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連載 - 魔法少女銀河-03

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【不思議少女シルバームーン~第三話 第一章「探偵(ボウリョク)と雨」~】

両親が病院から二度と出てこられない体になったのは、私が幼稚園に入ってしばらくしてからだ。
ある日、私の落とし物を届けに来た男の人を見て、両親が真っ青になって逃げだそうとしたのを覚えている。
でも結局、私をかばってあの男の人に……。

「ああ、そうそう、殺しちゃあ不味いんだよな、見せしめになってもらわないとなあ。」

男の人はまるで晩のおかずを決めるみたいにして呟いていた。
彼は当然隠れていた私も見つけ出したのだが、何故か私だけは見逃したのだ。
今思えばこうなることを予想していたのかもしれない。
両親が居なくなった私は遠い親戚の家をたらい回しにされた。
なにやら私が知らない間に両親は良くないことをしていたらしく、誰からもあまりいい顔をされなかった。
すぐに手術をすれば両親は意識を取り戻したのかもしれなかったそうだが、金を出してくれる人なんていなかった。
世の中の全てが憎かった。
私は何も悪いことをしていないのになんでこんな目に遭うんだろうかと幼心に思った。
私を見ると皆が不機嫌そうな顔になった。
そんなある日、預けられた先の家の子が私を殴った。
殴って、次の瞬間、灰になった。

それはツングースカ大爆発とかいうよく分からない都市伝説だったそうだがその頃の私はよく知らない。

私の中で大事な何かが、その瞬間に切れたのだ。
気づくとその家は灰になっていた。
折悪しく真昼間、野次馬がわらわらと集まってくる。

更にもっと最悪なのが、そこにトンカラトンとかいう都市伝説が大量に通りがかってきたことだ。
トンカラトンに殺されるとその人もトンカラトンになるのだそうで、辺りはあっという間に阿鼻叫喚の地獄になった。



親が子を殺し、子が親を殺し、妻が夫を、夫が妻を、兄が弟を、姉が妹を、家から家へと感染する災厄。
私はその中心で笑っていた。
笑うしかなかった、その時自分が居るだけで誰かを不幸にする人間なのだと理解したのだ。
さっさと死んでしまおうと、自らを爆破した。
だが死ねない。
自らの能力で自らを傷つけられない設定になって居るみたいだ。
なんて理不尽なんだ。
でも化け物になるのも嫌だから近所の家の人だったものの残滓をひたすら破壊する。
町も、家も、思い出も。

誰も彼もが化け物になっていく中で、私は化け物にもなれず、一人で生きている。

なんて過負荷なんだろう。死なない程度の不幸を背負いながら、他人の人生を壊し続ける人生。
なるようにすらならない最悪ってものがあるのか。
私の周りでは全部が狂っておかしな方向に向かってしまうんだ。

「私なんて生まれてこなければ良かった。
 私は……私みたいな物が、何で生まれてきたの?」

小学一年生の時にこんな台詞を言ってしまう辺り私も中々ダメ人間である。
でもそんな時、雲霞の如くあつまる化け物の群を裂いて一筋の光がさした。

「幸せになるためだろう。生まれてきて、幸せになって、何が悪い?」

両親を奪った男が私の手を取っていた。




「死にたくなければそこから一歩も動くなよ?」

何故この時に、一歩も動かなかったのだろう。
死にたくなかったのだ、他人を不幸にしておいて、浅ましくも私は生きたかったのだ。
男の人はそれこそ埃でも払うように化け物を薙ぎ払っていった。

「ねえおじちゃん」
「なんだ、今話しかけないでくれ、年のせいかこの程度の相手でもけっこうきついんだ。」
「なんでおじちゃんは此処にいるの?」
「いや、お前に会いに来たら妙なことに巻き込まれちゃって。」
「なんで会いに来たの?私に関わると不幸になるみたいだよ?」
「えー、だってお前の両親に頼まれたんだもん。あいつだけは見逃してくれって。
 俺は依頼のアフターケアもきっちりする方だからな、お前がそこそこに幸せになっていないと困るんだ。」
「あふたーけあって何?」
「あれだ、もしお前が飴を買ったあと、不幸にも飴を落としちゃっても、新品の飴と交換してくれるような感じ。」
「私、最近食べてないなあ。」
「あとで買ってやる。」
「…………ありがとう。」
「幸せか?」
「うん。」
「それが生きているってことさ。」
「ねえおじちゃん、人を傷つけるとね、胸がなんかきゅってなるの。」
「奇遇だな、俺も偶になる。年かな?」
「わたしおばあちゃんなの?」
「いや、お前のはまだ子供って証拠だよ。」

最後の一体が私の目の前で男の人が触れても居ないのにぺしゃんこに押しつぶされる。
男の人は携帯電話で誰かに連絡すると私を連れてその場を去った。





「――――はう!」

目を覚ます、いつもの私の部屋。私の枕元には病気がちで普段は寝ているはずの所長が居た。

「目が覚めたか?」
「あ、ご、ごめんなさい!寝ちゃってた!」
「そういえば、寝言を言っていたな。何の夢を見てたんだ。」
「……昔の夢。」
「そっか、ふむ……。なあ霙、お前は今幸せか?ちなみに俺はいつだって幸せだ。」
「悪くないと思ってる。……所長は地獄に堕ちても幸せそうだけどね。」
「そうか、まあそうだわな。」

結局そのあと、私はその男の人のところで働かされることになった。
私のせいで起きる不幸も何故か未然に防がれるし、そこそこ私は幸せである。

「今度、遊園地にでも行こうか?」
「そういうのはお子さんと一緒に行ってあげたら?」
「あいつもそんな年じゃないよ、まあ明辺りは誘ってみても良いかもな。
 茜さんは外に出たがらないし……」

学校町を見渡せる高いビルの屋上にある探偵事務所。
そう、ここが今の私の居場所だ。
この事務所で最近は伏せりがちな所長に代わり、彼の命令で学校町の闇を闊歩しているのだ。

「出たがらないんじゃないです!空気を読んでついていかないだけなんです!」

いきなり現れたのは所長の奥さん。
彼女の前でしか所長は素直に笑わない。
それが何故か妬ましい。……何故か、か。理由なんて分かってるのに。




「いやほら!訳の解らない女の人を追っかけ回すくらいなら霙ちゃんとイチャイチャしてもらった方が良いかなって!」
「いやちげーし!そういうんじゃねえし!流石に俺だってそこらへんの見境はできたし!」
「茜ねーさん、私と所長本当にそういう仲ではないんで……」
「えー、違うの?でもこの人小学生に手だしてたわよ。」
「俺にも若い頃があった……」

確かこの人、まだ三十後半である。
それにしてはなんというか死にかけというか、限界が見えているというか、そんな雰囲気だ。

「否定しないのですか。」
「俺、お前らにだけは嘘つきたくないから……」
「相手は後の……っていうか、当時の友美さんですね。」
「友さんなの!?」

あたし聞いてない。
……あたし聞いてない!
本当に、この人は知れば知るほどひどい男で、人でなしで、生きているのが不思議なんだけど。
何故か自然体で居られて、誰も不幸にする心配が無くて、素直に笑っていられて。

「後の明ちゃんである……」
「うわあああああああ!聞きたくなかった!聞かせないでほしかった!
 明尊さんに妙にべたついているのはそう言う訳なの!?うわああああああ!」
「えっ、嘘……そんなことになってるの?」

所長が珍しくブルー入ってる。
なぜだかおかしくて笑ってしまう。




「とりあえず遊園地はそのうちと言うことでどうでしょう。」
「えーなんでー?
 もうお前くらいしか遊んでくれる女の子居ないんだけどー。
 皆忙しそうでさー。」
「明尊さんにそろそろ本気で殺しにかかられます。なんかすごい誤解されてるんです。」
「あっ、ごめ……ん、それ多分私と友さんのせいかな?」
「えっ」
「はう」
「いや、冗談でそういう話していたっけなんか聞いてたみたいでー……」
「おまえさらっととんでもない真似を……、親父にどやされたぞ俺。しかも無実、悪いことしてないのに怒られるなんて生まれて初めてだ!」
「あの人元気ですよねー、このままだと明也さんより長生きするんじゃないですか?」
「良い、俺さっさと死ぬ、生きてて最高に楽しいし、子供達が独立したらいつでも死んで良い!ていうか彼方に世話させるから良いし!」
「死ぬ時くらいならご一緒しましょうか?」
「頼むよ、なんせ地獄に入るのも断られそうなんでね、一人旅じゃあちと辛い。」
「二人とも止めてよ、怖いなあ……。そんなにさっさと死なれると皆困るよ。」
「はっはっは、そうか、じゃあお前のためにもう少し養生しようか。」

そう言って所長は私に笑ってくれた。
両親を二度と目覚めぬ体にした人である。
そんな彼が、私の前でこんなにも朗らかに笑うのだ。それにつられて私も笑ってしまう。
憎いけど、そんな姿が愛おしくもある、不思議でしょうがない。
言葉で上手く言い表せないのがもどかしい。



「じゃあ外出はお預けですね。」
「にがいおくちゅりやだー」
「霙ちゃん、この人に飲ませておいて。」
「りょうかい!」

正直なところ、私が所長と二人で遊びに行くのを断ったのはそんな理由じゃなくて。
むしろ明尊兄さんの誤解が少しでも現実になればなんて少し思っていて。
実の所、少し怖いのだ。
少し所長を独占すればわたしはもっと彼が欲しくなる。
欲しがって手に入れて、それを続けていけば何時か皆を不幸にする。
私だって馬鹿じゃない、それくらいは解っている。

でも

でも今だけは

ベッドに腰掛けた所長とねーさんの間に割ってはいるようにして寝転がる。

これくらいなら、許されるよね?
【不思議少女シルバームーン~第三話 第一章「探偵(ボウリョク)と雨」~fin】



【不思議少女シルバームーン~第三話 第二章「変態少年と終わらぬ悪夢」~】

「昴!あんた今日は親帰ってこないんでしょ?家に泊まっていきなさい!
 そして私と寝てもらうわよ!」

後ろでヨツバさんが盛大にお茶を吹く音が聞こえた。
そういうぼくはといえばリアクションに窮するあまり、ヨツバさんに淹れていただいた紅茶にミルクを零していた。
そりゃあ可愛い孫がこんなに堂々と男を誘えばいくら彼女でも動揺するという物だ。
どこぞの首相も孫が髪を茶髪にした時は流石にブルー入ったってこの前テレビで言っていたし。
まあ熟女フェチを公言してないし憚る僕は不覚にも少々萌えてしまったわけで。

「二人ともどうしたの?」
「いや、えっと……」
「朔夜、それは流石になんというかねえ、年頃の女の子がその台詞は……」
「え?あ……」

まったくもって言葉のキラーパスである。
本人はとくに何の意味もなく言ったのだろうが……
数秒の思考のあとにどうやら彼女も気がついたようだ。

「さささささ、最近学校町に質の悪い夢魔が出現して居るみたいだから退治しないといけないと思ったの!
 昴の夢の中に私が入れば万事解決でしょ?
 私が今言っていたことは決してそう言う意味じゃなくて合理的且つ冷静な判断から導き出された……」
「あなた、他人の夢に入る魔法の練習してたっけ?」
「……や、やればすぐできるようになるわ!」
「そう……、そうかしらねえ……、まあやってみると良いわ。」

慌てる朔夜、そして僕の頭上を飛んでいく僕の意志を無視した僕についての会話。
ハッハー、朝月家は本当に地獄だぜ!




僕は早速朔夜の作った不味い薬を飲まされることになった。
色が……色があんまりだ。しかも湯気まで出ている。
良く言えばビール
悪く言えばオロナミン
最悪に言うと……

「なにためらってるのよ!さっさと飲みなさいってば!
 私の薬が飲めないって言うの!?」
「飲んだからってすぐ出るモンでもないでしょ?ゆっくりと……」
「ダメよ!占いによれば今すぐ飲めば夢魔が出るらしいのよ!」

生粋のマゾヒストを公言しないし憚る僕としてはガキに無理矢理飲みたくもない黄色い液体を飲まされるなんて……
うん、正直ぞくぞくするね!びっくりするほどダメ人間だ!
まあそもそもいきなり魔法少女なんていうけったいな生き物に出会って良いようにこき使われている時点でダメ人間だ!
とりあえずこれを飲めば簡単に夢の世界にいけるのだ。
さっさと飲んで楽になろう。
気合いで一杯飲み干し終えると僕の意識は急速に暗闇に包まれていった。




「やあ、こんにちわ。君は天野昴君だね。」
「誰だてめえ」
「私は夢世界に住む心優しい妖精ガガーリン!」

僕は寡聞にして全身タイツに段ボールの羽をつけた夢の妖精なんて知らない。
まあ知っていたとしても知らなかったことにしたいレベルだが。

「私は君の夢をいつも監視しているんだ……、昨日の夢は……」
「ああー何も聞こえなーい、何も聞こえないよー!」

全力でシャウト、これでもかと言うほどシャウト。
何かの間違いでこの夢が誰かに知られてしまえばこの作品全体の雰囲気が損なわれてしまう。
俺がガガーリンをぶち殺そうと思った次の瞬間、遠くからミサイルが飛んできてガガーリンを吹き飛ばした。

「HAHAHA!危なかったなボーイ!
 私の名前はミスターUSA!君の夢の秩序を守る正義の味方さ!」

今度はウサミミを装備したどこぞのマッチョな州知事がお出ましである。

「ああ、あくまでウサであって、ゆーえすえーじゃないんだうさ★」
「ウザッ!?何このキャラクター腹立つ!」
「邪魔するヤツはぁ、アトミックミサイルでぇ、ぶっとばすぞぅ★」
「こいつ予想を遙かに超える最低ぶりだったよ!」

すると、次に何か巨大で真っ黒い影のようなもの、ていうか黒いキングスライムが州知事を飲み込んでいった。




「お、おまえは!?」
「ああ、私の名前は自主規制、君がその小学六年生とは思えない妄想力を発揮するたびに私が働いているのさ。」
「あんたがおれのことを……。」
「ああ、守って……」
「余計な真似してんじゃねえぞksg!
 てめえのおかげでヨツバさんにヒールで踏まれてハアハアしている夢が絶妙にさえぎられるんだろうが!」

普段は温厚を以て鳴らす僕もこれにはぶち切れた。
絶妙な感じに勢いを付けたドロップキックで影を蹴り飛ばす。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!
 ババア俺だ結婚してくれえええええええええええええええ!」

夢の中心で愛を叫ぶ、今の俺は無敵だ。

「きゃっほう!俺参上!俺最強!今の俺を止める者はなあああああああい!年上のお姉様にヒールで踏まれてええええ!」

そのままヘッドバンキングしながら裸で空を飛んでみたりする。
さすが夢の世界、全てが自由自在だ。
このままだと夢であることを忘れてしまいそうで、怖い。

「あんた、なにやってるのよ。」

――――あ

「これはこれは朔夜様お元気で……」
「どうしたの?夢魔ならもう倒したわよ、催眠が解けたならさっさと起きなさい。
 さっきから変だなあと思ってたけど、催眠術でおかしくなってたんでしょう?」



うわぁ、やっべえ……いつの間にそんな時間経ってたんだよ……。
なんで真っ先に俺に会いに来ないんだよ……。
ていうかいつの間にか入っていたのかよ俺の夢に……。

「……おれはしょうきにもどったぞ。」
「なに二回も裏切り決める龍騎士みたいな台詞言ってるのよ!
 ほら、さっさと帰るわよ?」
「――――ああ、解ったよ。」

どうやら俺は催眠術にかかっていたことになっているらしい。
夢の中で催眠術にかかるなんて我ながら器用なものだ。

「ところで朔夜、一つ質問。」
「へ?」
「お前、ファイナルファンタジー4やったことないだろ。なのにどうして知っているんだ?」
「え、それはほら、いや……」
「さっさと正体を現せよ、あんただろ?夢魔ってのはさ。」
「や、やだなあ……、私が夢魔なわけ……」
「ふーじこちゃああああああああああああああん!」

最初から服を脱いでいた俺はルパンダイブの要領で目の前の少女に飛びかかり、下着をはぎ取る。
……やはりな、白だ。

「見ろ、この下着を!こんな下着、あいつが着るわけ無い!」
「な、何馬鹿なこと言っているのよ!さっさとそれを返しなさい!」

その場にへたり込む少女。
やはりこいつは朔夜じゃない。
本物だったら俺はとっくに殺されている。




「返すも何も、俺の知る朔夜はいつも黒のパンツしか履いてないんだ!」
「えっ?」
「何度か洗濯物をチェックしたことがあるから解るんだ!お前は偽物だ!」
「え、いや……」
「しかしこの下着はもらっておく!白とはいえ貴重なパンツである!」

頭にパンツを装☆着すると僕は駆けだした。

「あ、ちょ、待てえええええええええ!?」

後ろから夢魔が追いかけてくる。

「大丈夫!今日の性欲と少しのパンツがあれば生きていけますって!」
「そんな思い出を抱いて生きていくみたいなこと言っていいの!?」
「朔夜はそんな優しく突っ込んでくれない!俺をもっと犬かゴミクズ程度にしか思わない突っ込みをがんがん入れてくるぞ!」
「ひいいいいん!この人変態だよおおお!」
「ああ、そうだ。単純なことだったんだ。」

僕が、この夢魔を退治すればいい。
僕は立ち止まって夢魔に訪ねる。

「おいお前、黒いパンティーを履いてみる気は無いか?」
「え?」
「黒いぱんちゅ履けっつってんだよ乳臭い外見しやがってよお!
 夢魔ならもっとエロくなれよ!そうやって初めて『ああ、エロいことされよう』って気になるんだよ!」
「私トラウマ専門なんですううううう!こっち来ないでえええ!貴方トラウマとか無いんですかあ!?」

僕は何故かそこらへんに都合良く落ちていた黒いパンツを拾うと逆に夢魔に襲いかかった。




数分後

「はっはっは!良い様だ!普段俺のことを蹴ったりなんだりしてる奴と同じ姿をしているだけになおのことな!」
「く、くうぅん……。」

犬耳犬尻尾をつけた夢魔相手に僕はハッスルしていた。

「しかしそろそろ朔夜の姿も飽きたな……、妖艶なお姉様の姿にチェンジで。」
「えっ、私は夢を見ている人間の一番嫌な姿にしか……」
「いいから、やるんだよ」
「は、はひぃ!?」

夢魔はわりとあっさり美人でむちむちなお姉様に変身した。

「よぉし、良い子だ。やればできるじゃないか。返事は?」
「わんわん!」
「……なんていうと思ったか!」
「ひゃん!」
「なんでおっぱいがあるんだよ!貧乳だから良いんじゃねえかこのあんぽんたん!」
「理不尽だあ……。」

貧乳でえろいことしてるから良いんだよ。
しかもそれが年上のお姉様、これでなんで興奮しないって言うの?
馬鹿だろ、死ね、とまあ正直思うね。

「さーて、じゃあ次は実戦といこうか……」
「も、もうやめてえええええええええ!」

そう言って僕は夢魔の腕をつかんだ、すると彼女は一瞬で光の粒になって消えてしまったのだ。
そして僕はいつの間にか目を覚ましていた。




「あ、あれ?なんだよあれ夢だったのかよ……」
「あれ?じゃないよあれ?じゃ。」
「あ、おはようございますヨツバさん。なんか夢魔倒しちゃいましたけど……。」
「いや、その一部始終は知らないわ……」

あ、知らないんだ。
見られていないならばラッキーだ。

「それよりさ、なんか朔夜が帰ってこないんだけど……」

あら、表情が不機嫌。
あの馬鹿は一体どこに行ったのだろうか。

「向こうで会わなかったってことは……、同期させるのに失敗したな。
 自分の夢の中に閉じ込められているのか。
 こうなると一人で帰ってくるしかないねえ……。
 ああそうか、それも修行にはちょうど良いか。」

ヨツバさんの表情が変わる。今度は機嫌が良さそうだ。

「今の内に朔夜のパンツ見ておいても……」

しかしそう言った瞬間、ヨツバさんにスリッパでたたかれてしまった。
まあ当然である。
【不思議少女シルバームーン~第三話 第二章「変態少年と終わらぬ悪夢」~fin】






【不思議少女シルバームーン~第三話 第三章「悪夢と平行する日常」~】

「霙、ずいぶん暗い顔してるじゃないか。明尊にからまれたのか?」
「橙……。それは日常茶飯事だよ。
「なんか昔の夢を見てて……。
 疲れたっていうか、この先自分はまともにやっていけるのか不安っていうか。」
「夢?おいおい私に言ってくれよ、私だって夢の中までは見ていないんだから。」
「元々、橙の耳に入れるまでもないことかと思ったんだけどなあ……」
「おいおい、私たちは家族みたいなもんだろう?お前も冷たいこという奴だなあ。」

私の目の前で紅茶を飲む女性――橙さん――は私が事務所に入ってきたときからいろいろと世話を焼いてくれる人だ。
超高精度の予知を行えるこの人のおかげで不幸体質の私もまともに日常生活をおくることができている。
さらに、彼女は私に都市伝説との戦い方を教えてくれた人でもある。

「検索ワードは悪夢、霧雲霙、あとは……原因か。検索開始。
 なるほどね、学校町にひどく低級な夢魔がいる。
 現実には干渉できないほど矮小な存在だから感知も難しい。
 しかし今ちょうど……倒されたな。
 無能力者の少年か、名前は天野昴、こいつは……!?
 何だか知らないがすごい経歴の持ち主だな。」
「天野くんが!?」
「学校の知り合いか?私の記憶ではそんな奴いなかった筈だが……」
「いえ、上田さんの命令で攻撃をしかけた相手の……」
「上田さん……ねえ、その相手はあの魔女の娘か」
「ええ、彼女の眷属のようだったよ。眷属としての能力の使い方はまだ理解していないみたいだけどね。」
「眷属?ああ、あそこは吸血鬼、じゃないな。淫魔が混じっているのか。エナジードレインによる貯蔵魔力のブーストと超運動神経か。」

目をつぶったまま朝月家についての情報を検索し始める橙さん。
まるで魔法だ。なんて羨ましい能力なんだろう、私も欲しいなあ。





「こんな能力、面倒なだけだよ。」
「え?聞こえてた?」
「ああ、心も読めると言っただろうが」
「だって便利じゃん。」
「お前なあ、私はこの能力のせいで妙な実験施設に数年間拉致されてたんだぞ?
 お前は精々親を殺されたり遠い親戚の家で一週間位いじめられていただけだろうが。
 能力のせいで居場所を無くすなんてこともなかったじゃないか。
 むしろ能力を使って楽しんでいるだろ。」
「だけって……まあそうか。」
「だけ、なんだよ。お前の不幸はね、私の知る世界では小さなことなんだ。
 想像もできない不幸を背負いたくないならこの能力を欲しがるな。」
「むう、そうなんですか。」
「お前を傷つけるような言い方で悪いが……な。
 本当にそうなんだ。世界には口にするのも憚られるような悲惨さで満ちている。」
「はぁ、そうなんですか……」

私にはわからない。
私は私の事で手一杯だから。
私は私の気持ちだけで溢れそうで零れそうだから。
自分が小さな存在だと言うことは嫌と言うほど知ってしまったし、
自分の常識の外に生きる存在を嫌と言うほど見てしまったし、
そして私は私の殻に閉じこもる。
誰にも何も言わない。誰からどんなことを言われても気にしない。
全てがあるがままに、全てをあるがままに。
自分だけで精一杯な自分が他者の在り方に口を出してはいけない。
私を拾ってくれた人はそう言った。
でもそれすらも一種の干渉だし、ああでもあの人は自分に満足してて余裕が有るから好き勝手しているだけって言っていたか。
適当な言い訳だよな、矛盾してる。




「まああれだ、我らが所長のことは気にするな。
 あれはなんていうか……そういうものなんだ。
 嵐や火山に人格を与えたようなものさ。」

それって、神様だよね。

「神様、か。まったくもってあいつは自分のことを神か何かのように思っている節が有る。」
「ナチュラルに人の心読まないでよぅ。」
「おや失礼、うっかりだったよ。」
「もう……」
「しかしお前の心を読んでいて思うんだがね、お前は何故所長のことをそこまで好いているんだ?」
「しかもナチュラルに読んだ結果を前提に会話始めるの?」
「ナチュラルっていうかニュートラルで心を読んでいるという表現の方が正しいかな。」
「成る程成る程。」



「私はほら、あいつに助け出されたしその縁でここで働き始めているけどさ。
 お前はむしろあいつが親の仇じゃないか。」
「聞き飽きたよその質問。何時も言ってるじゃない。
 あの二人、わざわざ授業参観に来てくれるしさ。
 自分の息子の世話放り投げてまで。
 玩具も色々買ってくれたし、そりゃ修行は厳しかったけど、所長と橙が直接色々教えてくれたしね。
 ここまで、家族みたいにされて嫌いになれるわけ無いよ。」
「家族としての愛情だけでも無かろうよ。
 茜さんのことはまあ別として、上田に限ればあれだよ、お前異性としても見ているじゃないか。
 重度のファザコンじゃないか。」
「幼い頃の満たされなかった思いが年上の男性への憧れに繋がりましたとさ。
 私が悪いんじゃない、社会が悪いんだ。
 だから私は胸を張ってこの恋慕の情をぶつけちゃったりするかもしれないし、しないかもしれない。」

とりあえず胸を張ってみる。
お友達の在処さんという人が言っていた。
とりあえず男の人には押しの一手だと……。





「責任転嫁しやがった!お前この話のジャンル知ってる?
 一応時流に乗って『魔法少女もの』を書こうぜって話だったんだけど?
 なんで妻子持ちの男性に割と危険な意味で恋する小学生女子とかどうなってんだよ!
 これだから作者が明るい話しかけない人とか、闇の軍勢の一員とか、光を騙る者とか言われるんだよ!」
「なに言ってるんでせうか?」
「いや、こっちの話。」

時々だが橙はどこか遠くを見てボソボソと何かつぶやいていることがある。
もしかしてどこか危ない人何じゃないだろうかと昔は警戒してたものである。

「ところで、アレの練習はやっているか?」
「とりあえず重しを付けないで5m先まで飛ばせるようになったよ。」
「悪くない、お前の能力の弱点を補う武器だから、私の言った通りしっかり練習しておけよ。」
「はい。」
「おい、霙は居るか?」
「はい!何でも命令してください!」

事務室に突然所長が入ってくる。
所長は最近身体の調子が悪い。
昔よりもやせていて、枯れた雰囲気になってしまった。
苦手な筈の都市伝説を使った肉体再生を繰り返した反動だという。
だから彼は都市伝説との戦闘が必要そうな依頼では自分の代わりに私を使っている。
私が彼のために自ら頼み込んだのだ。
最初は嫌がっていたが何度も頼んだらそのうち渋々認めてくれた。
私の言葉を聞いて所長が優しく微笑む。
この人がこうやって笑っていると、私はなんだか嬉しくなってしまう。




「ああ、お前に頼みたいことがあるんだ。
 俺の代わりにとあるお婆さんの護衛をして欲しい。
 お前の持っている能力と技術は攻撃よりは防御に向いているからな。
 明後日から開店する新しいデパートのオープン記念式典でその人の近くに居て欲しい。
 これが向こうから渡された書類。
 あの人も警備会社を運営してたはずなのだけどねえ。」
「お知り合いなんですか?」
「まあちょっとね。親戚関係っつーか。」

書類に目を通してみる。
駅前に新しくオープンするデパート、河伯製薬の系列なのか。
地域に密着した新時代のデパートねえ。
……え?
親戚関係?

「どうした、そんな驚いた顔するなよ。」
「そんなこといったって橙、河伯っていったらこの町で有名なお金持ちじゃん!
 なんでそんなところと所長が親戚なんです?」
「俺、実は良いところのぼっちゃんだったんだ。
 実家にはまだ使用人が何人か居てさ、親父は暇してるからって道場開いて子供に居合いとか剣道とか無料で教えてるんだぜ。
 大学合格したから外車買って貰ってねえ、お前も乗ってるじゃん。あのポルシェ。
 気に入ってたから何度も修理して中身なんか別物だけどね。
 ああ、本家じゃなくてちょっと離れた所だからね、ちなみに。」

聞いてなかった……。
そう言われてみればなんかこう浮世離れしてるとは思ってたけど……。
ええい、なんで所長みたいな人にこの世の幸が集まるんだ!




「まあ、都市伝説の力を得て調子に乗った所で、親父にボコボコにされて勘当喰らったけどな。」
「当時のアレは調子に乗ってたとかいうレベルじゃなかったよな。」
「その……なんだ。まあ、その通りだ。」

所長は過去のある男だったのか。
今は優しいけど実はとんでもなくやんちゃだったのかな。
ちょっと気になるけど詮索するのは嫌われるし止めておこう。

「良いか霙、都市伝説の力を自分の感情だけに任せて使ってはいけないぞ。
 人間の手でしてしまえること以上のことを、一時の感情に身を任せてしてしまえるんだからな。」
「へ?は、はぁ……」
「その場のテンションって本当に怖いよね。」
「ああ……。」

二人ともなんか変である。
なんだろう、余程のことがあったのだろうか。

「とりあえずだ、お前は俺の代わりに仕事に行くんだ。
 俺が仕事している時の姿勢以上にしっかり真面目にやること。」
「こう言う時って同じくらいっていうんじゃないですか?」
「馬鹿、同じくらいだったら宣伝にならないだろ。
 俺の代理が俺以上に頑張れば俺はもっと真面目で立派な人って思われるかも知れない。」
「上田、お前って奴は……」
「細かいこと言うなよレモン、大丈夫だ。こいつならきっとやれる。」

そう言って所長は私の頭を撫でる。
ああ、私はまだがんばれそうだ。
【不思議少女シルバームーン~第三話 第三章「悪夢と平行する日常」~fin】



【不思議少女シルバームーン~第三話 第四章「魔法少女と少年の悪夢」~】


「え、なぁにここ?」

おばあちゃまから教えて貰った魔法で私は昴の夢の中に入り込んでいた。
まあ他人の夢に入るのは初めてだったとはいえ天才である私には簡単なことだ。
それでも私がそんなことを言ってしまったのはそれが訳の解らなすぎる光景だったからであって……。

「”$%#”%”$”#%”!!!」
「いや、あのすいません何を言っているのか……」

男の人が私に銃を向けている。
泣き叫ぶ子供、死んだような目で倒れている女性、名状し難い肉片と化したダレカサン。
燃える家屋、崩れる病院、教会のマリア像は右肩が吹き飛んでいる。
そういえばニュースでやっている戦争ってこんな感じだったかもしれない。

「&#%”$#”&%$’$#!!」

私がポケットに手を伸ばした瞬間、真っ白な光の束が見えた。





次に私が気付くと太った人々が酒を飲んで美味しそうな料理を食べて笑っていた。

「おい、今日の余興はまだか?」
「もうすぐ始まるよ、そんなに焦れるな。」

今度は言葉がわかる。
何故だか解らないが怖い。
見たくない。
ドアが開く。
テーブルの上に人が磔にされた状態で運ばれてくる。
この人はやせ細っていて、眠っている。
この人を運んできた少年が金槌を取り出した。

「今日は何本だと思う?」
「俺は十本。」
「じゃあ俺三本。」
「私は十二本にさせていただこうかしら。」
「三十本超えると見たね。」

何をするのだろう?
金槌を持った少年が眠っている人に向けて振り下ろす。

「貴方たち何をやっているの!?」

私は叫ぶ。
でも声は届かない。




痛みに震える声が聞こえた。命を乞う声が聞こえた。
眠っていた人の声はあのお酒と料理を楽しんでいる人々に届いている。
でも、それを聞いてみんな笑っている。
少年がもう一度槌を振り下ろす。
助けてとその人は叫ぶ。
その声は笑い声に掻き消される。
何を目的にこんな事をしているのか理解出来ない。
少年が真っ青な顔で震えている。
太った男が少年にもう一度金槌を振り下ろせと命令する。
叫んでも私の声は聞こえない。
少年は逃げ出す。
少年は大柄な男に捉えられる。
裸にされてテーブルに縛り付けられる少年。
いやだ、もう嫌だ。

「我々正義の勝利を祝って!」

別の少年が少年に金槌を振り下ろした。
叫び声の中で私の意識は途切れた。





「おっっしゃああああ!これキス!これキスしかないですよねヨツバさん!」
「馬鹿は休み休み言いなさい。」
「眠っているお姫様を起こすのはキスしかないでしょ!」

――――乙女の危機!?

「いやまあそれは解るんだけどさ……。
 私たちどっちかって言うと眠らせる側だから……。」
「ヨツバさん、女性は皆、運命の男性(ナイト)を待つお姫様だと思うんですよ。
 いや僕の勝手な持論ですけど。」
「あんた本当に遠慮とか無くなったわよね。まあ良いけど。」
「良いんですね!お婆さま公認なんですね!」
「いや違うから、そっちの良いじゃないから。」
「じゃあABCD通り越してのEなんですか!?
 ていうかDの向こう側のEってなんですか!?
 もうあれですね、そこまでやったら結婚するしかないですね!」
「ABC知ってるとかあんた幾つなのさ。本当に小学生?
 ていうかなにさDの向こう側って……。」
「ヨツバさん、実は僕……むしろ貴方と向こう側に行ってみたいんです……。」
「あらあら、あまり年上の女性をからかうもんじゃないよ。」

――――グロ注意!?
今何か“ポッ”とかいう古典的な効果音が聞こえた!
自分の祖母が頬を赤らめるシーンとか想像したくない!




「頼むから止めて!」

私は飛び起きた。

「あっ、起きた。」
「あらあらうふふ。自力で起きられたのね。どうせ魔法は失敗してたんでしょ?」
「二人とも人が寝ている間に何やろうとしてたの!?」
「そこに男と女が居るんだ、語ることはたった一つ。」
「おばあちゃんちょっと青春しちゃったゾ☆」
「僕は思うんだ、愛に年齢はkkkkkkkkkkk」

私は思いきり昴を殴り飛ばした。
漫画のように昴は私の家の屋根を突き抜けて遠くの夕星になってしまった。

「お婆ちゃんの不潔!うわあああああん!」

私はとりあえず自室に引きこもった。
先ほどまで見た夢の意味も記憶も深く閉じ込めて。
現実という表層に浮かぶ些末なことばかりに意識を飛ばして。
【不思議少女シルバームーン~第三話 第四章「魔法少女と少年の悪夢」~fin】



【不思議少女シルバームーン~第三話 第五章「少年と中華料理」~】

「っつー訳よ、おっちゃん。」
「なるほどねー。夢の世界で化け物までファックとかマジ歪み無いな昴くん。」
「と言うわけで今日は激辛麻婆豆腐お願い。あれ食べるの辛いんだけど美味いのよね。」
「任せな。」
「店主殿、今日はもうよござんすか?」

僕は何時も通り、事件の顛末を彼誰飯店の店主に語っていた。
店主は満足そうに頷いて麻婆豆腐を作り始める。
そんな時、狐面の男が屋台の中に入り込んできた。

「おや、狐さん。予約してた品なら入っているよ。」
「それは重畳。」
「それにしてもこの頃の狐はあぶらげじゃなくて……。」

おっちゃんが金属の箱の中からフカヒレの姿煮を取り出す。
狐面の男はにやあと笑って面をわずかにずらしてそれを食べ始めた。

「フカヒレを好むのだね。酒を忘れてるよ。」
「いえいえ、あっしは酒は断とうと思いやしてね。」
「そりゃあ珍しい、明日には槍でも降るんじゃないか?」

狐面の男はフカヒレをパクパクと食べている。
それはあっという間に皿から無くなった。



「それじゃあ、あっしのこわぁい話をさせて頂きやしょうか。」
「良し来た。」
「皆さんは何故この世界に都市伝説などと言う摩訶不思議な物が生まれたかご存じでございやしょうか?
 まあ多くの方々は知らないでしょうねい。
 都市伝説って呼び方じゃなくても良いなら化外とでも呼びやしょうか。
 日本の江戸時代は妖怪なんて呼んでいやしたし……。」
「狐さん、先に言っておくが講釈は良いけどあまり脱線するなよ。」
「こりゃあ失礼。
 まあ何が言いたいかというと、化け物なんてものもですね、
 元を辿れば闇に恐怖した人類が闇を切り分けるために生み出した説明装置なんでございやす。
 それが一人歩きして、魔物となった。
 神も悪魔もありゃあしやせん、全ての源は畏怖や恐怖の感情でございやす。
 全部は装置、人間様のための存在、都合の良い道具でございやした。
 ところが闇を切り分け色(キャラ)を付けて人が恐れぬようにしたらですね、闇と人との関係性が少し変わってきた。
 人が恐れをうしない、闇を本当に光で照らしてなくそうとしてしまったんでございやす。
 しかしまあ消え去った闇は人々の中に薄く薄く広まりやしてね。
 それぞれ各個人がそれを抱えねば生きていけぬ世の中になったのでございやす。
 かつて妖怪とか都市伝説と呼ばれた物は抜け殻のようなキャラクター性のみが残りただただ愛すべき隣人になりはてたと。
 恐れるべきだったそれは愛すべき隣人に。
 一方で同じ種族である筈の人間の中に、人に牙剥く真の闇が渦巻く。
 すべてがあべこべでございやす。
 ねえ店主、恐ろしいとはおもいやせんか?」

やべえ、この狐は憑きもの落としかもしれねえ。
もしかして陰陽師とかの仕事してる方だろうか?




「ふむ、恐ろしいねえ。」
「でござんしょ?」
「はい、麻婆豆腐定食だよ。」
「いっただっきまーす!」
「おやおやぼっちゃんはそんなもの食べるのかい。」
「だって美味いじゃん。おっちゃんフカヒレ分けろよ。」
「それはぼっちゃんが大人になってからにしなさいな。」
「ちぇー」

その時、屋台に見たことのない女性が入ってくる。
険しい表情をしている。

「チャーハンを一つ。」

そう言って女性は席に着く。
おっちゃんはラードをたっぷり引いたフライパンの中に少し固めになった米を入れ、更にそこへ茸のスープを注ぐ。
そして卵を絡めて葱を入れて、タッパの中に入れてあったらしい煮豚を細かく切った物をフライパンに入れる。
女性の前に黄金色に輝き、白い湯気を纏った炒飯が現れる。

「……やはり。」

チャーハンを食べた女性が呟く。
一体何だというのだろうか。

「やはり貴方!貴方は暗殺料理人教団『黒龍会』の生き残りね!
 私の名前はリン・チェレン、貴方たちとの料理対決で破れた王宮料理人の孫よ!」

うわー、やばい人来ちゃったよー。
この店は何でまともな人が来ないんだろう。
この前のスナイパーライフル背負ったお姉ちゃんとかさ……。




「ふむ……。」

店主のおっちゃんも困った顔をしている。
狐さんはにやにや笑っていた。

「確かに、私は黒龍会の料理人に料理を習った。
 その意味では黒龍会の志を継ぐ者と言っても差し支えはない。」
「やはり!私の父と仲間達が貴方たちは倒した筈なのに!」

えー…………、店主さん何言ってるんですか?
そんな電波女追っ払ってくださいよ……。

「やはり……!ならば私は貴方に料理勝負を申し込みます!」
「どうだろうな?決着はもうついていると思うが……。」
「え?」
「君の呼吸音、脈拍、筋肉の緊張具合、全てを観察していれば解る。
 君が私に対して何らかの敵意を持っているくらいのことはね。
 私とて師に料理は凶器であると教わった人間だ。
 そのような客をもてなす手法くらいはわきまえている。」
「――――う゛っ!?」

電波女はその場で気絶した。
一体何が起きたのだろうか。





「一部の茸には強烈な幻覚作用がある。
 また、ある種の化学調味料にも人間の神経を麻痺させる機能があるそうだよ。
 今頃彼女は良い夢見ているんじゃないかな?
 料理は凶器なんて俺の師匠は言っていたがね、料理は夢さ。
 さて、こいつがまた起きると面倒だ。
 今日は店じまい、少年も丁度飯を食い終わったところだしね。」

店主は屋台を片付け始める。
僕も丁度食べ終わったところだったから別に良かったのだが……。
マジこの店主何者だよ……。
絶対インテル入ってるよ……。

「それじゃあ、あっしは面白い見せ物がみれやしたから。
 こんなところで帰らせて頂きやしょうかね。
 そこな少年、縁が合ったらまた会いやしょう。
 あ、支払いはクレジットカードで。ビザで。」
「あいよ。」

しかもビザ!?
公共料金どころか屋台でも使えるの!?
それにしてもここは通えば通うほど謎の深まる中華料理店だ……。
そんなことがあった日の翌日、事件は起きた。

【不思議少女シルバームーン~第三話 第五章「少年と中華料理」~】

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