喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
X 生命力の支配者/流れと共にある事
独り廊下に立っていた
広く、長い廊下だった
一直線に奥へと続くその廊下は、果てが無いかの様に見える
「……またここか」
確かにルーモアの入り口から入ったはずだった……だが……
振り向くと、そこには扉があり
先程と同じ様に───
X
生命力の支配者
流れと共にある事
───と刻まれている
刻まれた文字には違いがある様だった
「今度は10か……さっきは……え~と、12だった……かな?」
疑問に思いながらも、先に進むしかない
再び扉を押し開くと、隙間から光が漏れ出てくる
その眩しい光の中へと身を滑り込ませると───
*
書架が見えた
壁一面に本がぎっしりと納められていて、まるで図書館の様だ
ほうけた様に書架を見上げていると、声が掛けられる
「あら、どうしたの?……きみ……」
職員らしき、若いが落ち着いた雰囲気の女性が一人
数冊の本を胸に抱えて立っていた
数冊の本を胸に抱えて立っていた
「迷子……かしら?」
彼女が首をかしげると、短めの髪が微かに揺れ
耳に掛けられていた髪が頬へと流れ落ちる
耳に掛けられていた髪が頬へと流れ落ちる
静かに柔らかい笑みを浮かべ、じっと見つめてくる
言葉を待っている様だった
言葉を待っている様だった
子供相手に警戒させない為の技術なのか、自然とやっているのか……
「……すみません、ここは……何処ですか?」
「この書庫は一般開放はされていない場所なの……え~、つまり……」
「この書庫は一般開放はされていない場所なの……え~、つまり……」
子供に判り易く説明しようとして……
且つ、否定的な言葉遣いを避けようとでもしているのだろう
且つ、否定的な言葉遣いを避けようとでもしているのだろう
「いえ、意味、分かりますから……すみません……初めて来たので……」
そして、彼女の話から考えると……
他の場所は一般開放されているという事になる
やはり、ここは図書館の様なところなのだろう
他の場所は一般開放されているという事になる
やはり、ここは図書館の様なところなのだろう
「この図書館、学校町の施設の中でも大きい方だから……迷ってしまうわよね」
学校町の図書館……しかし、何故ここへ飛ばされたのか……
「ここへはひとりで?……ロビーまで連れて行ってあげようか?」
「あ……はい、ひとりで来ました……お仕事中にすみませんが、ロビーまでお願いします」
「あ……はい、ひとりで来ました……お仕事中にすみませんが、ロビーまでお願いします」
返答に迷ったが、ここにいても意味が無いと思い案内を頼む
「いいのよ、こういうのも仕事だから……ね?」
女性は抱えていた重たそうな本をテーブルに置くと
足音も立てずに歩み寄って来たので一瞬警戒したが
敷き詰められたカーペットが音を出さないようにしているだけのことだと気付く
足音も立てずに歩み寄って来たので一瞬警戒したが
敷き詰められたカーペットが音を出さないようにしているだけのことだと気付く
自分は少し警戒し過ぎているのかもしれない
けれど、何が起こるか判らないのだから警戒を緩めるわけにもいかない
注意深く部屋と女性を観察する
けれど、何が起こるか判らないのだから警戒を緩めるわけにもいかない
注意深く部屋と女性を観察する
"法の書"
タイトルに"法の書"と書かれた本が目に留まる
先程、女性がテーブルに置いた本の一冊だった
何故か目が離せない
女性が視線に気付き、怪訝な顔をする
先程、女性がテーブルに置いた本の一冊だった
何故か目が離せない
女性が視線に気付き、怪訝な顔をする
「どうかしたの?」
「え?……あ、いや、その……"法の書"って何かなぁ~って思って」
「ああ……"法の書"というのはグリモワール……魔道書のひとつね」
「……魔道書……魔法の本ってこと?」
「そうね魔法の本ね、この町の図書館は何故かこういう類の蔵書が凄く多いらしいの」
「……ははは……そう……何故か……ねぇ……」
「え?……あ、いや、その……"法の書"って何かなぁ~って思って」
「ああ……"法の書"というのはグリモワール……魔道書のひとつね」
「……魔道書……魔法の本ってこと?」
「そうね魔法の本ね、この町の図書館は何故かこういう類の蔵書が凄く多いらしいの」
「……ははは……そう……何故か……ねぇ……」
つい、乾いた笑い声と苦い笑みが漏れてしまう
「それで、さっきも問い合わせがあって確認していたところなのよ」
「……まぁ……学校町なら仕方ない」
「……まぁ……学校町なら仕方ない」
「じゃあ、行こうか?」
「お願いします」
「お願いします」
女性が先導し、少し後ろをついて行く
そして、扉を開け廊下へと出る
一瞬、覚悟をして扉を抜けたが今度は何も起きずに廊下へと出ただけだった
そして、扉を開け廊下へと出る
一瞬、覚悟をして扉を抜けたが今度は何も起きずに廊下へと出ただけだった
どうやら全部の扉が繋がっているわけではない様だ
立ち止まったところで、横から声が掛けられた
「大木さん」
職員らしき年配の女性が呼びかけるが、案内してくれている女性は振り返らず進んでしまう
「大木さん……おおきさん!」
びくっとして振り返る女性
「あ!?……はい!!」
「大木さん……まぁ、仕方ないわよね……そのうち慣れるわよ」
「大木さん……まぁ、仕方ないわよね……そのうち慣れるわよ」
やれやれといった風情で言う
よく分からないが、仕方ないことらしい
よく分からないが、仕方ないことらしい
「すみません!!」
大木と呼ばれた──案内してくれている──女性が恥ずかしそうに謝るのを見て
年配の職員は、何だか楽しそうな笑顔を浮かべている
年配の職員は、何だか楽しそうな笑顔を浮かべている
「朗読会、もうすぐ始まるわよ」
「はい、心の準備は出来てますので……あとは練習通りに読むだけです」
「そ、頼もしいわね……で、この子は?」
「迷子のようなので、ロビーまで案内を」
「あら、そ……君、ひとりでここに来たの?」
「はい、ひとりで来ました」
「そ、良かったら朗読会、聴きに来てね……今日は、そのお姉さんが読んでくれるから」
「演目は"オズの魔法使い"なんだけど……時間があったら……どう?」
「……オズの魔法使い……かぁ」
「はい、心の準備は出来てますので……あとは練習通りに読むだけです」
「そ、頼もしいわね……で、この子は?」
「迷子のようなので、ロビーまで案内を」
「あら、そ……君、ひとりでここに来たの?」
「はい、ひとりで来ました」
「そ、良かったら朗読会、聴きに来てね……今日は、そのお姉さんが読んでくれるから」
「演目は"オズの魔法使い"なんだけど……時間があったら……どう?」
「……オズの魔法使い……かぁ」
元の場所、それとも元の世界?……へと戻りたかったが
特に当てがあるわけでもない
"流れと共にある事"と扉に刻まれていた事を思い出し
なんとなくだが……聴いていく気になる
特に当てがあるわけでもない
"流れと共にある事"と扉に刻まれていた事を思い出し
なんとなくだが……聴いていく気になる
「じゃあ、聞いていきます……チケットとか必要ですか?」
「いいえ大丈夫、それに無料よ」
「よかった……なら、喜んで」
「そ、じゃあ一緒に行きましょう」
「いいえ大丈夫、それに無料よ」
「よかった……なら、喜んで」
「そ、じゃあ一緒に行きましょう」
ロビーを抜け、イベント用の大きめ部屋へと向かう
部屋は学校の教室くらいの広さがあり、パイプ椅子が綺麗に並べられている
すでに子供たちが30~40人は座っていた
部屋は学校の教室くらいの広さがあり、パイプ椅子が綺麗に並べられている
すでに子供たちが30~40人は座っていた
ほどなくして席は埋まり、朗読会が始まる
大木さんの短い挨拶が終わり、照明がトーンダウンしていく
大木さんの短い挨拶が終わり、照明がトーンダウンしていく
演目は「オズの魔法使い」
言わずと知れた、ライマン・フランク・ボームが著した児童文学の名作である
言わずと知れた、ライマン・フランク・ボームが著した児童文学の名作である
*
主人公はドロシーという少女
ドロシーの両親は既に他界しており
農場を経営するヘンリーおじさん・エマおばさん夫妻の家で暮らしていた
農場を経営するヘンリーおじさん・エマおばさん夫妻の家で暮らしていた
ドロシーが住んでいるカンザスは、カラカラに乾いた灰色の世界
ドロシーの友達は、子犬のトトだけだ
それでもドロシーは楽しそうに毎日を過ごしている
ドロシーの友達は、子犬のトトだけだ
それでもドロシーは楽しそうに毎日を過ごしている
ドロシーを育てているヘンリーおじさんとエマおばさんは、いつも疲れていて滅多に笑わない
乾いた土地、カンザスでの農場経営は苦しいのだ
だから彼等は、そんな環境で日々を過ごしているドロシーが
なぜ、楽しそうにしているのか不思議に思っているのだった
乾いた土地、カンザスでの農場経営は苦しいのだ
だから彼等は、そんな環境で日々を過ごしているドロシーが
なぜ、楽しそうにしているのか不思議に思っているのだった
そしてある日、竜巻がドロシーの農場を襲い
家ごとドロシーは吹き飛ばされ、飼い犬のトトと共に不思議なオズの国へとやってくる
家ごとドロシーは吹き飛ばされ、飼い犬のトトと共に不思議なオズの国へとやってくる
ドロシーは旅の途中で、脳の無いカカシ・心の無いブリキの木こり・勇気の無いライオンと出会い
それぞれの願いを叶えてもらうためエメラルドの都にいる大魔法使いのオズに会いに行く
それぞれの願いを叶えてもらうためエメラルドの都にいる大魔法使いのオズに会いに行く
3人を連れてオズの国を冒険し
カンザスに帰る為にオズの魔法使いの言う通り、悪い魔女を倒す
カンザスに帰る為にオズの魔法使いの言う通り、悪い魔女を倒す
悪い魔女を倒すと、皆は「ここで一緒に暮らそうよ」と言ってくれる
けれど、ドロシーは言う
けれど、ドロシーは言う
「それでも私はカンザスに帰りたいの」
そうしてドロシーは、魔法の靴の踵を3度鳴らしてカンザスへ帰っていく
*
部屋がゆっくりと明るくなり……少し、目の奥が痛む
朗読は終わっていた
朗読は終わっていた
聴き始めると、続きが気になって最後まで集中していた様だ
途中に短い休憩があったものの
約1時間ものあいだ、情景を想像をしながら話を聴くというのは大変な事なのかもしれない
約1時間ものあいだ、情景を想像をしながら話を聴くというのは大変な事なのかもしれない
心地よい脱力感を全身に感じながら、周りの子供達が出て行くのを眺める
正直、児童文学と侮っていたが
一本の筋が通った、中身のある物語だったように思う
一本の筋が通った、中身のある物語だったように思う
カカシは、知恵を
ブリキの木こりは、優しさを
ライオンは、勇敢さを
ブリキの木こりは、優しさを
ライオンは、勇敢さを
それぞれを、自分の中に芽生えさせ、手に入れていた
では、ドロシーは?
ドロシーは何かを手に入れたのだろうか……
そんなことを考えながら、席を立つ
片付けをしている大木さん達を尻目に、そっと隠れる様に
片付けをしている大木さん達を尻目に、そっと隠れる様に
朗読会場のドアを開き、出る───