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連載 - 我が願いに踊れ贄共・万能の魔法使い・過去-02

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だれでも歓迎! 編集
 泣いて欲しくなかった
 そう思ったのが、恐らくはキッカケだった


 泣いている声がして、目がさめた
 泣き喚いている声では、ない
 静かに、静かに、声を押し殺して泣いている
 それでも、気付いてしまった
 むくり、上半身を起こす
 傍らにおいていたヌイグルミを引き寄せていると、姉が、こちらが起き上がった事に、気付いた

「ぁ……ご、御免なさい。起こした…?」
「いや、大丈夫だ…それより、セシリア。どうして泣いてるんだ?」

 理由は、何となく察していた
 だが、間違っていたら嫌だから、尋ねる

「……っだ、大丈夫、な、何でも、ないから」

 ぐしぐしと涙をぬぐい、姉はそう言ってきた
 ……嘘つき
 ヘタクソな、嘘

「当てようか?何故、泣いてたのか」
「………っ」

 姉が、耳をふさいだ
 聞きたくないとでも言うように
 それでも、構わず告げる

「俺が死ぬ、って言われたからだろ」
「……ち、違う」

 いやいや、と否定するように、姉が首を左右に振る
 その理由がわからずに、続ける

「…ここまで生きられたのが、奇跡、もう、いつ死んでもおかしくない。俺は、そう言う状態だから」
「ちが、う。違う、違うの…」
「セシリア」

 姉の頬に、手を伸ばす
 触れた頬は、温かく、濡れている
 よく見れば、目が腫れているようだった……どれだけ、泣き続けたのだろうか

「いいよ。もう、泣かなくとも。死ぬのは嫌だけど、そうなるのなら、仕方ないし」
「っいや、嫌!!そんな事を言わないで!!」

 ぼろ、と
 再び……姉の目から、涙がこぼれ出し始めた
 ぎゅう、とこちらの体を抱きしめてくる

「…セシリア?」
「嫌、嫌、お願い、そんな事言わないで…………………が、死ぬなんて、嫌。私を一人にしないで…」
「父さんと母さんがいるだろ。セシリアには、俺と違って友達だってたくさんいる。一人になんてならないぞ」
「でも!……でも、弟は、あなたしかいないの。あなたは、この世でたった一人の、私の双子の弟なの」

 泣きながら、姉は訴え続ける
 こちらを抱きしめてくる体は、小さく震えていた

 嫌だ、と

「…何で」

 姉が、我侭を言っている

「どうして……俺が、我慢したのに。セシリアが、我侭言うんだよ」

 姉が、我侭を言っているところなんて…初めて、見たような気がした

「だって、だって……嫌、嫌………どうして、こうなっちゃうの?私達、双子なのに。一緒に生まれたのに。どうして、あなただけ……」

 姉に、泣いて欲しくなかった
 もうこれ以上、泣いて欲しくなかった

 なのに…自分は、一度泣き止んだ姉を、また泣かせてしまった

 ……自分が、魔法使いだったら、良いのに
 涙を止める魔法を使えたら、良かったのに

 姉は、いくつか簡単な魔法が使える
 物語を読むことで、神々の世界を夢見る魔法を
 友達を生み出す魔法だって使える
 ヌイグルミをつくり、それをこちらの友達に、と与えてくれた
 ヌイグルミ…いや、違う
 このクヌートは、自分にとって、生まれて初めての友達だ
 ……最後に、星を降らせる魔法
 星に触れたい、手に入れたいと我侭を言った自分の為に、星を作り上げて降らせてくれた

 …姉は魔法使いなのだ
 自分にとって、姉は自分の為に魔法を使ってくれる、最高の魔法使い

 その、姉の為に
 自分も、魔法を使えたら
 せめて、この涙を止める魔法だけでも、使えたら……

 だが、自分には魔法は仕えない
 自分は、魔法使いではないから

 だから、泣き続ける姉の涙を止める事ができずに
 ただ、鳴き続ける姉を、見ていることしか出来なかった



 ……結局
 姉は、両親に部屋から連れ出されてしまった
 その間も、姉はずっと泣いたままだった

「…クヌート、どうして、俺は魔法使いじゃないんだろうな。セシリアとは、双子なのに」

 クヌートを手にもち、尋ねる
 ゆらゆらと、クヌートの長い耳が揺れた

【うきゅきゅきゅきゅ。女の子は、皆、魔法使いなのさ。女の子は誰だって、魔法を使える才能があるんだよ】

 クヌートは、姉が、自分の友達に、とくれたのだ
 だから、喋れる
 だが、自分にとっては友達だが、両親達や他の人間共にとって、クヌートはただのヌイグルミでしかない
 だから、自分の前や、姉がいる時だけしか、喋れない
 そう言う事になっている

「男には、魔法が使えないのか?」
【うきゅー!そんな事はないよ。男の人だって、魔法を使えるさ。だって、ルーンを見つけ出したのは、オーディン様なんだよ?オーディン様が使えたなら、男の人だって魔法を使えるさ!】
「じゃあ、俺も、魔法が使えるようになるのか?」
【できるさ!強く願えば、願い続ければ。必ず、魔法を使えるようになる。強く強く願い続ければ、必ず魔法使いになれるよ!】

 ゆらゆら、耳が揺れるたび、クヌートは愉快に喋る


 …本当は、わかっている
 耳が揺れるのは、自分が、クヌートを揺らしているから
 喋っている?
 違う
 そんなの、ただの妄想だ

 わかっている
 わかっている、けれど


「…願えば」

 強く願えば
 クヌートは、自分の友人
 必ず、動ける
 必ず、喋れる
 そう、願い続ければ
 もしかしたら……

「………っ」

 けほ、と小さく咳き込む
 口元に当てた手が……赤く、染まった

 このままだと、クヌートが汚れてしまう
 悪いとは思いつつ、その白い体をベッドの上に放り投げた

 げほげほ、げほげほと……咳が、止まらない
 その度、自分は血を吐き出し、あちこち血で汚してしまう

「……あぁ、くそ……」

 死ぬのか
 自分は、このまま死ぬのか


 嫌だ
 自分が死んだら、セシリアが泣く
 セシリアに泣いて欲しくない

 それに
 自分は、結局…このベッドから降りたことなど、ほとんどないじゃないか
 この部屋から出た事だって、ほとんどない
 この家から出た事なんて…一度もない

 そんなの、嫌だ
 籠の中の鳥と、一緒じゃないか
 それは、嫌だ
 自分は、もっと自由になりたい
 窓からいつも眺めていたあの鳥達のように、自由に、自由に、外へと出たい
 どこまでも、自由に飛んでいきたい

 このまま死ぬなんて、絶対に嫌だ!!!


「……魔法……」

 自分が、魔法を使う事が、できれば
 姉が語ってくれた物語に登場する、神々のように、魔法を使う事ができれば
 自分は、きっと、死なずにすむ
 こんな、すぐに病気になってばかりの体じゃない
 もっと丈夫な体になって、強くなって見せる

 魔法が使いたい
 魔法が欲しい
 魔法使いになりたい!!

 たとえ
 それによって、人間ではなくなるとしても
 自分は、魔法が遣いたい

 自由になりたい
 セシリアを泣かせたくない!!

「……クヌー、ト」

 自分が投げ出したヌイグルミに、声をかける
 クヌートは、動かない
 クヌートは、ヌイグルミでしかないから

「…今から、魔法を使う」

 血を吐き出しながら、言葉を紡ぎだす
 そんな事は無理だ
 わかっている
 わかっているが…最後の足掻きのように、口に出す

「お前は、今からヌイグルミではない……いや、以前から、ヌイグルミでは、なかった」

 魔法を
 魔法を、使おう

 自分は、魔法使いだ
 そう、強く願う
 この命の、最後の灯火を使ってでも
 強く、強く願う

「…お前は、クヌート。俺の使い魔であり、友人。セシリアがくれた、俺の友人だ!!」

 がはっ、と
 言葉を吐き出すと同時に、大量に吐血した
 苦しい
 体が、熱い
 火あぶりにでもされているような錯覚を覚える

「………うきゅー」

 どこからか
 声が、聞こえた

「うきゅぅ?……辛い?苦しい?……大丈夫?」

 そっと
 何かが、触れる
 それは、ヌイグルミの手

「………え」

 じっと
 こちらを見つめる、目

 クヌートが
 立ち上がり、こちらに……触れてきている

「うきゅ??」

 かくん、とクヌートが首をかしげた
 長い耳が、揺れる

「うきゅきゅきゅ?どうしたの?どうして、びっくりしてるの?……魔法を使って、僕を起こしてくれたのは、君なのに」

 姉に似た、でもどこか違う声
 姉がクヌートを演じていた時に使っていた、意図的に少し高くした声で、クヌートは喋る

「おめでとう!!魔法使いになれたんだね!初めて魔法を使えたお祝いをしなくちゃ!!」

 クヌートの言葉で、気付く

 ………あぁ、もう、自分は人間ではなくなったのだ、と
 この時、自分は気付いた
 自分は、魔法に飲み込まれて………魔法使いになったのだ、と







fin




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