喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
輪廻転生
*
- ♪The Moment of Dreams (試験運用中)
*
ずっと願っていた事がある。
しかし、もう自分にはそれが叶わない。
そうも思っていた。
自分は都市伝説であったから。
そうも思っていた。
自分は都市伝説であったから。
思い返せば、遠い過去。
熱い時代が過ぎ去り、涼しい季節が流れ、凍える歳月を越えて来た。
何より、暖かい思い出があった。
熱い時代が過ぎ去り、涼しい季節が流れ、凍える歳月を越えて来た。
何より、暖かい思い出があった。
今、目の前で一人の人間が命を失おうとしている。
優しい人だった。
その優しさは、自分の出逢った人間の中でも五指に入るであろう。
優しい人だった。
その優しさは、自分の出逢った人間の中でも五指に入るであろう。
それは自分の契約者だった。
この契約者と過ごした時を思い返すと、優しい気持ちになれる気がする。
だが、そんな思い出が増える事は、もうない。
だが、そんな思い出が増える事は、もうない。
死に行く契約者は、掠れた声で告げる。
「キミの願いを……叶えよう……」
願いや夢を叶える都市伝説や伝承は数多あった。
それは、その内のひとつ。
それは、その内のひとつ。
「……キミの契約者で……キミで……よかった……ありがと」
最期の言葉を聞いた瞬間に、全ての記憶が消し飛んだ。
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「思い出したか?……なぁ……先輩」
鹿島が姿を現す。
「……思い出したよ……全てをな」
カシマが思い出した様に、鹿島もまた全てを思い出していた。
忘れていた記憶、消し飛んだはずの記憶が
今は、はっきりと想い起こせる。
忘れていた記憶、消し飛んだはずの記憶が
今は、はっきりと想い起こせる。
かつて、"輪" と呼ばれていた少年は此処には無い。
彼にとって最後の契約者であった者によって
記憶を封印され、過去へと、それも幸せな家庭へと転生し
得た姓は、"鹿島"
願い通り、ただの人間として幸せに生きることが出来た。
悲しい別れが訪れても、差し引きすれば十分なほどの幸せを得た。
記憶を封印され、過去へと、それも幸せな家庭へと転生し
得た姓は、"鹿島"
願い通り、ただの人間として幸せに生きることが出来た。
悲しい別れが訪れても、差し引きすれば十分なほどの幸せを得た。
なんのことはない。
輪自身の持つ転生の力を利用し
現在や未来ではなく、過去へと送られたというだけだ。
記憶の封印というサービスを付けてくれはしたが……。
かの契約者は、大仰な奇跡を起こしたわけではなかったのだ。
輪自身の持つ転生の力を利用し
現在や未来ではなく、過去へと送られたというだけだ。
記憶の封印というサービスを付けてくれはしたが……。
かの契約者は、大仰な奇跡を起こしたわけではなかったのだ。
だが、確かにそれは奇跡であった。
しかし、本来の能力である輪廻転生はもう出来ない。
輪は、すでに輪ではなく、都市伝説の鹿島であったから。
長い年月がヒトを変えていく様に
彼もまた、その都市伝説としての性質を、所以を、鹿島という物語に変えていたから。
長い年月がヒトを変えていく様に
彼もまた、その都市伝説としての性質を、所以を、鹿島という物語に変えていたから。
「先輩が俺を……先輩のせいで……俺がこれまで、どれだけ……苦しんだか」
「……すまない」
「……すまない」
鹿島──輪は、確かに苦しんでいた。
自分などの為に、何よりも大切な家族の記憶を、思い出を失わせてしまう事になってしまったから。
自分などの為に、何よりも大切な家族の記憶を、思い出を失わせてしまう事になってしまったから。
輪は知っていたから。
家族との思い出が、過去の思い出が、彼等との思い出が
とても大切なものだと知っていたから。
家族との思い出が、過去の思い出が、彼等との思い出が
とても大切なものだと知っていたから。
同時に、このヒトは、どうしてそんな方法を選び取ってしまうのかと哀しく思う。
そうさせてしまった自分に対し、怒りを覚えてしまう。
そうさせてしまった自分に対し、怒りを覚えてしまう。
だがそれも、ここで終わる。
自分の剣ならば、それら全てを、その心すらも、断ち切れると
今、信じることが出来る。
自分の剣ならば、それら全てを、その心すらも、断ち切れると
今、信じることが出来る。
── 自信など後からついてくるモノですよ ──
ジャックの言葉を思い出す。
確かに彼女の言う通りであった。
確かに彼女の言う通りであった。
カシマと連れ添う者が自分の姉以外になろうなどと、昔ならば考えられないことであったが
全てを思い出した今ならば、それも許せる。
いや、そうあるべきだとすら思えた。
全てを思い出した今ならば、それも許せる。
いや、そうあるべきだとすら思えた。
すらりと、軍刀を抜き放つ輪。
「愚痴を言っても始まらないよな……勝負をつけよう」
「我等が争う必要は無いだろう……」
「勝った方の言う事を聞く……先輩が勝てば、先輩の言い分を受け入れよう」
「……話し合いで、解決する気は無いのだな?」
「ああ、話し合っても……どうせ、俺の望みは叶わないだろうからな……」
「分かった……勝った方の言い分を認める……ここに、約束しよう」
「我等が争う必要は無いだろう……」
「勝った方の言う事を聞く……先輩が勝てば、先輩の言い分を受け入れよう」
「……話し合いで、解決する気は無いのだな?」
「ああ、話し合っても……どうせ、俺の望みは叶わないだろうからな……」
「分かった……勝った方の言い分を認める……ここに、約束しよう」
カシマもまた、軍刀を抜き放つ。
「昔は全く勝てなかったが……お互いに片腕になった今なら、勝敗は分からないだろ?」
輪が問い掛け
「昔から実力に差はなかったさ……本当はな……」
カシマが答える。
鹿島は、そして輪は、カシマから稽古で1本と取れたことはなかった。
だがそれは、無意識の遠慮や憧れからの結果でもあった。
だがそれは、無意識の遠慮や憧れからの結果でもあった。
高まる剣気
「はぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」「せいッ!」
裂帛の気合と共に放たれる斬撃。
刃がぶつかり、火花が散る、鍔を迫り合い、鎬を削る。
同じ流派、同じ太刀筋、伯仲する実力。
共に学び、共に考え、共に過ごし、共に生きた。
同じ流派、同じ太刀筋、伯仲する実力。
共に学び、共に考え、共に過ごし、共に生きた。
確かに彼らは共にいた。
過去も、現在も、未来も。
家族であり、師弟であり、友人であった。
過去も、現在も、未来も。
家族であり、師弟であり、友人であった。
眩い光、視界が白く染まり、場面が変わる
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剣は心なり
心正しからざれば、剣又正しからず
剣を学ばんと欲すれば、先ず心より学ぶべし
心正しからざれば、剣又正しからず
剣を学ばんと欲すれば、先ず心より学ぶべし
遠き地に離れてからも、様々な通信手段により相談を受けてきたが
オレから教えられる事は既に無い
だが案ずるな、今までと何も変わらぬよ、是より先も自身の心に問えばよい
振り上げたその剣に、力に、心は、優しさはあるのかと、そう問えばよい
オレから教えられる事は既に無い
だが案ずるな、今までと何も変わらぬよ、是より先も自身の心に問えばよい
振り上げたその剣に、力に、心は、優しさはあるのかと、そう問えばよい
人の完成をもって剣術の極みとす
遺憾ではあるが、オレはこの境地まで達し得なかった
だが、キミであれば成せる
だが、キミであれば成せる
憶えているだろう?
遠き過去、我等が最初に出逢ったあの店を、あの店主殿を
彼との約束を頑なに守り続けているキミであれば
彼の心を受け継ぐキミであれば、成せると信じている
遠き過去、我等が最初に出逢ったあの店を、あの店主殿を
彼との約束を頑なに守り続けているキミであれば
彼の心を受け継ぐキミであれば、成せると信じている
いつも、キミにばかり重荷を背負わせて済まないと思う
だが、託させてくれ
人の完成を、その境地を
どうか、師の最初で最後の我侭と思い、叶えて欲しい
だが、託させてくれ
人の完成を、その境地を
どうか、師の最初で最後の我侭と思い、叶えて欲しい
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優しくあろうとするカシマ
それに憧れた輪
それに憧れた輪
距離をとり、間合いをはかる
「今更、遅いんだよ!」
「遅くなどない!お前には、自分で更生する力がある!」
「そんなものは必要ない!今の俺に必要なのは、あんたを打ちのめす為の力だけだ!」
「……そんなにワタシが憎いか」
「遅くなどない!お前には、自分で更生する力がある!」
「そんなものは必要ない!今の俺に必要なのは、あんたを打ちのめす為の力だけだ!」
「……そんなにワタシが憎いか」
憎くなどない。
憎くなど、あろうはずがない。
そこにあるのは、純粋な敬愛。
義兄への、恩師への、友への感謝。
憎くなど、あろうはずがない。
そこにあるのは、純粋な敬愛。
義兄への、恩師への、友への感謝。
輪廻転生の力を失った今、人としての人生を送った今
既に、自身への救いは必要ない。
既に、自身への救いは必要ない。
「分かってないんだよ……」
「……分かっていない?」
「あんたは大事な事を……たった一つ、大事な事を……分かっていないんだ」
「……分かっていない?」
「あんたは大事な事を……たった一つ、大事な事を……分かっていないんだ」
カシマは彼等にとって、とても大切な家族であったことを、分かってほしかった。
カシマが義弟を救いたいという気持ちがある様に、輪にも義兄を救いたいという気持ちがあるのだと。
家族の幸せを願う気持ちは、誰もが皆、一緒であるということを。
カシマが義弟を救いたいという気持ちがある様に、輪にも義兄を救いたいという気持ちがあるのだと。
家族の幸せを願う気持ちは、誰もが皆、一緒であるということを。
思い出す。
幸せなな日々を……
道場での日々を、あの喫茶店での日々を……。
幸せなな日々を……
道場での日々を、あの喫茶店での日々を……。
「ワタシは信じている、己の妻の、優しさも、賢さも、強さも」
「……そうか……なら、これで最後にしよう」
「……そうか……なら、これで最後にしよう」
カシマは、己の妻を、輪の姉を信じた。
幸せに暮らす力があったと信じた。
嬉しかった。
ただただ、嬉しかった。
カシマが、自分の姉を信じてくれることが、嬉しかった。
幸せに暮らす力があったと信じた。
嬉しかった。
ただただ、嬉しかった。
カシマが、自分の姉を信じてくれることが、嬉しかった。
そして何より、彼女は実際に幸せに暮らしてくれていたのだ。
輪は、にやりと笑う。
勝利を確信した笑みだった。
勝利を確信した笑みだった。
「次の一撃で決めよう……手を抜くなよ、先輩」
「もう一度……話し合えないか……」
「もう、話す必要はなくなった」
「そうか……分かった……ならば、手加減はしない……」
「もう一度……話し合えないか……」
「もう、話す必要はなくなった」
「そうか……分かった……ならば、手加減はしない……」
軍刀を構える
輪が息を静かに吐き出し、カシマが強く口を結ぶ
その様、阿吽の如く
勝敗は一瞬でつく
輪が上段に構えを取り、カシマが下段で迎える
間合い、気迫、呼吸
全てが整う
頭上へと振り下ろされる、輪の刀───
───届かない、カシマの刀は、脇腹の寸前で止まる
全てが止まる
片腕だからこそ、隻腕だからこそ
鍛えられた右腕が、右手が、一度手放した刀を掴み取り
