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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-68

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【上田明也の協奏曲24~瀕死~】


「…………ああ。」

目が覚めた。
ベッドで寝ている。
全身包帯でぐるぐる巻きだ。
頭が割れるように痛い。
身体が冷たい。
腕が思うように動かない。
感覚がない?
いいや、違うね、動かせると思えばきっと動かせる。
俺は右腕を軽くあげようとした。

「―――――――――――おおあおおあああ!」

痛い。
忘れていただけでハンニバルとの戦いの最中もこれだけ痛かったに違いない。
そうだ、思い出した。
俺はあの時負けて……、サンジェルマンに助けて貰ったんだ。

ガタン

俺の悲鳴を聞きつけたのかドアが急に開いた。





「橙か……、お前のおかげで助かったよ。
 危うくあんな危ない奴の手に穀雨兄妹を渡すところだった。」
「助かった?そのざまで助かった?あまり妙なことを言うなよ上田明也。
 右腕の接合も未だ不完全、胴体ごと両断された神経系、人間の限界を超えた都市伝説の行使。
 サンジェルマンも治るか解らないと言っているんだぞ?」
「そうかそうか、だが俺は勝った。」
「…………なあ明也、そんな物が勝ちか?
 たかだか一年にも満たない都市伝説との戦闘経験だけで!
 自分より遙か格上の相手に挑みかかり!
 しまいには傷一つつけることなく限界を迎え、倒れる!
 逃げ帰る時でさえ他人任せ!
 それがお前の勝ちなのか?」

「――――――――――――――大勝利だね。」

「もう一度言うぞ、大勝利だ。」
「嘘を吐け…………。」

橙が泣きそうな顔でこちらを見つめている。
ああ、そんな顔をしないでくれ。
頼むからそんな顔をしないでくれ。

「良いか?俺は穀雨兄妹を無事に逃がした。
 さらに都市伝説の新たなる力まで手に入れた。
 確かに戦いでは負けていたかも知れない、でもこれを勝利と呼ばないでなんと呼ぶんだ?」
「負けだよ。どうしようもなく……負けだよ!」

喉も裂けんばかりに叫ぶ橙。
なんで、なんでそんな顔をするんだ?
俺はこんなにも頑張って戦ったじゃないか、なのになんで……?






「私はね、穀雨兄妹はどっちも嫌いだよ。
 兄は元はといえば明也を殺す為に差し向けられたような物だし。
 妹だって、私とメルの居場所を奪っているような気がしたし。」
「知ってるよ、俺はお前がそう思っているのを知っていた。
 更に言えば向坂は明日姉のことが嫌いだし、お前は俺のことを手に負えないと思っている。
 もっと言えば、俺が赤い部屋に浮気してるのもお前は知っているだろうしさ。
 きっと、俺のことも少し嫌いだと思うよ、お前は。」
「そんなことはない!」
「いいや!お前は怖がっている!お前のラプラスを以てしても把捉不可な化け物(オレ)を!
 不可測な未来にお前の心は一時躍っただろう!
 しかし、不可測であることは希望を生むとは限らない!
 俺に関して、お前の能力では追いつけない部分があることを!
 お前は嫌悪している!この人は自分と違うと思って恐怖している!」
「違う!」

橙の息が荒い、……俺もか。
どうやら、お互い興奮しすぎたようだ。
喉の奥で血の味がする。

「なあ明也、聞かせてくれ。
 ハンニバルとの戦いの時、お前の傍に居た子供は誰なんだ?
 あいつも……、ラプラスで把捉できなかった。」
「え、妹だけど。」
「はぁ!?」

橙が普段とは口調が変わるくらい驚いていた。








「妹だよ、妹。」
「お前に妹が居るなんて聞いてないぞ!」
「最近出来たばかりだからな。」
「出来たばかりって何だ、そんな妹がホイホイ出来て溜まるか!」
「いやー、なんか気絶しているところ拾ったら懐かれた。
 血のつながってない妹だよね、合法合法。」
「お前の発想がアウトだよ!」
「なんだ、もしかして妬いているのか?」
「そんなことあるか、有る訳無いだろう。」
「そうかそうか、それは少し残念だな。」

俺は橙の方を向いて彼女の表情を伺う。
駄目だ、目がかすんで良く見えやしない。

「そういえば、パソコン持ってこれるか?
 “赤い部屋”の様子が心配だ。」
「“赤い部屋”か?それなら今は穀雨が管理して居るぞ。」
「え?」
「簡単なことだ、お前は今“ハーメルンの笛吹き”以外の全ての都市伝説を失っているんだ。
 容量を遙かに超える都市伝説の能力の引き出し方をしたからな。
 緊急処置として一時的に全部契約解除だとさ。」

