「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-a07

最終更新:

uranaishi

- view
だれでも歓迎! 編集

恐怖のサンタ 日常編 07


「こんな所に雑貨屋さんなんてあったんだ……」
「最近出来たらしいな。外装が新しい」
「私がついて来てもよかったんでしょうか……」
ふしゃー

 本日、山田家(+α)は繁華街の一角にある雑貨屋に来ていた。
 ようやく生活も安定し始め、そういった身の回りの事にまで気が回るようになってきたのだ。
 もちろん、一応この町での暮らしが確定した時点である程度の雑貨は集めておいた。
 しかしごちゃごちゃと乱雑に集めた日常品にはどうしても穴ができ、またその穴を拡大するかのように住人が増えていく始末。
 いい加減どうにかせねば、と雑貨屋に来た次第である。

 構成メンバーは俺と良子、猫(決して子ライオンではない)、そして例の占い師の所から何故か一人の少女が同伴していた。
 理由はよくわからない。
 しかし、以前にこの店の店主と面識があるとかどうとかで、一度くらい挨拶をしておきたいのだそうだ。
 どうせならあの占い師が出てくればいいものを、と思うが、彼にも商売があるらしく日中は外出が出来ないんだとか。
 まぁ、それなら仕方がないと思わなくもないが……。

(良子の視線が痛い……)

 愛故に、という事なのだろうが、磯良に取り憑かれてからというもの少し性格がバイオレンスになったような気がする。
 むしろ、俺が不死の身体を持っているせいか日に日にその行動に拍車がかかっているような。
 ……もしかして、俺のせい?

 ちなみに、マゾはといえば、「今日は山羊座の恋愛運が最高潮! やりましたね私! そして待ってて下さいね、愛しの人ー!」とか何とか叫んで出て行ってしまった。
 果たして俺がマゾを生成した日=誕生日でいいのか甚だ疑問ではあるが。

「はるくん、何やってるの―? 早くしないと置いてっちゃうよ?」
「ああいや、何でもない」

 いつの間にか、良子たちが店の奥へと入ってしまっていた。
 さほど広い店ではないものの、ずっと入り口付近にとどまっているのはこの店にも迷惑だろう。
 俺は慌てて、歩みを進めた。

 あの占い師の知り合いという事は、恐らくこの店の店主は都市伝説か契約者あたりなのだろうが、店内は至って普通だった。
 もっと薄暗い魔境みたいな店を想像していただけに、拍子抜けである。
 ……いや、別にそんな店に行きたかったわけではないのだが。
 置いてある商品も普通の雑貨屋にあるような皿だとかちょっとしたアンティークだとかで、特に奇妙な物も無い。
 まるで普通の雑貨屋さんである。
 ……いや、別にそれが悪いとかそんな事は思っていないのだが。

 店の奥へと行くと、既に女性陣二人が物色を始めていた。
 正直、俺に食器やら何やらを選ぶセンスはない。
 ここは女性陣に任せておいた方が無難だろう。
 ……若干、女性二人の内の一人は確か別の用事があったはずだが、なんて懸念をしないでもないが。

 しゃぎゃー

「お、何だ。お前もあぶれたのか」

 声のした方を見ると、猫(決して子ライオンではない、あるはずがない)がちょこんと床に座っていた。
 何だかこうしてみていると一種のぬいぐるみのようである。
 これが後数年であんな獰猛な生物になるとは考えにく……じゃない、こいつは猫なんだ。一体俺は何を考えているのか。
 ぶんぶん、と頭を振って思考を切り替える。

 ぎしゃー

 その様子を、猫は何だか小馬鹿にしたような顔で見ていた。
 何だかかわいげのない猫である。
 しかし何だかんだで山田家の中ではそれなりの人気を獲得している辺り、こいつが腹黒いというか、女性はかわいらしいものに目がないというか。

「――いらっしゃいませ」

 猫と戯れて(というか一方的に馬鹿にされて)いると、隣から声をかけられた。
 振り返ると、この店の店員なのか何だか妙にかわいらしい猫のエプロンを着けた少年が一人立っていた。
 安全ピンか何かで止められたプレートには「ペリシャ」とある。外人……いや、ハーフといった所か。
 品物の点検中なのか、少年は何やら紙束を片手に棚を眺めていた。
 上の棚から下の棚へ、順々に。
 ……と、そうなればもちろん、子ライオンの方も目に入るわけで。

「……ん? 子ライオンのヌイグルミなんて在庫にあったっけか」
「ああ、いや、それはな――――」

 首をかしげる少年に、俺が説明しようとして

 しゃぎゃー

 唐突に、猫が鳴いた。
 どこか尊大な、いつもの鳴き声。
 後で聞く所によれば「久しぶりだな、人間」だとか何だとか言っていたらしいが、その時の俺はそれどころじゃなかった。
 ――――ふらり、と。
 唐突に、少年が倒れたのだ。

「なっ、どうしたっ!?」

 引きつけか何かでも起こしたのかと思い、慌てて少年の元へとかけよる。
 少年のそばに跪くと、猫が「しゃぎー」とか言いながらペチペチと少年の頬を叩いていた。
 後で聞く所によると「これで二度目だ。情けないな、人間」だとかそんな事を言っていたらしいが、正直どうでもいい。

「――――はるくん、どうしたの?」
「何か大きい音がしましたけど……」

 騒ぎを聞きつけたのか、良子と少女の二人が慌ててやってきた。
 その手には何だか色とりどりの商品が所狭しとひしめいている。
 ……まさかお二方、それを全て買うつもりではあるまいな。

「いや、俺にも何がなんだか――――」
「――――裕樹っ!?」

 唐突に、店の奥……と言うより、カウンターの方から一人の老人が現れた。
 西洋の人間だろうか。整った、少し彫りの深い顔立ちをしている。
 その顔と渋いデザインのエプロンがよく似合っていた。
 あの少年の可愛らしいエプロンとは大違いである。少年はこの老人のセンスを見習った方がいいと思う。
 カウンターから出てきた事と言い、またその雰囲気でこの老人が店主なんだろうな、と俺は思った。
 そしてそれはつまり、あの少女とも面識があるわけで

「あ、えっと……こんにちは」
「……ふむ? ああ、この間のお嬢ちゃんか。いらっしゃい」
「あ、はい。えっと……」
「もし出来れば茶の一杯でも、と言いたい所じゃがのぅ。今はこの子が先決なのでな」
「あ、はい…………」

 何だか言葉を濁す少女をよそに、老人が少年の側へと跪く。
 少年の口に耳を当て息をしているのを確かめ、また少年の側に猫がいるのを見て、老人は安堵の、ついでに言えばちょっと複雑そうなため息をついた。
 その老人の様子を見て、良子が心配そうに

「……この子、大丈夫ですか?」
「なに、ちょっと気絶しているだけじゃよ。ちょっと嫌いな物を見てしまったようでの」
「…………嫌いな物?」

 何かそんな物があったのだろうか。
 少年の行動を順に頭の中で再生していく。
 ええと、まず少年が俺に気付いて――さすがに俺が「嫌いな物」なんて事はないよな、もしそうだったら泣くぞ。
 次に、棚の商品を確認して――いくらなんでも自分の店の商品が「嫌い」なんて事はあるまい。
 で、未だに少年の頬を楽しそうにペチペチしている猫に気付いて……。
 …………ふむ。

「…………猫嫌い?」
「『猫』と言うよりはライオンなんじゃがのぅ」
「…………ほう、ライオン」

 ライオンも猫も同じネコ科である。
 さっき「子ライオンのヌイグルミ」だとか何だか言っていたし、多分少年は子ライオンか何かと見間違えてしまったんだろう。
 ああ、そうとも。きっとそうに違いない。
 決してこれが「本物の子ライオン」だったなんてオチはあるはずがない。

「……しかし、困ったのぅ」
「ん……。どうかしたのか?」
「裕樹を奥で休ませたいんじゃが。今日はあいにくアルバイトがいなくてのぅ。わしが裕樹を休ませる間、店を閉めるわけにもいかん」
「はぁ…………」

 曖昧に頷くしかない。
 多分店主にそんな気はないんだろう、ないんだろうが……。
 何だか「てめぇの猫が気絶させたんだからてめぇが代われよこの野郎」な雰囲気が店内に充満しているような、そんな気がしなくもない。
 いや、と言うより主に女性陣からそんな視線が来ているような、主に我が恋人から来ているような……。

「ここは少しの間代わって上げるべきですよ、契約者」

 しかし、それは違ったようだ。
 なぜか俺の背後から、声。
 老人は俺の前に、女性陣二人は右斜め前にいる。
 ついでに子ライオンは俺の足元にいるし、少年もそこでペチペチと叩かれ続けている。
 ……つまり、だ。

「……マゾサンタ、なんでお前がここにいる」
「いやいや、ちょっと愛しの人のびこ……じゃなかった、後を追ってたらですね。ちょうどこの店の前を通りかかりましたので」
「尾行って言おうとしてたな、おい」
「何を言いますが契約者、私は『びこ』までしか言っていないでしょう」
「それはもう白状したと取ってもいいのだろうか」
「はるくんはるくん、愛する人の観察は基本だと思う」

 ……良子さん、それは違うと思います。
 と言うか、まさか観察してないでしょうね、あなた。
 そういえば最近仕事中に視線を感じるような気がしなくもないわけだが……。
 そんな疑念を込めて視線を送ると

「…………」

 フイッと目を逸らされた。

「え、なに、なんでそこで視線を外すんですか良子さん?」
「シセンナンテハズシテナイヨ?」
「なぜに片言……」

 今度からはもう少し周囲に気を付けよう、うん。
 ……いや待て、今はそんな場合じゃないだろう、俺の馬鹿。

「――――つまりですね。この契約者がお爺さんのいない間代わりに店番をしてくれる、と」
「…………ふむ、それはあり難いのじゃが――」
「って何話し勝手に進めてんだてめぇっ!」
「このように本人もやる気満々なわけでして」
「そうじゃのぅ……」
「おい待て。やらないぞ。俺は絶対にやらないぞ」

 なおも抵抗を続けようとした俺の顔を、マゾがぐっと掴んだ。
 そのまま老人に背を向け、二人で内緒話をするように顔を近づける。
 ……良子のいる方角から何やらピキッという音が聞こえたのは気にしないでおこう。

(契約者、この少年が気絶したのは何故ですか?)
(そりゃ、猫を見たからだろう)
(契約者、少年の前に子ライオンと戯れていたのはどこの誰ですか?)
(それは俺だな。ちなみに子ライオンじゃなくて猫だぞ)
(契約者、この場合子ライオンの監督責任があったのはどこの誰ですか?)
(それは……俺、かぁ?)
(そうですそうです。で、つまりは契約者に全ての責任がある、と)
(何だか一気に飛躍したような気がしますがいかがでしょうかマゾサンタさん)
(全く飛躍してないと思います)
(………………)
(……バイト代も少なからず出るそうですよ)
(…………ほう)

 ちらり、と女性陣の抱えた荷物を見る。
 ひーふーみーよーいーむー…………。
 ……どう見ても予算オーバーですね、えぇ。

(……どうしますか、契約者)
(…………くそ、俺に選択の余地が残されていないような気がするのは何故だ)
(気のせいでしょう)

 ぬぅ、としばし考えて
 しかし結論が変わるはずもなかった。

「……分かった。俺が少しの間店番をしてよう」
「すまんのぅ……すぐに戻る」

 よいしょ、と少年を担ぐ老人。
 一体その老体のどこにそんな力があったのだろう。
 やはり都市伝説契約者か、都市伝説そのものなのだろうか。

「……それじゃ未来ちゃん。また一緒に探しましょう」
「あ、はい。頑張りましょう」

 そして貴女たちはまだ買うのですね。
 いい加減財政と言うものを考えて欲しい。
 というか、良子は確か以前同棲していた際は家の財政を預かる身だったはずなのだが、どうして今は俺が管理しているのか。
 悩みが尽きる事はない。

「それじゃあ契約者、頑張って下さいねー!」
「おい、お前も手伝うんじゃないのか」
「……え? 何か言いましたか、契約者」

 半ば生返事を返すマゾの視線に先には、一軒の店。
 そこから、一人の青年が出てきていた。
 ここからだとよく見えないが、茶髪な所やその身長などを加味すると、マゾに追われている青年の一人か。
 青年は店から出て、右や左を何度か往復して見ている。
 恐らく、マゾの魔の手から逃れたかどうかを確認しているのだろう。
 しかし青年には残念な事に、マゾはこの店内にいる。

「それじゃ、行ってきますねー!」

 言葉と同時、すぅっとマゾの身体が消えていく。
 姿と気配の消失。
 「サンタは姿を見られない」から派生した能力だ。
 この力には俺も随分とお世話になったものだが……さすがに、こんな風にストーカーとして使われるとは誰も思わなかったに違いない。

「あの男も可哀そうだな……」

 未だに追われているとも知らず、歩き始めた青年を見て同情する。
 マゾも消え、また少し閑散とした店内。
 時折女性陣が何やら話しあっている声が聞こえる以外、静かなものだ。

 しゃぎゃー

「……そういえば、お前もいたのか」

 遊び道具(18歳の少年)が消えた事に不満なのか、猫がカウンターに飛び乗ってくる。
 「遊べ」と言う事だろうか。

「……大体、お前がいなければこんな事にはならなかったはずなんだがな」

 しゃー

「ああ、そうだ。お前のせいだぞ、お前の」

 ぎゃしゃー

「ふざけんな。言い逃れはさせんぞ」

 ぎしゃー

 ……やばい、空しい。
 何が悲しくて猫と会話できるよごっこをしなければならないのか。
 というか、何だか若干会話が出来ていたような気がして怖い。
 後であの少女に今の会話でも翻訳してもらおう。

「はぁ…………」

 しゃぎー

 それから数時間、老人が帰ってくるまで俺は猫と戯れ続けた。
 ……余談だが、会話は全く成立していなかったらしい。

【終】




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー