「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-89

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【上田明也の探偵倶楽部49~エピローグ1~】

「ところで上田さん、何故僕が買い物に付き合わされてるんですか?
 本屋への買い物って……、他にもする仕事がたくさんあるじゃないですか。」
「うん、そうは思うんだがレモンがお前を護衛を付けて行けと煩くてね。
 都市伝説の力が思うように使えなくて……。」
「聖杯を手に入れようとした時の戦いですか?」
「うん、まあしばらくごろごろしてれば治るだろ。
 友から聞いた愛美さんの話も気になるしさっさと治さないとな。」

俺と彼方は本屋にいた。
『た○ごクラブ』を買いに来ていたのである。
俺は本来一人で行くつもりだったのだが、レモンがどうしても彼方を連れて行けと煩いので彼方を連れて行くことにした。
前回の戦いで都市伝説能力行使の為の回路が焼き切れそうになったらしく、今の俺に戦闘力はほとんど無い。
護身用に銃は持ってきているが……、今の俺は彼方より弱いかも知れない。

「ところでサンジェルマンさんは?」
「なんか茜さんを見てハンニバルの研究を人道的な形で生かせるんじゃないかってはしゃいでた。
 安倍晴明の母の伝承がどうたらとか人型の都市伝説を母体にすればどうたらとか。
 正直よくわからないね。俺文系だし。」
「そうなんですか……。」
「ああー、そうだ。お前俺の子供の名前付けろよ彼方。
 どうせ笛吹探偵事務所はお前とレモンにくれてやるつもりなんだからその代わりにこれくらい無茶言ってもいいだろ?」
「ええええ!?」

突然の申し出に驚く彼方。
いやぁ……、正直すまない彼方君。
無茶ぶりするほど君は輝いてくれるからつい……。




「うぅうん……。」
「まあそんなに悩むなよ、この上田明也の子供であるからして明の一文字さえ入っていれば概ね問題有るまい。」
「そうなんですか?」
「ああ、ちなみに俺の親父はお前も知る通り明久、じいちゃんは明幸、ひいじいちゃんは明慧……だったかな。」
「最後の方適当ですね。」
「良いんだよ、とにかく日と月が名前に入って明るい感じが出ているのが大切なんだ。」
「そうなんですか……。」
「そうなのだ!」

二人でぺちゃくちゃと喋りながらた○ごクラブの会計を済ませる。
俺と彼方は書店を出てまっすぐ駐車場の車に向かう。
無論、俺が契約者になった頃からのお気に入りで最近修理が終わったポルシェである。

「それにしてもぶっちゃけ印象どうよ、茜さん。」
「吉静があそこまで懐いているのに正直驚いてます。
 なんていうか本当に……親子みたいって言うか。」
「俺がアメリカに行っていた頃に穀雨をあいつに預けていてな。
 上手く行っているんなら良いんだよ。」
「まあ橙とはまだギクシャクしてるみたいですけどね。」
「あいつはメルと仲良いからなあ、複雑なんだろそこら辺。」
「ですねぇ……。」
「母親が居ないなら奴のことをお母さんと呼んでも良いのだぞ。」
「笛吹探偵事務所にはお母さんポジション居ませんでしたからね。」
「うむ、優秀な俺を中心に兄弟みたいな感じで色々集まってる感がぬぐえぬ。」
「上田さんはお父さんと呼ぶにはあまりにも無責任というか……」
「……まあそこも直していくさ。」

車に乗り込んだ俺と彼方は帰りに少し寄り道していくことにした。
行き先はハッピーピエロ、彼方の好きな牛すじカレーを食べることにした。




三十分後。
ちょっと早い夕食を食べ終わった俺たちはさっさと車に乗り込む。

「彼方お前さぁ、結構小食だよな。」
「そうですかぁ?上田さんは結構食べますよね。」
「だって目の前に旨そうなものあったらどれも喰いたいだろ。」
「う~ん、食べ過ぎると動けないじゃないですか。
 戦闘にも支障が出ますよ。」
「そっか……、存分に寝て喰って女を抱いて戦って、というのが自然だと思ってたぜ。」
「不健康ですねえ……。」
「うむ、欲望のままにしか生きてこなかったからな。」
「そんなことしてると……。」

