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連載 - 占い愛好会の日常-07

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uranaishi

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占い愛好会の日常 07


 老人とG-No.1という黒服が部屋に取り残されてから約18時間。
 きぃ、と軽い軋みを上げて扉が開いた。
 中から出てきたのは、相変わらず無表情のG-No.1だ。

「――――もう、終わってしまいましたか」

 出てきたG-No.1に、少し残念そうに声をかける人間がいた。
 G-No.1はゆっくりを首を巡らせ、声のする方向を見やる。

「……わざわざ、待っていたのですか?」

 G-No.1は無表情を崩さずに、疑問に疑問で返した。
 扉の横の壁に張り付くように設置された椅子の上に、女性が一人座っている。
 椅子の周囲には無数の文庫本が整頓され置かれていて、女性の手の中では今も一冊の小説がめくられている。

「それが、私の仕事ですので」

 長時間同じ態勢でいたせいか、時折首に手をやる女性は、少し疲れたような表情で言った。
 しかし、その表情の内にあるのは、G-No.1の説教の長さに対する疲れではない。
 もっと長時間やってくれてもよかったのに、と今後の老人の挙動への対応に、また気を使わなければならない時間がやってきた事に対する疲労感だ。

「……あの長老、出来れば組織で預かってはくれませんか?」
「さすがに、それはできない」

 G-No.1は今アメリカへと飛ばされている一人の黒服の事を思い出す。
 あれ一人でも、組織は御するために相当の尽力を行った。
 もし仮に、変態的な意味でも強さ的な意味でも、あのレベルが組織の中で再び暴れでもしたら。
 そしてその場所が、今女体化している黒服のいるこの学校町だったとしたら。

「……これ以上は、本当に過労で倒れるかもしれませんので」
「そうですか」

 答えを予想していたのか、女性の顔には落胆の色がない。
 そもそも、あんな老人を引き取ってくれる組織自体、この世界にあるかどうか。

(……しかし過労死、ですか)

 説教に入る前にG-No.1の言っていた一人の黒服の事を頭に思い描く。
 穏健派から信頼され、必要とされる、一人の黒服。
 その苦労がどんな類のものなのかは分からないが、女性は何だか少しだけ共感もしていた。

「――――では、私はこれで失礼する」
「はい。ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」

 恐らく、老人はあの長時間にわたる説教の中で、謝罪も、折れもしていないだろう。
 だから代わりに、女性が謝る。
 長老が何か面倒を起こした際の、ほぼ恒例ともいえる行いだった。

「いや、幸い後数日で彼も元に戻るらしい。これ以上何もなければ『組織』としてもこれ以上貴方方に干渉する事もないでしょう」

 その言葉に、女性は苦笑いのような笑みしか返せなかった。
 あの老人が、この程度で諦めるとは思えない。

********************************************

 黒服G-No.1が家を出るのを見送ってから、女性は小さくため息をついた。
 玄関に背を向け、先ほどまで説教の行われていた部屋へと戻る。

「――――ふぅ」

 再びため息をついて、扉を開ける。
 閉じていた扉を開けると、中は暗いままだった。
 ずっとこの闇の中で説教が行われていたのか、それとも帰り際G-No.1が消したのか、女性には分からない。

「長老、いい加減に懲りましたか」

 そんな闇の中に、老人は座っていた。
 いや、正確には座らされていた。
 一振りの剣がその老人の身体を貫き、老人を床へと縫いとめている。

「……ふん。あんな組織の雑用係のような人間の説教如き、わしはなんとも感じんぞ」

 縫いとめられたまま、ふてくされたように老人が言う。
 その想像通りの老人の様子に、女性は頭が痛くなった。
 ――――このままでは、自分の方が過労死をするかもしれない。

「大体、わしはああいうタイプが嫌いなんじゃよ、全く」
「ああいうタイプ、と言いますと……感情の起伏が表面に現れない、と言う事でしょうか」
「違う。あやつを律しているのはエロスでも性欲でも男の本能でもない、『忠誠』じゃよ。それも怖いほどの」

 何を思い出したのか、老人は小さく首を振った。

「何を信条にしておるのかは知らんが、あれでは従えている方も大変じゃろうて」
「……用は、『わしはあいつが嫌いだから、あいつの説教なんてうけないもん』と、そういうことですか」
「…………ふむ」

 黙り込んでしまった老人に、女性はまた一つ溜息をついた。

「…………しかし、わしはまだやるぞ!」

 しかし沈黙は数秒。
 老人は縫いとめられたままの身体をゆさゆさと動かし、何かを決意したような瞳で窓から空を見上げる。

「あやつは『体力の低下を招いている』から、女体化は駄目だと念を押しよった。この意味が分かるかの」
「……いえ」

 永遠に分かりたくないと、女性は思う。
 分かってしまったその時は、自分がこの老人と同じ思考レベルにまで落ちてしまったということだ。
 もしそうなったら死ぬしかないと、女性は真剣に考える。
 そんな女性を傍らに、老人はハイテンションで続ける。

「つまり! 『体力の低下しない』女体化薬を作ればおーるこれくと! 組織に怒られる事はない!」
「………………」

 それは違うだろうという言葉を、女性は飲み込む。
 そもそも恐らく、この老人の思考レベルでも分かりやすいようにそんな例えをあのG-No.1は出したのだろう。
 他にもいくつも弊害があるに違いない。
 しかし、それを一々羅列していく気にはなれなかった。
 G-No.1が老人には理解できないだろうという印を押した事情を、自分が説明した所で結局老人は理解できないだろう。
 そう、女性は思った。

「あの青年にも試してみたいしの……ほっほ、今日から忙しくなるのう!」

 喜々として続ける老人に、女性は背を向けた。

「とかく、まずはこの剣を外してもらうのが先決……って、ふむ? どこへ行くんじゃお前さん。行くならほら、わしの身体に突き刺さっているこれをじゃな……無視するでない。ほら、この身体の――――」

 ――――パタンと、老人を残して扉が閉まる。
 後二十四時間くらい一人で反省すればいいと、女性はその場を立ち去った。
 どうせ、一人になっても老人は妄想を続けるのだから。

【終】







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