「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 舞い降りた大王-14

最終更新:

Retsuya

- view
だれでも歓迎! 編集
いつかの件以来、少年は悪夢を見なくなったようだ。これでしばらくは安心だが、まだ全部解決した訳ではない。
だが、あの時の事を変える事は、過去にでも戻らない限り不可能だろう。
過去を変えない限り―――

勇弥「見つけたぞ!」

ある日の事。正義達はいつも通り都市伝説に関する事件を追っていた。そして今、『連続誘拐犯』の男を見つけたのだった。

男「・・・何故分かったんですか?証拠は残していないつもりだったんですが。」
奈海「こっちには色々と情報網があるのよ。」 コイン「そういう事。」

奈海の後ろにコインが現れる。

男「・・・くっ、なるほどねぇ。まさか教え子とその友達に追い詰められるとは思いませんでしたよ。十文字さん。」
楓「な、何故私の名前を、・・・まさか、先生!?」 正義&勇弥&奈海「「『先生』?!」」

今までそれなりの都市伝説を倒してきたと思っていたので、3人は意外な展開に驚いてしまった。

男「気付かなかったのですか?貴方は私の担当した児童の中でも1番の優等生だと思っていたのですがね。」
奈海「嘘、でしょ?じゃあ今までの子ども達も・・・?」
勇弥「おい!お前まさか、自分の教え子を?!」
男「当たり前じゃないですか。そうでなかったら私の能力が聞かないのでね。」
楓「なんで・・・。」

男「十文字さんも知っているでしょう?あの学校では虐めが多かった事。盗みなんかも多く、荒れていましたよね。
  『昔は』。今?比べほどにならないほど平和ですよ。なぜでしょうか?」
正義「そ、そうか!悪い子どもをみんな動物に変えたのか!?」
楓「そんな自分勝手な理由で!ふざけるな!」
男「人聞きの悪い、裁きですよ。真面目な子と不真面目な子、どちらが必要かと訊かれて迷う人なんていないでしょう?
  だからあんな奴らには人間を辞めてもらったんですよ。」
コイン「『辞めてもらったんです。』じゃないわよ!やって良い事と悪い事があるじゃない!?」
男「まったく、どうしてそんなに私に歯向かうんですか・・・。なら、お前らも片付けてやろうか!?」
勇弥「ッ?!『温厚な人間は怒ると怖い』って奴か?」
大王「ん?聞いた事のない都市伝説だな。」
正義「大王、都市伝説じゃないと思うよ。」

男の怒りを察し、正義達は戦闘態勢を取る。

正義「よし、皆!行くよ!」
勇弥「『勇気』と『知性』の伝説融合、[ブレイブ・レジェンド]!」
正義「『正義』と『剣術』の伝説融合、[ジャスティス・レジェンド]!」
大王「き、『恐怖』と『飛来』の伝説融合、[キング・レジェンド]・・・。」
奈海「『波間』と『魅惑』の伝説融合、[オーシャン・レジェンド]。」
コイン「『硬貨』と『記憶』の伝説融合、[フォックス・レジェンド]!」
楓「『木の葉』と『柔』の伝説融合、[メープル・レジェンド]!」
勇弥&正義&奈海&コイン&楓「「6人合わせて、[レジェンドシックス]!」」 大王「・・・クス。」

奈海「って、何でこれやる必要あるの?!」
勇弥「やるなと言われてもやる。深い意味は無い。」
コイン「あ!十文字さんも作ってもらったんだぁ。」
楓「このチームでやっていくには必要だと言われてな。」
正義「あれ?大王の台詞変わった?」
大王「前は【恐怖の大王】だと知らずに付けていたから、らしい。」

男「じゅ、十文字さん、なかなかユニークなお友達を作ったようですね・・・。」
勇弥「油断している!今だ!」
奈海「油断させる戦術なの!?なら!」
大王「先制は任せた。会長は防御のため待機だな。少年、俺達はどうする?」
楓「全力で大王様を守ります!」
正義「ボク達も様子見かな。まずは剣だけ用意して。」

大王は黒雲を正義と勇弥の前に生成し、剣を降らせる。
奈海は素早くコインシューターを組み立て、男に数発発射。勇弥は剣を取り、男に切りかかる。

男「まったく。そんなもので、やれるものならやってみろ!」

十円玉が命中するという時、男が消えた。いや飛んだのだ、はるか上空へ。風圧を受けたのか、十円玉は地面に叩きつけられた。

男「お前らなんかに倒されてたまるか!」
奈海「えっ?!」 勇弥「なんだあの腕?!鳥の翼!?」

勇弥が見上げると、男の腕が鳥の翼のような形になっていた。男が着地したあと、腕は元に戻る。

男「ふふふ、私が契約したのは【サザエさんの最終回】です。」
勇弥「【サザエさんの最終回】だと!?」

【サザエさんの最終回】とは、某有名番組に関する噂で、
『ある日、カツオは商店街の福引で特等《ハワイ旅行》を当て、 磯野家初の海外旅行に一家は興奮しつつハワイへと旅立つ。
しかし、一家を乗せた飛行機は途中で海へと墜落してしまい、 海へと投げ出された一家は
サザエさんは貝のサザエに、カツオは鰹に、という様にそれぞれの名前の通りの生き物として海へと帰っていった』というもの。
何故か比較的ポピュラーな都市伝説である。

