小さな子供が泣いている
いつまでたっても、泣き止む気配がない
いつまでたっても、泣き止む気配がない
命が助かったと言うのに、何故、泣き続けるのか
これだから、人間は理解できない
これだから、人間は理解できない
「……いつまで泣いてんだ、うるせぇぞ」
「うー………うー!」
「うー………うー!」
ぐずぐずと泣き続ける子供
頬を濡らし、眼を腫らし
いつまでも、いつまでも、泣き続ける
頬を濡らし、眼を腫らし
いつまでも、いつまでも、泣き続ける
「…うー………セシリア、なんて……嫌いだ……っ」
「さっきからそれしか言ってないだろ、お前」
「さっきからそれしか言ってないだろ、お前」
戻ってきてから、ずっとそうだ
自分を殺そうとした、あの若き魔女
それを嫌いだと、言い続け
しかし
自分を殺そうとした、あの若き魔女
それを嫌いだと、言い続け
しかし
「嫌いなら、嫌い続ければいい。目障りなら殺せばいい。今までお前がそうしてきたようにすればいいだけの事だろ」
「うー、うー………でも、セシリア…姉さん………うー……」
「うー、うー………でも、セシリア…姉さん………うー……」
……また、これだ
自分は、この幼すぎる魔法使いの生い立ちや、アモン卿が拾ってくるより前の事など、知らない
聞いてもいないし、知るつもりもない
自分は、この幼すぎる魔法使いの生い立ちや、アモン卿が拾ってくるより前の事など、知らない
聞いてもいないし、知るつもりもない
ただ
あのセシリアと言う若い魔女が、このカラミティ・ルーンと言う幼い魔法使いにとって、特別な存在である事も事実らしい
だから、完全に嫌いきれない
口では「嫌いだ」と言いつつも、完全に敵だと認識できないのだ
あのセシリアと言う若い魔女が、このカラミティ・ルーンと言う幼い魔法使いにとって、特別な存在である事も事実らしい
だから、完全に嫌いきれない
口では「嫌いだ」と言いつつも、完全に敵だと認識できないのだ
……だから
あんなにもあっさりと、殺されかけたのだ
あの馬鹿な魔女、「教会」なんかの流言に踊らされて
本気で、カラミティを殺そうとしていた
あんなにもあっさりと、殺されかけたのだ
あの馬鹿な魔女、「教会」なんかの流言に踊らされて
本気で、カラミティを殺そうとしていた
本気の殺気と遊びの殺気では、本気が勝つに決まっている
想いによる魔法の力で戦いあうなら、なおさらだ
想いによる魔法の力で戦いあうなら、なおさらだ
今のままでは、また、いつか
二人が戦いあえば、カラミティは負けるだろう
今度こそ、殺されるかもしれない
二人が戦いあえば、カラミティは負けるだろう
今度こそ、殺されるかもしれない
「………ったく」
あぁ、だから
元人間だった奴は、面倒くさい
元人間だった奴は、面倒くさい
「おら、いつまでも泣くな。うるせぇ」
ぼす、と乱暴に頭を撫でる
びくりと、小さく体を跳ねらせて、カラミティがこちらを見上げてきた
金色の目には涙がたまり、大粒の雫となって零れ続けている
……魔法使いや魔女が流す涙は、魔力の塊
魔女が涙を流せば、魔力を失うと言う話すらあると言うのに……泣いて、何の意味があるのか、さっぱりわからない
ただの、魔力の無駄遣い、存在を削る自殺行為でしかない
びくりと、小さく体を跳ねらせて、カラミティがこちらを見上げてきた
金色の目には涙がたまり、大粒の雫となって零れ続けている
……魔法使いや魔女が流す涙は、魔力の塊
魔女が涙を流せば、魔力を失うと言う話すらあると言うのに……泣いて、何の意味があるのか、さっぱりわからない
ただの、魔力の無駄遣い、存在を削る自殺行為でしかない
「あのセシリアは、お前の姉なのか?」
「……うー……」
「……うー……」
こくり、と
カラミティは頷いてきた
実際に血のつながっている姉なのか、それとも、姉同然な存在だと言う意味なのか…どちらなのかはわからないし、今はどうでもいい
カラミティは頷いてきた
実際に血のつながっている姉なのか、それとも、姉同然な存在だと言う意味なのか…どちらなのかはわからないし、今はどうでもいい
「お前は、姉を嫌いたくないんだな?」
「…うー………セシリア、姉さんを……嫌いになりたくない。父さんも母さんも、もういないから…………セシリア姉さんしか、いないから…嫌だ…」
「…うー………セシリア、姉さんを……嫌いになりたくない。父さんも母さんも、もういないから…………セシリア姉さんしか、いないから…嫌だ…」
ぼろぼろと、再び涙をこぼし始める
あぁ、面倒臭い
あぁ、面倒臭い
「…なら、「セシリア」を嫌えばいいだろう、「姉さん」ではなく」
「…………?」
「…………?」
小さく、首を傾げてくる
疑問が生じた事で、新たな涙が生まれない
疑問が生じた事で、新たな涙が生まれない
「……魔法を教えてやる。簡単な魔法を」
それは、誤魔化しの魔法
いや、本当は魔法ですらない、言葉遊び
いや、本当は魔法ですらない、言葉遊び
「お前が嫌いなのは「セシリア」。お前が好きなのは「姉さん」」
だが
こいつにとっては、充分に魔法になるだろう
幼い心を保っているこいつにとっては、充分に効果があるはずだ
こいつにとっては、充分に魔法になるだろう
幼い心を保っているこいつにとっては、充分に効果があるはずだ
「区別しちまえ。「姉さん」を嫌いたくないなら「セシリア」を嫌えばいいんだよ」
「区別?……うー……」
「名前には、意味がある。わかっているだろう?」
「区別?……うー……」
「名前には、意味がある。わかっているだろう?」
こちらの言葉に、カラミティは頷いてくる
名前には、意味がある
魔法を扱う者にとっては、特にそうだ
カラミティ自身が、カラミティ・ルーンと言う偽りの名前によって真の名前を隠しているように、名前に意味を見出す
名前には、意味がある
魔法を扱う者にとっては、特にそうだ
カラミティ自身が、カラミティ・ルーンと言う偽りの名前によって真の名前を隠しているように、名前に意味を見出す
そんな、カラミティだからこそ
名前で、呼び方によって、同一の相手であっても区別する
それは、充分に可能だ
名前で、呼び方によって、同一の相手であっても区別する
それは、充分に可能だ
「お前が嫌いなのは、お前の話を聞かずに、お前の主張を信じずに、一方的に嫌って殺そうとしてくる「セシリア」」
「……うー」
「お前が好きなのは、お前を話を聞いてくれて、お前の主張を信じてくれる、お前を好いて護ってくれる「姉さん」」
「うー……「セシリア」は、俺の事が嫌い、俺も、嫌い……「姉さん」は、違う。「姉さん」は俺の味方……」
「……うー」
「お前が好きなのは、お前を話を聞いてくれて、お前の主張を信じてくれる、お前を好いて護ってくれる「姉さん」」
「うー……「セシリア」は、俺の事が嫌い、俺も、嫌い……「姉さん」は、違う。「姉さん」は俺の味方……」
言葉を、一つ一つ、かみしめるように
ゆっくりと、カラミティは呟いていく
ゆっくりと、カラミティは呟いていく
所詮、誤魔化し
呼び方で区別しようとも、それが同一の存在である事に変わりはない
あの若い魔女は、本気でカラミティを殺そうと、消そうとしていた
だから、カラミティの言う優しい「姉さん」は、もう存在しないと言ってもいいだろう
呼び方で区別しようとも、それが同一の存在である事に変わりはない
あの若い魔女は、本気でカラミティを殺そうと、消そうとしていた
だから、カラミティの言う優しい「姉さん」は、もう存在しないと言ってもいいだろう
それでも
「……うー!「セシリア」は、嫌い。俺の敵。「姉さん」は、好き。俺の味方!」
「あぁ、そうだ。今日、お前を殺そうとしてきたのは「セシリア」、「姉さん」ではない。だから、お前は「セシリア」だけを嫌えばいい。「姉さん」を嫌う必要はない」
「「セシリア」は嫌い。「セシリア」を嫌えばいい。「姉さん」は嫌いじゃない、嫌わなくて、いい」
「あぁ、そうだ。今日、お前を殺そうとしてきたのは「セシリア」、「姉さん」ではない。だから、お前は「セシリア」だけを嫌えばいい。「姉さん」を嫌う必要はない」
「「セシリア」は嫌い。「セシリア」を嫌えばいい。「姉さん」は嫌いじゃない、嫌わなくて、いい」
そうだ、と
同意してやるとカラミティの表情が、明るくなってくる
……単純で扱いやすい
同意してやるとカラミティの表情が、明るくなってくる
……単純で扱いやすい
「これが、呼び方の魔法。呼び方で区別する魔法、簡単だろう?」
「うー、簡単。すぐ、覚えられるし、使える」
「…そうだ。その魔法を、ずっと使っておけ。そうすれば、お前は「姉さん」を嫌わずにすむからな」
「うー、簡単。すぐ、覚えられるし、使える」
「…そうだ。その魔法を、ずっと使っておけ。そうすれば、お前は「姉さん」を嫌わずにすむからな」
……そうすれば
こいつは、あまり泣かずにすむだろう
完全に泣かなくなる訳ではないだろう
こいつとて、根っこでは、「セシリア」と「姉さん」は同一人物だと理解しているのだから
こいつは、あまり泣かずにすむだろう
完全に泣かなくなる訳ではないだろう
こいつとて、根っこでは、「セシリア」と「姉さん」は同一人物だと理解しているのだから
それでも
表面上だけでも、区別してしまえば
あの女の本気の殺気に、こいつは対抗できるようにもなる
むざむざと殺されやしない
表面上だけでも、区別してしまえば
あの女の本気の殺気に、こいつは対抗できるようにもなる
むざむざと殺されやしない
もし
こいつが「セシリア」を殺してしまったら
……その時は、その時だ
こいつが「セシリア」を殺してしまったら
……その時は、その時だ
「おら、もう泣くなよ。うざい」
「うー、泣かない。「姉さん」に嫌われた訳じゃないなら、泣く必要、ない」
「うー、泣かない。「姉さん」に嫌われた訳じゃないなら、泣く必要、ない」
嬉しそうに、笑う
心の底からほっとしたような笑顔
心の底からほっとしたような笑顔
………だから、人間は単純だ
こんな簡単な誤魔化しでも、どうとでもなるのだから
こんな簡単な誤魔化しでも、どうとでもなるのだから
「泣き止んだなら、とっととアモン卿やデモゴルゴーンの婆のところにでも行ってこい。お前の事うざい程心配してたぞ。こっちに被害飛んでくる前に何とかしてこい」
「うー、わかった………クロ兄は、一緒に来ないのか」
「あいつらと顔合わせても面倒くせぇだけだ。誰が行くか」
「うー、わかった………クロ兄は、一緒に来ないのか」
「あいつらと顔合わせても面倒くせぇだけだ。誰が行くか」
こちらの言葉に、しばし、カラミティはぐずってみせたが
やがて、思い直したように、歩き出す
やがて、思い直したように、歩き出す
「それじゃあ、クロ兄、また後で」
「……うぜぇ。二度と来るな」
「……うぜぇ。二度と来るな」
さっさと行け、と
追い出そうとすると
カラミティは、嬉しそうに、笑って
追い出そうとすると
カラミティは、嬉しそうに、笑って
「……それと。俺を悪い魔女の「セシリア」から助けてくれて、ありがとう」
と
馬鹿のような感謝の言葉を、述べてきて
馬鹿のような感謝の言葉を、述べてきて
「いつか、今度は。俺が、クロ兄を助けるからな。カラミティ・ルーンの名にかけて」
と、そう告げて
ようやく、部屋を出た
…やっと、部屋に静寂が戻る
ようやく、部屋を出た
…やっと、部屋に静寂が戻る
「…馬鹿か。好きで助けた訳でもねぇのに、わざわざ感謝する必要なんざあるか…………うざってぇ」
自分の呟きは、暗闇に吸い込まれ
誰にも届かず、自信の心にすら届かずに、虚無へと消えた
誰にも届かず、自信の心にすら届かずに、虚無へと消えた
to be … ?