●
日が落ちたのを見て、Tさんは洗い終わった食器の水気を拭きとり、棚の所定の位置に戻した。
弁当箱のふたをして布で包む。それらの作業が終わった頃、玄関が大きな音を立てて開かれた。
「大き過ぎるのを持ってきちまったよ」
笑いながら部屋に上ってきた舞はTさんの姿を見つけると「ただいまー」とあいさつし、
「Tさん、ご飯できた?」
「ああ」
電話で言われた通り、外に持っていけるように料理を詰め込んだ弁当箱を見せると舞は嬉しそうに笑んだ。
「いきなりのメニュー変えさせちまってごめんな。しっかしそこに対応してくるあたりが流石は寺生まれだな!」
「ほとんどメニューは変えていない、容器を弁当箱に差し替えただけだ」
まあ言われて悪い気はしないが……。
そう思い、それにしても、と舞に言う。
「また手間をかけて七夕を行う気になったものだな」
舞は「まあな」と弁当をつまみ食いをしながら、
「どうもリカちゃんがクリスマスの頃から微妙に楽しみにしてたみたいだからな、それなりにやってやんねえと」
そう言うと鋏とペンをお菓子の空缶を利用したペンスタンドから取り出した。
「なるほど」
Tさんは好意的な笑みで頷く。
「さ、早く行こうぜ」
駆けて行こうとする舞をTさんは「待て」と呼びとめた。
「なんだよ?」
振り向こうとする舞に「そのままでいい」と言い、Tさんは適当にまとめられている舞の髪に触れた。
子供に対するような、仕方がない奴だという口調で言う。
「竹藪にでも入って来たんだろう、葉と蜘蛛の巣がついてるぞ」
ついでに乱れた髪を手櫛で撫で梳いてやる。十数秒、舞は大人しくなされるままだった。
「よ、よし、行くか!」
Tさんが手を話すと舞がやや乱暴に言った。髪の間から覗く耳が赤いのを見てとってTさんは口許を緩め、
「ああ、行こう」
弁当を手に玄関へと向かった。
弁当箱のふたをして布で包む。それらの作業が終わった頃、玄関が大きな音を立てて開かれた。
「大き過ぎるのを持ってきちまったよ」
笑いながら部屋に上ってきた舞はTさんの姿を見つけると「ただいまー」とあいさつし、
「Tさん、ご飯できた?」
「ああ」
電話で言われた通り、外に持っていけるように料理を詰め込んだ弁当箱を見せると舞は嬉しそうに笑んだ。
「いきなりのメニュー変えさせちまってごめんな。しっかしそこに対応してくるあたりが流石は寺生まれだな!」
「ほとんどメニューは変えていない、容器を弁当箱に差し替えただけだ」
まあ言われて悪い気はしないが……。
そう思い、それにしても、と舞に言う。
「また手間をかけて七夕を行う気になったものだな」
舞は「まあな」と弁当をつまみ食いをしながら、
「どうもリカちゃんがクリスマスの頃から微妙に楽しみにしてたみたいだからな、それなりにやってやんねえと」
そう言うと鋏とペンをお菓子の空缶を利用したペンスタンドから取り出した。
「なるほど」
Tさんは好意的な笑みで頷く。
「さ、早く行こうぜ」
駆けて行こうとする舞をTさんは「待て」と呼びとめた。
「なんだよ?」
振り向こうとする舞に「そのままでいい」と言い、Tさんは適当にまとめられている舞の髪に触れた。
子供に対するような、仕方がない奴だという口調で言う。
「竹藪にでも入って来たんだろう、葉と蜘蛛の巣がついてるぞ」
ついでに乱れた髪を手櫛で撫で梳いてやる。十数秒、舞は大人しくなされるままだった。
「よ、よし、行くか!」
Tさんが手を話すと舞がやや乱暴に言った。髪の間から覗く耳が赤いのを見てとってTさんは口許を緩め、
「ああ、行こう」
弁当を手に玄関へと向かった。
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俺はマンション近くの公園でTさんの身長の二倍程はある葉竹の上に座って空を見ているリカちゃんと合流した。
「リカちゃーん、Tさんと料理連れて来たぞー」
俺の姿を見るとリカちゃんは竹を軽そうに持ちあげて歩いてきた。この竹を竹藪から引っこ抜いて、ついでに長すぎるので要らない部分をねじ切ったのもリカちゃんだ。
≪ひとりかくれんぼ≫と≪電話をかけてくるリカちゃん人形≫の、人をその手で解体できる程の力の有効利用だった。
リカちゃんは葉竹を持ち上げるとTさんの所まで歩いて、
「はい、お兄ちゃん」
「ああ」
Tさんは竹を受け取った。
「この竹が地面に刺すことができれば幸せだ」
呟いて、淡く光を帯びた竹を地面に突き刺した。竹は先が鋭い鉄柱か何かのように地面を抉る鈍くて、それでいてどこか耳触りの良い響きを伴って真っ直ぐに突き立った。
「よしよし」
それなりに整えられた場に満足しつつ公園の端にあるベンチを指さす。
「はーい、じゃああっちに行こうぜ」
公園灯に照らされたベンチに座って、さっきリカちゃんが見上げてた空を見る。
星がキラキラと光ってて、その中できれいな天の川が流れてる。
「こりゃ織姫さんも彦星さんも無事に会えそうだな」
呟きながら俺は文具屋で買ったものをとりだした。折り紙と紐だ。
「お姉ちゃん?」
リカちゃんが頭上で頭を傾ける気配がした。その声に期待の響きがありありと感じられ、
ああ、リカちゃん楽しんでくれてる見たいだな。
そう思って笑みになる。
「リカちゃん、これで短冊作るぞー」
「作るの!」
喜色満面なリカちゃんの声に「おう」と応え、鋏で短冊状に紙を切って紐を通し、ペンと共にTさんとリカちゃんに配った。
そして完成した短冊を飾って、竹を採って来る間に教えた歌をリカちゃんと二人で歌う。
「さーさーのーはーさーらさらー」「のーきーばーにーゆーれーるー」
歌っている間Tさんは良い演芸だと言いながら酒を呷っている。……童心に帰れよこのやろう。
「で、まあ後は天の川でも見上げながら飯食えばいいわけだ」
ものを食えないリカちゃんにしてみれば短冊を飾って歌を歌うまでが七夕みたいなもんだろう。だからこそわざわざ竹を自前で取ってきたんだ。多少手間をかけるのも悪くは無いだろうさ。
思っているとリカちゃんが問いかけてきた。
「お姉ちゃん、何をお願いしたの?」
短冊のことらしい。三人それぞれ書いた順に吊るしてきたから最後に吊るしてきた俺の奴の文面をリカちゃんは知らない。
「おり姫とひこぼしが一年に一回だけ会えるっつー日だしな。ならお二人さんにも俺にも得のありそうな願いをかけようと思ってな」
「なんてかいたの?」
「んー?」
おお、突っ込んで訊いてきやがったな。さて、どうしようか……まぁいいか。気分が良いし喋っちまおう。
「ずっとずーとできるだけ長く、一緒に居られますようにってな」
「お兄ちゃん?」
「んー……」
まあそうだけど……。
「それだけじゃねえぞー」
リカちゃんを取りあげて顔の前に持ってくる。
目があっても人形だから表情は読めねえけどこっちからこう、電波的な何かは伝わるだろう。
そう思いながら告げる。
「リカちゃんも、夢子ちゃんも……大事な人たち皆に対してだ」
「それはまた大きく出たものだ」
手酌していたTさんが苦笑気味に言った。
そうだろうそうだろう、夢も願いも大きく持たなきゃな!
んでもって……、
「そうなったら俺は幸せだぜ?」
さっきからの発言でいろいろと熱い顔がするりと本音をくっちゃべった。
「私もしあわせなの!」
リカちゃんも言語野溌剌だ。
「叶えてくれるよな?」
リカちゃんと一緒になってTさんを見る。Tさんは「参ったな、そうくるか……」と髪を掻きながら笑った。
杯を干して、
「俺の力の及ぶ範囲で……な」
外連味無く言いきった。
なら大丈夫だ。
「リカちゃーん、Tさんと料理連れて来たぞー」
俺の姿を見るとリカちゃんは竹を軽そうに持ちあげて歩いてきた。この竹を竹藪から引っこ抜いて、ついでに長すぎるので要らない部分をねじ切ったのもリカちゃんだ。
≪ひとりかくれんぼ≫と≪電話をかけてくるリカちゃん人形≫の、人をその手で解体できる程の力の有効利用だった。
リカちゃんは葉竹を持ち上げるとTさんの所まで歩いて、
「はい、お兄ちゃん」
「ああ」
Tさんは竹を受け取った。
「この竹が地面に刺すことができれば幸せだ」
呟いて、淡く光を帯びた竹を地面に突き刺した。竹は先が鋭い鉄柱か何かのように地面を抉る鈍くて、それでいてどこか耳触りの良い響きを伴って真っ直ぐに突き立った。
「よしよし」
それなりに整えられた場に満足しつつ公園の端にあるベンチを指さす。
「はーい、じゃああっちに行こうぜ」
公園灯に照らされたベンチに座って、さっきリカちゃんが見上げてた空を見る。
星がキラキラと光ってて、その中できれいな天の川が流れてる。
「こりゃ織姫さんも彦星さんも無事に会えそうだな」
呟きながら俺は文具屋で買ったものをとりだした。折り紙と紐だ。
「お姉ちゃん?」
リカちゃんが頭上で頭を傾ける気配がした。その声に期待の響きがありありと感じられ、
ああ、リカちゃん楽しんでくれてる見たいだな。
そう思って笑みになる。
「リカちゃん、これで短冊作るぞー」
「作るの!」
喜色満面なリカちゃんの声に「おう」と応え、鋏で短冊状に紙を切って紐を通し、ペンと共にTさんとリカちゃんに配った。
そして完成した短冊を飾って、竹を採って来る間に教えた歌をリカちゃんと二人で歌う。
「さーさーのーはーさーらさらー」「のーきーばーにーゆーれーるー」
歌っている間Tさんは良い演芸だと言いながら酒を呷っている。……童心に帰れよこのやろう。
「で、まあ後は天の川でも見上げながら飯食えばいいわけだ」
ものを食えないリカちゃんにしてみれば短冊を飾って歌を歌うまでが七夕みたいなもんだろう。だからこそわざわざ竹を自前で取ってきたんだ。多少手間をかけるのも悪くは無いだろうさ。
思っているとリカちゃんが問いかけてきた。
「お姉ちゃん、何をお願いしたの?」
短冊のことらしい。三人それぞれ書いた順に吊るしてきたから最後に吊るしてきた俺の奴の文面をリカちゃんは知らない。
「おり姫とひこぼしが一年に一回だけ会えるっつー日だしな。ならお二人さんにも俺にも得のありそうな願いをかけようと思ってな」
「なんてかいたの?」
「んー?」
おお、突っ込んで訊いてきやがったな。さて、どうしようか……まぁいいか。気分が良いし喋っちまおう。
「ずっとずーとできるだけ長く、一緒に居られますようにってな」
「お兄ちゃん?」
「んー……」
まあそうだけど……。
「それだけじゃねえぞー」
リカちゃんを取りあげて顔の前に持ってくる。
目があっても人形だから表情は読めねえけどこっちからこう、電波的な何かは伝わるだろう。
そう思いながら告げる。
「リカちゃんも、夢子ちゃんも……大事な人たち皆に対してだ」
「それはまた大きく出たものだ」
手酌していたTさんが苦笑気味に言った。
そうだろうそうだろう、夢も願いも大きく持たなきゃな!
んでもって……、
「そうなったら俺は幸せだぜ?」
さっきからの発言でいろいろと熱い顔がするりと本音をくっちゃべった。
「私もしあわせなの!」
リカちゃんも言語野溌剌だ。
「叶えてくれるよな?」
リカちゃんと一緒になってTさんを見る。Tさんは「参ったな、そうくるか……」と髪を掻きながら笑った。
杯を干して、
「俺の力の及ぶ範囲で……な」
外連味無く言いきった。
なら大丈夫だ。
俺とリカちゃんは二人で頷き合い、また〝たなばたさま〟を歌いはじめる。
空を飾る天の川がきれいだ。
盛りに近づいて行く夏の空に歌声が二つ、明朗に響いた。