悪い時には悪い事が重なる者だ
彼、黒服Hは、それを実感していた
彼、黒服Hは、それを実感していた
「…ったく、困ったもんだよ…」
唸り声が、辺りに響き渡る
犬が、彼を取り囲んでいた
犬達の向こう側には……尾なしの犬を従えた、灰色のコートを着た男が、一人
犬が、彼を取り囲んでいた
犬達の向こう側には……尾なしの犬を従えた、灰色のコートを着た男が、一人
朝比奈 秀雄
今、学校町を騒がせている騒動の、黒幕がいる
今、学校町を騒がせている騒動の、黒幕がいる
「組織」の黒服としては、相手を捕縛するべきだろう
だが、黒服Hとしては、今はあまり、朝比奈 秀雄と戦いたくはなかった
同僚の某過労死候補ナンバー1からの報告を聞く限り、朝比奈 秀雄は三つの都市伝説と多重契約しており…三つ目の都市伝説の正体が、まだわかっていない
そんな状態で、相手と戦いたくはなかった
だが、黒服Hとしては、今はあまり、朝比奈 秀雄と戦いたくはなかった
同僚の某過労死候補ナンバー1からの報告を聞く限り、朝比奈 秀雄は三つの都市伝説と多重契約しており…三つ目の都市伝説の正体が、まだわかっていない
そんな状態で、相手と戦いたくはなかった
「なー、おっさん。あんたを見逃してやるから、こっちの事も見逃してくれないか?」
「命乞いか?「組織」の犬が」
「命乞いか?「組織」の犬が」
黒服Hの言葉に、そう冷たく告げてくる朝比奈
足元にいる尾無しの犬…クールトーが、ニヤニヤと笑っている
足元にいる尾無しの犬…クールトーが、ニヤニヤと笑っている
「命乞いってか、無駄な戦闘したくないんだよ。あんただって、面倒だろ?」
「…見逃すという言葉、信用できるとでも思うか?」
「だよなぁ」
「…見逃すという言葉、信用できるとでも思うか?」
「だよなぁ」
うん、と朝比奈の言葉に、納得しながら、黒服Hは己に襲い掛かってくる犬達を見つめていた
しゅるり
髪を伸ばし、電灯に絡みつかせ、上へ跳ぶ
しゅるり
髪を伸ばし、電灯に絡みつかせ、上へ跳ぶ
突然、目標の姿が消えたように見えたのだろう
犬達が、途惑ったように辺りを見回す
犬達が、途惑ったように辺りを見回す
「………」
そんな中、朝比奈だけは、冷静に頭上を見上げていた
電灯の上に立った黒服Hは、朝比奈に向かって、髪を伸ばす
一瞬で襲い掛かったそれは、朝比奈の体を束縛した
電灯の上に立った黒服Hは、朝比奈に向かって、髪を伸ばす
一瞬で襲い掛かったそれは、朝比奈の体を束縛した
「恨みはないんだがねぇ?」
朝比奈 秀雄に関しては、束縛、もしくは処分するように、と言う指令が上からきている
…彼が、同僚の契約者の青年の実の父親だと言う情報を、黒服Hは知らない
「組織」には、その情報は入ってきていないのだ
…彼が、同僚の契約者の青年の実の父親だと言う情報を、黒服Hは知らない
「組織」には、その情報は入ってきていないのだ
だから、黒服Hは、朝比奈を始末しようとした
悪魔の囁きの契約者である朝比奈
この朝比奈を殺せば…悪魔の囁きに憑かれている者達は、解放される
…少年、手塚 星もまた、解放されるから
悪魔の囁きの契約者である朝比奈
この朝比奈を殺せば…悪魔の囁きに憑かれている者達は、解放される
…少年、手塚 星もまた、解放されるから
黒服Hの髪が、朝比奈の体に食い込んで…
「……所詮、「組織」の犬。この程度か」
……いかなかった
朝比奈の皮膚に食い込んでいくはずの、髪が……食い込む事ができず、ただ、巻き付く事しか、できない
朝比奈の皮膚に食い込んでいくはずの、髪が……食い込む事ができず、ただ、巻き付く事しか、できない
(…何だ?)
感じる、違和感
人間の体に巻きつけているのでは、なく……何か、蛇か蜥蜴のような……いや、それよりも、もっともっと、硬い何かに、巻きつけているような…?
違和感の正体に、黒服Hが気づくよりも前に…朝比奈が、動いた
ぶちっ、と、己に巻きついていた黒服Hの髪を引きちぎりながら、腕を振るう
人間の体に巻きつけているのでは、なく……何か、蛇か蜥蜴のような……いや、それよりも、もっともっと、硬い何かに、巻きつけているような…?
