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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-63

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匿名ユーザー

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【上田明也の協奏曲19~物語の動く時~】

 ――がくん、と
 彼方が、膝をついたのは
 事務所を出ようとした、その瞬間だった

「…………え」

 彼方の口から……自身の状況を把握できていないような声が、漏れる
 どしゃり、そのまま、彼方の体は……事務所の床に、転がった

「…おい?」

 ――――――嫌な予感
 げほげほと、彼方が咳き込み……苦しみだしている

「あ、れ……?ど……して………?」

 つぅ、と
 彼方の口元から流れる、赤い線
 げほげほと咳き込むと……床が、赤黒く染まった

 彼方が、吐血しているのだ
 激しく咳き込むたび、大量の血を吐き続けている

「――――っおい!?しっかりしろ!?」

 俺は彼方の傍に駆け寄った。




原因はどう見ても肉体の限界だ。
前に聞いたことがある、組織には人間の限界を超えることを可能にする薬があると。
彼の症状は前に聞いたことのあるそれを使いすぎた時の症状にそっくりだった。

「おいっ!お前、何か薬を投与された事はないか!?」
「…くす、り……?」

彼方の顔がよりいっそう青白くなる。
おそらくビンゴ、なのだろうたいして嬉しくもない。
だが原因がわかったならば対応も簡単だ。

問題はその対応をするかどうか。
対応をとれたとてそこまでの時間稼ぎを自分が出来るのか。

サンジェルマンの援助を容易に借りれば彼の存在に気づく敵が現れるかも知れない。
そもそもこの彼方から情報が漏れる可能性もまだある。

そうなってしまうリスクと、こいつを助けるメリットはあまりにも釣り合わない。




「――――お兄ちゃん!?」
「吉静ちゃん!?駄目だろう、出てきたら!」

突然、赤い部屋から吉静が出てきた。
茜は引き留めるのに失敗したのか!?
いや違う、…………引き留めなかったのか。

吉静は彼方の様子を見て、慌てて駆け寄ってくる。

「だ、だって……お兄ちゃん達が来なくて、心配で…………っ………お兄ちゃん?お兄ちゃん!!」
「…よし、ず…」

吉静を見あげ……しかし、体の崩壊が続いているのだろう
彼方は咳き込みながら……意識を失ってしまった
このままでは、彼方は本当に…………死ぬ

「…多分、何かの病気を持っていたんだろう……」

…せめて、それを口に出す。
保険のような言葉だ。
それを口に出した自分に、嫌悪感を抱いてしまう。

確かに吉静には嫌われたくない。
……だからといって今自分が行った行為はあまりに卑怯だ。
自らの美学に反する。





「…っお願い…………おにいちゃんを、助けて………っ!!」

吉静の涙がこぼれ落ちる。
もし仮に、彼を助けなくても、助けられなくても何ら問題はない。
所詮、子供一人を誤魔化すのは大して労力ではない。
でもそれって

【違うだろう?“普通”はそんなことしないし、思わないんだよ。
 目の前で困っている人間が居たら助けろよ、好きも嫌いも全部はそれからだ。】

……これは誰の言葉だったろうか、そうだ父の言葉だ。
今のこれは俺の意志ではない。
彼を助けようなど俺は微塵も思っていない。
――――――でも、思考は言語に規定される。

あの言葉は何度も何度も繰り返されていて、あまりにも深く俺に刻み込まれていて。

「茜さん、聞こえているか?サンジェルマンに連絡をとれ。」
「――――はい!」

パソコンからの茜さんの声が聞こえる。
やれやれだ、どこぞの正義の味方の甘さが移ったのかもしれない。
俺は少しばかりほろ苦い気持ちになった。




数時間後、俺と吉静はサンジェルマンの住む城の手術室の前に居た。
手術室の中からサンジェルマンが出てくる。

「まったく、情に駆られるなんて貴方も甘いですね……。
 でもその甘さ(らしくなさ)、嫌いじゃないぜ?」
「ドヤ顔でポーズ決めている暇があったら患者の容態を説明してくれたまえよ、お医者様。」
「おじちゃん、お兄ちゃんは大丈夫なの!?」
「おじちゃんて……。」

サンジェルマンが悲しみの向こう側気味な表情をしている。
自分はまだお兄さんだと思っていたのだろう。

「えーっと、彼は取り合えず無事です。昏倒及び吐血の原因はやはり過剰な薬物投与でした。
 まあ行った処置は肉体の崩壊を回復系の都市伝説で止めながら、
 透析とかで体内から薬を抜いたりって感じですね。
 薬の成分分析をしたところ、犯人もわかりました。」
「それは重畳、使っている薬に特徴でも有ったのかい?」
「ええ、そんなところです。犯人は『組織』の黒服です。
 ナンバーはH-01、実験推進派のHナンバーのトップと言っても良いでしょうね。
 今のHナンバーのトップ(ゼロバン)はすっかり甘くなってしまわれた……。」
「はふ~ん、ちなみにそのゼロバンってどんな奴よ?」
「外見は可愛らしい女の子です。」

それについてちょっと詳しく聞かせてもらおうか。
そう言おうとしたところで手術室の扉が再び開いた。




「おにいちゃん!」
「彼方!まだ歩くのもきついんじゃないのか?」
「……二人とも、私の技術を舐めないでくださいよ。伊達に不老不死やってません。」

扉の向こうからは彼方が歩いてきた。
どうやら無事なようである。

「みなさん、どうもありがとうございました。」
「おにいちゃぁん!」
「おうふっ!?」

吉静ちゃんが全速力で彼方に体当たりを決める。
抱きつこうとしたのだろうがあれでは大ダメージである。

「元々彼自身も鍛えられた身体していましたからね。
 一度処置さえ施せばあとはどんどん回復していくと思われます。
 記憶の一部が操作されている――恐らく組織関連の記憶についてですね――事が気になりましたが……
 とりあえず問題にはなりません。
 いやー、しっかし良い体でしたねー。
 彼ってば今フリーでしたっけ?ちょっとハッテンしたいんですけど……。」
「おじちゃん、ハッテンって何?」
「ええ、それはそれは素晴らしい行為で……」
「穀雨ちゃん、しばらくお兄ちゃんと感動の再会を味わっていてくれ。
 彼方君も妹とのつもる話があるだろう?」

俺はとりあえずサンジェルマンを別室に隔離することにした。
その晩は俺の警護の下で、サンジェルマンの城に俺と穀雨兄妹は泊まることにしたのである。



そして真夜中

「……おや、起きたか。」
「上田さん、まだ起きていたんですか?」

俺がパソコンを弄っていると彼方が目を覚ました。

「トイレなら素早く帰って来いよ、サンジェルマンに捕まると厄介だ。」
「いえ、そういうことじゃなかったのですが少し気になることが有って。」

気になることが有って、と言いかけたがそのまま口をつぐんでしまう。

「そういえば俺もお前に聞きたいことがあるんだ。
 お前、俺の探偵事務所の助手やる気無い?
 最近優秀な奴がやめちまってね。」
「え……?」
「ぶっちゃけるとお前とのバトルで壊れちゃった探偵事務所の修理費稼いで欲しいというか。」
「あ、……すいませんでした。」
「いやいや、良いんだよ。」

被害の9割は俺が自分で撃ちまくった銃弾である。
また、残り一割は俺が蜻蛉切で勢い余って部屋を切ってしまっただけである。





「まあお前の身柄はサンジェルマンが保護してくれると思うけどさ。
 あいつはまあ男も女も行けて男なら特に君ぐらいの少年がピッタリという変態なんだ。
 だから君としては妹とも一緒に居られるし、(ピー)される心配無いし、
 中々悪くない話だとは思うんだよね。
 三食付き、修理費分働いてくれればその後はバイト代も出る。」
「妹とも一緒に……。」
「つーかね、今度でかい仕事でドイツに行かなきゃいけないのさ。
 その間事務所見てくれている奴も必要だし。
 あー、あと偶に俺に恨みを持つ奴が事務所襲撃してくるから腕の立つ奴じゃないと。
 とゆーわけで君みたいなのが適任なのだよ。
 やってくれるね?つーかやれい。どーせ行き場無いだろ?」

バイト勧誘。
どうせ関わったのならば最後まで。
それだけのことだ。

「……とりあえずもう一眠りしてから答えを出して良いですかね?」
「ああ、待っているよ。」

ああそうか、なんでこいつを助けたのか、やっと理由が解った。
結局、俺はこいつが物語からフェードアウトするのが惜しかったのだ。
そうだよな、なんせ穀雨吉静の兄だ。
彼の物語もきっと面白いに違いない。
【上田明也の協奏曲19~物語の動く時~fin】

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