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連載 - 我が願いに踊れ贄共・万能の魔法使い・過去-01

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 …ひら、ひらり、と
 その村に、漆黒の蝶が飛んできた
 群れをなしていたそれが一ヶ所に固まって、ぶかぶかのローブを着て、杖を持った若い男の姿へと変わる

 男は、ゆっくりと、辺りを見回した
 焼け焦げた臭いが、辺り一面に充満している中、男は、人間の腕が転がっているのを見つけた
 華奢な、白い腕
 恐らくは、まだ幼い少女のもの
 男は、その腕を無造作に拾い、とある崩れ落ちた家屋へと向かう

 杖を降った
 そこから、一つの、炭化した遺体が持ち上げられる
 崩れないよう慎重に、それはふわふわと移動させられて…男の足元に、ゆっくりと、落ちる
 その遺体には、片腕がなかった

 ぺい、と男はその腕を、遺体の傍らに落とす
 そして、もう一度杖を降った

「さぁ、思い出せ。お前がどんな姿をしていたのか。思い出すがいい、生きていた頃のお前の姿を」

 呪文のように紡がれる声
 …切り離されていた腕が、遺体に触れ合い……ピッタリと、くっついた
 炭化していた体が、みるみる、元の少女の姿へと戻っていく
 焼けてしまった服さえも、再生しているようだった

 ………カっ!!と
 少女の瞳が、見開かれ
 杖を持ったまま笑う男を、見上げた

 少女は、困惑する
 死んだはずの自分が、何故、今、「生きている」のか?
 切られた腕も、足の腱も……完全に、治っている
 目の前にいる男は………誰だ?

「何があった?」

 男が、少女に問い掛けてくる
 少女は、困惑したまま、男を見上げるだけだ
 …そもそも、この少女、口が利けないのだ
 話す事など、できるはずもない

「どうした?話せよ。思い出せないなら、思い出させてやろうか?」
「…………っで、も……………!?」

 声、が
 …自分の、口から
 声が、出た
 その事実に、少女は驚く

「どうした?」
「…声………どう、して」
「喋れないと、聞けないだろうがよ」

 少女に対し、あっさりと言い切ったその男
 生まれついて口を利けなかった少女に、この男は声すらも与えたというのか

「さぁ、話せ。何があったのか。思い出すがいい。お前がどうやって死んだのか」
「------っ」

 思い出したくなくとも、鮮明に蘇る記憶
 忌まわしいそれが、思考を支配する

 …父も、村の人たちも
 皆、死んでしまった
 皆、殺されてしまった
 そして、今…なぜか自分だけ、復活させられた

 自分達が、何をしたというのか
 何故、こんな目にあわなければならないのか

 少女の心に、憎悪が浮かび上がる

 少女は、男に話した
 ローブの一団の事も、何もかも

 男は、少女の言葉を聞いて………小さく、舌打ちした

「…先を越されたか」
「え……」
「あの剣は、俺様がもらうはずだったのに」

 あっさりと、言い切った男
 …この男も、アゾット剣を狙っていたのか
 ローブ姿から、あの一団との関連を疑い、少女は恐怖で固まる

「ん?あぁ、んな顔すんなよ。俺様は、この素敵な魔法で、代用品になるもんを渡してやるつもりだったんだぜ?」

 杖をゆらゆらさせる男
 その言葉が、本当かどうか、わからない
 少女は、ただ、恐怖だけを抱いてしまう
 そんな、少女に

「……ま、せっかくだ」

 男は
 どこか、残酷に笑った

「お前に、復讐のチャンスをやろうか?」

 その、言葉は
 まるで、悪魔の誘惑の言葉
 甘美な、どこまでも強い誘惑の言葉

 ………その、言葉に
 少女は、しばし視線を彷徨わせた後に


 こくり、と
 小さく、頷いてしまった




 ゾクリ、と
 真っ先にそれに気付いたのは、千里眼の契約者

「どうした?」
「…不味い、逃げろ!」

 千里眼の契約者は、叫ぶ
 無駄であろうと、半ば絶望的な気持ちを抱えながら

「あ、「アレ」が…………っ、災厄の魔法が、こっちに来るぞ!!」

 災厄の魔法
 関わるだけで不幸といわれる、最悪の存在
 それが…自分達の元に向かってきている!

 それに、千里眼の契約者は気付いて
 しかし、既に遅すぎた

「………え?」

 …剣、が
 己の心臓を、貫いている、現実
 それが、千里眼の契約者が最期に見た、光景だった

 どさり、倒れる千里眼の契約者
 デュランダルの契約者はデュランダルを抜き放ち、襲撃者を切り捨てる
 襲撃者は、それを避けきれずに、あっさりと切り捨てられ、胴体を真っ二つにする

「……な、に?」
「どうした?…………っ!!??」

 彼らは、目を疑った
 たった今、切り捨てられた襲撃者は……アゾット剣の契約者だった男の、娘だったから
 自分達が、足の腱を切り、腕を切り落とし……殺したはずの相手だったから
 それが、何故
 自由に歩き、腕まで元通りになって、自分達を襲撃してきたのだ?


「…何だ、もう終わりかよ?」


 響いた声
 見上げれば、漆黒の蝶を率いたローブを纏った男が、宙に腰掛けているのが見えた
 …災厄の魔法、カラミティ・ルーン
 それが、一同を見下ろして…

 いや、違う
 カラミティが見下ろしているのは、切り捨てられた、少女の方

「起き上がれよ、まだ、お前の復讐は終わってないぞ?」

 カラミティが、そう言い終わるや否や……少女の瞳に、生気が戻った
 がしりと己の胴体を掴み…くっつける
 すると、真っ二つになっていた胴体は、そのまま、元通りくっついて
 がば!と起き上がり…握っていた剣を、振るう

 ぱっ、と
 飛び散る、鮮血

「…っひ!?」

 デュランダルを持っていた、男の
 デュランダルを握っていた腕が………切り落とされた
 悲鳴をあげる間もなく、男はそのまま少女に切り殺される

 あの華奢な腕で、安々と、人間の胴体を切り裂いてきたのだ
 青かったはずの少女の瞳は、まるで復讐の炎に燃えているように、爛々と赤く輝いている

「っひ、ひぃ……!?」
「ば、化け物……!!」

 ホムンクルスの契約者が、ホムンクルス達を少女にけしかけた
 それを捨て駒に逃げようとして

「…な、何だ、これは…!?」

 しかし
 逃げることは、できない
 彼らは、何時の間にか真っ赤な光で囲まれていた
 四方八方、囲まれて…どこにも逃げ道は、ない

「ほぉら、逃げ道は、俺様が結界で塞いでやったぜぇ?さぁ、復讐を。お前を殺した連中に、お前の大切な奴らを殺した連中に、復讐してやりな!!」

 けたけたと笑っているカラミティ
 ローブの一団が切り殺されていく様子を、まるで舞台演劇でも見ているように見下ろしてくる

「いい切れ味だろぉ?そのアリーウスの剣は!!立ち会う者全てを切れるようにと注文された名剣だ!!お前の前に立ちふさがる連中、ぜぇんぶ切捨てちまいな!!」

 振るう、振るう、振るう
 剣を振るい続ける少女
 ホムンクルスが次々と切捨てられ、絶命していく

 リーダー格の男は、アゾット剣を手に、何とかここから逃げ出そうとした
 この力を使って、カラミティの結界を解除はできないか…!?

 必死に考えるリーダー格の男
 だが、そこに、冷たい声が降りる

「どうしたぁ?お前も復讐したいんじゃないのか?アゾットォ」

 カラミティが…アゾット剣に、語りかけている


 ------どくんっ、と


 手の中のアゾット剣が、脈打ったような錯覚を、男は覚える

「憎いだろ?殺してぇだろぉ?お前の大切な主を殺した連中を!!!許せねぇだろぉ、憎くて憎くて仕方ねぇだろぉ!?ほら、さっさと起き上がれよ、そいつを殺しちまえよ!!」
「な、何を…」

 カタ
 カタ、カタ、と
 アゾット剣が、震え出す

 アゾット剣の柄
 粉が治まっているはずの、そこから……何かが、飛び出てきた

「な………!?」

 それは、悪魔
 アゾット剣に宿っていると噂された、悪魔だ
 パラケルススは、いつも持ち歩いている短剣に、「アゾット」と言う悪魔を封印し、それを使役していた
 そんな伝説もまた、語られているのだ

 現れた悪魔は、アリーウスの剣を振るい、ホムンクルス契約者を切り捨てている、あの少女と同じ姿をしていた
 契約者が、最も愛した娘の姿をとったのだ

 アゾットは、リーダー格の男を睨みつける
 その目に浮かぶのは、涙
 大切な契約者を、その家族すらも殺され、村を奪われた憎悪を、アゾットはリーダー格の男に向ける

 無言のまま、アゾットは己の本体を男から奪い取り
 その男の心臓を……ざっくりと、貫いた
 あっさりと、男は絶命し、倒れる

 …しぃん、と辺りが静まり返る
 ローブ姿の一団は、全員、死んでしまった

 けれど
 憎悪は晴れない
 少女とアゾットの憎悪は、まだ終わらない

 それを、感じ取ったのだろう
 カラミティが、杖を振る

「さぁ、起き上がれ。思い出すがいい、お前達が生きていた姿を。今ひとたび、忘れるが良い。お前達がどうやって死んだのかを」

 杖が振られ、声が響き


「----が、はっ!?」
「う、ぐぁ…」
「…な…どうして…」


 ローブの一団が…起き上がった
 絶命したはずの命
 それらが、一瞬で蘇生させられたのだ

 蘇生させられた一同を見下ろし、カラミティが残酷に笑う

「ほらほらほらぁ、もう一度殺しやれよ。一度殺しただけじゃ、飽き足らないだろぉ?そんなんじゃあ、お前達の憎悪ははれないよなぁ!?安心しろ、お前達が満足するまで、何度でもそいつらを蘇らせてやる。そうして、何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも、お前達が満足するまで殺させてやるぜぇ!!」

 アリーウスの剣を構えた少女が
 己の本体を構えたアゾットが
 再び、一同に切りかかりはじめる

「ひ、ぎっ!?」
「ぎゃあああああああああああああああああっ!!??」

 絶叫が、怒号が、辺りを支配して
 その残虐な舞台を見下ろし、けらけら、けらけらと、カラミティは笑い続けていた




 夜が明けた時
 辺りは、一面、血で染まりあがっていた
 地の海の中に飛び散っている、男達の肉片
 何度も蘇させられ、何度も何度も殺された者達の慣れの果て
 内臓もバラバラにされて、元の原形を止めていない

 そして
 血塗れの少女と、アゾット
 からん、とアリーウスの剣を、手放して
 少女は、見下ろしてくるカラミティを見上げる

「………私を、殺してください」

 と
 少女はそう、カラミティに告げた

「なんでだ?俺様がせっかく蘇らせてやったのに」

 少女の言葉に、カラミティは不思議そうに首をかしげた
 悲しそうに微笑みながら、少女はカラミティに与えられた声で、続ける

「…みんな、死んでしまったのに。私だけが蘇って、生き続けるなんて…できない」
「アゾットがいるじゃん」

 つ、と杖でアゾットを指すカラミティ
 しかし、少女は首を横に振るだけだ

「……今の私は、歪な存在。しかも、血に塗れている。こんな私が生き続けて、良いはずがない」
「ふぅん」

 少女の言葉に、カラミティはあまり、興味を持っていないようだった
 死にたければ、死ねばいい
 そんな様子だ

 くるり
 少女は、アゾットに視線を向けた
 父親が契約していた都市伝説
 その中に眠っていた、悪魔
 はじめてであった、自分と同じ姿をとってきたアゾットに…少女は、申し訳なさそうに、笑った

「…御免ね、あなたを、護れなくて」
「……それは、こちらのセリフです…主を、貴方達を、私は救えなかった。何も出来なかったのですから……!」

 掌に爪が食い込むほど、アゾットは拳を握り締めている
 自分が、もっと早く、こうやって実体を現せるようになっていれば、あんな事にはならなかったのに!!
 後悔が、アゾットの心を支配していた
 そのアゾットに、少女は笑みを浮かべ、続ける

「……あなたは生きてね、アゾット。あなたには、色んな人を笑顔に出来る力が…色んな人を救える力が、あるんだから」

 さよなら、と
 そう、告げて
 少女は、カラミティの前に、一歩、歩み寄る

「さぁ、殺して」
「ま、お前がそうしてほしいんなら、殺してやるけど」

 つまらなそうに、カラミティは言って
 つい、と杖を振る

「さぁ、思い出せ…お前が、どうやって死んだのか」

 少女が、目を閉じる
 すると…ぼとり
 少女の片腕が、落ちた
 そして、落ちた片腕以外の部分が……黒く、焼け焦げていく
 まるで、初めにカラミティが発見した時と同じように、黒く、黒く、黒く

 ほんの、数秒の間に
 少女は、焼死体に、戻ってしまった
 …元在るべき姿へと、戻ったのだ

「…で?お前はどうするんだ?アゾット」
「………私は」

 アゾットは、物言わぬ屍に戻ってしまった少女を、悲しげに見つめた
 しばし、思考をめぐらせた後………カラミティを、見上げる

「…私、は。お前に従おう」
「へぇ?俺様の使い魔になろうってか?」
「そうだ……だから。どうか。私の願いを、叶えてくれ」
「お前の願いを?」

 そうだ、とアゾットは頷く
 たった一つの願い
 唯一の願い
 それを、かなえて欲しいと願う

「私の主を…主だった男を、その、娘を……この少女を。そして、あの村の人々を、弔いたい。手伝って欲しい」
「あぁ、そんな事か。それなら、お安い御用だ。俺様の素敵な魔法を持ってすれば、それくらい簡単だからな」
「……感謝する」

 野ざらしになっている死体
 せめて、彼らに安らかな眠りを
 ……それが、アゾットの、唯一の願いだ

「んじゃあ、行くぜ、アゾット。今日から、お前は俺の狗だ」
「……はい。カラミティ卿。私の主は、今、この瞬間より、貴方です」

 アゾットは、己の本体をカラミティに手渡した
 そうして…その本体へと、姿を消していく

 カラミティは、満足したように、アゾット剣を腰から下げた
 アリーウスの剣を魔法でしまうと、少女の死体を魔法でそっと持ち上げ、あの村だった場所まで移動させていくことにする
 漆黒の蝶の群れが現れ…カラミティは少女の死体と共に、漆黒の蝶に包まれて消えていく





 …後には、無数の肉片と
 そして、使い手を失ってもなお、輝きを失わぬデュランダルだけが
 血の海の中、残されていたのだった









fin





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