男「ゆえに私は『自分の名前に応じた姿に成れる』ようになった。」
奈海「じゃあ自分の名前に鳥の名前が入っていたから腕を翼にできたの?!」
楓「もう止めて下さい![鮫島 鷹虎(さめじまタカトラ)]先生!」
大王「『鮫』と『鷹』と『虎』!?何故そんな名前になったんだ?!」

大王の疑問に答えるものはおらず、男は腕と脚を虎の脚に変える。

勇弥「はぁ?虎?!」 男「面倒なので、さっさと消えてもらおうかァ!」
楓「まずい、心星!日向!逃げろ!」

虎となった男が勇弥に猛スピードで突進する。

大王「友!」 男「そのまま地面に叩き付けられなさい。」
勇弥「ぐはぁ!?く、とりゃ。」

ふと、勇弥が宙で止まる。そのまま態勢を立て直す。

男「なっ!?」 楓「ん!?」 コイン「“で!?”」
勇弥「ふぅ、危ねぇ危ねぇ。地面に当たってたら致命傷だったか?」
正義「ゆ、勇弥くん、とうとう浮遊能力を!?」
大王「まさか多重契約か?!それとも新たな能力か?!」
勇弥「え?違う違う。空気の性質を変えたんだよ。説明すると面倒だから省く。」
男「厄介ですねぇ。なら別のガキから片付けてやる!」

手足を虎にしたまま、頭を鮫に変える。

奈海「きゃ!鮫?!」 勇弥「お前絶対人間じゃねぇ!」
男「まずは貴様からだ!」
正義「え?うわっ!」

鮫の頭を持った虎が猛スピードで正義に特攻する。

勇弥「正義ィ!」 男「噛みコロしてやるよォ!」

男が正義に噛み付こうとした瞬間。

楓「1!・・・2!」 男「んがっ!ががが・・・。」
正義「・・・ふぅ、十文字さん、ありがとう!」

十文字のおかげで男が止まる。その隙に正義が後退する。

楓「3!大丈夫か、黄昏!」
正義「うん、十文字さんありがとう。」
男「十文字さん、貴方まで私に逆らうのですか・・・。」

悲しそうにそう呟くと、男の体が人間に戻る。

男「なら、貴方にも人間を辞めてもらいましょう。」
楓「な、まさか!?」 勇弥「人攫いの能力か?!」

ふと十文字の足元から気泡のようなものが吹き出る。

男「十文字 楓!お前は『楓』になれ!」

一瞬、十文字が光ったかと思うと十文字の姿は無く、代わりに楓の葉がひらりと風に舞っていた。

男「残念ですよ。貴方まで私に歯向かうとは。」
奈海「まさか、十文字さんが葉っぱになっちゃったの?!」
正義「『名前の通りの姿に変わる』だからか。だとしたらあれは・・・。」

男がゆっくりと楓の葉に近づいていく。

男「仕方がない。あなたにはここでッ」 大王「会長ォオー!」

男が楓の葉を掴もうとした瞬間、大王の蹴りによって男が吹っ飛ぶ。そして大王の手に楓の葉になってしまった十文字が乗る。

大王「会長、大丈夫か?」
楓「(大王様・・・。ありがとうございます!)」

じわじわと楓の葉が紅くなりだした。

大王「なッ!?友、これはどういう事だ?!急に色が変わりだしたぞ!」
勇弥「落ち着いてください大王さん、それは紅葉です。ただし何故紅葉したかは訊くな。」
男「貴様ァァア!」

蹴り飛ばされた男が鷹となって舞い戻る。そしてそのまま大王に体当たりする。

大王「なっ、がッ!」

しかし大王はそれを持ち堪え、楓の葉を落とす事は無かった。男はだんだんと人間に戻っていく。

男「くそ、邪魔ばかりしやがって!そろそろ諦めたらどうです?」
大王「くぅ、大丈夫か、会長!」 楓「(はい、なんとか。)」
勇弥「く、十文字さんの事は大王さんにまかせる!行くぜ!」

勇弥が男に向かって剣を振るう。

男「貴方も歯向かうのですか。確か名前は・・・。」
勇弥「日向勇弥!動物の名前なんて入ってねぇぜ?どうだ!」
男「ほぅ、では貴方にも人間を辞めてもらいましょうか。」

男がゆっくりと息を吸い、大声で叫びだす。

男「日向 勇弥!お前は今日から[タヌキ]だ!」
勇弥「はァ!?」 男「狸になれ!」

ふと勇弥の下から巨大なリンゴの断面が現れた。どうやら下半分のようだ。
勇弥が何かを察知して上を見ると、勇弥の想像通りリンゴの上半分がそこにあった。

勇弥「しま、ぐわぁ!」
正義「勇弥くぅん!」

気付くのが遅く、勇弥は降ってきたリンゴに潰された。すると数秒後、リンゴが横に割れ、中から狸が現れた。

勇弥「てめぇ!あだ名は反則だろ!」
正義「あぁ、勇弥くんがしゃべる狸に!?」
大王「自分で付けた名前も良いのか。問題だな。」

男「さて、あとは君だけでしょうか?」
正義「う・・・。」

その時、男に向かって十円玉が飛んでくる。

奈海「私を忘れてなぁい?」
正義「奈海!お前、危ないぞ!」
男「貴方もですか。面倒な、んっ?」

突如、男の動きが鈍くなる。その様子を見て得意げにコインが現れる。

コイン「へへん、どうだ必殺『呪い攻撃』!ちょっと弱いけど。」
奈海「素早い攻撃が多かったし、動きを封じるだけでも充分よね?」
男「貴様・・・、貴方も許しておきません。【狐狗狸さん】には狐にでもなってもらいましょうか。」
大王「く、都市伝説までもか!?」