メルがその気になれば一瞬で今のお前は取り込まれるだろうな、と
彼女は言った。





「その気にならないから、メルはメルなんだ。」
「そうだな、それは知っているよ。」
「あいつはきっと俺が居なければ生きてはいけないだろうよ。
 殺した人間の命を群体に組み入れて半永久的に活動するフリークスでも、
 その能力を存分に引き出しうる契約者の存在無くしては力の半分も発揮できない。」
「だろうな。
 ……だから彼女はお前の勝手な行動を許すのか?」
「いいや、違うね。あいつは俺のことが大好きだから何をやっていても許してくれるだけだ。
 そうじゃなかったら俺はもうとっくに人間やめさせられているよ。」

またも沈黙。
俺がまだ人間なのか?
彼女はそう聞きたいに違いない。
そしたら俺は【俺こそが人間だ】と答えてやろうと思っているのに。
これを聞いてしまうのは間違っていると彼女は思っているのだろう。

「そうだ、そういえば明日姉はどうした?
 あいつなら真っ先に駆けつけてきそうな気がしたんだが……。」
「ああ、あの人ならお前に愛想尽きたとさ。」
「はっ、手厳しい。」

やっぱりか。
何時かこんな時が来ることは解っていた。
あいつも結局、俺にはついてこれなんだ。






「ただ、私はそれで良かったような気もする。」
「と、言うと?」
「ラプラスの予知が正しければ、ハンニバルとの戦いで彼女は死んでいたんだ。」
「ああ、それなら良かった。」

あんな良い奴に死んで欲しくない。
それにしても……

「なあ橙、俺もう疲れたよ。ゆっくり休んで良いか?」
「あ、ああ……邪魔したな。」
「サンジェルマンに穀雨兄妹の訓練を頼んでおいてくれ。
 俺はこのざまだ、都市伝説の発動さえままならない。」
「解った。」
「あと橙…………。」
「なに?」
「もし俺が死にたい気分だったとして、俺と一緒に死んでくれるか?」
「馬鹿な事言ってないでちゃんと生きろ。」
「だよな、なんとなく言ってみただけだ。」

そう言うと、彼女は俺の部屋を出て行った。





「あぁ…………。」

行ってしまった。
何で俺はあんなことを聞いたんだろう。
嫌に心細い。
全力を尽くして尽くして尽くして……自分の中の何か決定的な物まで使い尽くしたような
そんな寂しさが胸に迫る。
そうさ、そもそも俺は生きているのが嫌だったんだ。
なんとなく馴染めない世界も
なんとなく馴染めない人々も
俺はその中で生きているのが嫌だったんだ。
俺は俺に何かを与えてくれる誰かの存在が欲しかった。
愛されたかった。
愛したかったんじゃない。
周囲の人間を慈しんでいればきっと誰かが俺を大切にしてくれると思っていた。
でも、決してそんなことはなかった。

結局、俺を愛してくれる人なんて……

「すいません、入って良いですか?」
「待て、密室でお前と二人っきりはかなり深刻に怖いぞ。特に後ろが。」
「二人っきりじゃあないですよ。」

ドアが開くとサンジェルマンともう一人、意外な人物が立っていた。







「……なんで此処に?」
「サンジェルマンに連れてきて貰ったの。」
「彼女も一応、私の研究対象たりえますし……、貴方ほどでないにしろ重傷でしたから。」
「治るの早いなおい!」
「いや、どう考えても貴方が重傷過ぎるだけですから。」

それもそうか。
拝戸純は頭に包帯をぐるぐる巻きにしていた。

「それもそうか……。」
「お兄ちゃん、さっきお兄ちゃんの状態は聞いたんだけど……。」
「どうした?これくらいかすり傷だよ。」
「嘘つき、そんな訳無いでしょう?」
「医者として言うと、一月程は絶対安静にしていてください。」
「解った、あんたには手間かけさせるね。」
「構いはしませんよ。貴方が居ない間には学校町で別の人材に動いて貰うことになってますし。」
「ほう、気になるね。」
「F-№2、“バミューダトライアングル”の黒服です。貴方が前に飛行機で討ち取った彼ですよ。」
「……はにゃん?」

あいつ、生きていたのか。
ていうか予想はしていたが本当にこいつの部下だったのか。






「貴方が当時圧倒的に格上だった彼を倒したのは意外でした。
 最初は貴方の実力を量るだけのつもりだったんですけどね。
 いやー、それにしてもバラバラになったから治すのに相当苦労しましたよ。
 まあ逆を言えば、他の黒服達には死んだと思われているので隠密行動には最適なんですけど。」
「そ、そうか……。」
「それはそうとサンジェルマン、私は私はお兄ちゃんと二人っきりになりたいなー。」
「おっと失礼、貴方との約束をうっかり忘れていました。」
「そう、思い出したんなら急いで守って。」

