アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-60

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
【上田明也の探偵倶楽部36~私の望み~】

「橙さん、居ますか?」
「なんだサンジェルマン、予知が必要なのか?」
「いえ、違います。
 少し相談したいことがございまして。」

古い図書館に少女が座っていた。
燃えるような赤い髪を持ち、それでいて燃え尽きそうな儚げな印象を持つ少女。
橙レイモン、「組織」においてF-№6の名前を与えられているだけの人間である。
彼女は「ラプラスの悪魔」という特質系の都市伝説との適合率が高いところから、
とある秘密機関からF-№0「サンジェルマン伯爵」によって誘拐されて今は彼の下で働いている。
純粋な都市伝説の性能だけでなく彼女自身もそこそこ優秀だったのでサンジェルマンは彼女を重用していた。

「なんだ、私に相談ということは面倒ごとではあるのだろうが……。」
「ええ、じつは上田さんのことについてです。」
「上田明也がどうした?
 私たちが相談してどうこうなるような男ではないだろう。
 『異常』だかなんだか知らんが生物学的には只の人間なのに私の予知の外側に居る人間だ。
 超常現象たる都市伝説としての格が私のラプラスの悪魔を上回るなら予知の外側に居ても問題無い。
 だがあいつは生物学的には人間、契約者だ。
 まったく、そこがまあ面白いというか心惹かれるんだがな。」
「………………まぁ、相談というか告白というか。
 懺悔というのが一番正しいのでしょうかね。」
「どうした。
 私はお前があいつの父親とも親しかったことも、
 お前が『組織』の理念と何の関係もない理由から『組織』にいることも、
 今上田明也が、お前の欲しがる『聖杯』とかいう物を探していることも
 お前が上田明也についさっき大嘘を吐いたことも知っているぞ。
 好むと好まざると私の頭には情報が流れ込んでくるんだ。」






「ええ、私は彼に嘘を吐きました。
 私は彼に『聖杯』をまるで万能の願望装置のように言いましたが……
 あれの機能は本来非常に限られているのです。」
「…………そうなのか?
 でもどのみち私の予知では上田は『聖杯』にたどり着けないぞ。
 それくらいあいつの暇潰しになるんだし問題無いだろう。」
「病を治し、無限の食料を与え、死人を冥府から呼び戻す。
 聖杯にはそれだけの奇跡を起こす力しかありません。
 死人を呼び戻す、これが問題なのです。
 これ一つの為に私は必死で聖杯を求めている。」
「ああ、……お前の死んだ恋人か。」
「その通りです。
 私が化け物になってしまった時、私は故郷を焼き払ってしまった。」
 愛する人も当然一緒に。」
「ラプラスの悪魔によると実験時の事故だったと出ているが?」
「問題はそういうことじゃないんです。」
「そうか、私に人の気持ちはわからんよ。
 実験室に長く居すぎた。」
「そういえば貴方の故郷には行ったのですか?」
「ああ、上田と行こうと思っていたが彼方と行ったよ。」
「え、何それ聞いてない。」
「私の両親も居たんだがなぁ……。
 私のことなんぞ忘れたように私の弟を可愛がっていたよ。」
「悲しかったですか?」
「ああ、泣いた。」





「まあ話を戻しましょうか。
 聖杯って本来姿無き存在なんですよ。」
「え、器じゃないの!?」
「はい、英語ではHoly Grailと言うんです。
 Grailとは様々な変化を見せる魔法のアイテムという程度の意味しか無いと思ってください。」
「じゃあなんで聖杯なんて……。」
「現れた姿が偶々杯だったんですよ。
 現在現界している聖杯はアイルランド神話におけるダグダの釜などの伝承と混ざったことで、
 私が求めていた形に落ち着いています。」
「蘇生の効果を持つ聖杯になったということか。」 
「ええ、まあ長い間キリストの教えに毒されていた聖杯が……
 やっと私の望む姿を取り戻したんですよ。」
「毒される?」
「そうです、聖杯とはいえ人々の信仰を受けて奇跡を起こす都市伝説と同じ存在。
 故に人々の思いによってそれの形はいくらでも歪む。
 上田さんがそれを『万能の願望機』と信じて手に取れば……。」
「お前、それは五歳児に核のスイッチを与えるみたいなもんだぞ!?
 なんでそんな危ない真似を!」
「今私の周りで聖杯を手にとっておいてもその力に魅せられない人間は彼しか居ない。
 それに私自身は今回聖杯が現界しているところには出向けないんです。」
「……どういうことだ?」
「人間にしか入れない場所にあるんですよ。
 正確に言うと人間じゃなくても入れはしますが……、少なくとも私は無理だ。
 『組織』の力を使って回収するのは途中で奪われるリスクが高すぎますしね。
 『組織』は所詮独善的な治安維持組織であって私のような科学者を支援する機関ではない。
 H№の方針転換以来、人体実験もろくに承認されなくなってしまった……。」





サンジェルマンは一つ長いため息を吐くと自分を勇気づけるようにこう言った。

「まあ、上田さんが素直に聖杯を私に届けてくれれば良いんですけどね。
 彼が聖杯を使って私の願いを叶えてくれても良いですし。」
「なんだ、サンジェルマンはまるで上田明也が聖杯を手に入れるのを知っているみたいじゃないか。」
「ええ、彼は絶対にそれを手に入れますよ。
 もし手に入らなかったら聖杯が使えなかった場合の手段に訴えるしかない。」
「聖杯が使えなかった場合の手段?」
「ええ、人工的に望む性質の都市伝説を創造、使役する方法を今模索中なんです。
 上田さんや拝戸さんのような『異常な人間』を研究しているのは
 その都市伝説を御しうる存在を生み出す為と言ってもいいですね。
 計画が気になるなら私の頭の中を貴方の力で覗いてもいい。」

サンジェルマンが怪しく微笑む。
ラプラスの悪魔が教える彼の計画の全容を知った橙の顔から血の気がサッと引いていった。

「…………都市伝説を作るなんてあまりにも狂っているよ。
 あれは自然に生まれるものだ。」
「橙さん、聖杯を封じられてしまえば私に出来ることは無いんです。
 そもそも何千年以上前に死んだ人間の細胞や魂が残っていると思いますか?
 反魂の法も彼女の遺伝子を使ったホムンクルスも間に合わない。
 神の奇跡に頼ろうにもそれによる希望が奪われたとしたならば、
 人の手による奇跡を望むしか私にはないんです。」
「だいたいそんなことが可能なのか?」
「多かれ少なかれ拡大解釈という形でほとんどの契約者がやっていることです。
 それを少々大規模に行うだけだ。
 これはあくまで実験ですよ、科学者として結果の前に無限にある過程の一つだ。」




「上田さんは成長率だけで言えば私の戦力の中でも最優の契約者だ。
 たかだか一年に満たない実戦経験の中で幾度も強敵相手に生き延びている。
 それに都市伝説を受け入れる容量の大きさも、都市伝説への同調率も全てが高水準だ。
 彼の遺伝子を解析すれば私の作る私の為の都市伝説を完全に御する生体装置が作れる。
 彼が聖杯を手に入れなくても聖杯探求が彼をさらに成長させる以上、
 私の研究は進みます。」
「最優ねぇ、まあ確かにあいつは優秀だが結構負けているじゃないか。
 この前もハンニバルに負け、エーテルに負け、その前は朝比奈秀雄にも負けている。」
「いいえ、あれは負けではありません。
 遙か格上の相手に幸運にも生き残ったと考えるべきですよ。
 ちなみに最強の契約者はF-№1ですね。」
「エーリッヒさんか、お前にいつも苦労させられている人だろう?」
「ええ!」
「元気いっぱいに言うな!少しはねぎらえ!」
「彼も楽しんでいるし良いじゃないですか。」
「たのしんでねえよあれ!この前胃潰瘍ができたって悩んでたぞ?」
「あらら、それは診察に行かないと……。」
「お前が妙なことしなきゃ彼は悩まないで済むんだよ!」
「てへ☆」
「てへ☆ではすまねえから!」





「まあどのみち上田さんが聖杯を手にすれば彼の苦労も終わりです。」
「聖杯そのもの定義の曖昧さと上田自身の幸運に頼った計画なんて失敗するに決まっている。」
「駄目だったら別の手段を検討すればいい。
 まあ私としては良くも悪くもここで決着がつくと思っていますが。」
「やめてくれ、そんなことになったら世界がお了いな気がするよ。」
「都市伝説程度で世界は滅びません、この人間の世界は虚しく続きます。」
「……そうか、私はもう帰るぞ。」
「この話、上田さんには秘密にしてください。
 まだこれからなんです。
 この計画は上田さんが聖杯を『万能の願望機』だと信じてなければ意味がない。」
「解った。私には何らメリットがないが良いだろう。」
「ありがとうございます。……おや、明也さんから電話だ。
 はい私です、おおついに動きましたか。面白いでしょうあれ?
 って、え?
 それは、困ったなぁ…………。」

離れていく橙の背中を見送りながらサンジェルマンは電話をとった。
通話の内容を聞いた彼は動揺し始める。

「しかしいくら何でもサンジェルマンがやろうとしていることは危険すぎる。
 場合によっては……。
 まあ最優に対抗する為にも、私の知り合いの中でも最強の契約者に頼っておくか。
 あいつの知る契約者以外にも最優を止められる人間は居る。」

そしてその頃、誰もいない図書館の廊下で橙は一人携帯電話を弄っていた。
その電話をかけるさきは彼女が姉のように慕うとある契約者。
彼女は常に【最優の契約者】に匹敵しながらもサンジェルマンからはわずかの価値も認められぬ凡人だった。
【上田明也の探偵倶楽部36~私の望み~fin】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー