「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-37

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【上田明也の探偵倶楽部11~アキナリ先生の都市伝説狩り講座~】

彼は間違いなく悪人だった。
「悪」には様々な定義がある。
「悪」とは何だろう?
人を傷つけること?
秩序を乱すこと?
挙げて行けばきりがない。
きりが無いけど五里霧中。
そんな自由な在り方こそが人々を惹き付けるのもまた一つの事実。
人を惹き付け、人を傷つけ、そうされてから人は気付くのかもしれない。
「ああ、あれこそが悪そのものじゃないんだろうか?」と。
さて、人々から悪そのものと疑われた青年は、真夜中の公園に車を停めていた。

「お兄ちゃん、もう眠い!」
「うーん、もうちょっと待ってくれないかな?」
お兄ちゃん、と呼ばれた青年はそう言って人の良さそうな笑みを幼女に向けた。
時刻は夜の11時。
青年と一緒に車に乗り込んでいるのは幼女。
年の頃は6才、時刻を考えればもう寝ていても良いはずだ。
「悪い都市伝説も眠くてでないよー!」
「そうかな?おにいちゃんの都市伝説講座その1を思い出してみようか。」
「悪い人も都市伝説も夜中に動く?」
「その通り、良くできました。」
上田明也は穀雨に自らの持つ対都市伝説の技術を全て教え込もうとしていた。
それは自らが人を襲った経験、都市伝説に襲われた経験、それらから学んだこと。
それを名付けるならば都市伝説と戦う為に都市伝説を学んだ技術だった。
そもそも上田明也は不器用な人間だ。
だからこそあらゆる物事をマニュアル化して徹底的に覚え込むことでそれを補うのだ。
素晴らしいセンスで100点を取るのではなくどんな科目でもマニュアル通りに動いて90点を取るタイプ。
しかし追い詰められれば自らの実力以上の力を発揮する。
そういう人間性が彼を助けていたし、穀雨に都市伝説を狩る方法を教えるのにも役立っていたのである。
自らが人を襲うときに夜を選んでいた以上、今回の相手も夜を選ぶ。
彼は解っていた。

「良いかい、穀雨ちゃん。
 安全に生きていく一番大事な方法は夜に外を出歩かないことだ。
 だから一番最初に君に教えることはその悪者は夜中に動くってことだ。」
「はーい。」
穀雨の持つ心の器は大きい。
それは十三階段の契約者のみならず上田もうすうす感じていたことだった。
だから穀雨に戦闘技術を教えるのは上田にとっては急務になっていた。
何時、彼女が戦いに巻き込まれてもいいように。
「今日は新しいことを教えたいと思う。
 都市伝説との戦いは相手の情報を手に入れた時点で半分は終わっている。」
「なんで?」
「相手の長所や弱点を知っていれば戦いやすいだろう?
 それに相手が強くて勝てないと思ったら逃げれば良いんだ。
 逃げる手段だけは何時でも確保しておいた方が良い。
 逃げればその時点で戦闘は終わりだしね。」
「うーん……、解った。」
「今日の相手はザ・フック。車で夜道を行くカップルに襲いかかる右手が鈎爪の男の姿をした都市伝説。
 身体能力は高く、被害者の真上までワープできる力もあるがそれ以外に大した特徴はない。
 車の中に居る限り襲って来られないのも中々間抜けだしな。」
「お兄ちゃんと私ってカップルなの?」
非常に幸せそうに微笑む上田。
「まあ男女二人なら何とかなるよ、多分。」
「浮気したら茜お姉ちゃんに怒られるよ?」
「そうだな、気をつけないとな。」
そういって笑う上田、しかしその実二股ってレベルじゃないのは秘密である。

「なあ、穀雨ちゃん。」
穀雨の肩を掴んで瞳をジッと見つめる上田。
その表情は泣いているようで笑っているような不思議な表情。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「ん?いや、穀雨ちゃんに聞きたいことがあるんだよ。」
さて、この幼女に自らの言葉は刺さるのだろうか?
自分の言葉で踊るのだろうか?
彼女という人間は俺の言葉で俺の思うがままになってくれるのだろうか?
彼は急に、それを実験してみたくなっていた。
幸い今は真夜中。
彼女に何かしても気付く人など居ない。
上田明也は彼女を都合で救った以上、都合で彼女を汚す可能性もある。
それに気付いた人間は何人いただろうか?
居たとして彼女を助けられただろうか?
そうやって自らを悪におとしめることで自らを正当化する。
悪いことをしても良い、だって俺は悪人だから。
上田明也が口を開こうと思った瞬間だった。

コンコン

車の天井を二回程叩く音。
どうやら彼らの元に都市伝説が来たようだ。

「おにいちゃん!」
「ああ、ごめん。後で話すよ。それじゃあお兄ちゃんの都市伝説狩り講座3だ。
 まずは先手必勝。
 襲う側の人間がいきなり襲われるなんて誰も思わないからな。
 俺も思わないし。」
最後の言葉はぼそっと呟くに留める。
「じゃあサングラスかけて、耳栓して……。」
てきぱきと穀雨に耳栓とサングラスをつける上田。
車のドアをわずかにあけるとぬいぐるみを投げ出す。
次の瞬間。
ぬいぐるみは上から伸びてきたフックに捕まってあっという間に真上に持って行かれた。
上田は素早くドアを閉めると耳を塞いで目を閉じた。
――――――キィイン!
激しい光の奔流と音の固まりが辺りに満ちる。
幸い公園でのことなので近くに人は居ない。
ドスンと音を立ててフックの都市伝説は落ちてきた。
「とまあこういう風に囮で騙す作戦は汎用性が高くて使いやすい。
 囮は何時でも上手に使うんだよ。」
「わかった。この後はどうするのお兄ちゃん?」
「うーん、依頼した人から生け捕りにするように頼まれていてね。
 もう連絡は済んでいるから後はこいつを捕まえておくだけさ。」
警戒しながら車を降りてフックに近づく上田。
「都市伝説講座狩り講座4、一撃必殺。」
上田は袖から村正を取り出すとフックの由縁たる鈎爪を真っ二つに切り裂いた。

「お兄ちゃん、悪い都市伝説でもあんまり虐めちゃ駄目だよ!」
上田明也の殺気を敏感に感じ取ったのだろう。
子供らしい優しさでそれをたしなめる穀雨。
「安心しな穀雨ちゃん。殺しちゃったりはしないよ。
 でも都市伝説は人間よりも力が強かったり頭が良い者も多い。
 最後の最後まで優しいことを考えちゃ駄目だ。
 一撃で相手の戦闘能力を確実に削ぐことを考えて動こうね。
 それじゃあ今日の都市伝説講座は終わり。
 茜お姉ちゃんの所に先に帰っていてくれ。」
半端な温情をかければ逆に殺される。
それが解っている以上、上田明也は容赦しない。
「はーい!」
穀雨が赤い部屋に入ったのを確認すると上田はフックに向き直る。
「まぁ、非情を学ぶのはまだまだ先で良いよね。」
既に手足の腱は切っているのだが念には念を入れておこうと彼は思ったのだ。
それと女性を口説こうと言うときに邪魔された恨みもある。
「ここから先は女の子には目の毒かな?」
村正をしまって特殊警棒を取り出すと、上田はフックの骨を折る作業に入った。
いっそ殺した方が優しさだよなあとか、殺さない限り何しても良いんだよなあとか呟く。
彼は不器用な人間だ。
しかし、なんだかんだいって他人を痛めつけることだけは生まれつき超得意なのだ。
【上田明也の探偵倶楽部11~アキナリ先生の都市伝説狩り講座~fin】

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