闇子さん 03
「口裂け女?」
「まったく、最近の子は口裂け女も知らないの?
一昔前にあれだけ流行ったのよ」
一昔前にあれだけ流行ったのよ」
「えーっと…ごめんなさい。闇子さん教えて」
闇子さんは、まったくもう…と愚痴をこぼしながらも、
口裂け女についての詳細を教えてくれる。
口裂け女についての詳細を教えてくれる。
だから僕は闇子さんが好きなんだ。
「まぁ、流れてる噂を要約すると、こんなものかしらね」
「えー…と、それ全部本当なの?」
「あなたに嘘なんて教えてどうするのよ」
「そんなに強そうなの相手に大丈夫なの?闇子さん」
主に、100メートルを三秒で走るとか、人並みはずれた腕力だとか…
「無理よ」
そんな僕の質問に、闇子さんはキッパリとこたえた。
「無理って…」
「今の私の力なら、一瞬で切り裂かれるでしょうね」
「じゃあ、どうすれ…」
闇子さんは人差し指で僕の言葉を遮った。
「た・だ・し、それは正面からぶつかった場合よ。
あらかじめ、私に有利なように前準備をしておけば、大丈夫」
あらかじめ、私に有利なように前準備をしておけば、大丈夫」
「そうなんだ、よかった」
それを聞いて僕は胸を撫で下ろす。
しかし、そのときの闇子さんの表情は険しいものだった。
「……おかしいわね。今までの相手との力の差が激しすぎるわ。
臭うわね……トイレの何十倍も」
臭うわね……トイレの何十倍も」
「見つかんないねぇ」
「そうね。まぁ、見つからないなら見つからないで構わないわ」
確かに、この辺りに口裂け女が出るという話だったんだけど…
今までの仕事は、たいていが屋内での仕事だったし、いまいち勝手が掴めない。
僕達二人は、近くの公園で休憩することにした。
「闇子さん、喉渇いてない?ジュース買ってこようか?」
「渇いてないわ。渇くわけないでしょ」
そっか…闇子さんはお化けなんだっけ…自分の認識の甘さにちょっと悔やんだ。
「まぁ、渇いてないけど、どうしても、あなたが私にプレゼントしたいというなら、
貰ってあげないこともないわよ」
貰ってあげないこともないわよ」
「う、うんっ!わかった!買ってくるね」
闇子さんは、こういう子だ。
なんだかんだ言って、とても優しい子なのだ。
なんだかんだ言って、とても優しい子なのだ。
「どれにしようかなぁ…」
よくよく考えてみたら、闇子さんにどんなジュースを持っていけばいいのかわからない。
そういえば、渇かないとは言ってたが、飲めないとは言ってなかったし。
「まぁ、いっか。コーラにしよっと……」
自販機に小銭を入れる。
「あっ…」
なんと、釣銭切れだ。
「どうかしたの?」
優しそうな声がした。
「えっ、あ、釣銭切れで、その………」
振り向きざまに、こたえた……のだが、言葉を詰まらせてしまう。
そこにいたのは、いたって普通の服装をした普通のお姉さん。
声の通り優しそうな感じの普通のお姉さん。
ただ一つ普通でないところと言えば……耳までおおえそうな大きくなマスクをしているというところだろうか……
「く…口裂け女……」
そう、闇子さんから聞いたとおりの口裂け女の特徴……大きなマスクだった。
「闇子さーん!買ってきたよー!」
「遅かったわね」
そこまで時間をかけたつもりはないのだが、闇子さんは多少不機嫌になっていた。
「ごめんね。自販機が釣銭切れで」
「そうだったの。よく買えたわね」
「ああ、優しいお姉さんに両替してもらったんだ」
「…そう」
あれ?心なしか、闇子さんの機嫌が、より悪くなったような気が…
「はぁ、冷たくておいしい」
チラリと横目で闇子さんのほうを見てみる。
ジュースを飲めるのか気になるのだ。
「……なにこれ」
闇子さんはジュースの缶を両手でもち、首を傾げていた。
「もしかして、缶のあけかたわからないの?」
闇子さんの肩がピクリと動く。図星だったようだ。
「ち…違うわ、ただ、私の知ってるのとちょっと違うから…その…」
「貸してみて」
「………はい」
缶を開けられなかったことが、余程悔しいのか、
闇子さんは渋々と僕に缶をわたした。
闇子さんは渋々と僕に缶をわたした。
「えっとね、これは、ここを支点にして、テコの原理で……」
闇子さんは珍しいものでも見るかのように、僕の手の動きをじっと見ている。
闇子さんがたまに見せる、こういう子供らしい表情。
そういうところが可愛いと僕は思ってしまう。
僕の手つきを熱心に見ていた闇子さんが、急に僕のほうを向いた。
あ、闇子さんの顔をじっと見てたのがばれたのかな?
それにしては様子がおかしい。
それなら、呆れた表情で僕を見るはずである。
それなら、呆れた表情で僕を見るはずである。
なのに、
なんていうんだろう、
今までに見たことが無い。
闇子さんの焦った表情がそこにあったのだ。
闇子さんの焦った表情がそこにあったのだ。
「危ないっ!」
闇子さんに、頭を掴まれ引き倒された。
「闇子さん!?」
何がおこっているのかわからない。
その時、ブンッという、空を切る音が頭の後ろで聞こえた。
咄嗟に後ろに振り返る。
そこには………
草を刈る普通の鎌を持った、普通のお姉さんがいた。
いや、普通ではない。普通のお姉さんは鎌なんて持っていないのだから。
「…口裂け女」
闇子さんが苦々しい口調で呟いていた。
「え…お姉さん…」
そう、そこにいたのは、さっきの優しいお姉さん。
大きなマスクはしているものの、それは花粉症だから。
だから…のはずだ。
だから…のはずだ。
「その子があなたのガールフレンドなのね」
お姉さんは再びマスクに手をかけた。
ゆっくりゆっくりとマスクを外す。
ゆっくりゆっくりとマスクを外す。
「…そん……な」
マスクの下には…耳まで裂けた口……
「…なんで、さっきは」
口裂け女は何も答えない、ただ手にもった鎌をゆっくりと振り上げる。
「逃げなさい…」
闇子さんの口調はいまだ苦々しいものだった。
まさか、こんなところで、しかも急に口裂け女に出会うとは思ってなかったようだ。
そうだ、闇子さんの言う通りだ。逃げるしかない。
ただ……
「闇子さんを置いてなんか行けない!」
闇子さんの手をとり駆け出す。
口裂け女は、そんな僕達を見て笑った。
だがそれは、先程の優しい笑顔ではない。
狂気に満ちた笑顔であった。
狂気に満ちた笑顔であった。
「あらあら、そっちにトイレは無いわよ!」
ケラケラと笑いながら口裂け女が高らかに叫ぶ。
闇子さんの力をフルに発揮できるのは、トイレである。
そんなもの僕達は百も承知だ。
その後、ようやく、口裂け女が僕達を追って走ってきた。
早い、とにかく早い。これではすぐに追いつかれてしまう。
「ふふふ、鬼ごっこはもう終わりみたいね」
僕達のすぐ後ろに口裂け女が迫っている。
「あら、まだ終わらないわよ」
闇子さんの言葉が終わると同時に、口裂け女がその場に倒れた。
「…痛っ…どういうこと?」
口裂け女は何故自分が倒れたのかを、まだ理解していないみたいだ。
「足元を見てみなさい」
口裂け女は闇子さんに言われた通り足元を見る。
「……なにこれ」
マンホール、下水道のふたがズレていた。
ズレるだけではない、今は口裂け女の足をガッチリと挟んでいる。
ズレるだけではない、今は口裂け女の足をガッチリと挟んでいる。
「下水道とトイレは繋がっているのよ。
といっても、トイレの中みたいに自由自在とはいかないわ。
そのマンホールをちょっと動せる程度ね」
といっても、トイレの中みたいに自由自在とはいかないわ。
そのマンホールをちょっと動せる程度ね」
口裂け女の足がマンホールに挟まっているあいだに、
僕達は公園の公衆トイレへと急ぐ、
僕達は公園の公衆トイレへと急ぐ、
もし、まともにトイレに向かっても口裂け女に追いつかれていただろう。
だからこそのまわり道だった。
そして僕達は急ぐ。
口裂け女がマンホールの罠から抜け出さないうちに……
闇子さんが唯一、口裂け女とまともに戦える場所へと
口裂け女がマンホールの罠から抜け出さないうちに……
闇子さんが唯一、口裂け女とまともに戦える場所へと
「ふぅ、間に合った」
トイレに来て、用を足す以外の状況でこの台詞を使うとは思ってなかった。
「ドアは閉めたわ。多少の時間稼ぎには……」
スパンッ
確かにそういう音が聞こえた。
闇子さんの言葉を遮ったのは、トイレの入口のドアが切れる音だった
「あら、もしかして開かないようにしてたのかしら?