サンジェルマン相手にこの態度か。
本当に良い根性しているというか、なんというか。

「解りました、それじゃあ邪魔者は退散しますよ。」

サンジェルマンはにやにやと笑いながら部屋を出て行く。
去り際に俺に向けてグッと親指を立てたのを俺は見逃さなかった。

「やっと……二人きりになれたね。」

拝啓、お袋様。
ヤンデレの妹が怖すぎて眠れません。

「ねえ、お兄ちゃんだけどうしてこんなボロボロになってるの?
 私は私は寂しいな、何もお兄ちゃんだけ傷つく必要は無いんだよ?」
「頭に包帯を巻いているけが人にだけは言われたくないね。」
「えへへ……。」

其処は恥ずかしそうに笑う所じゃないぞ、我が妹よ。






「そういえば廊下を歩いている時に小学生くらいの女の子にすごく睨まれたんだけど……
 アレ、誰?
 お兄ちゃんの知り合い?
 それともサンジェルマンの部下の人か何か?」

橙に死亡フラグが立ちました。

「ああ、まあそんなところだ。」
「ふ~ん……。なら良いや。よい、しょっと。」

回避しました。
何このギリギリ感?
そしてなぜ我が妹はベッドの上に乗ってくるのだ。
ていうか俺に覆い被さるな、傷口が開く!

「ところで純、なんでそんなに近いのかな?」

鼻と鼻が触れあう所まで顔が近づいている。
互いの息が顔にかかる。

「其処に乗られるとお兄ちゃん傷口が開いちゃうからやめようぜ?
 純も見ていたと思うけど胴体真っ二つにされているんだよ、な?」
「ちぇー……。」

残念そうに舌打ちすると純は大人しく……ベッドから降りてくれない。
俺の胸の辺りに馬乗りしている。
気管が圧迫されるのでこれはこれで辛いのだが……、まあさっきよりはマシか。








「ねえ、なんでお兄ちゃん息が荒いの?」

剣で貫かれた肺を圧迫されているからです。
呼吸するのも辛いに決まっています。

「……もしかして、わたしでわたしで興奮してたりして?」

ははは、当たり前じゃないですか。
怪我さえしてなかったらもうとっくに襲いかかっていますよ。
こんな可愛い生き物が目の前に居たらもうお兄ちゃん頑張っちゃうってば。

「どうして返事しないのかな?」
「ちょっと、肺をやられていてね。其処に乗られると息苦しいっていうか。」
「ふぅ~ん……。」

しかしスカートとは良いものだ。
パンツが直接俺の胸に当たってるではないか。

「でも、苦しそうなお兄ちゃんを見るとドキドキするかも。」
「そうかそうか、でもできれば楽させて欲しいな。」
「駄目。もうちょっとこのままで居たいな。」

甘い香りがする。
香水でもつけているのだろうか?





「そういえばこの毛布の下ってどうなってるのかな?」

純は俺から降りると俺にかかった毛布を一切合切容赦無く引っぺがした。
俺はいつの間にか入院患者の着る白い服を着させられていたようだった。

「私は私は着替え手伝えなかったんだよね。
 惜しかったなあ……。」
「な、何が惜しかったのかな?」
「えへへ、何でもないよ。ちょっと傷見せてね。」
「あ、待て!」

思ったより大きな声が出てしまった。
だが彼女はそんなことも構わずに俺の服をはだけさせる。
俺の肌を見て、彼女の顔は真っ青になった。

「なぁにこれ…………?」
「っあー、見られたくなかったんだけどなあ。」

あまり他人に見せたい物じゃない。
俺の身体は都市伝説と契約してからの戦いで傷だらけになっていたのだ。
ハンニバルとの戦いで受けた傷は勿論、
メルと契約したばかりの時の戦いで受けた傷も跡が残っている。
本来肉体強化系でもなんでもない俺が身体を酷使する戦いを続けていればこうなるのは当然だった。
何も俺は他人ばかりを犠牲にしているんじゃない。
使いつぶしがきかないだけで自分だって勝利の為には道具として使っている。





「どんな拷問を受けたらこういう傷跡になるのかな?」
「拷問じゃない、普通に硫酸かけられそうになったり、自分の爆弾の爆発に巻き込まれただけだ。」
「色々普通じゃないよね?」
「今生きているんだから問題ない。」
「はふぅ……。」

おいおい、何故さらに服を脱がせようとする?
あとまた身体の上に乗るな、ていうかそこは黙って見て見ぬふりをしてくれるのが優しさじゃないの?
傷にほおずりしたりしなくて良いから!

「待て、ストップ!何故そこでさらに服を脱がせようとする?」
「ダメダメ、兄妹間で隠し事は無しってお兄ちゃんが言ったんだから。」
「そう言う問題じゃない!見られて気持ちの良いものじゃないから!」
「大丈夫、私はお兄ちゃんがどんな傷を隠してても受け入れてあげる!
 ていうか今ならお兄ちゃんに何をしても無抵抗!」
「結局それが狙いか、うわちょやめ……あ゛にゃ~ん!」

ガラッ
突然、ドアが開いた。

「………………。」
「……………………、やぁ。」
「あら、こんにちわ。橙ちゃんだっけ?」
「………………上田の妹だったっけか?」

気まずい。
非常に気まずい。
純が影になっているせいで俺の身体の傷は橙に見えていないが……






重たい、重たい、重たい重たい沈黙がのしかかる。
ああ、そうだ。
この状態ではどう見ても俺が純に口で言えないことをされているようにしか……

「この……!」
「ま、待て!違うんだ、これはそう言う訳じゃ……」
「この……!」
「お兄ちゃん、良いから早く見せてよ、ね?」
「お前は余計なことを言うなッ!」
「この……!」
「ちょっと待て!何を考えているかは予想がつくが本当に誤解だ!」
「この、浮気者オオオオオオオ!兄妹でそんな危うい姿勢でベッドで組んずほぐれつづるかああああ!」

ガタァン!

橙は勢いよくドアを閉めると部屋から出て行ってしまった。
確実に泣いていたね、ありゃあ。

「カッカッカッカ、楽しいことになってるじゃねえか。」

俺の目の前に一匹の蜘蛛が降りてきた。

「ってお前見てたのかよ?」
「俺が居たの気付いてなかったのか?ほんっとうに身体にガタが来ているのな。」
「キャッ!蜘蛛!」

パチィン!
………S-№0、「イクトミ」は出てきたそばから純に潰されてしまった。
だが彼はギャグマンガのようにペラペラになりながらもどうにか人間の形に変身する。







「いやー、本当に死にかけなんだなお前!びっくりしたぜ!」
「うん、せめてもの情けとしてサンジェルマンに俺の身の潔白を証明してくれると助かるな。」
「誰この人?」
「え、愉快な神様の類。」
「愉快でも類でもねえよ!正真正銘の神様だ!
 ハンニバルとの戦いでお前が死にかけていると聞いたからお見舞いに来てみれば!
 なんか可愛らしい女の子、しかも妹といちゃいちゃしてるってどういうことなの?
 その上、他の女まで乱入して修羅場とか……
 お、ま、え、は、何処まで面白いんだアアハハハハハハハ!」

本人としてはマジ洒落にならないのだが否定は出来ない。
ていうかこのことがメルに伝わると俺はそれこそ大変なことになる訳で……。

「可愛いって言われちゃった……。」

お前はちょっと喜ぶな!

「大丈夫、私の眼にはお兄ちゃんしか映ってないよ!」
「良いから服どうにかしてくれ!寒い!」
「あ、ごめん……。」
「しかし妹かあ……、お前も相当マニアックだなおい。」
「いや、違うから、血はつながってないから、セーフだから。」
「いや、むしろマニアックだよ。」
「愛があればオッケーだよ!」
「お嬢さん、あんた中々解ってるじゃないか。」
「えへへー。」

そしてお前らは盛り上がるな!






「しかし真剣にやばいぞこれー。」
「どうしてだ?」
「俺の命って今、契約しているハーメルンの笛吹きの能力によってつながれている訳よ。」
「え、ハーメルンにそんな能力有ったっけ?」
「裏技。詳しくはサンジェルマンに聞け。」
「ふぅん。解った。」
「今回のことがメルに伝わると契約の回路を一方的に断ち切られるか、
 今弱っている俺自身が浸食されるか……。
 どっちかになり得るしどっちも俺死ぬしね。」
「成る程、ハンニバル相手でも生きて帰ったお前が浮気で死ぬと……。
 語り継ぎがいが有るなあ……。」
「解ったお兄ちゃん!私があの橙って子を殺してくれば良いんだ!」
「やめてね!?」
「じゃああのメルって子を……」
「駄目だよ!?」
「待ってて、今すぐ行ってくる!」
「話を聞けぇ!」
「カハハハ、面白そうだから俺も見に行こうっと。
 大丈夫、マジやばくなったら止めるから!」
「絶対止める気無いだろ!サンジェルマン、助けて!
 サンジェルマアアアアアアアアアン!」

俺の悲鳴はF-№0、サンジェルマン伯爵の城いっぱいに響いたのであった。
【上田明也の協奏曲24~瀕死~fin】

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