「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-01

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 洋上に浮かぶ島がある。
 その島は、島の主とその意を受けた≪旧日本軍の幽霊≫の保護を受け、住む者達に安全を与えていた。
 都市伝説、≪平将門の首塚≫が率いる組織、通称≪首塚≫が所有する島である。
 ≪首塚≫に所属する≪フィラデルフィア計画≫の契約者、藤宮由実(ふじみやゆみ)は、≪首塚≫が非戦闘員や様々な事情によって何者かに追われる立場になった者達の為にと所有するその島で、一人の女の子のお願いに困惑していた。
「お願い、フィラちゃん!」
 由実の契約している都市伝説の名をもじった渾名を呼ぶ女の子、モニカ・リデルは由実のように髪を伸ばすのだと言って、いつの間にか背の半ばにまで伸びた蜂蜜色の髪を、未だ寒さが厳しい風に吹き乱されながら碧い瞳で由実に訴えかけていた。
 由実の方は困り顔で「そうは言ってもね……」とモニカの陶器のように白い頬を撫でる。
 三月も数日過ぎたとは言え、まだまだ風は冷たい。島にいる他の人や、島を見回っている≪旧日本軍の幽霊≫からも隠れるように島の隅で〝お願い〟をされ始めてからもう十分以上は経つ。モニカの白い肌はその色が連想させる通りの冷たさを帯びていた。
 モニカは数年前、ある都市伝説に追われている所を由実が保護した少女だ。
 モニカの両親は由実が彼女を保護した時には既に手遅れだった。保護してからも両親を殺されたのがショックだったのか、言葉をほとんど話さないモニカは事情を訊ねても言葉少なに何も分からないと言うだけで、大まかなあらまし以上の事は分からない。行き場が無いとのことなので、結果として≪首塚≫の島でその身柄を預かっている。
 年齢で言えばモニカは今年で小学校を卒業する歳、舌足らずで〝フィラ〟という発音が去年は上手く出来なかった程度にはまだまだ幼いが、保護されているという自分の状況や、周りにも似たような境遇の子が何人もいる為か、こうしたわがままを言う事が普段はまず無かった。
「お願い!」
 それがこんなに強情なのも珍しい。軽く違和感を覚える程だ。
 ……そんなに必死になって行きたい所ってどこなのかしら?
 由実は内心で首を傾げ、大方本で見た名所のどこかだろうと思いながらモニカに言い聞かせる。
「でもねえ、皆に内緒で島を連れ出して欲しいってことは将門様にも秘密なんでしょう?」
「うん、だれにもないしょ」
 由実は困った笑みを浮かべる。
 自分達の長にもこの外出を伝えるなと言う。モニカは以前、由実一人の手には負えないレベルの都市伝説に襲われていたのだ。また襲われないとも限らない事を考えれば正直に言って連れ出すのはやめておきたいが、
「……分かったわ」
 由実は苦笑交じりに了承した。
 ここもそう大きくは無い島だ。モニカだっていつまでもこの島内で生活するのは飽きるだろうし、そうでなくとも好奇心が強い年頃だ。この島の外に出て、いろんなものを見てみたいという純粋な興味もあるのだろう。それに今までこんなに強情に何かを強請って来たことも無かった。自分を慕ってくれる子の、たまのわがままくらい聞いてやってもいいじゃないか。
 そう考えながら由実は≪フィラデルフィア計画≫を発動させた。
 宙に人が十人程は入ることが出来そうな六面体の鉄の箱が現れ、それがサイコロの展開図のように開く。
 由実の契約した≪フィラデルフィア計画≫は、鉄の隔壁によって無事に実験中に起こった災難を生き残ったエンジニアたちの逸話を元にしている。これに乗る事によって空間跳躍を行う事ができるのだ。
「どこに行きたいの?」
 展開した鉄の板に乗り、来なさいと手を伸ばすとモニカは嬉しそうに笑み、
「あっち」
 と本州の方を指さした。それ以上の詳しい説明は何もない。
 途端に由実は脱力した。
「……方向しか分からないのね」
「……だめ?」
 由実は困ったように微笑して首を振る。連れてけと言うのならそれに付きあってもいいだろう。
 ただ、
「これは……目的地に着くまで長くなりそうね」