柄の長さの分だけ、より長い間合いを得る
それは、一度手放したものを、もう一度掴み取る力
鍛えられた右腕が、右手が、一度手放した刀を掴み取り
柄の長さの分だけ、より長い間合いを得る
それは、一度手放したものを、もう一度掴み取る力
だが、何も斬られる事はない
止められた刃
止められた刃
「これで……俺の勝ちだ」
輪は静かに、刀を鞘に収める
「……っ」
カシマが刀を地に落とす
「負けを認めるな?」
「ああ……ワタシの負けだ……」
「ああ……ワタシの負けだ……」
輪にとってカシマから奪い取った、初めての勝利だった。
「では、俺の好きにさせてもらうぞ」
「ああ、ワタシの存在を消し去るのも……この体を使うも……お前の自由だ」
「ああ、ワタシの存在を消し去るのも……この体を使うも……お前の自由だ」
更に、カシマは言う。
「お前はワタシを目標としていた様だが、もっと上を目指すべきだった……
ワタシに追いつかない事をどこかで望んでいた
言っただろう?昔から実力に差はなかった……本当はな……
お前が無意識に自分に枷を嵌めていたんだ……ワタシが強くなるのに合わせて……
お前がワタシに合わせて力を調節していたのだと……ワタシはそう考えている」
「……」
ワタシに追いつかない事をどこかで望んでいた
言っただろう?昔から実力に差はなかった……本当はな……
お前が無意識に自分に枷を嵌めていたんだ……ワタシが強くなるのに合わせて……
お前がワタシに合わせて力を調節していたのだと……ワタシはそう考えている」
「……」
輪──鹿島が幼少から強かったのはある意味、当然とも言えた。
記憶が無くとも、体は自然と動いていたのだ。
生まれながらに鹿島流を身に付けていたのだから。
記憶が無くとも、体は自然と動いていたのだ。
生まれながらに鹿島流を身に付けていたのだから。
「ワタシは、お前の事を、お前の心の強さを信じている……超えてゆけ、ワタシを」
「……」
「託して良いな?」
「……」
「託して良いな?」
いつでも自分の目標となってくれた義兄。
導いてくれた恩師。
背を押してくれた友。
導いてくれた恩師。
背を押してくれた友。
彼から何かを託されたのは2回目だった。
だが、今度はその願いを受けはしない。
だが、今度はその願いを受けはしない。
「断る」
輪が答える。
「何故だ?」
「そんな事を望んでいないからだよ」
「このままでは、どちらかが消える可能性があるのだぞ!」
「ああ、そうだな……だから、俺が消えると言っているんだ」
「何を馬鹿なことを……そんな事をワタシが許すとでも思っているのか!!」
「勝ったのは俺だ……さっきの約束、もう忘れてしまったのか?先輩」
「何?!……だが、それは……」
「約束通り、俺の言う事を聞いてもらうぞ」
「……くっ」
「俺は、先輩のやりそうな事は大抵、想像できるんだよ……先輩ならどうするか……いつも、そう考えて行動してきたんだ」
「こんな事の為に、わざわざ、あんな勝負を……約束をさせたというのか……」
「ああ、そうだよ……俺が消えると言ったところで、認めてはくれなかっただろうからな」
「そんな事を望んでいないからだよ」
「このままでは、どちらかが消える可能性があるのだぞ!」
「ああ、そうだな……だから、俺が消えると言っているんだ」
「何を馬鹿なことを……そんな事をワタシが許すとでも思っているのか!!」
「勝ったのは俺だ……さっきの約束、もう忘れてしまったのか?先輩」
「何?!……だが、それは……」
「約束通り、俺の言う事を聞いてもらうぞ」
「……くっ」
「俺は、先輩のやりそうな事は大抵、想像できるんだよ……先輩ならどうするか……いつも、そう考えて行動してきたんだ」
「こんな事の為に、わざわざ、あんな勝負を……約束をさせたというのか……」
「ああ、そうだよ……俺が消えると言ったところで、認めてはくれなかっただろうからな」
自信と誇りに満ちた顔で、輪は言い放つ。
「不満があると言うのならば、何度でも勝負を受けよう
だが、何度でも俺が勝つ! 俺は負けない!
実力に差が無いというのなら、想いの差が勝敗を分ける!
ならば、俺は、今の先輩に負けはしない!
そして、先輩は、まだ、この世界に必要なヒトなんだ!
先輩には、今を! この時を! 必要とされるこの時代を! 生きてもらう!!
俺はその為に、今、ここにいるんだ!!」
だが、何度でも俺が勝つ! 俺は負けない!
実力に差が無いというのなら、想いの差が勝敗を分ける!
ならば、俺は、今の先輩に負けはしない!
そして、先輩は、まだ、この世界に必要なヒトなんだ!
先輩には、今を! この時を! 必要とされるこの時代を! 生きてもらう!!
俺はその為に、今、ここにいるんだ!!」
揺るぎない意志が、カシマを打ちのめす。
どんな斬撃よりも、速く、重く、強く、確かに、カシマの心を捉える。
どんな斬撃よりも、速く、重く、強く、確かに、カシマの心を捉える。
その剣には、他者を慈しむ心があるから。
カシマが指し示し、マスターから受け継いだ心が宿っているから。
カシマが指し示し、マスターから受け継いだ心が宿っているから。
"剣心一致"
かつて託された願い。
確かに今、それは成されていた。
確かに今、それは成されていた。
想いに気圧され、片膝ををつく
今度こそ、カシマは負けを認めざるを得なかった
今度こそ、カシマは負けを認めざるを得なかった
自身の想い、自責の念とその優しさから、義弟の存在を護ろうとしたカシマ 。
カシマを想う、自身の為に、姉の為に、皆の為に、カシマの存在と記憶を護ろうとした輪 。
カシマを想う、自身の為に、姉の為に、皆の為に、カシマの存在と記憶を護ろうとした輪 。
輪は、心で、想いの差で、打ち克ったのだ。
「良いんだよ、先輩……俺は満足しているんだ……
先輩がいれば助かる人がいたかもしれないって……知って欲しかった
必要とされているって事……もっと、理解して欲しかった
俺達がいた事を忘れないで欲しかった
俺の事、父の事、母の事、姉の事……
思い出してもらえて……嬉しかった
俺達と共に過ごした記憶が、幸せな記憶だったって事を思い出して欲しかったんだ
俺にとっての夢──幸せってのは、家族の笑顔だった……
だから、何よりも護りたかったんだ
先輩の中にある記憶を、記憶の中の家族の笑顔を護りたかったんだ……
俺は……俺達は……幸せだったんだ……俺達家族は、幸せだったんだ」
先輩がいれば助かる人がいたかもしれないって……知って欲しかった
必要とされているって事……もっと、理解して欲しかった
俺達がいた事を忘れないで欲しかった
俺の事、父の事、母の事、姉の事……
思い出してもらえて……嬉しかった
俺達と共に過ごした記憶が、幸せな記憶だったって事を思い出して欲しかったんだ
俺にとっての夢──幸せってのは、家族の笑顔だった……
だから、何よりも護りたかったんだ
先輩の中にある記憶を、記憶の中の家族の笑顔を護りたかったんだ……
俺は……俺達は……幸せだったんだ……俺達家族は、幸せだったんだ」
そう、幸せだった。
輪は幸せだった。
ただの人間として、幸せな日々を送れたこと……
そして、これから訪れるであろう日々……
これ以上はない。
そう断言できる、そんな幸せな日々。
輪は幸せだった。
ただの人間として、幸せな日々を送れたこと……
そして、これから訪れるであろう日々……
これ以上はない。
そう断言できる、そんな幸せな日々。
輪は自身の心に克ち、家族の記憶を護り
心・技・体、ほんの一瞬、わずかにでも、目標であるカシマを追い抜いたのだ
思い残す事など何処にあろうものか。
心・技・体、ほんの一瞬、わずかにでも、目標であるカシマを追い抜いたのだ
思い残す事など何処にあろうものか。
万感の想いを込め
輪は、カシマへと手を差し伸べる。
輪は、カシマへと手を差し伸べる。
「ワタシも……いや……オレも、幸せだったよ……まるで、夢の様だった」
カシマが差し出された輪の手を掴む。
「いい夢……観れただろ?」
「ああ……最高の上映だった……」
「いつでも観て良いんだ、家族の記憶ってやつはさ」
「ああ……最高の上映だった……」
「いつでも観て良いんだ、家族の記憶ってやつはさ」
繋がる手と手、心と心。
「……ああ……そうだな……本当に……すまない……」
「良いんだよ、先輩……でも、もう忘れないでくれよ?」
「ああ……ああ、約束しよう」
「良いんだよ、先輩……でも、もう忘れないでくれよ?」
「ああ……ああ、約束しよう」
カシマが掴む手に、地に着いた膝に、力を込め立ち上がる。
「先輩は約束を必ず守る……そうだよな?」
「ああ、そうだ……オレは約束を必ず守る」
「うん、信じているよ」
「ありがとう」
「ああ、そうだ……オレは約束を必ず守る」
「うん、信じているよ」
「ありがとう」
ふたりは言葉を交わす。
昔の様に、穏やかに。
昔の様に、穏やかに。
「じゃあ……後は任せる……生きて、生き続けて……幸せにな……義兄さん」
輪の顔に、浮かぶは笑顔。
少年の日のあどけなさを残し、英雄に憧れ、香取を、カシマを目指した男の笑顔。
消え行く、姿、形
だが、想いは永遠
桜花舞う───幻視
強くも優しい風が桜花を運び、カシマを包み込む。
儚いとは、人の夢と書く。
だが、散り行く桜は人の心に強く残り、人の夢は永く語り継がれる。
ならば、儚さこそが幻想
故に、輪の夢──家族の笑顔──もまた永く残るはずだ。
輪の、鹿島であった頃の想いが、記憶が、技能が、魂が、今、カシマの一部となる。
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
消え行く中、輪は思っていた。
カシマの振るう剣は、いつでも心が伴っていたと。
カシマの振るう剣は、いつでも心が伴っていたと。
"人の完成をもって剣術の極みとす"
それは既に完成していたのだと。
託されたのは、未完の極意ではなかったのだと。
だから、返すだけなのだ。
想いも、記憶も、技能も、魂も、カシマさんへと返すだけなのだ。
託されたのは、未完の極意ではなかったのだと。
だから、返すだけなのだ。
想いも、記憶も、技能も、魂も、カシマさんへと返すだけなのだ。
輪は自分の存在を失ってでも、カシマさんを生かそうとした。
だがそれは、自分を犠牲にしたのではない。
未来の──今の彼からすれば過去の──自分に、幸福を与え、助ける事だから。
彼は他者を救うことで、自身をも救っていたのだから。
これは自身を救う為の行いでもあったのだから。
だがそれは、自分を犠牲にしたのではない。
未来の──今の彼からすれば過去の──自分に、幸福を与え、助ける事だから。
彼は他者を救うことで、自身をも救っていたのだから。
これは自身を救う為の行いでもあったのだから。
此処には、犠牲など何一つ無い。
輪は満足している。
こんなに満たされて逝けるのならば、悔いなどあろうはずもない。
こんなに満たされて逝けるのならば、悔いなどあろうはずもない。
『カシマさん……ボクのこと、宜しく頼みます。』
言葉にして伝える必要はなかった。
それは、言わなくとも必ず叶えられる願いだと知っていたから。
それは、言わなくとも必ず叶えられる願いだと知っていたから。
*
輪廻転生の物語は、此れで幕を引くこととなるが
幾多の人生を廻り、彼の行き着いた最果ての世界には
確かに最上の幸福があったことを、此処に記す。
幾多の人生を廻り、彼の行き着いた最果ての世界には
確かに最上の幸福があったことを、此処に記す。
「輪廻転生」 ─ 了 ─