彼方が急に振り向く。
俺はその視線の方向に向けて発砲した。

「いや、腹一杯でも急な戦闘には対応出来る。」
「生まれながらに戦士ですね。」
「おう、人は皆戦士だ。」

物陰から俺に向けて真っ直ぐ突っ込んでくる男。
男の放つ炎を彼方が剣を使ってなぎ払った。

「あ、お前かよ。面倒だから帰れ。」
「そうはいかない、やっとお前が事務所から離れたんだからな。」

その男の名前は国中佑介。
俺に妹を殺されて俺を仇と付け狙う男である。





「まったく、幸せなエンディングにとことん水を差す奴だな……。」
「なんだと?」
「なんでもないよ、こっちの……」

国中は俺が喋っている途中にまた炎を出して攻撃を仕掛けてくる。
とことん下品な奴め。
俺は戦えないので彼方が代わりにそれを防御する。

「上田さん、ここは僕に任せてください。一応護衛ですから。」
「良いだろう、一般の人が来ると行けないからさっさとすませておけ。
 人払いは俺がやっておく。」

サンジェルマンから貰った「組織」の人払い装置を作動させる。
これで契約者以外はこの辺りに近寄れない筈だ。
俺が装置を使ってすぐに顔を上げると勝負は大体付いていた。
戦闘開始後すぐに剣を仕舞って二丁の拳銃を持ち出した彼方。
彼は銃弾によって相手の動きを制限しながら近づいて容赦無く国中を拳銃で殴りつける。

「く、くそっ!」
「これでお了いです!」

銃口で国中の顎にアッパーを食らわせる彼方。
顎骨を砕くように引き金に手をかけて、撃つ。
予想以上にあっさりと国中は敗北した。
所詮ホムンクルスといえど一般人、生まれた時から鍛え抜かれた彼方に勝てる訳がない。
本質からして本性からして違うのだ。

「おい、もういいぞ彼方。トドメは俺が刺す。人を殺すのは俺だけで充分だ。」

そう言うと俺は服の内側から村正を取り出した。





「待ってください上田さん。」

彼方が拳銃で国中の両手両足の関節を撃ち抜く。
成る程、良い判断だ。

「ふむ、気が効くね彼方。」
「くそっ!こんなに簡単にやられてたまるかよ!」

 お前が邪魔くさいのは、まあ俺にとって問題では無い。
 お前が俺を仇と付け狙うのも俺にとって問題では無い。
 お前の持つ、俺にとっての問題は実のところたった一つだよ。
 ――――お前は俺の敵たり得るほどの能力が無い。
 俺の敵たり得るほどのキャラクター性がない。
 其処の彼方君でさえ初登場時にはもっとキャラ濃かったのに。」

そう言って俺が刀を振り上げた瞬間、どこからか風が吹いてくる。

「ふむ、じゃあ私なら敵になるかい?委員長よ。」
「晶か、最近随分出番が無かったじゃないか。」

風がやむ、俺と国中の間に、一人の女が立っていた。

「お前が俺の最後の敵か、明日晶。」
「どうにもそうらしい、上田明也。」
「其処をどけ、後顧の憂いを断たねばならない。」
「嫌だね、私もやっと見つけた普通の幸せなんだ。」
「お前の如き人外が普通の幸せ?諦めろよ。」
「良いだろ、普通に結婚して主婦になったって。」
「はっ、お前が弟ほどに無能だったらそれも簡単だった物を。」
「まったくだね。」




「……つーか、話してる内にどけよ。」
「どかないって最初に言ったじゃないか。」
「晶、なんでおまえが……?」
「佑介くん、黙ってて悪かった。私も契約をしていてね。」
「そんな馬鹿な……。」
「なんだ、旦那には言っていなかったのか?」
「そりゃあ普通に生きていくつもりだったからね。」

国中の表情が絶望に染まる。
彼もまた化け物なりに普通の幸せを求めていたのだろう。
復讐のために自らの身体を改造して普通の幸せも何も無いと思うのだが……まあ良い。

「くそっ、都市伝説一つのために俺の人生がどんどん狂っていく……。」
「そういえば晶、お前に俺たちの居場所を教えたのは橙か?」
「…………さぁ。」
「できるだけ誰も傷つかない選択肢、か。無駄だけどあいつらしい。彼方、そこで寝転んでる男が妙な動きをしないように見張っておけ。」
「解りました。」
「そういえば聖杯とか言う死者を蘇らせるアイテムを手に入れたそうじゃないか。」
「ああー、そういえばな。橙の馬鹿、聖杯のことまでもらしてたのか?」
「それで委員長が今まで殺した人を蘇らせてみろよ。そうすればこの場は丸く収まるぜ。」
「おいおい、あんな物で蘇った人間なんて存在する価値ねえよ。
 死者の蘇生は過去を否定する行為だ。
 たとえどんな嫌な過去でも未来を拒絶できないが如く過去も否定できない。
 俺が幾ら気まぐれに人を殺したとてその逆をやってはいけない。俺は人間であるが故。」
「お前の勝手な都合で俺の妹を理不尽に殺しておいてその言いぐさは……!」
「ならごたごた言ってないでお前が聖杯手に入れろよ。化け物。」

ため息を一つ吐いてから国中に向けて言い放つ。

「まあお前にその力があればだけど。」



その瞬間、国中の中で何かが切れたようだ。
ようだ、と言ったのはその瞬間だったのかよくわからないから。
まるで時間が飛び飛びになったかのように一瞬で俺の胸が貫かれた。
本能的に身を躱していたようだが……結構痛い。
でもそれ以上に心が痛む、貫かれたのは俺の胸だけではないのだ。

「え、なんで?」

キョトン、とした顔の明日晶。
狂ったように笑う国中佑介。

「はは、はははは、あははははははは、ひゃははははは!」

彼方がとっさに銃弾を国中に撃ち込む。
それは国中を貫いて彼の身体から抵抗する力を奪う。
そしてその隙に俺は今度こそ村正で国中の身体を十六分割した。
今の俺ではこの程度が精一杯だ。

「心臓貫かれてまだ平気で動けるなんて……。
 お前こそ化け物じゃねえのかよ?」
「とっさに回避したし大丈夫、俺は意志の力で闘い続けるすげえ人間だ。
 貴様の如き薄汚い三流の化け物と一緒にしないで貰おうか。」

残った国中の生首を踏みつぶす。
胸からこぼれる暖かい血液。
失血死する前になんとか治さなくては……。



その時、突然辺りに金色の光が満ちる。
俺のピンチに都合良く現れるのはまたしてもあの錬金術師だった。

「お困りのようですね、上田さん。」
「サンジェルマンさん!」
「彼方君、ありがとうございます。貴方が居てくれたおかげで最悪の事態は免れました。」
「都合良く現れてくれたな、治せ。」
「昔の組織を悩ませた其処の彼女もですか?」
「それについては俺も共犯だ。俺を治すならあいつも一緒に。」
「良いでしょう。」

薬を一滴零すだけで俺の胸の穴はみるみる塞がっていく。
晶の身体も同じように治っていった。

「F-№の科学力・医療技術は世界一!応急処置はこれでオッケー。」
「いや、お前の科学力・医療技術であって共有されてない以上F-№の物ではないから。」
「おお、明也さんは突っ込みが出来る程度には回復しましたか。
 晶さんは、気絶してますね。まあ婚約者に後ろから攻撃されればショックで気絶もしますよね。
 国中さんも本当は決して悪い人じゃなかったのに……。
 唯一の不運は上田さんと関わってしまったことでしょうね。
 復讐が明らかに彼をおかしくした。」
「いやいや、お前がこいつを改造人間にしたんじゃねえか。」