 モニカが由実の体に抱きつくようにして鉄の板に飛び乗り、それを確認した由実は鉄の箱を元の六面体へと折り畳む。その箱の周りを発光体が包み込み、数秒後、鉄の箱はその場から消えた。
 ――由実は気付かなかった。鉄の箱が折りたたまれるその瞬間、モニカが常ならばけっして浮かべないであろう種類の、まるで悪意を染め抜いたかのような笑みを浮かべていた事に。


            ●


「やあ、高坂君」
 書斎と社長室を掛け合わせたかのような棚と応接具用の家具が並ぶ部屋の中、高坂千勢(たかさかちとせ)は己の横に、女性にしては背の高い彼女の背丈と同じ程の体高がある、彼女の黒い長髪と対照的に白いけむくじゃらの犬を巨大化したような獣を侍らせ、対面で大きなデスクに座っているこの部屋の主である男に答えた。
「四年振りに御帰還になるな……盛大にもてなせ」
 そう言いながら彼女は周囲を見回す。棚の中に以前は詰め込まれていたT№に関するデータがほとんど見当たらない。
「棚、随分と寂しくなったな」
「≪夢の国≫から放たれた黒服に、≪組織≫から雑務用にと与えられていた黒服はほとんど吸収されてしまったからね。管理する対象が居なくなればそのための書類も必要無い、棚も空くさ。それに高坂君が向こうで離脱させた皆のデータも処分し始めたから、今じゃあほとんど何も残っていないよ」
 そうか、と千勢は答えて男の言葉が引っかかったように眉を微かに動かした。
「≪夢の国≫……か」
「彼の事については本当にすまないと思ってる。情報が≪組織≫に潜り込んでいた≪夢の国≫の黒服に操作されていたようでね……」
「別に構わないさ。残念だが、――まあ以前から危ういところはあったんだ」
 千勢はそう言ってこの話は終わりだと手を振った。
「それよりも危急の事態だ」
 千勢の言葉に男は表情を緊の一字に変えた。感情を殺した声が零れる。
「彼等が、内部で潰し合ったんだってね」
「ああ、表向きには派閥闘争のようなものだろうな。徹心、お前に言われて諜報に行った時には既に戦争状態だった」
 そうか、といらえが返ってから少し考えるような間があり、
「……結果は?」
「残念ながらお前と縁のある、オルコットの派閥が生き残った。――というよりも、オルコットの派閥が他の派閥を一方的に潰していたようなものだったな。あれは内紛と言うよりも粛清に近かった」
「そうか……」
「もう彼等にとって大きな図体は用済みなんだろう」
 千勢は忌々しそうに舌打ちを一つして、
「奴等を危険と判断してお前に人員を集めさせ、その指揮を執って戦ったが、奴等の中核相手には手が足りなかった」
 徹心は棚から数少ない書類を取り出して机の上に広げた。
「この情報にある通りなんだね? なんとも厄介な者達を味方につけたものだよ」
 チラリとそれらの書類へと視線をやった千勢は頷き、
「洒落にならんな。連れて行った契約者がほぼ全員戦闘不能、その内半分が殺られた。≪組織≫製の黒服に至っては全員持って行かれたよ」
「それで君はT№の他の皆を≪組織≫から離脱させたんだね?」
「路銀を渡してな。離脱した者の大半は元より≪組織≫と縁を切りたいと思っていた者達だ。戦闘終了時の≪組織≫からの離脱許可を条件に徴用したのだし、生き残った者にしてもしばらくは戦闘など出来ん状態だ。≪組織≫からの離脱タイミングの条件違反に関しては私の一存ではあるが、文句はないな?」
「うん、本来はこの件が終わるまでということだったけど事情が事情だ。それに、そういう違反をするべき時を判断出来ると思うからこそ君には皆の指揮役をしてもらったんだ。文句は無いよ」
 千勢は男の言葉に満足気に頷いた。
「よし、ではあとは彼等の分の≪組織≫での情報の抹消をよろしくな」
「あー、うん、まあがんばるよ」
 疲れたような顔をする男に千勢は笑顔で、
「大変だろうががんばれ。生き残った者達も皆かなりの傷を負っていた。負傷により離脱とでも報告しておけばいいだろう」
 さて、と言って緩みかけた空気を千勢はまた引き締めた。
「ここからが問題だが、奴等、モニカが未だ日本に居る事をつきとめているようだ」
「……本当かい?」
 男が身を乗り出すようにして訊いた。千勢は頷き、
「最後に掴んだ足取りは日本に向かう航路に乗った。というものだった。改造を施した幽霊船系の都市伝説で消えたせいで行く先は途中で見失ってしまったが、おそらく間違いなく日本へと向かっている事だろう。
 以前日本で事件を起こして以降、奴等は日本に見向きもしていなかった。にもかかわらず今回の大きな動きと共に奴等が日本に行く気になったというのなら、その理由として考えられるのはあの娘だけだ」
 男は大きく息を吐いた。
「あの子なら大丈夫。あの子にはセンサーがついているから何かあれば分かる――」
 そこまで言い差した時、部屋の内部にあった携帯電話程の機械が音を発し出した。
 男は厳しい顔になって機械を取りあげた。
「……早速か?」
「の、ようだね。彼等がモニカに手を出した」
 吐息交じりに問いかけた千勢に男は応えて千勢へと機械を渡した。受け取った千勢はケウ、と声をかけ、その呼び掛けに反応した白い獣共々部屋から出て行こうとする。
 その途中、彼女は閑散とした書類棚ではなく瓶が多く並んでいる棚を見て、その内の一つを引っ掴んだ。
「この酒、もらっていくぞ」
「構わないよ。――ああ、高坂君、それにケウも」
「なんだ?」
 振り返った一人と一匹に男は書類を示した。
「彼等のこの陣容に対して君一人とケウでは……」
「おそらく勝てない。勝てているのならここまで状況が逼迫する前にケリをつけているさ」
 気負った風のない答えに男の方は表情を曇らせた。
「どこかに援軍を頼むかい?」
「数で押してカタがつくのならよかったのだがな。半端な力の者を数だけ集めても手玉に取られて逆効果になる。報告書に書いておいたがあの爺、とんだ厄介者だ。最終的に決戦になるのなら、お前の兵を起こす事になるだろう」
 千勢はそう言ってケウの毛むくじゃらの身体を軽く叩き、
「まあ、例え死んでもなんとかモニカを引っ張ってくる事くらいはしてみせるさ。後は自分でどうにかしてくれ」
 背を向けて扉の方へと歩いて行く。男はその背にもう一度声をかけた。
「じゃあ、とっておきの情報をあげるからもう少しがんばってくれるかな?」
「?」
 振り返らずに歩みを止めた千勢とケウに男は彼女が興味を持つであろう最高の情報を伝える。
「≪夢の国≫、その契約者であった少女が≪夢の国の創始者≫に対して反旗を翻し、新たな王になった事は知っているかい?」
「ああ、そういう話だったな」
 千勢はケウの顎を撫でながら≪夢の国≫にまつわる事件の顛末を思い出す。成し遂げたのは……、と考え、
「たしかD№の黒服だったか? ≪夢の国≫に関連のある都市伝説の能力を使えたために、ずっと引きこもりを決め込んでいた≪夢の国の創始者≫の喉元まで迫れたという話だっただろうか?」
 男はうん、と頷く。
「表向きはね」
 千勢はケウと顔を見合わせて首を傾げた。
「≪夢の国≫の討伐にはどこの組織にも所属していない者の働きがあったんだよ」
「ほう……?」
「公には存在が隠匿されているけどね」
 興味深げに再度振り返った千勢に男は笑みで応える。
「その者の正体はね、君の愛弟子だよ」
「……な、に?」
 千勢が眉をひそめた。男は続ける。
「彼の≪ケサランパサラン≫、あれが巧く働いて彼という個を破壊することなく都市伝説化したらしい。
 彼は……うん、多少の変化はあるだろうけど、確かに生きている。詳しい事は彼自身が警戒しているのか≪組織≫に情報が流れてこないから僕には分からないけどね。この情報も隠匿しているから結局公には彼は死んだ事になっているよ」
「それは……僥倖だな」
 千勢は長い髪をかき回すように頭をかく。揺れる髪に見え隠れする表情が笑みを滲ませているのを確認して、男もまた微笑した。
「そうだろう?」
「ああ」
 千勢は応えて身を翻す。黒髪が揺れ、白い獣を伴った彼女は先程よりもより力強い笑みで部屋の扉を開けた。
「俄然やる気が湧いてきたよ。アレに会うまではまだ死ねん。なぁ? T№0、高部徹心」
「がんばってくれ、僕は彼等をどうしても止めなくてはならないから。まずはあの子を取り返してきて欲しい。T№1、高坂千勢君」
 千勢は背中越しに徹心へと手を掲げた。



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