やわらかすぎて全然気づかなかったわ」
やわらかすぎて全然気づかなかったわ」
口裂け女がそこにいた。
手にもった鎌で、トイレのドアを引き裂いたのだろうか。
手にもった鎌で、トイレのドアを引き裂いたのだろうか。
闇子さんはその様子を見て固まっていた。
いくら力が弱くなっているとしても、
こうも簡単に打ち破られるとは思っていなかったのだろう。
いくら力が弱くなっているとしても、
こうも簡単に打ち破られるとは思っていなかったのだろう。
「差があるかって……」
闇子さんが手を振りあげる。
すると個室のドアが一斉に開いた。
すると個室のドアが一斉に開いた。
「まずは動きを封じるわ」
今度は手を振り下ろす。
すると、各個室から、白い帯状のものが蛇のようにのびてきた。
「トイレットペーパーなんかで?」
口裂け女はケラケラと笑う。
ケラケラと笑う口裂け女にトイレットペーパーが巻き付く。
「ふふっ、こんなもの……あ…あら?」
簡単にちぎれてしまうはずのトイレットペーパー、
しかし、それが今は、強い縄のようにガッチリと口裂け女をつかまえる。
しかし、それが今は、強い縄のようにガッチリと口裂け女をつかまえる。
「ふふっ、簡単にちぎれるかと思ったのかしら」
口裂け女の動きを抑えることで、余裕をとりもどしたのか、
闇子さんはいつもの表情に戻っていた。
闇子さんはいつもの表情に戻っていた。
しかし、口裂け女は再び笑いだした。
「簡単にちぎれる?ええ、思っているわよ。今もね」
スパンッ
やはり、そういう音がしたと思う。
音の後、口裂け女に巻き付いていたトイレットペーパーがハラリと落ちていく。
闇子さんね表情から再び余裕が消えた。
「おっ、落ちなさい!」
今度は、口裂け女をトイレに吸い込もうと試みる。
「駄目じゃない。トイレに紙以外の物流しちゃ駄目だって、貼紙にあるでしょ」
口裂け女は鎌をふる。
個室の壁が斬れ、便器が埋まってしまった。
個室の壁が斬れ、便器が埋まってしまった。
「……そ…んな」
闇子さんの表情が絶望の色へと染まっていた。
すでに、口裂け女は闇子さんの目の前まで来ていた。
すでに、口裂け女は闇子さんの目の前まで来ていた。
「闇子さんっ!」
僕はすかさず飛び出す。
「来ては駄目!」
闇子さんの制止を無視する。
だって、闇子さんが危ないんだ。
「あらあら」
そんな僕の姿を見て口裂け女は笑う。ただ笑う。
「そうだったわ。忘れてたわ」
口裂け女は何かを思いだしたと、手を打つ。
「私、綺麗?」
口裂け女の通り文句のような言葉だ。
「その子とどっちが綺麗かしら?」
闇子さんを指差す。
そんなの決まってる。
「闇子さんのほうが、
何百倍も何千倍も何万倍も何億倍も何兆倍も……
あ…あと知らないけど、ずーっとずーっと闇子さんのほうが綺麗に決まってるだろ!」
何百倍も何千倍も何万倍も何億倍も何兆倍も……
あ…あと知らないけど、ずーっとずーっと闇子さんのほうが綺麗に決まってるだろ!」
「ふーん…そう、私のほうが綺麗って言ってたら。
その子の口を裂くだけで許してあげようと思ったのに」
その子の口を裂くだけで許してあげようと思ったのに」
そんなことで助かったって意味が無い。
闇子さんを守れないなら。
闇子さんを守れないなら。
「そこをどきなさい…」
闇子さんの言うことでも、それは聞けない。
「そんなクズみたいなの守ってどうするのかしら」
「グズなんかじゃない!闇子さんは僕の…僕の友達だ!」
「そう…仲がいいのね。そういうのムカつく」
口裂け女は鎌を再び振り上げる。
それが振り下ろされるとき、僕の命は終わるだろう。
それが振り下ろされるとき、僕の命は終わるだろう。
怖い…怖い…
思わず目をつぶってしまう。
思わず目をつぶってしまう。
…………ん?おかしい。なんで鎌が振り下ろされないんだ?
恐る恐る目を開ける。
「……え?」
口裂け女が……口裂け女のまわりを何かがおおっている。
「今度は切り裂けないでしょ?」
闇子さんだ。これは闇子さんがやったんだ。
「な…なん…何?」
口裂け女は今の状況を理解できてないようだ。
無理もない。僕にだってわからない。
「これはね、あなたが切っていった残骸よ。
トイレットペーパー、個室の壁、その他諸々ってところね」
トイレットペーパー、個室の壁、その他諸々ってところね」
なるほど、そういうことか、これなら切り裂くことはできない。
「なるほどね……よく考えたわね」
「あなたのおかげよ。私をクズ呼ばわりしてくれたおかげ」
そう言い口裂け女を睨みつける。
その後、僕に視線を向けた。
その後、僕に視線を向けた。
「ありがとう…」
そう一言言うと、再び口裂け女へと視線を戻した。
「また動けるようになられても困るわ。
その物騒なものを捨ててもらうわね」
その物騒なものを捨ててもらうわね」
闇子さんはトイレットペーパーを取り出す。
まだ隠し持っていたようだ。
まだ隠し持っていたようだ。
シュルシュルとのびたトイレットペーパーは口裂け女の鎌を捕らえた。
「くっ……」
そして、口裂け女から鎌を奪った。
闇子さんの勝ちだ。口裂け女はすでに身動きが取れない、さらに頼みの綱の鎌さえ失っている状況だ。
「やった、やったよ。勝ったんだね闇子さん」
嬉しさのあまり闇子さんに抱きつく。
「当然よ、それより離れなさい」
闇子さんは顔を真っ赤にして僕を引き剥がそうと手を突っ張っていた。
「ふふふふふ、ははははは、あーっはっはっはっはっはっは」
口裂け女の異質な笑い声に僕と闇子さんは、思わず同時に振り向く。
「何勝った気でいるの?私はまだここにいるのよ」
負け惜しみなのだろうか?
「なにを言ってるのかしら?あなたの負けよ。身動きはとれない、自慢の鎌はもうない。それでどうやって勝つ気?」
口裂け女はいまだ笑っている。
「こうやってよ!」
口裂け女の服の袖からするすると何かが出てくる。
「不味いわっ」
闇子さんはそれを見て慌てていた。
だけど、どうやらもう間に合わないみたいだ。
だけど、どうやらもう間に合わないみたいだ。
ブンッ
何か長いものが空を切る音が聞こえた。
「何よ……それ」
死神が持ってるような大きな鎌
「デスサイズっていうらしいわね。私の最終兵器ってとこかしら」
ありえない…ありえない…何だあれは
…
…
「ふふふ、これであなた達の手は終わりかしら?」
口裂け女は死神鎌を振り上げる。今度こそ終わりだ。
僕は闇子さんを抱きしめた。
闇子さんが何か言っている。
闇子さんが何か言っている。
「ごめんなさい」
なんで謝るの?なんで?僕は闇子さんと出会えて幸せだったよ。
だから、僕はこうかえした。
「ありがとう」
「ストップ」
何者かの声が聞こえた。少なくとも今までここにいた者の声ではない。
「いくらなんでもやりすぎです。死神鎌の使用まで許可した覚えは無いですよ」
声の主は、スーツをピシッと決めた二十台後半くらいの男。
スーツといっても、お父さんが着るようなやつではない。
ゲームや漫画で「なんたら機関」とかいうのの、エージェントがよく着てる感じのやつだ。
スーツといっても、お父さんが着るようなやつではない。
ゲームや漫画で「なんたら機関」とかいうのの、エージェントがよく着てる感じのやつだ。
「だって、なんか悔しいんだもん。こんな仲がいいなんて」
さっきまでの態度と打って変わって、口裂け女の口調が拗ねたものへと変わっていた。
僕は状況を把握できずにいた。
闇子さんは何か理解したのか、悔しそうな表情をしていた。
ようするに、あの二人は僕達の仲間だったらしい、
なんでも「上からあなた達の力量をはかるように言われたんです」とのことだ。
なんでも「上からあなた達の力量をはかるように言われたんです」とのことだ。
「なんか引っ掛かると思ったのよ!もうっ!」
と、闇子さんは、じだんだを踏んでいた。
余程試されてのが悔しかったんだろう。
余程試されてのが悔しかったんだろう。
帰り道、闇子さんと並んで二人で帰った。
「悪かったわね。私みたいな弱いので」
唐突な闇子さんの言葉に僕は目を丸くした。
「私が、かりに花子さんだったら、あんな奴ちゃっちゃと倒せたはずよ」
闇子さんは何を言ってるんだろう。
「ごめんなさいね。弱くって」
「何言ってるの?」
素直に思っていたことを口にした。
「何って…私が弱いことを…」
「強い弱いなんて関係ないよ」
「関係なくないわ。今回だって、私が弱かったからっ!」
闇子さんは何を意地になってるんだろうか。
「僕は闇子さんが、闇子さんだから契約したんだよ」
僕がそう言うと、闇子さんは泣きそうな顔になってしまった。
「でも…弱かったら。守れないじゃない」
「僕のことなんて守らなくていいんだよ。
僕が闇子さんを守ってあげるから。
今は無理でも、もっと、もっともっと強くなって、闇子さんを守ってあげる」
僕が闇子さんを守ってあげるから。
今は無理でも、もっと、もっともっと強くなって、闇子さんを守ってあげる」
「……そ…そう」
その日はそれ以降、闇子さんとは何も話さなかった。
ただ、その日、初めて闇子さんと手を繋いで帰った。
スーツの男と大きなマスクの女は夜道を歩いていた。
「どうでした?トイレの闇子さんの実力は?」
「まぁまぁってとこかな」
「まぁまぁ?あなたに最終兵器を使わせておいて、ですか」
スーツの男な一言で、マスクの女の表情が変わる。
「弱いくせに、チクチクチクチクうざったいのよ!」
ぷんすかと見た目よりも幼い怒りの表現である。
「力の使い方が上手、ととらえてよろしいですか」
スーツの男はそんな幼い怒りを右から左へといなす。
そんな男の態度に、女は「もー!」と、さらに幼い怒り表現をしていた。
「まぁ、あれで力をつけたらやっかいかもね」
拗ねた口調ながらも、少しは認めてやるという言い回しだろうか。
「ですね、もしかしたら、花子さんよりも有望かもしれません」
「花子さんが相手ならトイレになんて、むざむざ入っていかないもんっ!」
「それもそうですね」
スーツの男はハハハッと笑い、二、三回頷いた。
「お酒!」
「はい?」
「今日はお酒奢んなさいよ」
男はヤレヤレと首をふり、財布を取り出し中身を確認した。
「はぁ…こんなことになるなら、あなたに声をかけなければよかったですよ」
「なによ、綺麗な方ですね。なんて言ってきたくせに」
「それが私の仕事だったのですから仕方ありません」
「カラス族のどこが仕事よ」
「立派な仕事ですよ」
男は再びハハハと笑い、場を濁した。
「だいたい何よ、その話し方は。
子飼いの契約者のくせして大物ぶっちゃって、そのスーツも!」
子飼いの契約者のくせして大物ぶっちゃって、そのスーツも!」
「前職の癖ですよ。この話し方のほうが女性の警戒心をときやすいんです。
このスーツは趣味です。とやかく言わないでくれると助かります」
このスーツは趣味です。とやかく言わないでくれると助かります」
女の言葉は全て受け流されてしまう。
「さてと、組織に連絡も終わったことですし、飲みにいきましょうか」
「奢りだからね」
そう言うと女は勢いよくマスクを外した、
その下には、小さめの口があるだけだった。
その下には、小さめの口があるだけだった。