「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-a06

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uranaishi

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恐怖のサンタ 日常編 06


********************磯部 良子の場合*************************

「くそっ、何だあいつはっ!」

 屋根裏の暗闇の中で。
 一人の男が、小さく悪態をついた。
 片手に持った包丁が、その言葉に合せるように揺れる。
 彼は「ベット下の殺人鬼」と言う都市伝説である。
 それが何故、こんな屋根裏になど潜んでいるのか。

「――――逃げちゃ、駄目」
「ひっ…………」

 答えは簡単。逃げているからだ。
 突然の襲撃者。それに追い立てられるように、男は逃げていた。
 しかし、それも無駄だったらしい。
 天井を挟んだ下の部屋から声がしたかと思うと、唐突に真下の床……下の部屋からみれば天井から、一人の女性が「すり抜けて」来た。
 20代もまだ半ばのようなその女性は、この暗闇の中ぼうっと輝いている。
 その女性は、自分に刃物を向ける男を悲しそうに見て

「人を苦しませちゃ、駄目でしょう?」
「ふざけんなっ……俺はまだ一人も殺してねぇんだぞ」

 ぷるぷると、刃先は震えていた。
 既に一度女性に切りつけてはいるのだ。
 しかし、その斬撃すら先程の天井のようにすり抜けられてしまった。

「これから誰も殺さないのなら、見逃してあげるよ?」

 どこか慈愛を含んだような女性の言葉は、甘美なものとして男の耳を捉えた。
 魅惑的な提案ではある。
 男は一瞬そう考えて、しかしすぐに首を振った。
 そもそも男は、人を殺すために生まれた存在。
 殺さなければ、結局の所死ぬのは自分だ。
 それも消えるように、人から忘れ去られるように。
 そんな事態になるのなら――――

「ここで死んだ方がマシだっつーの」
「…………そう」

 女性は、どこか悲しそうな顔をして
 その手を、男へと伸ばした。

「くそっ!」

 男が刃物を振う。
 一本の銀白色の線を描き、それは一直線に女性へと向かう
 ……しかし、それはただ空を切るように、女性の身体をすり抜けた。
 その間も緩やかに、しかし確実に迫ってくる女性の手。
 それはやがて、つっと軽く男の顔に触れる。

「…………っ」

 最後に何か一言、男は言って
 すぐに、その心臓は止まり、男は息絶えた。
 どこか悲しそうに、男の死体が消えていくのを眺め、女性はふっと目を逸らす。
 彼女には、まだ次の仕事が残されているのだ。


********************マゾサンタの場合*************************

「あひっ……あっ……」

 とある廃屋の中。
 ギリギリと、少女の身体を無数のロープが締め付けていた。
 既に赤いワンピースは裂け、身体は青く変色し始めているのだが、彼女は気にした様子もない。

「……何だ、この変態は」

 それを呆れたように眺める男が、一人。
 マゾから幾分距離を離して立っていた。
 男の足元からは、マゾを縛っているロープが何本も伸びている。
 彼の契約都市伝説は、「樹海には自殺者がやってくる」と言うもの。
 本来なら樹海に来た人間を殺す力なのだが、契約によって廃屋に踏み入った人間全てを殺せるようになっていた。

「あっ……あふっ……」

 しかし、この少女だけは例外らしい。
 幾ら締め付けても死なない。
 むしろそれ以上の苦痛を求めている素振りさえある。

「……何故、死なない」

 縄で締め付けても、首を切断しても、水におぼれさせても。
 少女はただ、快楽にあえぎ、ただ再生するだけだった。
 己の力が全く作用しない少女に、男は少し恐怖を覚えていた。
 この少女がその気になれば自分などひとたまりもないのでは、と。
 死なず、ただあえぐ少女を見て、男はどうすべきか、と悩む。

「…………むぅ、いい加減単調になってきましたね」

 しかし、もう男に悩む必要はなかったらしい。
 今まであえいでいた少女が何か飽きたように呟くと、唐突に、その身体の下から煙突が現れた。

「なっ……!?」

 驚く男をよそに、煙突は少女の身体を覆っていく。
 数秒後、それは少女を完全に覆い尽くし
 幾筋かの煙を残して、消えた。

「何なんだ、あの子供は……」

 驚き、呆気にとられる男の、その背後で

「やっぱり愛しの人の方がレパートリーも威力も桁違いですよねー、やっぱり」

 いつの間に現れたのか、少女が何やらうんうんと頷いていた。
 どこへやったのか、その身体を縛っていた縄は既に無い。

「貴様……っ!」

 少女を恐れていたことなど忘れて、男は彼女に向き直った。
 その身体からは、既に何本もの縄が出現し、大量の水が溢れ、何本もの刀が現れる。
 ――――どれを試しても死なないのなら、その全てを一度にやればいい。
 半ば本気でそんな事を考え、男は少女へと、視線を注ごうとして

