝説よりやっかいな奴らが出るんだよ、この高校は」
言ってることの後ろ半分の意味はよくわからないが、
ごもっとも。まさにごもっともだ。
実のところ、こっそりと家を抜け出している身なので、さっさと帰ったほうが身のためだろう。
ごもっとも。まさにごもっともだ。
実のところ、こっそりと家を抜け出している身なので、さっさと帰ったほうが身のためだろう。
「では、帰ります」
善は急げ、急いで踵をかえす。
「あ、そうだ。ちょっと待て」
が、お兄さんは何かを思い出したかのように僕を呼び止める。
「はい?」
「お前、携帯とか持ってるのか?」
「あ、はい」
ポケットから携帯電話を出し、お兄さんに見せる。
「はは…マジで持ってるのか、すごいな、最近の小学生は…」
お兄さんは苦笑しながら頭をポリポリとかいた。
「でもまぁ、携帯があるなら番号交換だ。困ったことあったら呼んでくれてもかまわんからな」
お兄さんと僕がそんな会話をしている、その後ろ、
花子さんは身動きのとれない闇子さんの頭を撫でていた。
先程お兄さんに撫でられたのが余程嬉しかったのだろう。
だからこそ、善意のつもりで同じことを闇子さんにしてあげたのだろう。
だからこそ、善意のつもりで同じことを闇子さんにしてあげたのだろう。
だが、闇子さんにとっては、屈辱以外のなにものでもなかったのだと思う。
なんとも言えない表情になっていた。
僕は気づいてないふりをした。
帰り道、闇子さんの機嫌はすこぶる悪かった。無理もない話だが。
今日はそっとしておこう。うん、それがいい。
本当は、何故あのお兄さんのような、組織に属さない契約者がいるのか話し合いたかったのだが………仕方ない。
ふと、あのお兄さんが別れる直前に言っていたことを思い出す。
「俺もお前と同い年くらいのときに、花子さんと契約したんだぞ。
それで…あー…まぁ、それとこれとは関係無いんだけどな。
その子のこと、大切にしてやれよ」
単純な言葉のはずなのに、なんだか心にずしっときた。