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連載 - ハーメルンの笛吹き-57

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【上田明也の探偵倶楽部33~笛吹探偵事務所の休日~】


「なあ友、お前死にたいって思ったことある?」
「どうだろうね、笛吹さんは?」
「今も死にたい気分だよ。」

しとしと続く雨の音色
60年代のジャズの名曲をレコードで流しながら中国茶を聞いてみたり
デザートにはモンブラン
取り合わせは滅茶苦茶だがどれも俺の好きな物だ
笛吹探偵事務所の定休日はそうやって一日中何もせずに過ごすことにしていた

「その割には明るい曲をかけているじゃないか。」
「知らないな我が友よ、死にたいほどの絶望なんてものは明るいんだ。
 ちょっと気に入っていた女の子を心ならずも手にかけた上に、
 自分の将来の夢が絶たれた日の次の朝なんて人生の中で一番輝いていた。
 そう、朝露の一つ一つがまるで宝石のようでね。
 世界は輝きに満ちているんだ、俺は一人で勝手に不幸になっていくんだ、
 そういう風に思った訳よ。」
「やたら具体的だねえ。」
「ま、嘘なんだけどさ。」
「どこまでが?」
「さぁ?」
「さぁ、ね。」

友は中国茶をゆっくりすする。
その香りの独特さにまだ戸惑っているようだった。






「露とこたえて消えなましものを、とか言うけどさ。
 二股発覚した時は本当に適当に消えてしまいたかったね。
 一人は読心術持ち、もう一人は本物の化け物。
 クラスの人間にもばれてたし、マジ死にたかったわぁ……」
「露と答えて……、それの元ネタはそこそこ純愛だった気がするなあ。」
「原作は女の子が鬼に喰われるだけだったけど、俺の場合は女の子が鬼だったからなあ……。」
「笛吹さんと付き合おうなんて女性がまともだとは思えないね。」
「そうそう、それは言えている。あ、まともと言えば、だよ。」
「どうしたの?」
「明日君がまた活躍してたのよ。」
「あの正義の味方?」
「うん、さっき話した読心術持ちと豪華客船でランチしてたら吸血鬼に襲われたんだよ。
 そしたらあいつが突然やってきて吸血鬼をちぎっては投げちぎっては投げ……。
 結局あいつ一人で全部解決しちゃった。」
「はいはい大嘘。」
「ばれてしまったかー。」
「大方笛吹さんが正義の味方が大暴れできる舞台を整えてからあの子を解き放ったんでしょ?」
「しーらねっと。」
「吸血鬼に噛まれて感染した人間の始末とか、
 吸血鬼そのものの隔離とか、
 正義の味方が敵のボスを倒してお終いって相手じゃあないでしょ?」
「まあねー。俺はそれ含めての依頼だったし、シカタナイヨネ。」
「良いの?依頼だったなんて言っちゃって。」
「大丈夫、俺嘘つきだから。」






「まあそれはどうでも良いことなんだ。
 そうじゃなくてさ、あの正義の味方を見てふと思ったことが有る訳よ。」
「なになに?」
「いや、なんであいつあんな当たり前に良い事しようと思えるのかなって。」
「えー、でも話聞いている限り周りに迷惑かけてんの解ってないじゃん。」
「まあそうなんだけどさ。
 たとえば俺って人の気持ちが何故か良くわかる訳よ。
 助けて欲しいとか望んでいる人間が何処に居るかだって解る。
 でも無条件に助けてやろうだなんて思わない。
 助けきれないからさ。
 助けきれなければ後悔するし、自分の周りに居る人々を助けるので俺は手一杯だ。
 でもあいつはそんなこと考えずに延々と戦い続ける。
 困った人を見捨てられないなんて言うけど、他人が困るから自分の幸せを実感できるんだ。
 幸せな奴しか近くに居なくなってしまえば不幸だし。
 助けを求める奴を救えなきゃ不幸だ。
 ああ、そう。で終わらせられれば人間は狭い世界の中で楽に生きていける。
 そう、思わないか?」
「…………………どうだろう、私は来る者拒まず的なスタンスだけど。
 まあ、理解しがたいよ。其処に在るなら受け止めるけどね。」
「正直に言ってしまえば、あいつは見捨てる勇気も持てないかわいそうな奴なのかもな。」
「そこらへんの講釈は笛吹さんに任せるよ。」
「任されたよ、なーんて。」





「そういえばさ、俺は全ての人間の気持ちを理解しているのに人々は俺を理解していないと思うんだよね。」
「あー、そりゃあ仕方ないよ。笛吹さんはやっぱなんか変だもん。
 大量の都市伝説を受け入れたり重さ15kg以上の火器を毎日服に仕込んでるとかフィジカルな面じゃない。
 そんなの出来る人間は幾らでも居る。
 でも当然の如く全ての人間を理解しているなんて言えるメンタルはやっぱり変だよ。」
「それ言ったら誰とでも友達になれるお前も大概だ。」
「友人であると言うことと理解し合うことは全く別物だね。
 友人同士なんてのはぶっちゃければ解らなくても受け入れれば良いんだもん。
 笛吹さんは他人のことを解ってて受け入れないじゃん。
 どーでもいいと思ってる、それじゃあ友達は出来ないよ。」
「受け入れるふりはするけどね。最低限。
 そしてそんな俺でも受け入れようとしてくれる人は居た。」
「ふりはばれるよ?そして受け入れようとしてくれる人はもうアップアップになってるけどね。」
「ああ、なまじ超能力で俺の心を読めるからこそ耐えられないと思うよ。
 理解してしまえばそれでお仕舞いだ。
 理解せず、それでも受け入れる、そうじゃないと心を壊す。」
「笛吹さん程度に狂っていれば笛吹さんの狂気を理解した上で、友達になれるのに。」
「理解し合える友達を親友と言うんだろうな。
 そう言う意味で友は俺の親友な訳だよ。」
「でもでも、私は私は友達沢山いるよ!
 みんな私の私のことを可愛がってくれるよ!」
「そうだなあ、お前は外見が敵対心持たれないタイプで愛らしいからなあ。
 性格だって異常さを隠すことができるから普通に見える。
 でもお前の言うみんなは何時の間にかお前のことを忘れてしまうだろう?
 一人が『あ、そういえば純ちゃんは?』って言っている内はお前も幸せだろうが……。
 高校卒業したら今のお前の友達は居なくなるな。」
「うわっ、笛吹さん辛辣!」






当然のように事務所の中に、会話の中に純が入ってきていた。
彼女の特技から考えれば最初からずっと居たと言うことも考えられなくはないが……
まあその可能性は考えないでおこう、怖い。
結構真剣に怖い。

「友美さ~ん、お兄ちゃんにいじめられた!」
「笛吹さんひど~い、大の大人がそんな酷いこというのー?
「解った、お兄ちゃんが少し言いすぎた。ごめんなさい。」
「ふふふ、解ればいいよ。
 私は私は今みたいな関係も気が楽だから嫌いじゃないよ。
 昔はなんか不安だったけど今はお兄ちゃんもいるしね。」
「や~ん、純ちゃん可愛い。」
「友美さんも可愛いよ!」

そう、忘れてはならない、新島友美が小学生で拝戸純が高校生だ。
しかし今の二人のいちゃいちゃを見ていると逆のような気がしてならない。
学校町の住民は成長のスピードが狂っていると無理矢理解釈しておこう。

「…………コホン」
「なんだ笛吹さん、可愛い女の子二人がいちゃいちゃしてるのを見てムラムラしているのか?」
「友美さん、ムラムラって何?」
「ふと心動かされてしまってるって意味だぜ、純!
 そしてお兄ちゃんは今さいっこうに“ムラムラ”って奴だ!
 WRYYYYYYYYYY!友みぃ!俺は人間を止めるぞぉ!」
「ロリコンは人間じゃない、と。」
「まあ残念ながらそうなるな。」
「お兄ちゃん変態だったの!?」
「何を今更!変態じゃなきゃなんだというのだ!」
「お兄ちゃんでしょ。」






「……そうですね、そうでしたね。」
「えっ、なんでへこんでるの!?」
「いや、聞いてくれ純ちゃん。
 笛吹さんはロリコンだがシスコンではないらしいんだ。
 だから近親相姦ものにはあまり萌えないらしい。」
「モザイクすらかからなかった!?」
「嫌だな笛吹さん、私たちには神(ヒッシャ)の規制すら無意味なんだよ?」
「存在だけで世界(サクヒン)の因果律(ルール)を消し飛ばしそうだな。」
「二人とも何話してるの?」
「なに、純ちゃんも何時か通る道さ。」
「お兄ちゃんは許さない!そんなカオスの権化になることなんて!」
「くくく、我が愛で汚れよ!」
「何処のキャスターだ!」
「それ言ったら笛吹さんは何処の坊主だ!」
「俺は坊主って言うよりは神父だもん!声的に!」
「じゃあその声でだもんとか言うんじゃねえ!イメージ崩れる!」
「解った、それじゃあこうしよう…………。
 食うか・・・?」
「おもむろに麻婆豆腐差し出すな!」
「友さん、食べ物無駄にしちゃ駄目だよ?」
「え、ちょ純ちゃんなんで私の身体を押さえつけてるのかな?」
「命をかけろ。或いはこの味が解るかもしれん。」
「らめえええええええええええええ!?」

話も少しつかれた。
麻婆豆腐を食って、そして少し休憩しよう。




三十分後

「―――――休憩終了、やればできるじゃないか友よ。」
「いや、カライノッテオイシイネ。」
「さっすが友さん!其処にしびれる憧れるぅ!」
「さて、俺はランチの最中に面白い話題を思いついた。」

息を吸って少しばかりの溜めを作る

「なぁ、正義ってなんだ?」

ああ、今の俺はドヤ顔をしているに違いない。

「そんなの知らない。」
「笛吹さん、厨二病も行くところまで行ったね……。」
「うるちゃい!うるちゃいうるちゃいうるちゃい!
 だって世の中って十人十色の正義があるじゃん?
 俺は自分の心がときめく一瞬こそが正義だと思う訳よ。
 将来も過去もきっと訪れては去っていくだけだ。
 だから心ときめく一瞬をどれだけ続けられるかが重要で、
 心トキメキ続けられることこそが悪と言えない唯一の存在、
 すなわち正義だと思ったんだよ!
 そもそも世の中すべてまやかしかもしれないじゃないか。
 でも今感じている胸の鼓動、それを感じている自分だけは疑いようがないじゃん!」
「くっ、末期だ!」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「うわあああああああん!」

思う以上に理解されなかった、少し泣きたい。



その時突然、事務所のドアが開いた。

「うぃーっす、遊びに来ちゃった。」
「あ、直じゃねえか。ここに来るまでに人殺さなかっただろうな?」
「あ、直……。うわぁ」
「何故お前はこんな所に居る!」
「そして私はおいてけぼりだぜ……。笛吹さん、其処の黒こげの彼は誰?」
「モノホンの殺人鬼。マスターになってもらえよ。
 いいよ、CV的には私の方が殺人鬼だ。」

事務所に入ってきたのは顔立ちの整った男性。
男性の衣服はまるで火事場泥棒でも決めたかのようにボロボロである。
彼の名前は拝戸直。
快楽殺人者である。
ついでに言えば此処にいる拝戸純の血の繋がった兄なのだが……
あまり仲は良くない。

「お兄ちゃんと一緒に居るんだから入ってこないでよね!」
「お兄ちゃん?上田さん、あんた一体これは……」
「まあ待てよ、俺とお前は狂っていながらも中々悪くない友情を築けていると思うんだ。
 そこでゆっくりおちついて聞いて欲しいんだが良いかな?
 まあまあ席にかけて……。」

鋏が舞う。
五寸釘が飛翔する。

「お 前 ら 座 れ !」







五分後
とりあえず拝戸兄妹の喧嘩を終わらせると、
俺と友が二人の間に立って話を続けることになった。

「俺は死体にしか性的な意味で興味がないんだ!
 だからお前にいくらベタベタされても迷惑なんだよ!」
「何よ、兄のくせに適当すぎないそれ!?
 ていうかなにその死体って!
 変態じゃん!ドヘンタイじゃん!」
「お前、人間がバラバラにされる瞬間に見せる魂の輝きは普遍だから!不変だから!
 そしてなおかつ永遠だから!
 死ぬ人間と死んだ人間は芸術なんだよ馬鹿野郎!
 そりゃあ萌えるわ燃えるわトキメキエヴォリューション!
 死ぬ瞬間こそがその人間の全てを完成させる瞬間なんだよ!」

訂正、まったく喧嘩は終わってない。

「とりあえずお前ら落ち着け。」
「笛吹さん、貴方の周りにはなんでこんな面白い人ばっかり集まってるの……?」
「そりゃおまえ、俺が面白いからだよ。」

もはやすでに話題は虚空の彼方へ飛び退き議会は逆立ちしながらタップダンスを踊ってた。
つまりもはや滅茶苦茶になっているということだ。





「ていうかもうオチつかねえって作者(テン)の声がしてるぞ!?」
「お兄ちゃん、天の声って何?」
「ああー、確かに嘆いてるな作者(テン)が。」
「直は少し黙ってろ。」
「いつの間にこんな腹立つ奴になった!?」
「自業自得でしょ……。駄目だよ直さんこんな可愛い妹放っておいたら……。」
「ご、ごめんなさい……。」
「わーい、友さんは私の味方だね!」
「だって今回は直さんが悪いもの……。
 まあ作者(テン)の声については私も認める。」
「何よ天の声って!」

もはや突っ込みが存在しない。
惚けっぱなしジャーマンスープレックスワールドに居る我々にオチなど期待しないで欲しい。
そもそもオチがつくこと自体が正常な考え方だ。
それを俺に期待しないで欲しい。
なるほど、確かに俺ならオチはつけられる。
でも別につけなくて良いだろう?
そんな事も解らないのか。
作者(テン)は俺の心境も理解してくれないらしい。
やだやだ、結局作者(テン)にすら俺は理解されないのか。
あーあ、だから生きているのが嫌なんだ。
絶望しちゃうぜ。
そして窓の外を見ると雨は何時の間にかやんでいて、虹の色がムカツクぐらい明るく輝いていた。
【上田明也の探偵倶楽部33~笛吹探偵事務所の休日~fin】

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