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将門の身体を貫き砕いた〝天之尾羽張〟を軽く振り、調子を確かめながら弘蔵は砕き落ちて転がっている将門の身体のなれの果てに目をやった。
「結局は儂の武勇の誉れか……」
平将門、文句無しに最上級の首級だ。これを倒したことは十分な満足を弘蔵に与えてもいいはずだった。しかし、
……だめだな。
どうしようも無い渇きが弘蔵を襲う。強さを求めて人としての道を外れかけてここまできた。そして今確かに自分は念願の強敵を相手取り、そして倒したのだ。だというのに何故こうまで渇くのだろうか。
……まだ行けると、そう体が、本能が訴えている……か。
全力を出しきれていない事が原因だろうと弘蔵は自分の渇きを結論付ける。しかし、弘蔵にとって全力を出すということは同時にその後の自身の死をも意味する。ウィリアムの実験に検体として協力して得た力の代償が彼自身の命なのだ。故に、
……自分の死地を探しているのだが……。
この戦争は見事だ。オルコットと徹心という二人の男を軸にして丹念に編み込まれた、世界の在り様をかけた争いの終着点となる戦争。集う戦力もまた一級品、この戦場になら自分の命を差し出してもいいと弘蔵は強く思っていたが、
……神程度では駄目か。
神など所詮は人の被造物にすぎない。
ユーグがテンプル騎士団として信じていたモノに裏切られた末に至った結論だ。人の思惑によってその在り様を曖昧に変える彼等では一途に強さを求め続けた弘蔵の命は贖えはしないという事だろう。
……奥にならばまだ強い者が居るだろうか……。
そう思い、その場から去ろうとした弘蔵は背筋を貫くような強烈な邪気に反射的に身構え、その発生源へと目をやった。
そこには体の破砕と共に消滅した筈の生首が一個浮遊していた。
宙に浮いた首は髪を振り乱し、不気味な嗤い声を上げている。
――≪平将門の首塚≫。
生きていたのかと思いながら咄嗟に将門の首から距離を取る。
「〝天之尾羽張〟で殺し切れなかったのか?」
「クク……」
嘲うように声を零し、将門は顔を弘蔵へと向ける。その顔は先程までの若武者のそれでは無く、死に際のもの、幽鬼のそれだ。祟り神と畏れられ、祀られた、その理由の根源を前にして、弘蔵は先の戦闘で将門から感じていた気配とはまた違った威圧感を彼から感じていた。
……なんだ、この感覚は……。
将門は若武者の姿を取り戻し、身体を構成し直した。弘蔵に相対するようにして彼は言う。
「なかなか良い一撃であった。しかしお前は我に対する認識を違えておるなぁ」
「なに?」
「我は平将門、我の中の神が死のうと我の中の怨霊が、平将門という人格が残る。Tさんが我をこの戦争に誘った時の言葉では我は英雄だそうだぞぉ?」
なるほど、と弘蔵は得心する。弘蔵が持つ〝天之尾羽張〟では将門の命を刈るには足らなかったようだ。それもこれも将門が一介の神格ではなく、
……人の生き様を元にした存在故に神以外の因子を有するからか。
戦いと強敵は未だに健在。その事実に弘蔵は心が踊り昂ぶる。将門はそれに、と話しを続けた。
「偽物の武装では我の神としての存在も殺しきれはせぬわ。せいぜいが一時封じられる程度よ」
「――ッ」
「何を驚いた顔をしておる。我に察せられぬと思うたか? ただの剣や弓矢に名を与えて力を宿らせる能力。おそらくオリジナルにほど近い規模で力を再現できると見たが……そう、それは≪言霊≫だな?」
「慧眼だ」
将門に応じて、弘蔵は笑んだ。
弘蔵の契約都市伝説は将門の言う通り≪言霊≫、言葉に宿ると言われる霊妙な力を操る能力だ。幅広い意味合いを持つが故に適応が難しく、仮に適応し、契約できたとしても発現する能力の単純な力は低い都市伝説だが、弘蔵は実験に身を投じる事によって≪言霊≫の力を一定の方向に特化させた。
すなわち、武具の名付けだ。
無銘の武具に名を付与する事で、弘蔵は人が扱ったという伝承を持つ武具ならばほぼ十割の精度で能力を再現する事が可能となっていた。
……神剣だろうと完全に再現できると思っていたのだが……。
どうやら自分の神に対するいい加減な態度では神剣も応えてはくれないらしい。
しょうがないと思いながら弘蔵は〝天之尾羽張〟となった直刀を投げ捨て、凍死体の横に転がっている剣から適当な物を選んで手にする。
両手に剣を握って将門に言う。
「ここが……そして平将門、お前が儂の死か」
敵は強い。そして将門から感じる強力な怨念はこのままでは自分は勝つ事は決してできないと弘蔵の本能に訴えかけていた。
「だとしたらどうする?」
「儂の命を燃やすまで」
顔に歓喜を帯びた獰猛な笑みが生まれる。その笑みのまま、弘蔵は自身を定義する言葉を告げた。
「〝我は武の求道者也〟!」
「……ほう、武芸者……その姿、修羅だなぁ? 人の身で随分な業よ」
将門の感嘆の声が向く先、弘蔵はその容姿を変貌させていた。
総髪に結った髪は解かれ逆立ち、髪の色は鋼色に変化して髪全体が刃の光沢を帯びている。身体全体の筋肉が膨れ上がり、肌の色が赤銅色になっていた。
弘蔵の強さに対する全ての可能性の解放だ。争いに生きる意味を見出した男のなれの果て、その化け物じみた姿を晒しながら弘蔵は言う。
「――望んだ事だ、何よりも強く在りたいと……!」
弘蔵の生涯において最初で最後の全力が英雄を目指して突き進んだ。
「結局は儂の武勇の誉れか……」
平将門、文句無しに最上級の首級だ。これを倒したことは十分な満足を弘蔵に与えてもいいはずだった。しかし、
……だめだな。
どうしようも無い渇きが弘蔵を襲う。強さを求めて人としての道を外れかけてここまできた。そして今確かに自分は念願の強敵を相手取り、そして倒したのだ。だというのに何故こうまで渇くのだろうか。
……まだ行けると、そう体が、本能が訴えている……か。
全力を出しきれていない事が原因だろうと弘蔵は自分の渇きを結論付ける。しかし、弘蔵にとって全力を出すということは同時にその後の自身の死をも意味する。ウィリアムの実験に検体として協力して得た力の代償が彼自身の命なのだ。故に、
……自分の死地を探しているのだが……。
この戦争は見事だ。オルコットと徹心という二人の男を軸にして丹念に編み込まれた、世界の在り様をかけた争いの終着点となる戦争。集う戦力もまた一級品、この戦場になら自分の命を差し出してもいいと弘蔵は強く思っていたが、
……神程度では駄目か。
神など所詮は人の被造物にすぎない。
ユーグがテンプル騎士団として信じていたモノに裏切られた末に至った結論だ。人の思惑によってその在り様を曖昧に変える彼等では一途に強さを求め続けた弘蔵の命は贖えはしないという事だろう。
……奥にならばまだ強い者が居るだろうか……。
そう思い、その場から去ろうとした弘蔵は背筋を貫くような強烈な邪気に反射的に身構え、その発生源へと目をやった。
そこには体の破砕と共に消滅した筈の生首が一個浮遊していた。
宙に浮いた首は髪を振り乱し、不気味な嗤い声を上げている。
――≪平将門の首塚≫。
生きていたのかと思いながら咄嗟に将門の首から距離を取る。
「〝天之尾羽張〟で殺し切れなかったのか?」
「クク……」
嘲うように声を零し、将門は顔を弘蔵へと向ける。その顔は先程までの若武者のそれでは無く、死に際のもの、幽鬼のそれだ。祟り神と畏れられ、祀られた、その理由の根源を前にして、弘蔵は先の戦闘で将門から感じていた気配とはまた違った威圧感を彼から感じていた。
……なんだ、この感覚は……。
将門は若武者の姿を取り戻し、身体を構成し直した。弘蔵に相対するようにして彼は言う。
「なかなか良い一撃であった。しかしお前は我に対する認識を違えておるなぁ」
「なに?」
「我は平将門、我の中の神が死のうと我の中の怨霊が、平将門という人格が残る。Tさんが我をこの戦争に誘った時の言葉では我は英雄だそうだぞぉ?」
なるほど、と弘蔵は得心する。弘蔵が持つ〝天之尾羽張〟では将門の命を刈るには足らなかったようだ。それもこれも将門が一介の神格ではなく、
……人の生き様を元にした存在故に神以外の因子を有するからか。
戦いと強敵は未だに健在。その事実に弘蔵は心が踊り昂ぶる。将門はそれに、と話しを続けた。
「偽物の武装では我の神としての存在も殺しきれはせぬわ。せいぜいが一時封じられる程度よ」
「――ッ」
「何を驚いた顔をしておる。我に察せられぬと思うたか? ただの剣や弓矢に名を与えて力を宿らせる能力。おそらくオリジナルにほど近い規模で力を再現できると見たが……そう、それは≪言霊≫だな?」
「慧眼だ」
将門に応じて、弘蔵は笑んだ。
弘蔵の契約都市伝説は将門の言う通り≪言霊≫、言葉に宿ると言われる霊妙な力を操る能力だ。幅広い意味合いを持つが故に適応が難しく、仮に適応し、契約できたとしても発現する能力の単純な力は低い都市伝説だが、弘蔵は実験に身を投じる事によって≪言霊≫の力を一定の方向に特化させた。
すなわち、武具の名付けだ。
無銘の武具に名を付与する事で、弘蔵は人が扱ったという伝承を持つ武具ならばほぼ十割の精度で能力を再現する事が可能となっていた。
……神剣だろうと完全に再現できると思っていたのだが……。
どうやら自分の神に対するいい加減な態度では神剣も応えてはくれないらしい。
しょうがないと思いながら弘蔵は〝天之尾羽張〟となった直刀を投げ捨て、凍死体の横に転がっている剣から適当な物を選んで手にする。
両手に剣を握って将門に言う。
「ここが……そして平将門、お前が儂の死か」
敵は強い。そして将門から感じる強力な怨念はこのままでは自分は勝つ事は決してできないと弘蔵の本能に訴えかけていた。
「だとしたらどうする?」
「儂の命を燃やすまで」
顔に歓喜を帯びた獰猛な笑みが生まれる。その笑みのまま、弘蔵は自身を定義する言葉を告げた。
「〝我は武の求道者也〟!」
「……ほう、武芸者……その姿、修羅だなぁ? 人の身で随分な業よ」
将門の感嘆の声が向く先、弘蔵はその容姿を変貌させていた。
総髪に結った髪は解かれ逆立ち、髪の色は鋼色に変化して髪全体が刃の光沢を帯びている。身体全体の筋肉が膨れ上がり、肌の色が赤銅色になっていた。
弘蔵の強さに対する全ての可能性の解放だ。争いに生きる意味を見出した男のなれの果て、その化け物じみた姿を晒しながら弘蔵は言う。
「――望んだ事だ、何よりも強く在りたいと……!」
弘蔵の生涯において最初で最後の全力が英雄を目指して突き進んだ。