東区の住宅街の一角にひっそりと佇む、とある喫茶店「兎の尻尾」
知る人ぞ知る、一見、店に見えないそこは…実は、都市伝説被害者が、よく足を運ぶ店でもあった
都市伝説の被害にあってしまったが、誰に相談していいのかわからない
そんな人々が、何時の間にか、この店の話を聞いて、尋ねるのだ
この日も、一人の女性客が店を訪れた
先客は、若い二人連れだけで、店内はさほど広くもないのだが、閑散としていた
女性が席につくと、すぐに店のマスターが、お冷を持ってくる
知る人ぞ知る、一見、店に見えないそこは…実は、都市伝説被害者が、よく足を運ぶ店でもあった
都市伝説の被害にあってしまったが、誰に相談していいのかわからない
そんな人々が、何時の間にか、この店の話を聞いて、尋ねるのだ
この日も、一人の女性客が店を訪れた
先客は、若い二人連れだけで、店内はさほど広くもないのだが、閑散としていた
女性が席につくと、すぐに店のマスターが、お冷を持ってくる
「いらっしゃいませ、ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
「……あ、あの」
「……あ、あの」
…女性は、渡されたメニュー表に、目を通す事もせずに
俯いたまま、ぼそぼそと……注文する
俯いたまま、ぼそぼそと……注文する
「…あ、赤いケーキを…お願い、します…」
「……!」
「……!」
…その、注文に
ぴくり、マスターは動きを止めた
ぴくり、マスターは動きを止めた
「赤いケーキ」
それは、メニュー表には載ってはいない
だが、それを注文したと言う事は
それは、メニュー表には載ってはいない
だが、それを注文したと言う事は
「…かしこまりました、少々、お待ちください」
マスターはにこり微笑むと、メニュー表をおいたまま、店の奥へと入っていった
…女性は、お冷をじっと見つめ…俯き続けていた
先客の若い二人連れが、何やら楽しげに会話しているようだが、そんな事を気にする余裕もない
…女性は、お冷をじっと見つめ…俯き続けていた
先客の若い二人連れが、何やら楽しげに会話しているようだが、そんな事を気にする余裕もない
怖い
怖い、怖い、怖い
このままでは、私は殺されてしまうかもしれない…
怖い、怖い、怖い
このままでは、私は殺されてしまうかもしれない…
恐怖を抱え、俯き続ける女性
先客の片割れが、立ち上がり、店の外に出た気配を感じながらも、俯き続け
先客の片割れが、立ち上がり、店の外に出た気配を感じながらも、俯き続け
…と、その時
店の奥から、マスターが携帯電話を手に、女性の元にやってきた
店の奥から、マスターが携帯電話を手に、女性の元にやってきた
「…仲介者から、お電話が来ております」
「------っ!!!」
「------っ!!!」
っは!と顔をあげて、携帯電話を受け取る女性
震える声で、応じる
震える声で、応じる
「……はい」
『ふむ、僕に接触してきたという事は……都市伝説にお困りかな?レディ?』
『ふむ、僕に接触してきたという事は……都市伝説にお困りかな?レディ?』
受話器の向こう側から聞こえてきた声は、随分と若い声だった
中性的で、男なのか女なのか、声だけでは判断できない
中性的で、男なのか女なのか、声だけでは判断できない
「は、はい……あ、あの……助けて、ください!!!」
他の客に、迷惑になるかもしれない
そんな事を気にする余裕なんて、彼女にはない
ただ、大声で助けを求めてしまう
そんな事を気にする余裕なんて、彼女にはない
ただ、大声で助けを求めてしまう
ただただ、恐ろしくて、恐ろしくて
死にたくない、という想いが彼女を支配する
死にたくない、という想いが彼女を支配する
『あぁ、落ち着いて……まずは、あなたが置かれている状況を、教えて欲しい。なるべく、正確に』
「はい……」
「はい……」
受話器の向こうの淡々とした声に促され、ゆっくりと話し始める女性
始まりは、一週間前
女性が、深夜、仕事帰りに帰路に付いていた時だ
もう少しで家、と言う所で……彼女は、恐ろしい物を目撃してしまった
女性が、深夜、仕事帰りに帰路に付いていた時だ
もう少しで家、と言う所で……彼女は、恐ろしい物を目撃してしまった
それは、人を切り殺す、首なしの鎧武者
思わず悲鳴をあげて、彼女はその場から逃げ出した
その日の夜、夢に、その首なしの鎧武者が現れて
思わず悲鳴をあげて、彼女はその場から逃げ出した
その日の夜、夢に、その首なしの鎧武者が現れて
『今宵、見た事を話せば殺す』
そう、彼女を脅してきたのだ
…彼女は、恐ろしくて仕方なかった
当然、誰にも話さなかった
…彼女は、恐ろしくて仕方なかった
当然、誰にも話さなかった
しかし
その次の日も、首なしの鎧武者は夢の中に現れて、同じ事を言ってきた
その次の日も、次の日も
同じ夢が、続いて
その次の日も、首なしの鎧武者は夢の中に現れて、同じ事を言ってきた
その次の日も、次の日も
同じ夢が、続いて
…彼女は、気づいてしまった
夢の中で、鎧武者がゆっくりと、彼女に近づいてきている事に
きっと、あの首なし鎧武者が手にする刀が、自分に届く位置に来たら
自分は、あの首なし鎧武者に殺されてしまうのだ
彼女は、そう感じ取ってしまって