男がコインを睨みつける。しかし、何も起こらない。

男「・・・おや?」
コイン「・・・姿変わってる?うぅんきゃあ!おしりに尻尾が!耳も狐に!?」
奈海「元からじゃない。変わってないわよ何も?」
正義「なんで・・・、まぁいいや。奈海、行くぞ!」

正義が剣を構えるのを見て、奈海も戦闘準備に入る。

奈海「そうね、行くわよコインちゃん!」 コイン「OK!」
勇弥「ん?」 大王「おい・・・。」
奈海&コイン「「あ。」」

男「・・・コイン!『コイン』になれ!」
コイン「きゃあぁぁぁ!」

コインの足元から気泡のようなものが吹き出て、一瞬、体が光ったかと思うと、コインが『コイン』に変身し、地面に落ちた。

奈海「あぁ、コインちゃんがコインに!」 勇弥「・・・?」
コイン「(もぅ!なんでよりにもよって十円玉じゃないのよ!能力使えないじゃない!)」
正義「コインちゃん落ち着いてよ!」
男「・・・どうやら、呪いとやらが解けたみたいですよ。」

男は微笑みながら正義に向かっていく。

男「彼女は戦えないようなので放っておいてあげましょう。ですが君は・・・。」
大王「く、これならどうだ!?」

気が付くと、男の頭上に黒雲が広がっていた。そのまま考える時間も与えさせず雷が落ちる。

男「うっ!」ドゴォォォン!

しかし雷は男を反れて地面に落ちる。

大王「これでも外れるのか・・・。」
正義「大王!大王は十文字さんをかばっていれば」
大王「そんな事言っていられる場合か?俺の目的はお前の力を使っての世界征服だ。お前がやられて困るのは俺だぞ?」
勇弥「世界征服のため、ね。そのために人を助けるとか、【恐怖の大王】が聞いて呆れるな。」
男「ほぅ。」

男がニィと笑みを浮かべる。

男「では貴方には【恐怖の大王】を辞めてもらいましょうか。」
大王「ん、来たか!」 楓「(大王様!)」
男「恐怖の大王!お前は今日から[ネコ]だ!猫になれ!」

大王の足元に巨大な蜜柑の下半分が現れ、頭上には上半分が見えた。

大王「く、脚が動かない!会長、すまない。」
楓「(あ、大王様!)」

楓を投げた瞬間に、大王は蜜柑に潰される。数秒後、蜜柑が横に割れて黒猫が飛び出す。

大王「く・・・なんと惨めな姿だ。」
楓「(大王様!お気を確かに!)」
正義「・・・そんな、大王まで・・・。」
男「ところで、君はどうするのです?よければ、お友達を皆戻してあげますよ?」
奈海「え?」

男の突然の心変わり。しかしやはり条件がついていた。

男「ただし、条件があります。『今日の事を忘れて、二度と私に関わらない事』、これが守れるならいいですよ。
  無論、親や警察に言うのも禁止です。私がやってきたという事を。」
奈海「そ、それってアンタの犯行を見逃せって事?!」
男「まぁ、犯行というのは耳障りですが、そういう事ですかね。」
コイン「(いくら戻りたくても、それは無理でしょ!)」
楓「(自分達のためだけに、多くの犠牲を見捨てるわけにはいかない!)」
勇弥「ふっざけんじゃねぇ!そんなのこっちから願い下げだ!」
男「おやおや、日向君は反対ですか。では黄昏君はどうですか?」
大王「言っておくが、俺はこいつの言う事なんか聞く気は無いぞ。」
正義「・・・皆の姿を元に戻してもらうよ。」
勇弥&大王「なッ!」
奈海「落ち着いてよ正義くん!こんな奴のいう事を聞いたら」
男「そうですか、素直で宜しい。では」

正義が男に向かって斬りかかる。

正義「だから、キミを倒す!」
男「・・・それは残念です。」

男は腕を鷹の翼に、脚を鷹の脚に変え、宙返りして正義を蹴り飛ばす。

正義「うっ。」ダンッ!
男「だったら、ここで片付けてやる!」

男はそのまま蹴りを続ける。

男「貴様に何が分かる!?こうやってお前の相手をしているうちに、また子どもが虐められているんだぞ!
  私自身、昔は毎日のように虐めの報告に苦しんでいた!
  だが実際、1番苦しんでいるのは誰だ!?虐められた子か?虐められた子の親か!?
  それなのに当の虐めた奴はへらへら笑って学校に来るんだぞ!
  あんな奴らが存在して良い訳がないだろう!だから、俺は・・・。」

だんだんと弱くなっていく蹴りを正義は受けていたがやがて剣で受け止める。

正義「キミは、キミは何をしたの?」
男「・・・俺だって努力はした!注意もした!」
正義「教え子が間違っていると思うなら、その子が良くなるまで精一杯がんばる、それが『教師』じゃないの?
   そうだとしたら、キミがやってきた事はただの職務放棄だ!」

子どもの道を照らす仕事―――それが教師。道を照らせない者は教師ではない。正義はそう思っていた。
だが、こんなに子どもの事を大事に思っている彼ならきっと―――

正義「キミぐらい子どもの事を大」
男「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェ!」

突然、すさまじい蹴りが正義を襲う。その威力で正義は剣を落とす。

正義「くぅ。」 男「たしか『黄昏』は衰退を意味していたな。なら。」

男の姿が人間に戻り、また、男のもう1つの能力が発動する。

男「黄昏 正義!お前は年寄りになれ!」
正義「くっ!」

男の宣言に応じて、正義の足元から・・・何も起きない。

正義「あれ?」 楓「(・・・どういう事だ?)」
男「何故だ?何故姿が・・・?」
勇弥「・・・ッ!(そうか。)残念だったな!どうやら正義にはお前の都市伝説に対する抵抗があるようだ!」
男「なんだと!?そんな人間がいるのか?!・・・まぁいい、お前1人なら問題ない。」

男がまた鷹に姿を変えたかと思うと、上空まで飛び上がり見えなくなる。
数秒後、鷹が急降下、いや『鮫』が急降下してきた。

正義「鮫ッ?!」 勇弥「急降下中に姿を変えたのか!?」

とっさに後ろへステップして回避を試みる。しかし。

男「甘いんだよォ!お前は、何もかも!」

地面に落ちるという瞬間に、脚から順番に虎へと変わっていく。脚で地面を蹴って正義の方へ飛び掛り、前足の爪で引っ掻く。

正義「うわっ!」
奈海「正義くぅん!」 勇弥「正義ィ!」 楓「(黄昏!)」
男「ハハハハハ、情けねぇ!・・・だいたい、この都市伝説は私と相性がいいのですよ。
  名前に3種類の生物が入っている点でも、教師という点でも。」

人間に戻った男は右腕を、鮫のヒレ・鷹の翼・虎の脚の順に変えて見せる。

男「私の名前のおかげで、私は3種類の生物に自由なタイミングで変身する事ができます。
  しかしそれだけでなく、そもそもの話では1種類だけだったのせいでしょうか?
  私をどの姿にすればいいか分からないのか、2種以上の生物が融合した姿に成る事もできます。」
勇弥「(あの化け物か・・・、いやあれはまだ2種だけだった。つまりまだ本気で戦っていないのか?)」
男「そして教師であれば、ターゲットの名前は労無く探し出す事ができる。
  名前に生物の種が入っていないならあだ名をつければいい。全く便利な能力ですよ。」
大王「・・・職権乱用だな。」
男「子どもの個人情報を売る先生と比べれば、正しい使い方でしょう?」
正義「でも、それは間違っ」
男「黙れ!もういいうんざりだ!人間を辞めれないなら生存を止めてもらう!」

男は腕を虎の脚に変えて、正義に迫る。

男「これで・・・終わりだ!」

―――薄れゆく意識の中―――

奈海「正義くん!」 勇弥「正義ィ!」
大王「少年!」 楓「(黄昏!)」

―――ボクは確かにあの声を聞いた―――

???「(Yeahーーー!!)」

正義の頭にその声が響いたと同時に、正義と男の間にあったマンホールから汚水が吹き出る。

男「な、なんだ?」 正義「これは・・・?」

すると汚水の中から謎の生物が現れた。その姿はまるで、白いワニだった。

???「シャアー!(フレンド!待たせたな。さっさとケリを付けようぜ!)」
楓「(まさか、【下水道に棲む白いワニ】か!?こんなタイミングで出てくるとは・・・。)」
勇弥「まさか、こいつ・・・?」
大王「そんな、馬鹿な・・・。」
正義「【白ワニ】・・・、【白ワニ】なの?!」
白ワニ「シャア?(What?当たり前じゃねぇか。オレはあの時助けてもらった)」
正義「白ワニィ!」

正義が白ワニに思いっきり抱きつく。

白ワニ「シャ!?シャア?(おいおい、どうしたんだフレンド?)」

どうやらあの、死んだはずの【白ワニ】のようだ。が、どうやら当の本人は現状を理解していないらしい。

男「何かは知りませんが、私の邪魔をするなら消えてもらいますよ?」
正義「そうはいかない!行くよ白ワニ!」
白ワニ「シャア!」

正義の合図で白ワニは汚水をまとって男に突っ込む。

男「そちらがワニなら、こっちは鮫だァ!」

男はほぼ全身を鮫に変え、虎の両足で突進する。

白ワニ「シャ!?(フレンド!鮫になったぜ!?)」
正義「大丈夫だよ白ワニ!キミなら大丈夫さ。」
白ワニ「シャア?・・・シャ!」
男「ゴタゴタ言っていると喰い千切るぞ!」

男が噛みつこうとする時、白ワニはまとっていた汚水を消し、背中を見せて丸くなる。男は白ワニの背中に噛み付く。

男「らぁ!が、がが・・・。」 白ワニ「シャア?(どうした?噛み切れよ。)」

男が口を開けると、歯はボロボロとなっていた。

正義「白ワニの背中は鉄以上に硬いんだ!」
男「く、うるせぇ黙ってろ!」

男は急に方向転換し、尾ひれを隣にいた正義に叩きつけようとする。

白ワニ「シャッ!」 男「ぐぁ、貴様!離せ!」
正義「う・・・、あ、白ワニ!」

正義が目を開けると、白ワニが白刃取りよろしく尾ひれ噛みをして正義を守っていた。
男が何度か尾ひれを振りまわし、なんとか白ワニを振りほどく。

白ワニ「・・・、シャア!(どうだ?オレだって強いぜ?)」
正義「白ワニ、ありがとう!でも大丈夫!?」
白ワニ「シャアシャア!(この程度の攻撃ならびくともしないぜ!)」
男「はぁ、はぁ、・・・なかなか優秀な僕を持っているようですね。」
正義「僕じゃない!友達だ!」
男「口ではそう綺麗事が言えますが、当の本人はどう思っているんでしょうか?
  攻撃を強要され、盾にされた貴方自身の気持ちは!?本当は辛いんでしょう!?」

そう言いながら男は白ワニを指す。白ワニは大きく・・・首を横に振った。

男「・・・。」
白ワニ「シャアア?(オレは別に、フレンドだから戦って、守ってやったんだぜ?って言っても聞こえてないか。)」
正義「・・・うん!そうだよね。」
勇弥「よく分かんねぇけど、白ワニが本当にいい奴になったらしいな。」
奈海「正義くんをかばったり・・・、昔戦った相手とは思えないわね。」

男「ふふっ。」
正義「え?」 白ワニ「シャア?」

男「ふはははははぎゃはははは!下らねぇ事抜かしやがる!有りもしない友情を語りやがる!
  そんな下らねぇ事抜かしてるんなら、人間も人生もやめやがれ!」

男の体がみるみるうちに変わっていく。
鮫の頭、鷹の翼、虎の両足、鮫の尾びれ・・・。とうとうその姿はキメラのような化け物となっていた。

勇弥「なんだよこれ!?オレ絶対にあいつの存在認めねぇ!」
奈海「何よあれ、なんで人があんな姿になるのよ・・・。」
コイン「(伝承無視してるでしょ!)」

コインの文句は届く訳もなく、不意に男が高らかに笑い出す。

男「ぎゃはははは!これが俺の最終形態だ!こうなった以上お前達には消えてもらう!」
正義「・・・そうはいかない。けど・・・。」
白ワニ「(フレンド、こいつは倒せるのか?)」

正義に悩む暇も与えず、男が攻撃を始める。
その外見と図体からは想像もできないスピードで、時に牙で、時に爪で、時に風圧で、攻撃を仕掛けてくる。

楓「(黄昏・・・。)」
大王「・・・会長。」
楓「(はい、大王様。って聞こえないんですよね。)」
大王「ただの木の葉となったお前は動けもせず、戦えないな。」
楓「(・・・すみません。)」
大王「だが俺は猫で動けるから、戦えるよな?」
楓「(・・・はい?あ、ちょと、大王様ッ?!)」

大王は楓の葉となった十文字を軽く咥え、奈海の所まで歩きその傍に置く。

大王「少女、会長は任せたぞ。」
奈海「え、ちょ、それって・・・。」

質問には答えず、大王は化け物となった男の元へと走り出した。

大王「(だいたいこんな姿にされたのだから、復習ぐらいしてやらないとな。)」
楓「(大王様・・・。私に何かできる事は、そうだ!もしかすると。)」

男「どうしたァ!少し前までの意気込みは何処へ行ったんだァ!?意気『ゴミ』だけに捨てちまったのかァ!?」
白ワニ「シャッ、シャア。シャアア!(つまらないジョークだぜ。フレンド!何か手は有るか?)」
正義「ごめん白ワニ、今は何も・・・。」
大王「(少年!俺は今から奴に不意打ちする。聞こえたなら奴の注意を引いてくれ!)」
正義「ッ!(大王、・・・よし。)白ワニ!とにかく隙を見つけて攻撃するよ!」 白ワニ「シャア!」

正義が男に向かって走り出す。白ワニも汚水をまとって特攻を試みる。
男は正義を踏みつけようとするが、正義は何とか避ける。白ワニの攻撃が通るという時、翼によって白ワニが弾き飛ばされる。

白ワニ「シャアアァァ!」 正義「白ワニ!」
男「どうしたァ!そろそろ止めでも刺してほしいのかァ?!」
大王「(少年、もう少しだ。もう少し・・・。)」

大王があと少しで攻撃範囲という時。

男「ところでさァ、気付いていないと思ったかァ?!」
大王「ッ!しまっ」

男が勢いをつけて、尾びれを大王に叩きつける。通常の鮫でも威力は人の腕を奪えるほどらしい。
ましてや猫となった大王、一撃で終わる。はずだった。

男「・・・ッ、なんだ、これは・・・!?」
大王「・・・ん?どういう事、ッ!そういう事か。恩に着る。」

何故か、男の尾びれが大王に当たる寸前で止まる。
大王はその理由が分かったのか、そのまま男の脚まで走って爪で引っ掻く。

男「ッ、貴様ァ!」 大王「ち、想像ほどのダメージはないか。」

男が猫となった大王を踏みつけようとするが、何故か当たらず、そのまま大王は正義の傍へと走る。

大王「威力さえあれば、この姿も悪くないんだがな。」
正義「大王、・・・そのまま肩に乗って!」
大王「ん?・・・了解。」

大王が正義の肩に飛び乗る。

大王「たまには、こういうのもいいか。」
正義「大王、さっきのは十文字さん?」ヒソヒソ
大王「(おそらく正解だ。少なくとも俺の能力や、あいつの勝手ではなさそうだ。)」

男が突進してくるが、白ワニが突撃したおかげで標的が白ワニに変わる。

正義「なら、試してみたかった事があるんだよ。」ヒソヒソ
大王「(試す?よく分からんが、勝てるというなら乗るぞ。)」
正義「よし、白ワニ!そいつの相手、頼むよ!」
白ワニ「シャア!(任せなフレンド!)」
男「逃げられると思っているのかァ!?」
白ワニ「シャワ、シャアアア!」

白ワニが男を喰い止めている間、正義は十文字の傍へと走る。

正義「十文字さん!」
数秒ルール「(マサヨシ君、聞こえますか?楓さんがある事に気付いたみたいですよ。)」
正義「数秒ルール?うん、だいたい分かってるよ。」
大王「会長、すまなかった。恩に着る。」
楓「(そ、それほどでも・・・。)」

また楓の葉が紅葉を始めた。

大王「また・・・!?少女!これはいったい?!」
奈海「大王さん、異常事態ではないから安心して。」
数秒ルール「(―――では、次のカウントの時に私もカウントをします。)」
正義「分かった。じゃあ十文字さん、合図の後『あの男に集中して』、ね。」

そう言って、正義が男の方を向く。若干白ワニの方が押されているようだった。
大王は正義の肩に乗る。

正義「Go!」

勢いよく正義が走り出した。同時に、カウントが始まったようだ。

楓&数秒ルール「「(1・・・。)」」
正義「白ワニ!ボクの合図があるまで攻撃しないで!」
白ワニ「シャアァ?・・・シャ!(Why?・・・同時攻撃か、OK!)」
大王「では、俺は少年の合図で攻撃する。この姿でも、足しにはなるか。」
正義「大王、その姿でも雲出せる?」
大王「待ってくれ、時間がかかりそうだ。」

大王がゆっくりと黒雲を生成する。おそらく猫の姿となっては、本来の力を発揮できないのであろう。
しかし、目的の大きさになるまで、それほど時間はかからなかった。

楓&数秒ルール「「(・・・2・・・。)」」
大王「これで充分か?」
正義「うん!そろそろだから準備して。」 大王「了解。」
男「なに企んでやがんだァ!」
白ワニ「シャア!(フレンド!)」

男が正義に向かって牙を見せながら突進してくる。

楓「(・・・3!)」 数秒ルール「(今です。)」
正義「今だ!大王、白ワニィ!」

正義の発言と同時に黒雲から剣が降り、正義はその剣を取って男の翼を狙って剣を構える。
白ワニも合図に応じて、男の尾びれを狙って牙を立てる。大王も正義の肩から飛び降り、男の脚を狙って爪を伸ばす。

正義「てえぇぇい!」 白ワニ「シャアァア!」
大王「残念だが・・・時間切れ、だ!」
男「はァ?そんな程度で俺が」

(楓「黄昏、どうやらこの能力にも欠点があるらしい。」)
(正義「欠点?」)
(楓「この能力を使った後少しの間だけだが、相手の攻撃を倍に受けてしまうんだ。この能力の使用は控えるべきだな。」)
(正義「ふぅん・・・。」)

男「なん、で・・・だ?」

この時正義は、この能力の別の使い方を発見したのである。
―――『三秒間の猶予を与えた後、通常の倍のダメージを相手に与える』という使い方を―――
正義の剣で翼は斬り裂かれ、白ワニの顎で尾びれは喰い千切られ、大王の爪で脚に深い傷を負った。
そして男は倒れこみ、だんだんと人間の姿に戻っていった。

奈海「お、終わった・・・。」
勇弥「ふぅ、なかなか恐ろしい奴だったな。」
楓&コイン「「(ん?)」」

ふと、十文字とコインの体が輝きだし、やがて元の姿に戻る。

楓「おぉ、戻った!」 コイン「わぁ、やったぁ!」
勇弥「お!オレの姿も・・・。」

勇弥の体も輝きだし、人間の姿に戻った。

正義「良かったね、勇弥くん。」
勇弥「おぉ!でもすまねぇな。変身すると能力使えないのかと思ってたんだ。」
コイン「まぁ、私は十円玉じゃかったから絶対に無理だったんだけどね。」
楓「終わった事だし、もういいだろ?これで無事一件落着」
大王「待て!俺が戻っていないぞ!?」

そこには、今だ戻らずにいた黒猫がいた。

正義「そうか!大王、実は本当は猫だったんじゃない?」
大王「そんな訳無いだろ!?あいつが何かしたんじゃないのか?」
勇弥「そうか・・・、猫の人間に対する怨念が、【恐怖の大王】という形になったのか。」
奈海「可哀想に・・・。」

口ではそう言っているが、隠している顔を隙間から見ると、かすかに口が釣り上がっている。

大王「きィさーまーらァ!」
楓「でも、猫になった大王様、可愛いですよ。」

怒気を漏らしても全く怖くない黒猫大王を、十文字はぎゅっと抱きしめる。

楓「♪~。」 大王「ふざけるな!世界征服にルックスは必要ない!」
白ワニ「シャシャハハハ。」
正義「多分すぐに戻るって。あとは・・・。」

正義が改めて男の方を向くと、男は気を取り戻したみたいだ。

男「・・・何故、私を・・・。」
正義「どうやら元に戻ったみたいだね。早速、契約解除してもらうよ。」
勇弥「契約解除ォ?らしくない、って『元に戻った』ってどういう事だ?」
正義「あ。この人、どうやら都市伝説に支配されてたみたいなの。」
勇弥&奈海&楓「「都市伝説が契約者を支配?!」」

どうもここに来ると、新しい事の連続である。
『契約者は悪い都市伝説と戦う』と思っていれば、悪い事をする契約者が現れ
『契約者は都市伝説を利用する』と思っていれば、このような展開である。

正義「支配っていうか洗脳っていうか、この人の姿が変わっている間だけ
   この人の都市伝説の声がこの人の言ってる事と同じになるんだよ。」
大王「肉体を乗っ取る、といったところか。よく考えたものだ。」
コイン「じゃあ放っておいたら、都市伝説に飲み込まれちゃうの?」
勇弥「よく分からないけど、とにかく叩き出すか。」

勇弥が男の頭を掴む。

男「な、何を言われようとも、私は退きませんよ。私には彼らを裁く義務が」
勇弥「おぉそうか。じゃあこっちにだって考えがあるぜ?」

勇弥の手のひらに球体状に並んだ0と1のマークを浮かべる。

男「な、なにを・・・?」
勇弥「オレは世界をコントロールしているんだ。このオレになら、お前ぐらい簡単に消せるんだぜ?」
男「な、そんな、待ってくれ!」
勇弥「あぁ。オレ達の言う事を聞くなら考えてやってもいいぜ。」

勇弥が手のひらを男に近づける。

楓「おぉ、流石は日向。良い作戦だ。」
奈海「(いや、正義の味方の行為じゃないでしょ。)」
大王「(友よ、その手は人道的にどうなんだ?)」
男「分かった!言う事を聞く!だから命だけはッ!」

男は怯えながらに言う。

勇弥「よし。まずは、『今まで変えてきた人間を元に戻す事』。とりあえず大王さんもね。」
大王「俺をおまけにするな。」
男「わ、分かりましたッ。」

十文字に抱えられた大王が、突然輝きだし、元の大王の姿に戻った。

大王「お、やはり俺は、純正【恐怖の大王】だ。」
正義「猫の姿も気に入ってたくせに。でも良かったね。」
勇弥「あぁよかったよかった。だから十文字さん。」
楓「ん?」
勇弥「そろそろ離れません?」

よく見ると、十文字は大王の背中に抱きついたままとなっていた。
気付かなかったのであろうか。いいや気付いたはずだ。猫サイズから急に大人サイズになったのだから。

楓「・・・ぁ、す、すみません大王様!」
大王「別にどうでもいいが?」
勇弥「まぁどうでも良くないのは見てる方だがな!」
男「こ、これで良いんだなッ!では私は」 正義「待って。」

そう言いながら、正義は剣を男の首に持っていく。

奈海「ちょっと、正義くん!危ないじゃない!」
正義「いいから。さて、契約解除の方もしてもらえないかな?」
男「ふ、ふざけるな!これは護身にも使える、少なくとも悪事に使うなというなら考えて」
正義「条件は、『契約解除』。飲むの?飲まないの?」

ふと正義からとてつもない気迫を漂わせる。いつかどこかで感じたような、しかしそれとは本質が違う、不思議な気迫。
男は即座に恐怖を覚え、正義の条件を承諾する。

男「ははは、はい!さ【サザエさんの最終回】、けけ契約解除!」

男の頭上から、ふわふわと煙状のものが出てくる。

最終回「(チッ、せっかくいい器を手に入れたってのによォ!まぁまたどっか遠くでいい器を探すかァ。)」
正義「あ、待て!」

追いかけようとする正義を大王が止める。

正義「大王?」
大王「少年、あとは俺に任せてくれ。」

大王が正義から剣を奪って、【サザエさんの最終回】を睨みつける。

大王「考えて見れば、俺をあんな姿にしたのはお前だったな。」
最終回「(は?いや、その、俺だけが悪い訳じゃないじゃん?その男がだいたいだから止め)」
大王「はァ!」

彼の言い訳が聞こえる訳もなく、大王は彼を切り裂く。こうして【サザエさんの最終回】の姿は、太陽の光に掻き消された。

男「あ、そ、それではッ!」
正義「あ、コラ!」
光彦「ちょっと失礼。」
男「うぐッ!」

不意に死角から正義の父・光彦が現れて、男にラリアットを喰らわせる。

正義「あ、お父さん。どうしてここに?」
光彦「あぁ、そろそろ犯人を捕まえた事じゃないか、と思ってな。」
勇弥「(都合よく、あの戦いはバレていないのか?)えと、その人はどうなるんですか?」
光彦「無論、刑務所行きだ。人攫い、だからな。何年か懲役じゃないか?」

光彦は男の腕に手錠をかけようとする。

楓「先生!」
光彦「ッ!・・・先生だったのか、すまない。」
男「・・・なんです?十文字さん。」
楓「私は、あなたの事を尊敬していました。
  あなたの教え子だった時は、あんなに子ども思いな大人なんて他にいないとさえ思っていました。
  だからあなたが犯人だと知った時は、・・・いや、いつかまた先生として、あなたが子ども達の前に立つ日を信じています。」
男「・・・、私こそ、貴方を尊敬していたんですよ。
  いつでしたか、虐めっ子を力強く投げ飛ばす貴方の姿はいまでも忘れられません。
  思えば、最初は子ども達を守るためにあいつと・・・、いえ、忘れてください。ではお巡りさん。」

男はなにか吹っ切れたような笑みを見せながら、光彦と共に歩いていった。

勇弥「なぁ。あいつ、いつ釈放されると思う?」ヒソヒソ
正義「分からないよ。ボクが関わってきた犯人のその後なんて、あまり知らないし。」
大王「(どうであれ、【組織】とやらが強引にただの誘拐事件にするんだろうが。気に食わん。)」
楓「先生・・・。」

落ち込んでいる十文字に、ある生物が近寄る。

白ワニ「シャアァ、シャア!(ガール、そこまでへこむ事はないぜ。いつか戻ってくると信じてやれ。)」
楓「(もしかして、励ましてくれているのか?)・・・ありがとう。ところで、お前はいったい何なんだ?」
正義「あぁ、言ってなかったね。彼は」

不意に、カバンが落ちる音が聞こえる。一同がその方向を向くと、見覚えのある姿が。正義の兄、[黄昏 裂邪]だ。

正義「お兄ちゃん・・・!」
裂邪「白ワニ・・・生きていたのか?」
勇弥「あぁ。ちょっとさっきね。しかし裂邪さん、いったいどういう事なんですか?」
奈海「お、お兄さんが何かしたんですか?それとも・・・?」

全員が疑問を浮かべる中、彼の契約している都市伝説、【シャドーマン】のシェイドだけは。

シェイド「無事再会出来タノカ。」
裂邪「なっ、シェイド、お前なんか知ってんのか?!」 シェイド「マァナ。」
正義「え?ど、どういう事なの?白ワニをコロしたんじゃなかったの?」
裂邪「そうだ、あの時俺は『闇誘拐』を指示したはずだ!だから白ワニがここにいる訳が―――」
シェイド「アノ時私ガヤッタノハ『闇誘拐』デハナイ、『シャドーダイブ』ダ。」

勇弥達はシェイドの言っている事が理解できなかった。
十文字は白ワニ自体を知らないのでより理解できていないだろう。
だが正義は少しだけ理解できた。シェイドは白ワニをコロす気なんて全くなかった事を。

正義「もしかして『シャドーダイブ』って、時々お兄ちゃんがどこかへ消えたりする技?」
裂邪「・・・あぁ、そうだよ。」
正義「そうか、ただ別の場所へ移しただけだったんだ。良かった・・・。」

正義の目に涙が溜まろうとしている時、裂邪は何処かへ行ってしまった。
こうして、正義達はそれぞれの家へと帰るのであった。



―――その道中。正義と大王が2人きりになった時、大王が話しかける。

大王「これで、兄を許せるか?」
正義「ッ!?」
大王「気付いていないと思ったか?兄の前でだけ、まるで子どものままだった事に。」
正義「・・・。」
大王「色々考えたが、兄とどう接すればいいか分からなくなったからじゃないか?
   あの日、兄を完全な悪だと判断したお前は、反面『あいつの弟』を人前では演じないといけない。
   急に兄を嫌ったら、親に心配されるからか?」
正義「・・・うん。」
大王「そうか。だが、実際お前は自分の感情を押さえ込むために強引に兄と接してきた。
   故に子ども口調のままだったんだろ?」
正義「・・・どうして分かったの?」
大王「何年お前と契約していると思っているんだ?」

大王は少し微笑みながら言う。

正義「・・・ありがとう、大王。」
大王「なぁに勘違いするな。俺はお前と世界征服がしたいだけだ。」
正義「そうだったね。・・・よし!」

正義が少し前へ行き、大王の方へ振り返る。

正義「絶対に!大王の世界征服はボクが止める!」
大王「・・・フ、止められるものなら、止めてみろ!」

数年前は苛立ちすら覚えた言葉が、今はむしろ楽しみに思えて仕方がない。
この言葉が少年を強くするからか、その答えは大王自身も分からなかった。
―――世界征服への道は遠い。



―――自宅前

正義「ただいまぁ!」

ふと、正義の目に裂邪の姿が映る。しかしもう中の悪い関係ではない。ただ一言。

正義「あ、『アニキ』!ただいま!」
裂邪「はァ!?」

少年、何故かは分からんが、兄が傷付いているぞ?

第8話「白い影」―完―



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー