「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-77

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【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~】

「サンジェルマン、なんか俺、この前妙な奴らに襲われたんだけど。
 いやお前が準備したのは解っているんだけどさ。
 なんか俺まずいこと口走っちゃったみたいで……、うん。
 俺の玩具にする目的でお前らはあいつに改造されたのだフッハッハー!とか言ったらさ。
 そうそう、ごめんね。妙な事言わなきゃもっっと遊べたのに。
 多分あいつはお前の命を狙っているから気をつけろよ。
 ミスド買って帰るから許せ。」

プツッ
上田明也はサンジェルマンとの話をさっさと切り上げた。
やはりゲームの世界で彼に襲いかかってきたのはサンジェルマンが暇潰しにした実験の犠牲者だったらしい。
彼は都市伝説の力を使うのではなく、都市伝説で手に入れた技術で強化された人間を戦力として使ったのである。
埋め込み型の外骨格だの白い人工血液だの組織製の身体能力強化手術だのバイオテクノロジーだの文系の彼にはチンプンカンプンだが、
そんな彼にもその技術で容量や年齢やセンスに関係なくある程度の強さが手に入るという事が解った。。
まあ確かに強い人間であれば都市伝説の力なくして都市伝説に立ち向かうことが可能なのは既に証明されていることでもある。
契約者をスカウトするよりは、戦力としての効率が良い。
面白おかしいことをしているものだ、と上田明也は思った。
とてもとても下らなくて笑いが止まらない、とも思った。
彼の父が昔彼に教えてくれた事実がある。
強い人間は努力しなくても強いのだ。
弱い人間は何をしても弱いのだ。
それを改めて自覚させる為に弱い人間に力を与えるなんて中々良い趣味じゃないか。
自らを生まれついての強者と決めつけている上田明也は少し屈折した優越感を抱いていた。
だがそれも、少し時間が経つと虚しいだけの気持ちに切り替わっていた。





「あ、そうだ。」

彼はそのことに電話を切ってから気付いてしまう。

「サンジェルマンって戦闘能力有るの?」

上田明也はサンジェルマンがまともに戦闘しているのを見たことがない。
無論戦えないということは無いのだろうが、
この前の男のような俊敏な動きをする敵の相手が彼につとまるのだろうか?

「まああいつだってお偉いさんなんだから護衛の一人や二人はいるよね。」

もし護衛を頼まれても自分はパスだ。
そもそも自分は何かを守るということに向いていないのだから。
それに自分は明日晶の結婚するとか言う国中佐織の兄について調べねばならないのだ。
自分にそう言い聞かせると彼はそそくさと探偵業務に戻っていった。
日常に埋没していった。







「さて、F№の皆様に招集をかけるとしましょうか。
 彼はここの場所を知っていますし、IDカードも持っていますから。」

『組織』の中にある古ぼけた図書館にサンジェルマンは座っていた。
そこが一応F№達の部屋と言うことにはなっているのだ。
だが彼等の規律が『徹頭徹尾フリーダム』である以上そこに素直に集まる者はほとんど居ない。
否、まったく居ない。
であるがゆえに

「招集をかけても誰も来ませんね。セキュリティーのホムンクルスまで来ないなんて。」

この状況にはサンジェルマンも苦笑いである。
恐らく全員が№0の命などどうでも良いのだろう。
図書館のドアが開く。

「招集に唯一応じたのが貴方だとは……、皮肉ですねえ。」

開いたドアが一瞬で燃え墜ちる。
古い本に火花が燃え移って焦げ臭い香りが辺りに充満した。

「どうも信用ならないと思っていたが……
 答えろサンジェルマン、俺に施した改造手術の目的を!」
「そんなの、貴方に上田明也を殺して貰う為に頑張って貰う為に決まってるじゃないですか。
 私は嘘は吐いてません。
 ただ、それが不可能なのを知っていただけです。」

ドアを開いた男の名前は国中佑介。
彼は上田明也によって妹を殺された男だ。
そして上田明也が身辺調査を始めたばかりの男だ。







「何度か貴方をここに連れてきていましたが……。
 勝手に此処まで来るとはどういうことでしょう?
 他の部署に比べて手薄とはいえ一応セキュリティーのホムン……黒服が居たはずですよ。」
「燃やしたよ。」

愉快そうに言い放つ佑介。
彼の衣服が揺れる度にそこから炎が舞い上がる。

「……いつの間に契約を?」
「組織に置いてあった契約書を奪い取らせて貰った。
 お前が信用ならない以上これからは独自に行動する。
 お前に、騙された分のお礼をしてからだがな!」
「ああそうか、『振り袖火事』の契約書を持ち出しましたね?」
「お前に戦闘能力が無いらしいことは知っている!
 まずは此処に残っている人体改造に関する研究のデータを破壊させて貰うぞ!」
「貴方の後続機を作られたら敵わないとでも?」
「違う、俺みたいな被害者をもう出したくないだけだ!」
「…………それは嘘だ。」

強化された身体能力に任せて飛びかかる佑介に対して、
小さな声でサンジェルマンは呟いた。






「来てください、『超古代文明の遺産(オーパーツ)』!」

サンジェルマンの手のひらがくぱぁと二つに割れる。
そしてそこから大量の剣や槍が雪崩の如く祐介に向けて射出される。
当然、それらの一つ一つが最高級の都市伝説だ。
すこしでも当たれば致命傷は免れない。
だがサンジェルマンの手で改造された人間「国中祐介」はその全てを視認して回避した。

「喰らえ!」

都市伝説の隙間を縫って振り袖火事の炎がサンジェルマンを包む。
だが炎の中から現れたサンジェルマンの身体には火傷一つできていなかった。

「危ない危ない……。」
「それもお前の都市伝説か?」
「そうですね、これが無ければ死んでいたかも知れません。
 火鼠の皮衣なんて貴重品ですよ?
 貴方が眼にすることなんてもう無いんじゃないでしょうか。」

サンジェルマンは何時の間にか闘牛士のような赤いマントを羽織っていた。
どうやらそれが炎を防いでいたらしい。






「ならば、肉弾戦で倒す!」
「良いでしょう、そろそろ実験データが欲しかった。
 上田さんにぶつけた少年だけでは不完全でしたからね。」

佑介の右ストレートがサンジェルマンへと伸びる。
直撃を危険だと判断したサンジェルマンは目にもとまらぬ速さで祐介の腕を蹴り上げた。

「――――――――ッ!」
「おや、痛いのですか?
 まだ戦闘時の痛覚遮断スイッチが不完全だったようだ。
 これは次の手術の時に注意しておかないと。」

サンジェルマンの靴のつま先からは銀色に輝くナイフがのぞいている。
普段から仕込んでいるらしい。

「骨の丈夫さは完璧だ。
 上田さんの手入れしてくれたナイフがボロボロになっているんだから間違いない。」
「チッ、小癪な!」
「ほらほら、まだまだ行きますよ!」

長い足を使って威力のある蹴りを次々に繰り出すサンジェルマン。
下段、中段、上段、目にもとまらぬ速さのサイドキックが祐介に炸裂する。
蹴りの勢いで吹き飛ばされた彼は本棚に激突した。






「くそっ、思ったよりも強い……!
 組織の施設の中であれば全力で戦えないと踏んでいたのに!」
「ゼロナンバーは全力で戦えば周囲の施設を巻き込んでしまう程度には
 強力な戦闘能力を持っています。
 でも、だからといって屋内で戦えないことにはならない。
 都市伝説も鍛錬で強くなれるんですよ。」
「そうか……、だがお前が純粋な肉体の性能で俺に勝っているとは思えないな。」

祐介は近くに置いてあった机を投げつける。
それを槍型の都市伝説を射出して撃ち落としたサンジェルマンに一瞬の隙がで来た。

「貰った!」

その踏み込みだけで床が震える。
全身の力を込めた裏拳がサンジェルマンに撃ち込まれた。
彼は辛うじてそれを受け止めたが、骨の折れる音がその体内に響く。

「くっ……!」
「確かにお前はそこそこ戦えるみたいだが、それでも人間止まりだよ。
 肝心の高レベル都市伝説群も武器として使いこなせていないじゃないか。
 さて、お前とお前の研究をたたきつぶしてさっさと此処を離れさせて貰おう!」
「それはさせません!」

無駄だと知りながらもサンジェルマンは再び都市伝説の射出を開始する。
当たりさえすれば肉を消滅し骨を粉砕せしむる圧倒的火力なのだが、
いかんせん当たると言うことがない。
これが上田明也であれば射出と同時に自らも突っ込み相手の動きを止めることができるのだが、
生粋の戦士たり得ないサンジェルマンはそのようなリスクのある行動が出来なかった。





「燃やし尽くせ振り袖火事!」
「くそ……、打ち据えろアグネァアァ!」

刹那、サンジェルマンの背後の空間が二つに裂ける。
そこから目にもとまらぬ速さで純白の槍が飛びだしてきた。
それは一瞬で祐介の身体を貫くと彼を壁に叩き付けて消滅した。
だが驚嘆するべきはその後起きた出来事だ。
とんでもない熱が辺りに広がったかと思うと祐介が叩き付けられた石壁がガラスのように変化してしまったのだ。
そしてその熱と袖振り火事の炎で図書館の本は次々に燃えていく。
その火がとある本棚に回った瞬間、彼は血相を変えた。

「お、どうした?そこに大事な本でもあるのか?」
「くそっ、貴様如きが私の研究を壊す?
 巫山戯るな、私の神聖な研究を!
 私の私による、世界と己が才能に苦悩する天才達とそして私の愛する人の為の研究を!
 彼等と私の深遠なる城に、貴様のようなワラの家が入り込むんじゃあない!
 まだ壊す気なのか?まだ“俺”の研究を壊そうというなら容赦はしない!
 行儀良くお前の喧嘩に付き合ってやっていたがそれももうお了いだ!
 殺す、おまえなんざぼろ切れのようにぶち殺してやる!
 モルモット如きが!自爆装置でも付けておいてやれば良かった!」
「やっと、本性を現しやがったか。」

腹に巨大な穴を開けながらも国中祐介は立ち上がる。
彼はこれ以上の戦闘の継続を不可能だと判断して逃避を選択した。

「逃がさんぞモルモット!お前だけは許さん!」

次の瞬間、彼等の存在する空間が歪みねじれた。







「……ここは、日本庭園?」

国中祐介は自らの目を疑った。
自分はさっきまでかび臭そうな図書館にいたのに
いつの間にやら日本庭園のど真ん中に立っているのだ。

「何が有ったんだぁ?
 って、サンジェルマンじゃねえか。
 相当切れちまってるなあ、女がらみか?
 それとも……男?
 無理矢理は良くないぜ?」

どこからか陽気な声が響く。
それはそれは生きていることが楽しくて仕方なさそうなテノールの音色。

「すいませんね、明久。すこしお願いが有ってきました。
 貴方の息子さんを仇として狙っている男が其処にいるのですが、
 私の図書館に火を付けていってですね。
 火を消すまでに少し相手していて欲しいんですよ。」

声の主は日本庭園の池で鯉に餌をやる、腰に刀を差した男性。
上田明久である。








「それなら明也に戦わせてやれよ。
 あいつだってガキじゃないんだからさ。
 あいつのやったことの責任なんて俺はもう取っちゃいけないよ。」
「駄目です、あいつ足が速いんで私も明也さんも逃がしてしまいます。
 私が帰ってくるまでで良いんです!
 殺しておいても構いません!」
「無茶な事言うなあ……。」
「くっ、今の内に逃げておくか……?」

戦いを渋る明久。
国中佑介はもう状況を把握して逃げだそうとしている。
そこでサンジェルマンはアプローチを変えた。

「貴方の身体から得たデータを元に作ったホムンクルスですよ?
 貴方も戦ってみたくはありませんか?」
「それを早く言えよ!」

子供のように明久ははしゃぐ。
それを確認するとサンジェルマンは次元を歪めて図書館にワープした。






「おい、そこのガキ!
 俺はお前の仇とやらの父親なんだがどうする?
 できるなら殺してみろよ、そしたら明也の奴は多分悲しむと思うけどなあ?」

明久の言葉を聞く前から国中佑介は背を見せて逃走を始めていた。
自分の言葉が無視されて少しばかりむっとなる明久。

「おい、話くらい聞いていけよ。」

次の瞬間には、上田明久は国中佑介の肩を掴んでいた。

「いつの間にここまで近づかれた!?」
「うっせーな、お前の足が遅いんだろうがよ。
 これじゃあ鬼ごっこにもなりやしねえ。」

明久の手を振り払うように佑介は明久に殴りかかった。
岩を砕き、鉄に穴を開ける拳、当然人間が喰らえばひとたまりもない。
だが、それはいとも容易く手のひらで止められた。





「体の使い方がなっちゃいねえ。
 腰を使え腰!」

止めた拳を掴んだまま振り回して明久は祐介を地面に叩き付けた。
そしてそのまま日本刀を抜いて彼にトドメを刺そうとする。
だが間一髪祐介はそれを躱して明久を距離を取った。

「都市伝説……か?」
「馬鹿野郎、この程度鍛えれば誰でもできるわ!
 俺の都市伝説はこの『村雨』だけだ!」

上田明久は腰に下げた刀を自慢げに振り回す。

「ほら、俺を元に作られたホムンクルスなんだろ?
 もっと骨の有るところ見せてみろよ!」
「くそっ、化け物め……!」

振り袖火事の炎を全身に纏い、国中佑介は上田明久をにらみつけた。
その目を見て始めて、上田明久は満足げに口元をゆるめる。
そして彼の息子がするように鷹のような鋭い目つきをみせた。




上田明久は生まれつき人間離れしたレベルで身体が丈夫だった。
そしてそこそこに勉強も出来た。
そんな彼には人生の全てが退屈だった。
彼の周りには彼ほど肉体・頭脳の両面で優秀な人間は居なかったのだ。
退屈を持てあまし、自分と同格と思える人間の居ない孤独に疲れた彼は、
何時しかこの夜の全ての享楽を味わってみようと思うに至っていた。
そうすれば彼自身の渇きや孤独が癒えると思ったのだ。
そんなときに彼はサンジェルマンと出会った。
彼は明久の才能に興味を持ち、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれた。
だがサンジェルマンと世界を巡るうちに上田明久は気付いた。
世の中には自分より異常で異様でしかも優秀な人間が居る。
なんだ、自分は凡人ではないか。
そう思った時、彼は彼の周りの人間が愛おしくなった。
そして彼は自らを研鑽することを止めて、愛する人の為に生きようと決めた。
こうして生まれたのが上田明也とその弟だった。

「くっくっく、久しぶりの闘争だ。
 久しぶりの競争だ。
 何年ぶりだろうな、俺と戦える奴なんて!」

国中佑介は確信した。
確かに彼が知る上田明也程ではないがその父たるこの男もまた異常なのだと。

「殺し合いするのにあんな満ち足りた顔をした人間が居てたまるかよ……。」
「殺し合いは楽しいぞぉ、どんな人間でも同じ地平に立てる。
 死の前では全てが等価だ!」

そう叫ぶと上田明久は国中祐介の懐に踏み込んで刀を抜いた。







「振り袖……」

ストォン

「無い袖は振れないよなあ!」

国中佑介の左腕の肘から先が胴体から離れて宙を舞った。
しかし彼に近づきすぎた明久の身体も炎に包まれた。

「村雨ェ!」

その瞬間、彼の差していた刀の鞘から大量の水が噴き出す。
明久はそれで自らのみを包む炎を消してしまった。

「なんだ、サンジェルマンのホムンクルスだから期待していたのに……。
 たいしたこと無いじゃないか。」
「くそっ、調子に乗るなよ……!」

佑介は吹き飛ばされた腕を回収すると無理矢理それを切断面に接ぎ直す。

「ほう、昔の奴より再生力はあがってるみたいだな。
 腹の傷もふさがり始めているし……、ハーメルンの笛吹きの研究データでも使ったか?」





気付けば攻防の主導権は上田明久のものとなっていた。


抜けば玉散る氷の刃。
抜けば霊散る氷の刃。
明久の繰り出す村雨は反撃の隙さえ与えずに祐介の肉体を切り刻む。
格別に速いという訳ではない。
格別に重いという訳ではない。
ただ当たり前に刀は繰り出され、血が噴き出す。
人工的に作られたホムンクルス独特の白い血が辺りを染める。

「おらおらおらおらおらおら!
 もっと頑張って、魅せろ!」
「畜生、こんなところで死ぬ訳には……!」

しかし、彼の祈りは届かない。
そこで奇跡を起こせないのが彼の限界なのだ。

「なんだ、奇跡の一つも起こせないのか?
 追い詰められたら『その時不思議なことが起こった』とかナレーション入って逆転勝利だろうがよ!
 ったくこれだからホムンクルスは駄目なんだ!」

上田明久は一度刀を鞘に収める。
そして少し距離を取った後一気にそれを抜きはなった。
居合抜きの一閃、それは間違いなく国中佑介の胴を捉える。



佑介の胴から吹き出す白い血と内蔵を見た明久はすでに彼への興味を失っていた。

「……飽きた。」

自らの明らかな勝利を確信した上田明久は刀を納める。
彼の瞳はもう国中佑介を見ていない。

「ほら、帰れ。死にたくなければ帰れ。」
「……何言っているんだ!?」
「いやだからさ、お前と戦うの飽きた。
 その内蔵仕舞ってさっさ帰って寝ろ。
 どうせホムンクルスなんだから治るだろう?
 で、あとは俺の息子と戦うなりなんなり好きにしろ。」
「そう言って後ろからだまし討ちにするつもりなんだろ!」
「だって、それ必要ないくらい弱いじゃんお前。」
「――――――――――!」

その時突然空間が歪み始める。
どうやらサンジェルマンが帰ってくるらしい。

「ほら、あいつが帰ってくるぞ?」
「く、くそっ!」

国中佑介は脇目もふらず逃げ出した。







「……あいつを逃がしましたね明久さん。」
「だってあいつ弱いんだもん。
 せめて俺の息子倒してくるか、俺の息子が強くなる為の餌にするかしないと。
 今殺しちゃったらたのしくねえ。」
「戦いを楽しみにするのはやめたんじゃないんですか?」
「うるせえ、やっぱありゃ撤回だ。
 戦闘最高戦争最高、世界には俺を楽しませる戦場がまだありました。
 これで良いだろう?」
「むぅーん……。」
「闘争は即ち理解し合うことだ。
 理解し合うことは即ち愛し合うことだ。
 愛し合うことは即ち平和への第一歩だ。
 闘争とは全ての存在を平等にして世界を救う為の第一歩なのだよ。
 最近は闘争の根幹を理解しない連中が多くて困る。
 打ち倒せど辱めず、圧倒すれど侮らず、それでこそ闘争なのだよ。
 もっと自分が剣を向ける相手に敬意を抱け我が友よ。
 それが出来ないと何時か取り返しがつかなくなるぞ。」
「いやぁ……訳がわかりません。」
「それは残念だ。ああそうだ、ミスド喰う?
 葵が丁度買ってきていた所なんだよ。」
「フレンチクルーラーが有るなら良いでしょう。」
「良い返事だ。オールドファッションしかない!」

豪快に笑ってサンジェルマンの肩をたたくと上田明久は妻の名前を呼んだ。
どうやら外で喰おうということらしい。
どこまでも理解の外にいる友人だが、傍に居て居心地が良い。
サンジェルマンは先ほどまでの自分の怒りがゆっくりと薄れていくのを感じていた。
【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~fin】

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