もはや肉片でしかない国中佑介をさらに踏みつける。
気付くと血だまりの中にUSBメモリのようなものが転がっていた。





「ああー、これこれ。私これを回収したかったんですよ。」
「うん?なにそれ。」
「新型の契約書の試作品です。結構良いデータが取れたので組織で共有させるべきか考えています。」
「データの入手方法は隠して、か?」
「いえいえ、隠しはしませんよ。
 私は何もしていない、力を与えただけ。
 古くはアレクサンダー、最近で言えば“都市伝説ではない”ナチスドイツ、今ならば貴方。
 力を与え、人間のすることを観測する、私がやっていることは結局それだけですよ。」

サンジェルマンは血まみれのUSBメモリを回収してほくそ笑む。

「あの……上田さん。」
「今のは吉静に言わないでくれよ、泣かせたくない。」
「……解りました。それと、」
「解ってる。明日姉はお前とサンジェルマンに任せるから一旦帰ってくれ。
 俺には此処に残ってやらなくてはいけないことがある。」

俺は二人に背を見せて言った。
俺と姉の姿を見て立ち尽くす少年。

「明日晶は正義に徹しきれなかった。
 国中佑介は生まれながらの弱者でしかなかった。
 さぁ、お前は何者だ。
 ―――――――――――明日真。」
「俺は……、多分おまえにとってのラスボスだよ。」

自信なさげに、でも俺の眼をしっかり見据えて、正義の味方はそう答えた。
明日真、俺が唯二人だけこの世に認めた正義の味方である。






「……ほう、また会いましたね少年。」
「F-№0……。今のことも太宰さんのことも言いたいことは色々有るが……。」

姉さんを頼む。
と言って明日は頭を下げた。

「格好良いじゃないか、明日真。」
「恩人の仇に頭を下げて姉の治療を頼む男の何処が格好良いんだ?
 偶然通りかかったハッピーピエロでこうなるなんて思わなかったよ。
 とんでもない状況の一部始終を目撃しちまった。」
「それに気付かないのが、また格好良いな。
 憧れはするが俺はそうなることができない。」
「そうかよ。」
「で、どうするんだ?俺に言いたいこととか一杯あるだろう。」
「ああ。」
「でもその前に一つだけ良いか?」
「なんだよ。」
「お前の友達のことだ、あれは過剰防衛だった。どうみてもやり過ぎだ。
 ……本当に済まなかった。」

そう言って、俺は明日に深く頭を下げた。







「……いや、あれは殺し合いだったからさ。もう気にしないようにしてる。
 やらなきゃやられるって状況じゃ善も悪もないよ。」
「そうか、それでお前の言いたいことって?」
「でもやっぱあんたのことが腹立つ。殴らせろ。」
「そうか、うん、それでいいんだ。
 本当の勇気というのは腕力が強いとか弱いとかじゃない
 心の底から許せないものに対して、イヤだと叫ぶ事なんだ。
 やっぱり良いよお前、解ってる。
 この殴り合いが終わったら飯でも食いに行こう。俺がおごる。」
「のんきだな……。悪役を自称して正義の味方を飯に誘うって……。
 ていうか台詞だけだとお前が正義の味方で俺が茂君みたいじゃないか。」
「正義の味方と悪役なんて互いに持ちつ持たれつさ。
 そう言う意味では相棒とも言える。」
「……ところで殴った後に殴り返しても良いんだぜ。」
「殴り返さないと思ったか?」
「……………ですよね。」
「お前みたいな心底正しい人間に殴られなきゃ気分が晴れないんだよな。
 お前みたいな正しい人間に負けなきゃまだ悪人で居ることに未練が残るんだよ。
 だから……。」

喋っている途中なのに腹に掌底が入る。
良い一撃だ。

「ご託は良い。さっさと行くぞ、上田明也。」
「それでこそだ。全力で来いよ、明日真。」

恨みも何も無い。
ただ言葉で足りない何かを埋めるための殴り合いが始まった。
生まれて初めての経験に俺は心から満足していた。
【上田明也の探偵倶楽部49~エピローグ1~fin】

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