雨の日のおはなし
*
しとしと……しとしと……
雨が降っている
秋の雨は冷たい
その冷たさは、つま先を硬くする
そんな冷たい雨の中を、独り、傘を差し歩く
その冷たさは、つま先を硬くする
そんな冷たい雨の中を、独り、傘を差し歩く
皆、通り雨に降られ
鞄やジャケットを頭上へ掲げて走っていくのが、透明のビニール越しに見えた
鞄やジャケットを頭上へ掲げて走っていくのが、透明のビニール越しに見えた
帰途、河の上、橋を通る
何気なく見下ろすと河川敷には少女がいた
何気なく見下ろすと河川敷には少女がいた
皆と同じで、傘も差さずに
だが、走る皆と違い、佇んでいる
だが、走る皆と違い、佇んでいる
河川敷に降り、声を
「君は家に帰らないのかい?」
「家は嫌い」
「お名前は?」
「ひきこ」
「そう……ひきこさん……か」
「わたし、醜いか?」
「いや、そんなことは無いよ」
「そうか」
「ひきこさんは、雨が好きかい?」
「好き」
「どうして?」
「家は嫌い」
「お名前は?」
「ひきこ」
「そう……ひきこさん……か」
「わたし、醜いか?」
「いや、そんなことは無いよ」
「そうか」
「ひきこさんは、雨が好きかい?」
「好き」
「どうして?」
少女はその両手で、蛙を弄びながら
「雨は隠してくれる」
「隠す? 何を?」
「悲しさ」
「そう」
「隠す? 何を?」
「悲しさ」
「そう」
ため息
「一緒に行くかい?」
「契約か?」
「悪いけど、契約はもう出来そうに無いんだ」
「そうか」
「俺は、雨男の契約者だから」
「もう、いっぱいか?」
「そうだな、もう一杯だ」
「雨男のそばは、いつも雨か?」
「いつも雨だ」
「そうか」
「契約か?」
「悪いけど、契約はもう出来そうに無いんだ」
「そうか」
「俺は、雨男の契約者だから」
「もう、いっぱいか?」
「そうだな、もう一杯だ」
「雨男のそばは、いつも雨か?」
「いつも雨だ」
「そうか」
ひきこさんは雨の日に出ると言われている都市伝説だ
自分の顔と同じ様に醜い蛙が好きだから
そう言われている
自分の顔と同じ様に醜い蛙が好きだから
そう言われている
だが、少女は醜くは無かった
だから、蛙が好きなのは醜い事が理由ではないのだろう
だから、蛙が好きなのは醜い事が理由ではないのだろう
雨は悲しみを隠してくれる
いじめられ、虐待され、悲しくて、ずっと泣いていたのだろう
だから、雨の日に出るのだ
だから、雨の日に出るのだ
雨は涙を隠してくれるから
「カエルさんもいいか?」
「いいよ」
「そうか」
「いいよ」
「そうか」
秋の雨は冷たい
その冷たさは、つま先を硬くする
そんな冷たい雨の中を、ふたり、傘を差し歩く
カエルも一緒に
その冷たさは、つま先を硬くする
そんな冷たい雨の中を、ふたり、傘を差し歩く
カエルも一緒に
しとしと……しとしと……
雨が降っている
【終】