「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - とある組織の構成員の憂鬱-17

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
「ふぅ…」

 他の黒服たちとの集まりの後
 黒服は、一人夜の街を歩いていた
 …今は、休む時間すら惜しい
 都市伝説の情報を集めなければ
 夜の街を歩き、若者の会話に耳を傾けていれば…自然と、都市伝説の噂とは、入ってくるものだ
 できれば、夢の国の情報も集まってくれれば助かるが…贅沢は言うまい

 繁華街の中心
 大きな噴水を中心に、ベンチが並ぶエリアで、黒服は腰を下ろした
 …己の今現在の体力のなさが、恨めしい
 ジェラルミン製の鞄は、そもそもそれ自体がそれなりの重さを持っているため、中身を調整しても感じる重みは変わらない
 そして…女の体になって一番不便だと思う、これ
 この胸元が無駄に重たく、どうにも疲れてしまう
 世の女性は、皆、この重みと戦っているというのか
 何とも、頭が下がる

(…それにしても)

 …随分と、視線を感じるような
 気のせいか?
 自分は黒服である
 どんな場所にも、ある程度は溶け込めるはずなのだ
 …女性の体になっている事で、その能力が弱まっているとでも言うのか?
 そうだとしたら厄介である
 対策を考えなければ…

 …黒服は、気付いていない
 確かに、視線をいつもより多く感じるのは、女性の体になっているせいである
 …しかし、黒服は気付いていない
 主に、視線を向けてきているのは男共で
 そして、視線が注がれている先が……黒服が、無駄に重いと思っている、胸元である事に、カケラも気付いてはいない

 …と
 黒服が座っていたベンチの、背後
 背中あわせになるように置かれていたベンチに、何者かが腰を下ろした
 覚えのある気配に、そちらに視線を向ける

「…よぉ」

 …じゃらり、シルバーアクセサリーが音を立てる
 日焼けマシンの契約者の青年だ
 やや、機嫌が悪そうな声

「どうかしましたか?」
「…突然、悪ぃ。ハーメルンの笛吹き、って都市伝説に聞き覚えは?」

 …ハーメルンの笛吹き?
 それは、もしや…

「…つい最近、こちらの組織に所属していた契約者が一人…その都市伝説に、殺されています。都市伝説としては、最古の部類に入るとも言われておりますが、何せ、童話に語られる存在。すでに、都市伝説としては消失していたと思われていましたが…」
「それが、消失していなかった、と?」
「契約者を得たのかもしれません。それに、あの事件でハーメルンの笛吹きは、堂々と己の存在をアピールしました。あの事件はネット上でも騒がれ、無数の噂を生み出しています」

 恐らく、は
 ハーメルンの笛吹きが力を増すだけではなく、類似した都市伝説が多数生まれてくるだろう
 この学校町は、都市伝説が生まれやすい環境だ
 …何とも、頭の痛いことである
 夢の国の問題は何一つ解決していないどころか、脅威は増し続けてきている
 …この青年が所属している「首塚」の組織の規模も、少しずつではあるが大きくなってきている
 そんな中、このハーメルンの笛吹きの事件である
 事件の翌日、組織の人間が一人、この都市伝説に向かって行ったが…返り討ちにあっている
 都市伝説が強いのか、それとも、契約者が狡猾なのか、それはまだわからない
 しかし、確実に…「組織」にとって、新たな頭痛の種になる事は間違いない

「…契約者が、いるのかもしれねぇのか」
「はい」
「だとしたら……そんな野郎、将門様に、呪われちまえ」

 嫌悪を含んだ声で、青年はそう呟く
 …ハーメルンの笛吹きは、多数の未成年を、海に落として殺した
 その事実が、この青年には許せないのだろう
 その思いは、黒服も同じだ

「あなたの主にとっても、ハーメルンの笛吹きは敵ですか」
「とーぜんだろ。敵だ、敵……俺も、気にくわねぇ」

 ぎり、と青年は拳を握り緊めている
 この様子では…発見し次第、向かっていきかねない

「無理をしてはいけませんよ。対処法がわからない状態で立ち向かっていくのは危険すぎます。勇気と無謀は違うのですよ」
「う……っわ、わかってるよ」

 釘をさすと、青年はバツが悪そうな声を出した
 かつて、こちらの忠告を無視して夢の国に立ち向かった時の思い出が蘇っているのかもしれない
 …黒服は、小さく苦笑してみせた
 この青年の事は、彼が小学生のころから見てきているが…いくら悪ぶって見せても、根っこの部分は昔と変わらないままだ

「…少なくとも、ハーメルンの笛吹きには、鼠のような小動物と、子供を笛の音色で操る能力があると思われます。笛を破壊すればどうにかなる…か、どうかは、現時点ではわかりません。夢の国同様、うかつに手を出すべきではないかと」
「……わかった。将門様にもお伝えしておくよ………その………ありがとうな」

 お気になさらず、と小さく答える
 自分たちは、敵同士の組織に所属している
 青年は何が何でも、自分を引き抜こうとしているが、自分はそれにこたえる気はない
 …だが、しかし
 組織同士が敵対しているからと言って、全員が敵対し続ける必要はあるまい
 共通の敵が存在するならば、情報は共通すべきである
 都市伝説との戦いでは、情報は非常に重要なのだから…

「…話は、これで終わりですか?」
「え、あ……そ、そうだな。あのさ、お前…」
「そちらの組織には、移りませんからね」

 先手を打って答えると、う、と言葉に詰まってきた
 …やはり、また誘うつもりだったのか
 本当に、懲りない青年だ

「あーうー、その…お、お前、組織の仕事で見回りとか、するんだろ?て、手伝ってやろうか?」
「ご好意だけ、受け取っておきます。あなたが「首塚」組織に所属している以上、必要以上に一緒に行動するべきではないでしょう」
「う、あ、で、でも…」
「…私は、いざとなればいつでも逃亡できます。問題はありません」

 すくり、立ち上がる
 …周囲からも、有益な情報は聞こえてこない
 そろそろ、場所を移そう

「さようなら。そして、おやすみなさい。都市伝説と、必要以上に闘争を続けてはいけませんよ?…都市伝説に飲み込まれないよう、気をつけなさい」
「あ……!」

 立ち上がり、この場を後にする
 …あまり、あの青年と接触すべきではないだろう
 今のところ、「組織」に目をつけられずにはすんでいるが…
 ……いつか、あの青年も危険に巻き込むかもしれないから

 夜の街中へと、黒服は姿を消していく
 不便な体に、やや苦戦しながらも…




「……はぁ」

 黒服の姿を見送って
 青年は、盛大にため息をついた

 …畜生
 まだ、女の姿のままか
 あの神々の作りたもう二つの山は健在か
 くそ、あの姿の黒服を真正面から見て、新世界の扉を開けずにすむ余裕が、自分にあるかどうかわからない

 だって、凄いだろ
 Eカップだぞ!Eカップ!!もしかしたらそれ以上
 それが!ちょっとした拍子に絶えず揺れ続け!!!
 そして、本人にその自覚なし!人目をひきつけている自覚0!!!

 元が男性でさえなかったら、確実に青年のストライクゾーンである
 まさしく、一万年と二千年前から愛している状態なのだ

 元が男だとわかっている
 だから、こそ
 新世界の扉を開けるわけにはいかないのだ

「あぁぁ、くそ、どうすりゃいいんだよマジでよぉ…」

 ベンチに腰掛けたまま、青年は一人、頭を抱えて苦悩するのだった








タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー