“獣の王様 第三話「無垢な翼」”
「モンゴリアンデスワームの契約者か。」
「かなりの人数を襲っているが殺害した数は驚くほど少ないな。
金品を奪い取っているところから見ると金目当てか?
足がつかないように日本中で事件を起こしているのが巧妙だな。」
「被害者が記憶を失っているのも気になります。」
「一度調査に向かった黒服は死亡していますね。」
「報告によれば女性とあるな。」
「ええ、しかしプロファイリングでは何度やっても男性に……」
「気絶した被害者から財布を抜き取ってる少女を見たんだろう?」
「ええ。」
「かなりの人数を襲っているが殺害した数は驚くほど少ないな。
金品を奪い取っているところから見ると金目当てか?
足がつかないように日本中で事件を起こしているのが巧妙だな。」
「被害者が記憶を失っているのも気になります。」
「一度調査に向かった黒服は死亡していますね。」
「報告によれば女性とあるな。」
「ええ、しかしプロファイリングでは何度やっても男性に……」
「気絶した被害者から財布を抜き取ってる少女を見たんだろう?」
「ええ。」
組織の情報戦略室。
そこでは都市伝説犯罪者に対する対策や、その特定の為の調査が行われていた。
そこでは都市伝説犯罪者に対する対策や、その特定の為の調査が行われていた。
「あーあ!予知系の都市伝説があれば楽なのにな!」
「K-No.が所有してるって噂は聞きましたね。
あとF-No.がラプラスの悪魔を入手するために不穏な動きをしているとか。
どちらも噂ですけど。」
「まあ有ったところで私たちに貸し出してくれるとは思えません。
この組織だって一枚岩では無いわけですから。」
「くそっ!めんどうくせえなあ!」
「K-No.が所有してるって噂は聞きましたね。
あとF-No.がラプラスの悪魔を入手するために不穏な動きをしているとか。
どちらも噂ですけど。」
「まあ有ったところで私たちに貸し出してくれるとは思えません。
この組織だって一枚岩では無いわけですから。」
「くそっ!めんどうくせえなあ!」
黒服の一人がいらだったように壁を叩く。
まだ改革が行われる前の組織である。
幹部同士の対立などで業務が完全であるとは言い難かった。
まだ改革が行われる前の組織である。
幹部同士の対立などで業務が完全であるとは言い難かった。
骨ごと噛み砕く。骨髄の練れた味が舌の上で躍る。
肉汁が迸る。とろけて口十二支見込んでいく。
ほどよく焦げてパリッとした表面から放たれるハーブの香りが鼻腔を刺激する。
七雲ハーベスターレストランの名物、グリルハーブチキンである。
肉汁が迸る。とろけて口十二支見込んでいく。
ほどよく焦げてパリッとした表面から放たれるハーブの香りが鼻腔を刺激する。
七雲ハーベスターレストランの名物、グリルハーブチキンである。
「あー、うめー!旅に出て良かったー!」
モンゴリアンデスワームの契約者――只野凱空――は組織からの追っ手を回避しつつ優雅な旅に出てた。
特に目的はない。
強いて言えば誰かを不幸にすることのみ。
他人を不幸にしている時と美味しい物を食べている時だけが彼にとって満たされる時間だった。
驚くほどの勢いで食べまくる彼の眼に幸せな観光客の姿がちらほらと写りこむ。
特に目的はない。
強いて言えば誰かを不幸にすることのみ。
他人を不幸にしている時と美味しい物を食べている時だけが彼にとって満たされる時間だった。
驚くほどの勢いで食べまくる彼の眼に幸せな観光客の姿がちらほらと写りこむ。
「……あれも食べ頃かな。」
他人の幸せを食い荒らす。
中々悪くない趣味だ、と彼は自嘲気味に笑ってみせる。
だが今食べている食事のように、あんな幸せそうな顔をした人達を食い物にできたら、
今食べている食事のように、それはそれは甘美な味であろう。
彼はそう思って幸せそうに破顔した。
中々悪くない趣味だ、と彼は自嘲気味に笑ってみせる。
だが今食べている食事のように、あんな幸せそうな顔をした人達を食い物にできたら、
今食べている食事のように、それはそれは甘美な味であろう。
彼はそう思って幸せそうに破顔した。
「お客様申し訳ございません。相席をお願いしてよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。」
「構いませんよ。」
七雲ハーベスターレストランはそこそこ人気の店である。
立地条件は最悪なのだが町中から観光客でもない地元の人間までわざわざ食べに来るほどだ。
だから何時混み合ったところでそれはさして不思議なことではない。
立地条件は最悪なのだが町中から観光客でもない地元の人間までわざわざ食べに来るほどだ。
だから何時混み合ったところでそれはさして不思議なことではない。
「ありがとうございます。お客様、それではこちらへどうぞ。」
「前失礼しますね。」
「前失礼しますね。」
彼の目の前に座ったのは高校生くらいの少年。
いや、老けて見えるだけで実際は中学生といった所だろう。
何か全てがどうでも良いと思っていそうな雰囲気を持つ少年だった。
少年は凱空と同じグリルハーブチキンを上品そうに食べている。
いや、老けて見えるだけで実際は中学生といった所だろう。
何か全てがどうでも良いと思っていそうな雰囲気を持つ少年だった。
少年は凱空と同じグリルハーブチキンを上品そうに食べている。
「観光かい?」
妄想を邪魔された不愉快な気持ちを凱空は完全に忘れていた。
それくらい強く凱空は彼に興味を持ったのだ。
面白いくらい虚ろな眼をしていたから。
このレストランで血まみれにあげる最初の一人にしようかとも思ったのだ。
それくらい強く凱空は彼に興味を持ったのだ。
面白いくらい虚ろな眼をしていたから。
このレストランで血まみれにあげる最初の一人にしようかとも思ったのだ。
「ええ。卒業旅行で。」
「ほう。高校生?中学生?」
「中学生です。」
「一人で来たのかい。」
「ええ、一人で旅をしてみたかったので。」
「ほう。高校生?中学生?」
「中学生です。」
「一人で来たのかい。」
「ええ、一人で旅をしてみたかったので。」
興味なさげに少年は答える。
最低限返事しているだけ、そんな風である。
最低限返事しているだけ、そんな風である。
「僕も一人旅なんだよ。」
「さいですか。」
「うん、丁度仕事を辞めてきたところでね。」
「へー……。」
「これからは独立して自分がやりがいをもって出来る仕事をやろうかなーって。
まあ所謂脱サラって奴さ。」
「何やるんです?」
「それはまだ秘密かな。」
「俺は中学卒業手前で女性関係でちょっとやらかしちゃってですね。
彼女も友達も夢も希望も理想も諸々一切なくしてしまった訳ですよ。」
「不幸だね。」
「ええ、不幸です。その時のどたばたで片目の視力持ってかれましたよ。」
「君、この年でどれだけハードな人生を送っているんだい?」
「不幸なんですよ。」
「さいですか。」
「うん、丁度仕事を辞めてきたところでね。」
「へー……。」
「これからは独立して自分がやりがいをもって出来る仕事をやろうかなーって。
まあ所謂脱サラって奴さ。」
「何やるんです?」
「それはまだ秘密かな。」
「俺は中学卒業手前で女性関係でちょっとやらかしちゃってですね。
彼女も友達も夢も希望も理想も諸々一切なくしてしまった訳ですよ。」
「不幸だね。」
「ええ、不幸です。その時のどたばたで片目の視力持ってかれましたよ。」
「君、この年でどれだけハードな人生を送っているんだい?」
「不幸なんですよ。」
その少年の言葉を聞いて、只野凱空は“悪意”を折られた。
手を出すまでもなくこの人間は今どん底であると彼は確信したのだ。
恐らく彼はこれからも不幸に生きて行くに違いないと、確信したのだ。
手を出すまでもなくこの人間は今どん底であると彼は確信したのだ。
恐らく彼はこれからも不幸に生きて行くに違いないと、確信したのだ。
「人間って幸せになるために生まれたモンじゃないんですかね?
人間って素晴らしい生き物で、どこにでも夢とか希望ってあるんじゃないですかね?」
人間って素晴らしい生き物で、どこにでも夢とか希望ってあるんじゃないですかね?」
タマネギをフライにした物にケチャップをたっぷり付けながら少年は乾いた笑い声を漏らす。
「君は今どう思ってるんだ?」
「俺は……、俺は人間って素晴らしい物だと思ってます。
夢も、可能性も、才能も、良いものが全て詰まっていると思います。
でもね……、でも……。」
「でも、なんだい?」
「自分自身を振り返ってみるとそう思えないんですよ。
良いことをしても悪いことをしても何かこうひたすら乾いている感じっていうか。
周りの人間が一生懸命に“今”を生きていることは手に取るように解るのに。
さっき夢を無くしたって言いましたけど、その夢だって本当に心から願っていた夢なのか解らない。」
「じゃあなんで人間の性が善たりうると思うんだ?」
「そう教えられたからです。」
「それを信じるのかい?」
「ジョン=ロックだかが人間の性は善でも悪でもなく、
そのスタートにおいては白紙であると言っていたそうです。」
「へー、俺そのジョンレノンだかロッキーだかってのは知らないけどそうなのかい?」
「まあこれが一番しっくり来ると思ってました。」
「思ってたんなら良いだろう。」
「……いや、善に染まりきっていたと思っていた人間が真っ黒だったりすることだってあるじゃないですか。」
「ふむ。そんなことがあったのかい。」
「ええ、裏切られた気分です。」
「俺は……、俺は人間って素晴らしい物だと思ってます。
夢も、可能性も、才能も、良いものが全て詰まっていると思います。
でもね……、でも……。」
「でも、なんだい?」
「自分自身を振り返ってみるとそう思えないんですよ。
良いことをしても悪いことをしても何かこうひたすら乾いている感じっていうか。
周りの人間が一生懸命に“今”を生きていることは手に取るように解るのに。
さっき夢を無くしたって言いましたけど、その夢だって本当に心から願っていた夢なのか解らない。」
「じゃあなんで人間の性が善たりうると思うんだ?」
「そう教えられたからです。」
「それを信じるのかい?」
「ジョン=ロックだかが人間の性は善でも悪でもなく、
そのスタートにおいては白紙であると言っていたそうです。」
「へー、俺そのジョンレノンだかロッキーだかってのは知らないけどそうなのかい?」
「まあこれが一番しっくり来ると思ってました。」
「思ってたんなら良いだろう。」
「……いや、善に染まりきっていたと思っていた人間が真っ黒だったりすることだってあるじゃないですか。」
「ふむ。そんなことがあったのかい。」
「ええ、裏切られた気分です。」
凱空はにやりと笑った。
面白い。
この少年こそが白紙ではないか。
しかも只の白紙ではない。
善たることにも悪たることにも意味を見いだせないで居る白紙。
紙とは書かれた情報によって価値が決まるのに、彼は白紙を貫いている。
少年の純粋さは聖杯を手に入れた騎士を凱空に思い出させた。
実は、彼のもう一つの趣味は観劇だったりする。
面白い。
この少年こそが白紙ではないか。
しかも只の白紙ではない。
善たることにも悪たることにも意味を見いだせないで居る白紙。
紙とは書かれた情報によって価値が決まるのに、彼は白紙を貫いている。
少年の純粋さは聖杯を手に入れた騎士を凱空に思い出させた。
実は、彼のもう一つの趣味は観劇だったりする。
「人間の性はね、悪だよ。」
「?」
「君もまた悪だ。」
「そうかもしれません。悪なのかと思って悪いことを積極的にしてみたこともありました。」
「良いんだよ、そういうことはしなくて。
人間って言うのはね、生きているだけで悪で、呼吸しているだけで不幸なんだから。
善良の仮面を被りながらもその内には誰しも異形を飼っている。
それで良いんだよ。
不幸に生まれ、夢見心地で生きて、絶望して死ぬ。
それが人間だ。
そのことを自覚せずに他人に迷惑をかけて生き続けている。
人間とは悪だ。」
「ここにただこうしているだけで?」
「うん、だから開き直りたまえよ。」
「開き直る?」
「この世は舞台、人は皆役者、一炊の夢が覚めるまで、精々良い役を演じればいい。
他人なんて自分のための脇役だと思いたまえ。
僕も脇役だ。君という主人公に何かを伝えるために出てきた脇役だ。」
「……お兄さん面白いですね。」
「賛辞として受け取っておこう。」
「なんか少しすっきりしました。それじゃあ俺はもう行きます。」
「何処に?」
「幕は上がりました。これからは俺が主演です。」
「他人の犠牲の上に成り立つ君の花道を僕は祝福する。」
「ありがとうございます。」
「?」
「君もまた悪だ。」
「そうかもしれません。悪なのかと思って悪いことを積極的にしてみたこともありました。」
「良いんだよ、そういうことはしなくて。
人間って言うのはね、生きているだけで悪で、呼吸しているだけで不幸なんだから。
善良の仮面を被りながらもその内には誰しも異形を飼っている。
それで良いんだよ。
不幸に生まれ、夢見心地で生きて、絶望して死ぬ。
それが人間だ。
そのことを自覚せずに他人に迷惑をかけて生き続けている。
人間とは悪だ。」
「ここにただこうしているだけで?」
「うん、だから開き直りたまえよ。」
「開き直る?」
「この世は舞台、人は皆役者、一炊の夢が覚めるまで、精々良い役を演じればいい。
他人なんて自分のための脇役だと思いたまえ。
僕も脇役だ。君という主人公に何かを伝えるために出てきた脇役だ。」
「……お兄さん面白いですね。」
「賛辞として受け取っておこう。」
「なんか少しすっきりしました。それじゃあ俺はもう行きます。」
「何処に?」
「幕は上がりました。これからは俺が主演です。」
「他人の犠牲の上に成り立つ君の花道を僕は祝福する。」
「ありがとうございます。」
少年はシニカルな笑顔を彼に見せてレストランを出て行った。
彼はもう大丈夫だ。
きっとあの純粋な心のままに人々を不幸にし続けるに違いない。
凱空は確信した。
彼はもう大丈夫だ。
きっとあの純粋な心のままに人々を不幸にし続けるに違いない。
凱空は確信した。
「しかし女性関係か。」
凱空は思案する。
女性の何が良いのだろう。
あんな物気持ち悪いだけではないか。
確かに喰う時には男性より幾分マシだがそれ以上の価値なんて無い。
女性関係でしくじるほど女性が好きという人格が彼には理解出来ない。
女性の何が良いのだろう。
あんな物気持ち悪いだけではないか。
確かに喰う時には男性より幾分マシだがそれ以上の価値なんて無い。
女性関係でしくじるほど女性が好きという人格が彼には理解出来ない。
「……母親を求めているのか?」
それならば彼にも理解出来なくはない。
そういった男性が多いことは彼も知っている。
彼自身は両親と疎遠なのだが。
そういった男性が多いことは彼も知っている。
彼自身は両親と疎遠なのだが。
「もっと単純に生殖本能?」
あるいはそうなのかもしれない。
何やらあまり長く生きられなさそうな顔をしていた。
あれ程純粋な心を持っているならば長ずるにつれて社会を折り合いを付けられなくなるだろう。
ならば生物種として早熟なのかもしれない。
また、多くの子孫を残そうとするのかも知れない。
何やらあまり長く生きられなさそうな顔をしていた。
あれ程純粋な心を持っているならば長ずるにつれて社会を折り合いを付けられなくなるだろう。
ならば生物種として早熟なのかもしれない。
また、多くの子孫を残そうとするのかも知れない。
「まあ、良いか。」
どうでもいい。
自分が彼に為すべき事は終わったのだ。
悪意を振りまく。
自身が死んだところであの少年が彼の短い生の中で純粋な気持ちのまま痛みを振りまく。
自身の悪意は終わらない。凱空はその事実に満足していた。
自分が彼に為すべき事は終わったのだ。
悪意を振りまく。
自身が死んだところであの少年が彼の短い生の中で純粋な気持ちのまま痛みを振りまく。
自身の悪意は終わらない。凱空はその事実に満足していた。
「しかしまああれだな……」
性欲がない自分。
こういう存在は増えてはならないと言うことか。
増えては種の存続を脅かすとでも言うのか。
しかし食欲だけはある。
死ねと言うことではないのだろう。
こういう存在は増えてはならないと言うことか。
増えては種の存続を脅かすとでも言うのか。
しかし食欲だけはある。
死ねと言うことではないのだろう。
「俺は人を不幸にするためにたった一人で生まれて、たった一人で死ぬのかな?」
良く解らないまま生まれて良く解らないまま死ぬ大多数の人間に比べれば……
「幸福じゃないか、まったく良い役だ。」
彼はひとりごちて笑った。
数日後、只野凱空は学校町と彼の故郷との間にある大きな都市にたどり着く。
そこで何が彼を待っているのか。
彼はまだ知らない。
数日後、只野凱空は学校町と彼の故郷との間にある大きな都市にたどり着く。
そこで何が彼を待っているのか。
彼はまだ知らない。
“獣の王様 第三話「無垢な翼」 続”