「…………っ!?」 

 しかし、その先に少女はいなかった。
 男の目の前には、ただ廃屋の壁があるだけである。
 間にあるのは空気だけであり、何も、気配すらなかった。

「いつの間に…………」

 この装備を見て逃げたのだろうか、と男は思案する。
 ――――しかし、今の状況で気づかれずに姿を消せるのなら、その必要もないのでは。
 そう男が考えた、その時だった。

「はいはーい。私ならここにいますよー?」

 男の「目の前で」少女の声がした。
 同時に、ピトッと何かが男の頭に触れる。

「な、あっ……?」
「駄目ですねー。姿が消えたからと言って何も遠くへ逃げたとは限らないでしょう」

 少女の言葉は、先ほど彼が考えた事とほぼ一致していた。
 少しずつ、少女の声のした場所へと色が付いていく。
 赤や肌色、果てには少女の髪の色が、徐々に少女の姿を形作って行く。
 数秒で、少女が再びその場に現れていた。

「もし直希様ならすぐに気配に気づいたでしょうし、誠様なら足音で、翼様ならその力で私を見つけていたでしょうに」

 ――――いつも目だけを頼ってるからそういった隙が出来るんですよ?
 そう、少女は笑った。
 己が好きな人を人を誇るように、そしてただただ残酷に。

「くそっ!」

 奇しくも同時刻、屋根裏にいた男と同じ言葉を男は呟いた。
 言葉と共に、水が、縄が、刀が少女を襲おうと動き
 ――――しかしそれが、少女を襲うことはなかった。

「そろそろ愛しの人の所へ行かなくてはなりませんし、もうこれ以上は遊んでられないんですよねー」

 とさり、と横に倒れる男。
 それと同時に、男の周囲にあった凶器が消える。
 男の眼は、何も見ていない。
 ただ恐怖の引きつり、見開かれた目がそこにはあった。

「…………ふむ、やり過ぎちゃったでしょうか」

 精神まで壊すのはやはりやり過ぎでしょうか、と彼女は一瞬考え、しかし退治の依頼だったし良いか、と考えを改めた。
 時計を見ると、予定より10分ほどオーバーしている。

「む、これでは愛しの人はもう家を出発しているかもしれません。急がなくては……!」

 少女が言い終わった途端、先程と同じ煙突がずずっと少女の下から現れた。
 それはすぐに少女の身体を覆い、煙を残して消える。
 後には倒れた男が一人、残されているだけだった。


********************山田 治重の場合*************************

 山田は空を飛んでいた。
 別に比喩的な意味でも何でもなく、本当に空を飛んでいた。
 途中鳥を何羽か撃墜しながら、彼は空を進んでいく。否、飛ばされて行く。

(おお、綺麗だ綺麗)

 自分の意思で制御できないその状況に、しかし山田の思考は暢気なものだった。
 マゾサンタと契約している彼はこの程度の高さから落下した所で傷一つ付かないし、ましてや死になどするわけがないのだ。
 だからと言って少しは気にするべき所なのだが、殴られた時に少し脳の一部でもゆがんだのか山田はそれを気にするそぶりも見せない。

 山田を吹き飛ばしたのは「口裂け女」である。
 普段の彼ならこの程度の都市伝説相手に負ける事もない。
 しかし、どうやら相手は何か特殊な口裂け女なようで、分身するわ空から車を降らせるわ爆発するわで大変だった。
 おまけにその力も通常の口裂け女の何倍も持っていたような気がする。
 なんだったんだろうな、と山田は考え、そう言えば倒し切れてないじゃん、と空中で頭を抱えた。

「これは良子に怒られそうだ……」

 最近になって仕事の手伝いを始めてくれた彼女に頭の中で土下座をしておく。
 というか、彼女ならきっと物の数秒で倒したんだろうなぁ、何て山田は考え、少し落ち込んだ。
 その間も、山田は飛び続ける。
 しかしいかに先程の口裂け女が怪力だとはいえ、永遠に山田を飛ばし続ける事が出来るわけもない。
 徐々に、本当に少しずつ山田の高度は下がって行った。

「……ちょっと待て。俺はいいが、このまま落下したら落下先に迷惑がかかるんじゃないのか」

 それではまずい、と山田は片手に白い袋を出現させた。
 普段はそこから人々から畏怖される何かを取りだすのだが、今回はその用途で出したのではない。
 風で大きくはためく袋。
 空中で、山田は器用にも袋の一旦と一端を結び、握りしめた。
 即席パラシュートもどきの完成である。
 少々心もとない乱雑設計ではあるが、方向を変えるくらいなら出来なくもない。

「確かあっちの方に空き地があったよな……」

 山田の体重と重量で手が擦れ、皮がむけるのも気にせずに山田は袋を操る。
 彼には痛覚と言うものが存在しない上、むけてもすぐに再生するので問題ないのだ。
 山田の操作で風を受け、その意のままに進んでいく山田と袋。
 やがてその先に目的地である空き地が見え

「ちょっ、なんで店が建ってんだ!?」

 山田はその光景に驚いて叫んだ。
 普段は人っ子ひとりいないその空き地に、なぜか一軒の店が建っていた。
 しかも空き地の入り口と思わしき場所から長打の列まで出来ている。
 何の陰謀だ馬鹿野郎、と山田は叫び、しかしもう軌道修正のできる範囲は過ぎてしまっていた。

「くそっ、どけぇえええええええっ!!」

 着地する寸前、大声で叫ぶ。
 店内で何やら二人一組でチョコレートの手渡しを行っていた人間全員がぎょっと窓から飛んでくる山田を見て、慌てて散って行った。

「なんだっ、おいっ?!」

 店の一角で何かを召喚していた男が叫ぶが、山田はそれどころではない。
 何とか出来たスペース。
 そこへ向けて落下できるよう、微調整に必死だった。

「誰もぶつかるなよぉおおおおおおっ」

 ほぼ自由落下の速度で、山田が窓を突き破り店内へと落下する。
 長い間空を旅したその速度はさながら弾丸のようで、着地と同時に大きなクレーターが店の中に出現した。
 幸いと言うべきか、それを遠巻きにして見守る人間達がいるだけで、その被害に遭った人間は見受けられない。

「はぁっ……はぁっ……」

 想像以上の重労働を終え、山田が立ち上がる。
 服のいたる所が破け、また身体はぼろぼろだったが、それもすぐに修復されて行った。

「困るよお客さん。入るならちゃんと列に並んで貰わないと」
「……お前には俺が並ぶのが面倒くさくてわざわざ空からやってきた変人のように見えるのか、おい」
「いやー、男の欲望は果てしないからなー」
「はぁ…………?」

 山田は首を傾げ、店の入り口に立てかけられた看板を見やる。
 そこにはこう書かれていた。
 「絶対にかなわない貴方の恋
 そんな人はこの店へどうぞ
 あなたの二次嫁からチョコレートが貰えます
                一人につき 5000円」

「…………なんだ、そりゃ」

 新手の都市伝説関係の商売だろうか、と山田は一瞬考え、しかしすぐにそれ所ではなくなった。

「――――はるくんはこんな所で何してるのかなぁ?」

 地獄の底から響いてきそうな女性の声。
 それに店内にいた客全員が震えあがった。
 もちろん、その声に思い当たりのある山田も。

 明るい店内の壁から、すぅっと一人の女性が現れる。
 店内の電灯を受け、不気味に輝くその姿は、さながら幽霊。
 と言うより、幽霊そのものだった。

「こんな所に来て、はるくんは何をしてたのかなぁ?」
「ちょっ、待て、誤解だ! 普通に俺は仕事をしていただけだって!」
「仕事中に、なんではるくんはこんな所にいるのかなぁ?」
「なんか俺が仕事サボったみたいになってるーっ!?」

 山田の必死の要求は、しかし彼女には受け入れられない。
 なんだこの某魔術小説の主人公みたいな不幸と展開は、と山田は思いながらも説得を続けた。 

「私がいるのにこんな所にきちゃうほど、はるくんは欲求不満なのかなぁ?」
「ちがっ、ちょっ、話を聞けって! 大体つい二、三日前にもこんな事があった気がするんだが……」
「二、三日の内にまたこんな事をしちゃうなんて、はるくん酷い……」
「くっそ、説得しても傷が広がるだけかよっ!」

 店内に向けられた視線。
 それが全て言っていた。
 「お前が悪い」と。

「この世には神も仏もいないのかこの野郎ぉおおおおおっ!」

 ずるずると。
 実体化した彼女に引きずられながらの山田の叫びは、しかし誰の心にも届かない。
 実際は店内を滅茶苦茶にされた男にとっても「神も仏もいない」状況なのだが、それは後日山田に請求書が届いた事でその顛末を迎えた。


【終】




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