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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 騎士と姫君-28

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「My Home Town」


 久々のホームタウンへの帰還に、彼女は浮き立っていた。
 突然の帰郷でこの町を去ってから早半年、気がつけば年をまたぎ季節は春へと移り変わってしまった。
 もちろん故郷も家族も大好きだし、またしばらく愛する人たちから離れてしまう事を思えば心も痛む。
 しかしそれと同じぐらい、帰りの道中胸にはわくわくと期待に満ちていて。
 暮らしたのは数ヶ月のみだというのに、彼女の中でこの町、そして出会った人々はすでに大きな存在となっていたのだった。

 一夏の冒険を共にした人たち、お世話になった恩人。
 もうすぐ、もうすぐまたみんなに会える。

「で、勝手に盛り上がってるうちに迷っちゃったんだね?」
「……ハイ」

 某県某所、通称「学校町」。
 そのどことも知れぬ道の真ん中で『彼女』は途方に暮れていた。
 飛行機と電車を乗り継ぎ、ようやくたどり着けたという喜びは予想以上に大きかったらしい。
 張り切って歩き出してみたはいいものの、気づけば周りは見覚えのない住宅街やら畑やら、はたまた田んぼなんかに早変わりしていて。

「あんなに自信満々に歩いて行っちゃうんだもん、てっきりちゃんとわかってるかと思ってたのにね」

 そうしてくすくすと笑うのは、古びた人形を抱えた少年だ。
 ふわふわの金髪を震わせ、澄んだ青い瞳を細めながらも笑い声をあげるその様子は一見とても愛らしい。
 しかし実際にその唇から発せられるのは……目の前でだんだんとうなだれていく彼女をなじる辛辣なものばかりであった。
 しかもその内容といえば彼女にとって紛れもない事実ばかりだったからたまらない。
 ぐさぐさと突き刺さる言葉たちに言い返せるはずもなく、さらに頭を抱え唸ることしかできないでいたのだった。
 端から見れば同情すら誘いそうな状況ではあるが、そんな様子すら面白いのか少年の笑みはますます深くなるばかりである。

「ま、道は必ずどこかに通じてるよ。アメリカよりここの方がずーっとせまいんだし、なんとかなるって」
「それは確かですけど……せめて、夜までには帰りたい……」

 そう楽しげに笑う少年から視線を外せば、辺りはすっかり黄昏時である。
 そろそろ日が長くなる時期だからこそまだ明るいのではあるが、それでもいつか日は暮れてしまうだろう。
 それまでに我が家に帰り着かなければどうしよう――最悪、野宿とか?
 不意にそんな考えが脳裏をかすめ、慌てて彼女は旅行用の巨大なトランクカートを引っ張り始めた。

「でもさ、案外夜の方が知ってる人に会えるかもしれないよ? あ、『人』じゃないかもしれないけど」
「冗談になってませんからそれ! むしろ勘弁してください!」

 そんな少年の一言に、一層彼女の足が速まる。
 そうだった、この町はそういう場所であるということをすっかり忘れていた。

 少年の言うとおり、この町で人ならざる"モノ"に出会う確率というのは意外と高い。
 むしろ世界から見てもトップクラスに入る密集度と言っても過言ではないだろう。
 その上夜ともなればさらにその確率が跳ね上がるのだ。
 そしてそういった"モノ"たちはやはり彼女のそばにも存在している。
 たとえば隣を歩く少年は西日をさんさんと浴びているにも関わらず、その足下にあるはずの影がない。
 彼はいわゆる『幽霊』と呼ばれる存在であり、この町でよく見られる"モノ"――都市伝説の一人でもあった。

 かつてこの町を混乱に陥れた≪夢の国≫騒動、その最中に彼女は≪夢の国≫へ迷い込んでしまった。
 そしてその先で少年を始めとする様々な幽霊たちと出会い、助けを得てこちらへと帰って来ることができたのだった。
 しかし本来ならそこで別れを交わしたはずの少年が、気がつけば彼女のそばに止まり当たり前のように生活するようになってしまっていた。
 この土地がそういった都市伝説たちを呼び寄せてしまうのか、それともそうやって集った都市伝説たちが新たな都市伝説を呼んでしまうのか。
 もしかすると彼女自身も呼び寄せられたうちの一人なのかもしれないのだが、幸い(と言っていいのか)彼女はまだそれに気づいてはいない。

「あー、思い出したら早く会いたくなってきちゃった。みんな元気にしてるかな」

 足早に先を急ぐ彼女を尻目に、少年はぽつりとそんなつぶやきを落とす。
 首だけの少女にプリンが好きな女幽霊、そしてやはり首だけの怪人――。
 半年前の宴が思い出されて、それをきっかけに彼の脳裏には次々とこの町で巡り会った顔たちが浮かんでくる。

「……そう、ですねえ」

 彼女もそんな一言に感化されたのか、自然と歩調を緩め、気付けば周りの田園風景を見渡していた。
 今はまだ膝丈もあろうかというこの緑の苗が、黄金の草原となり風になびいていた頃が思い出される。
 あの時共にこの道を歩いた少年は、あの美しい黒犬は、助けに来てくれた彼らは元気に暮らしているのだろうか。
 宴でお菓子を勧めてくれた女の子は、ライフルを掲げた頼もしいはは……父親は、祟り神に率いられた人たちや、共に杯を交わした人々は、今どうしているのだろう。

「あーもう、僕やっぱりちょっと見てくる!」
「えっ……ちょ、ちょっと!」

 しみじみと思いをはせていた余韻に反応が遅れてしまい、それに気がついた時にはすでに時遅し。
 「待って」を聞く頃には少年はすでにはるか先に駆け去った後だった。

「………………はあ」

 ひどい脱力感が押し寄せると共に思わず深いため息が落ちて、途端にカートの持ち手がずしりと手に食い込んでくる。
 確かに自分だって早くみんなに会いたい。
 おまけにこんな話をしてしまえばなおさらその思いは強くなるばかりである。
 自分だってこの荷物さえなければいっそ駆け出してしまいたいのに。

「ずるいなあ、もう……」

 一度気が抜けてしまったからか本格的に疲労感が襲ってきて、思わずカートに寄りかかってみた。
 辺りもいよいよ暮れなずみ、ひしひしと影が迫ってくる。
 これは本格的に野宿の線を考えなければいけないかも、などと思いを巡らせていたその時。
 不意にふ、と濃い影が彼女の上に投げかけられて、ゆるゆると視線が上がる。
 しかしその先にいた人影を見つければ、途端に彼女の表情は苦笑めいたものに変わった。

「あはは、来ちゃったんですね……ホロウさん」
「…………」

 彼女が「ホロウ」と呼びかけた先、気付けば首のない大柄な男がたたずんでいた。
 双頭の竜があしらわれた鎖の鎧、腰には竜頭をあしらった剣を帯び、暗色のマントを風になびかせるその様は世界史の教科書か、はたまたおとぎ話の中に登場するような戦士の出で立ちそのもの。
 しかし男は彼女の呼びかけに答えることもなく、じっとその場にたたずみ続けている。
 ……いや、答えないのではない、答えられないのだ。
 なぜなら彼には肩から上――首が失われていたのだから。
 首なし騎士、本場アメリカでは『スリーピー・ホロウ』と呼ばれる『都市伝説』である。

「そういえばもうそんな時間でしたっけ……あ、大丈夫ですよ。別に迷ったとかそういうわけじゃ……あ」
「……………………」

 余計な一言まで言ってしまったということに気付いた頃にはすでに時遅く。
 遠く馬のいななきが聞こえたかと思った次の瞬間にはすでに騎士の隣に巨大な黒馬が出現していて、彼女は文字通り飛び上がって驚くしかない。
 しかもいつの間にかカートは騎士の手に渡っており、それもみるみるうちに相棒たる黒馬の背中にくくりつけられてしまう。
 ……何度か鼻を鳴らすその様子が、いかにも不満げに聞こえるのはきっと気のせいではあるまい。

「って、な、なんでデアデビル呼んじゃうんですか! まだ明るいんですし誰かに見られたら――うひゃっ!?」

 ようやく我に返った彼女が抗議しようと騎士に駆け寄った瞬間、今度は視界がぐるりと反転して気の抜けた悲鳴が漏れる。
 まさかこの状況は――そんなデジャヴに駆られて慌てて顔を上げれば、目の前には黒馬――デアデビルの頭と見渡す限りの田んぼが伺えて。

「~~っなんでこうなるんですかー!!」

 そんな叫び声など意に介さず、過保護な騎士は力強くデアデビルの腹を蹴ったのだった。



 ……ちなみにその後彼女らが花見会場にいた幽霊少年を見つけて、懐かしい面々との再会を果たしたのはまた別のお話。


<End...?>



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