夢の中で、鎧武者がゆっくりと、彼女に近づいてきている事に
きっと、あの首なし鎧武者が手にする刀が、自分に届く位置に来たら
自分は、あの首なし鎧武者に殺されてしまうのだ
彼女は、そう感じ取ってしまって
誰に相談したらよいのかもわからず、死の恐怖に怯えた彼女
そんな時、こんな話を聞いたのだ
そんな時、こんな話を聞いたのだ
『不可思議な現象に襲われたなら、東区にある、あの喫茶店で、「赤いケーキ」を注文すればいい』
『そうすると、「仲介者」を名乗る人物が接触してきて、助けてくれる』
『そうすると、「仲介者」を名乗る人物が接触してきて、助けてくれる』
その、不確かで曖昧な噂話にしか、彼女はすがれなかったのだ
女性の話を、じっと聞いていた仲介者
ふむ、と受話器の向こうで、頷いたようだった
ふむ、と受話器の向こうで、頷いたようだった
『…了解した。あなたを死なせはしない』
淡々と、そう告げられる
『だから、安心して欲しい。必ず、あなたを助ける』
「………っ」
「………っ」
ぽろぽろ
ぽろぽろと、女性は涙を流し始めた
ぽろぽろと、女性は涙を流し始めた
こんな、荒唐無稽な話を、信じてくれた
それだけで、心のつかえがとれた
抱えていた悩みを聞いてもらえた、それが嬉しくて
ただただ、彼女はしばし、涙を流し続けた
それだけで、心のつかえがとれた
抱えていた悩みを聞いてもらえた、それが嬉しくて
ただただ、彼女はしばし、涙を流し続けた
女性が、店を後にするのと同時に
彼女に電話が来る直前、店を出ていた若者が店内に戻ってきた
リボンで結ばれた長い髪が、ぽんぽん、と揺れる
彼女に電話が来る直前、店を出ていた若者が店内に戻ってきた
リボンで結ばれた長い髪が、ぽんぽん、と揺れる
「…すまないな、天地。仕事の電話だったものだから」
「あぁ、気にすんな。聞こえてたから」
「あぁ、気にすんな。聞こえてたから」
コーヒーを口にしながら、もう一人の若者…門条 天地は、友人である若者、玄宗 直希を見上げた
直希は、ある筋ではこう呼ばれている
…「仲介者」、と
直希は、ある筋ではこう呼ばれている
…「仲介者」、と
「な、その仕事、俺に任せろよ」
「ふむ?……良いのかい?まぁ、君の天使達であれば、楽勝だろうが」
「あぁ。最近、暇なんだよ」
「ふむ?……良いのかい?まぁ、君の天使達であれば、楽勝だろうが」
「あぁ。最近、暇なんだよ」
仕事回されなくて、と天地は笑う
そうか、と頷いて、直希は席についた
そうか、と頷いて、直希は席についた
「では、すまないが、君に任せる。報酬は…」
「あぁ、金はいらない。代わりに、また映画に付き合ってくれるか?」
「君がそれでよいと言うのなら、構わないが」
「サンキュ。男一人で映画館入るのは空しくてよ」
「…天使の一人でも連れて、入ったらどうかね?」
「あいつらが映画館で大人しくできると思うか?」
「あぁ、金はいらない。代わりに、また映画に付き合ってくれるか?」
「君がそれでよいと言うのなら、構わないが」
「サンキュ。男一人で映画館入るのは空しくてよ」
「…天使の一人でも連れて、入ったらどうかね?」
「あいつらが映画館で大人しくできると思うか?」
天地にそう言われて、直希は彼の契約都市伝説であるモンスの天使達の普段の様子を思い浮かべ…
…無理だな、と判断した
彼女達は、大人しくする、とか、静かにする、というのが苦手なのだ
…無理だな、と判断した
彼女達は、大人しくする、とか、静かにする、というのが苦手なのだ
「…それでは、君が望むならば、いつでも付き合おう」
交渉、成立だ
「あぁ、マスター。すまないが、プリンパフェを追加で。それと、紅茶をお代わり」
「かしこまりました、仲介者様」
「…お前、まだ甘味を食う気かよ…」
「かしこまりました、仲介者様」
「…お前、まだ甘味を食う気かよ…」
マスターに追加注文する直希の様子に、天地は苦笑した
相変わらず、この友人は甘い物は底なしのようだ
直希の正体を知るマスターは、笑みを浮かべながら注文の品を作っていく
相変わらず、この友人は甘い物は底なしのようだ
直希の正体を知るマスターは、笑みを浮かべながら注文の品を作っていく
「…にしても、やっぱり「ハチ公 ~教授とハチの約束~」は何度見ても泣けるよな……何度でも見に行っちまう」
「君は本当に感動動物映画が好きだな。僕も何度も付き合わされて、そろそろあらすじを暗記しそうだ」
「君は本当に感動動物映画が好きだな。僕も何度も付き合わされて、そろそろあらすじを暗記しそうだ」
再び、先ほど二人で見ていた映画の話題に戻る二人
その様子は、ただの仲の良い友人同士でしかない
その様子は、ただの仲の良い友人同士でしかない
同時に、2人が仕事の提供者と、その仕事を請け負う者である事など
二人の正体を知らぬ限り…その様子からは、想像などできるはずも、ないのだ
二人の正体を知らぬ限り…その様子からは、想像などできるはずも、ないのだ
さぁさ、都市伝説で困った事があったなら
この「兎の尻尾」で、「赤いケーキ」をご注文くださいませ
仲介者様が、親身になってご相談に乗りましょう
この「兎の尻尾」で、「赤いケーキ」をご注文くださいませ
仲介者様が、親身になってご相談に乗りましょう
fin