「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 三面鏡の少女・小ネタ-07

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小ネタその7 ふとましいオッサン


この季節は憂鬱だ
何処へ行ってもチョコレートチョコレート
しかも男が売り場に入ると変な目で見られる
業務用のお店へ出向いても、あっちもこっちも女の子
まったく精神的にきつい事この上ない
それがデブのおっさんなら尚更だ
店員は既に顔馴染みで、僕の事はパティシエか何かだと思っているらしいので多少マシだが
もっとも、それにしては買う物が偏り過ぎているのだが

夜道を大きな紙袋を提げて歩く僕
自宅とは全く違う方向だ
なにせ仕事があるんだから仕方ない
「おじちゃん、あそぼう?」
おおよそ目的の場所に辿り着いた時、見計らっていたように幼い子供の声が掛けられる
見れば小学校に上がったばかりぐらいの女の子が、にこにこと微笑みながらこちらを見ている
まったくあの黒服の情報はいつも正確だ
「悪いけど、僕ぐらいの年齢で小さい子と遊んでると、お巡りさんに捕まっちゃうんだよ」
「それは大丈夫だよ、だってね」
無邪気に微笑む少女は、プラスチックの小さな小瓶とストローを取り出し
「お巡りさんに捕まる前に、お空へ逝けるから」
言うが早いか、少女がストローをぷうと吹くと、もの凄い勢いで膨らんだシャボン玉が僕を包み込んだ
一応叩いたり蹴ったりしてみるが、まるで頑丈なゴムのように弾き返されてしまう
「割れないね」
「屋根よりずっと高いところに行かないと割れないんだよ、凄いでしょ」
えへへと自慢げに笑う少女
子供のうちに都市伝説に魅入られると、どうしても引き摺られてしまうんだろうな
僕を殺そうとしているのに、不憫に思い助けたいと思ってしまうからこそ、あの黒服は手伝って欲しいと言ってくるのだろう
普通は抹殺するだろうからね、『組織』の連中なら
「しゃーぼんだーまーとーんだー♪」
少女は楽しそうに歌い出し
それと同時に、90キロはある僕の肥満体を包んだシャボン玉がゆっくりと浮かび上がり始める
「高いところまで飛ばせたところでシャボン玉が割れる。高い建物が何一つ無いところでの飛び降り自殺死体の一丁上がりか」
『シャボン玉の歌は死んだ子供の事の歌』ってやつか
そのくせ人を殺す事に特化してるという事は、死者の意味合いが含まれる事で歪んでしまったのだろう
これは時間を掛けていられない
僕は紙袋の中にあった業務用チョコレートを手に取り、その封を切る
「なぁに? チョコレートをくれても止めてあげないよ?」
「いや、こいつはね」
ぼりん、と
巨大な厚みのあるチョコレートに豪快に齧り付き、ごりごりと咀嚼する
僕が、だ
「知ってるかい? チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出るんだよ」
もりもりとチョコレートを食べ続ける僕の姿を、少女は不思議そうに見詰めくすくすと笑う
「あはは、嘘だぁ」
「ああ、そんなのはね……都市伝説さ」
つうっと落ちる赤い筋
それが鼻血だと気付き、少女は手でそれを拭う
「これっ、て」
少女の動揺した声に、僕はチョコレートの包みを丸めながら説明をする
「『チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出る』、これが僕の契約した都市伝説能力さ。だが鼻血を出すのは僕じゃない。僕が狙いを定めた相手だよ」
そう言いながら、僕は次のチョコレートの封を切る
「さて、君がこの百貫デブを空まで押し上げるのが速いか、僕がチョコレートを食べる速度が速いか、勝負だ」
言うが早いか、チョコレートに齧り付く
「あ、ああああ、ああああ」
少女はぼたぼたと出る鼻血を止める事ができず、僕を殺そうとシャボン玉を浮かせるために
「しゃーぼんだ、ばっ、げほっ、うぇっ!」
「鼻血がたくさん出てると喋るのも辛いだろう?」
ばりんと開いた大きなプラスチックの袋には、たっぷりと詰まったピーナッツ
「ついでに、『ピーナッツを食べ過ぎると鼻血が出る』って都市伝説とも契約してる。面白いものでね、似たような能力ってのは重ねるとより強力になる場合があるんだ」
鷲掴みにしたピーナッツをどんどん口に放り込み、ぼりぼりと噛み砕きごくんと飲み下す
それと同時に少女の鼻血の勢いはどんどん増し
「失血もあるし、何より呼吸が阻害されて酸欠気味にもなる。声を張り上げて歌うのは無理さ」
少女の意識が途絶え、血塗れで倒れたところで僕を包んでいたシャボン玉がぱちんと弾けて消えた
「やれやれ、この程度で済んで良かったよ」
僕は少女を抱き起こすと、首の後ろをとんとんを叩く
それだけで鼻血はぴたりと止まる
迷信で出た鼻血は迷信で止まる、まあ僕が止めようとしたからだけど
「貧血と酸欠で気を失ってるだけ。見た目は酷いけどね」
「流石に見た目までは気にしてはいられません。お疲れ様でした」
いつの間にそこにいたのか、僕の背後にいた黒服が少女を大きなタオルに包んで抱き上げる
「その子、どうすんの?」
「都市伝説というものをきちんと学んでもらった上で、これ以上引き摺られないように倫理教育からですかね」
「ふーん……まあ頑張って。子供が減ると僕らが年金貰う頃に大変だし」
後始末までは流石に構ってはいられない
僕は紙袋を提げて大人しく家に帰る事にした
それにしても口の中が甘ったるい
帰りに牛丼でも食べて行こう

おわり


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