違和感の正体に、黒服Hが気づくよりも前に…朝比奈が、動いた
ぶちっ、と、己に巻きついていた黒服Hの髪を引きちぎりながら、腕を振るう
-----すぱんっ、と
朝比奈に向かって伸ばしていた黒服Hの、髪が
そして、黒服Hが足場にしていた電灯が……一瞬で、切り裂かれた
朝比奈に向かって伸ばしていた黒服Hの、髪が
そして、黒服Hが足場にしていた電灯が……一瞬で、切り裂かれた
「っと!?」
何とか、着地には成功した
が、朝比奈は再び、腕を振るう
その一振りで生まれた衝撃破を避ける余裕は、黒服Hには、なく
が、朝比奈は再び、腕を振るう
その一振りで生まれた衝撃破を避ける余裕は、黒服Hには、なく
ずしゃり
右肩から、左脇腹にかけて……一瞬で、切り裂かれる
「が………っ!?」
「……死ね」
「……死ね」
再び、腕を振るおうとする朝比奈
その、手の爪が……どこか、硬質化しているように見えた
手の皮膚の表面も、何か、変化しているような…?
その、手の爪が……どこか、硬質化しているように見えた
手の皮膚の表面も、何か、変化しているような…?
「……っだ、死ねるか……!!」
ばちばちと、傷口に赤い光を発生させ、再生させながら、黒服Hは再び髪を伸ばす
それは、道路と、あたりの電柱、電灯を……ずたずたに、引き裂く
それは、道路と、あたりの電柱、電灯を……ずたずたに、引き裂く
「む……?」
散らばる瓦礫、そして、切れた電線が、朝比奈に襲い掛かった
切れた電線の先が朝比奈に触れ、激しくショートしているのを見届けて、黒服Hは逃亡した
切れた電線の先が朝比奈に触れ、激しくショートしているのを見届けて、黒服Hは逃亡した
「………」
ばちばちと
火花を散らす電線を、朝比奈は何でも無さそうに掴んでいた
つまらなそうに、それを投げ捨てる
火花を散らす電線を、朝比奈は何でも無さそうに掴んでいた
つまらなそうに、それを投げ捨てる
「……化け物が」
黒服Hが逃げた方向を睨み、朝比奈は酷く忌々しそうに呟いて
クールトーをつれて、その場から立ち去った
クールトーをつれて、その場から立ち去った
…ここまで逃げれば、問題あるまい
人気のない路地に逃げ込んだ黒服H
負ってしまった傷は、体内に仕込まれた「賢者の石」の力で既に再生している
人気のない路地に逃げ込んだ黒服H
負ってしまった傷は、体内に仕込まれた「賢者の石」の力で既に再生している
「…あー、くそ。さっきので一回は死んだぞ…」
復讐相手と対面するまで、あまり無駄に賢者の石の力は使いたくないというのに
本当に、悪い事は重なるものだ
とにかく、体を落ち着けようとして
本当に、悪い事は重なるものだ
とにかく、体を落ち着けようとして
「-----っ」
体内に感じる、激痛
また、あの発作だ
体内が、ぐちゃぐちゃに崩れ、消滅しだす
そして、そのダメージを、賢者の石が再生する
また、あの発作だ
体内が、ぐちゃぐちゃに崩れ、消滅しだす
そして、そのダメージを、賢者の石が再生する
「ぐ、ぁ………っ」
げほげほと咳き込み、血を吐き出す
錠剤の入ったピルケースを取り出そうにも、先ほどの戦闘の疲れもあってか、体がうまく動かない
正気を失うような激痛を耐えながら、黒服Hはその場に座り込んだ
血の匂いが、辺りに充満していく
錠剤の入ったピルケースを取り出そうにも、先ほどの戦闘の疲れもあってか、体がうまく動かない
正気を失うような激痛を耐えながら、黒服Hはその場に座り込んだ
血の匂いが、辺りに充満していく
「……ちくしょう、が……」
…発作の間隔が、思った以上に短い
早く
早く、復讐対象を全員、見つけて…殺さなければ
己の体の状態に、黒服Hはただ、忌々しさを抱えた
早く
早く、復讐対象を全員、見つけて…殺さなければ
己の体の状態に、黒服Hはただ、忌々しさを抱えた
……夜道を、一人の青年がよろよろと歩く
ぐったりしているこの青年、名前は山田
都市伝説退治を生業としてしまっている青年であるが…このところ、本当に忙しい
過労死しそうなところだが、彼は不死身であるがゆえ、過労死すらできやしない
ぐったりしているこの青年、名前は山田
都市伝説退治を生業としてしまっている青年であるが…このところ、本当に忙しい
過労死しそうなところだが、彼は不死身であるがゆえ、過労死すらできやしない
「…いっそ殺せ、って言うのは、こう言う状態を言うんだろうな…」
『ソウカ、ヤットオレサマノ気持チガワカッタカ』
『ソウカ、ヤットオレサマノ気持チガワカッタカ』
山田の中で響く、声
山田に憑いた悪魔の囁き、デビ田の声だ
まぁ、悪魔の囁きと言っても、山田を堕落させられなかったのが原因で主たる朝比奈 秀雄には見捨てられており、今では山田と共存状態なのだが
山田に憑いた悪魔の囁き、デビ田の声だ
まぁ、悪魔の囁きと言っても、山田を堕落させられなかったのが原因で主たる朝比奈 秀雄には見捨てられており、今では山田と共存状態なのだが
とにかく、山田は帰路についていた
早く帰って、休みたい
そうしてよろよろ歩き、路地に差しかかった時
早く帰って、休みたい
そうしてよろよろ歩き、路地に差しかかった時
「………ん?」
感じた、血の匂い
血の匂いがわかるようになってしまった自分が、ちょっと悲しい
…原因が、主に自分が流した血が原因、というのがもっと悲しい
何だか嫌な予感がしたが、放っておけないのが、この山田という青年だった
恐る恐る、血の匂いがする、その路地に目をやると
血の匂いがわかるようになってしまった自分が、ちょっと悲しい
…原因が、主に自分が流した血が原因、というのがもっと悲しい
何だか嫌な予感がしたが、放っておけないのが、この山田という青年だった
恐る恐る、血の匂いがする、その路地に目をやると
黒いスーツを身に纏い、サングラスをかけた短髪の青年が、塀に背中を預けて座り込み、げほげほと咳き込んでいる
その口元からは、大量の血が吐き出されていて
そして、彼が纏っているスーツは、右肩から左脇腹にかけて、大きく引き裂かれていて…そこには、血がベッタリと、付着していた
その口元からは、大量の血が吐き出されていて
そして、彼が纏っているスーツは、右肩から左脇腹にかけて、大きく引き裂かれていて…そこには、血がベッタリと、付着していた
「な……っ、お、おい、大丈夫か!?」
慌てて、山田はその青年に声をかけた
山田の声に、青年が顔をあげる
暗い中でもわかる、血の気を失った顔
まるで、幽鬼のようだ、と山田は錯覚しそうになった
山田の声に、青年が顔をあげる
暗い中でもわかる、血の気を失った顔
まるで、幽鬼のようだ、と山田は錯覚しそうになった
「……っ、山田、治重…か……こんな、時に…っ」
「え…?俺の事、知って……」
「え…?俺の事、知って……」
何故、自分の名前を知っているのか?
山田が首をかしげると
山田が首をかしげると
『オイ、へたれ。コイツ、「組織」ノ黒服ダゾ』
と、デビ田がそう、告げてきた
「あぁ、そうか、「組織」の………って、え!?」
「組織」
そこは一応、山田を追っているはずの団体だ
山田は、一瞬、目の前の青年を警戒したが…
…しかし、その警戒は、一瞬しか持続しなかった
そこは一応、山田を追っているはずの団体だ
山田は、一瞬、目の前の青年を警戒したが…
…しかし、その警戒は、一瞬しか持続しなかった
目の前の青年は、げほげほと咳き込み続け…その口から、血を吐き出し続けていたからだ
ボロボロになっているスーツから、何やらピルケースを取り出したが…力を失った手からそれは零れ落ち、地面に落ちたピルケースから、どす黒い色の錠剤が数錠零れる
ボロボロになっているスーツから、何やらピルケースを取り出したが…力を失った手からそれは零れ落ち、地面に落ちたピルケースから、どす黒い色の錠剤が数錠零れる
「……おい、お前」
血を、吐きながら
咳き込む合間に、青年が山田を見上げる
咳き込む合間に、青年が山田を見上げる
「…見逃して、やる、から………俺に、関わるな……」
「え………え?」
『オ、らっきージャン。サッサト逃ゲタラドウダ?』
「え………え?」
『オ、らっきージャン。サッサト逃ゲタラドウダ?』
そう言われても
目の前で、苦しんで死にかけているようにしか見えない相手を…置いていけと
「組織」の人間だとは言え、それでいいのだろうか
目の前で吐血を続けている青年を前に、山田は悩む
目の前で、苦しんで死にかけているようにしか見えない相手を…置いていけと
「組織」の人間だとは言え、それでいいのだろうか
目の前で吐血を続けている青年を前に、山田は悩む
この二人が、こうして遭遇した事が、後にどのような影響を及ぼしてくるのか
それは、まだ、誰にもわからない
それは、まだ、誰にもわからない
to be … ?