「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 魔法少女銀河-06

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【不思議少女シルバームーン~第五話 第一章「ネバーランドと箱入り息子」~】

「っつー訳で、俺はその後ボッコボコにされて今に至るわけですよ。」
「その割には元気そうだよね明尊兄。」
「俺はほら、心が折れない限りダメージもすぐ回復するしな。
 非都市伝説攻撃じゃ都市伝説をなかなか傷つけられないだろ?」
「あー半分半分だからやっぱり丈夫なんだ。」
「うん。」
「それにしても遂に上田さんと霙ちゃんがねえ……。」
「くそっ、やっぱりあの二人そういう仲だったんだ……。」

 こんにちわ、赤い甲冑の男こと上田明尊です。
 知らない人向けに説明すると元連続殺人鬼にして今の学校町を陰ながら守る名探偵上田明也の第一子だったりします。
 親が碌でも無い人間ですが俺の場合はそれでも歪むこと無くそこそこ普通に生きていけてます。
 偏に俺の素晴らしい素質ゆえでしょう。
 今日は両親の友人で情報屋(探偵につき物だそうな)を営む新島友美さんの家に遊びに来ていました。
 ティーカップ片手に不敵な笑みを浮かべているのが友美さん。
 やたら俺にベタベタしているのがその娘の明ちゃん。
 般若のような顔で俺を睨んでいるのが息子の愛人くんです。
 友美さんは基本子育てしない人なので二人とも父の事務所やらで生活していることも多いです。
 俺は寄り付きませんよあんな事務所。
 たまに顔を出せば酷い目に遭うし。
 もっぱら祖父母の家で暮らしています。
 祖父は真面目な古武術家で、祖母は会社経営をしています。
 二人ともいい人で何故この二人から父のような男が生まれたのか分かりません。

「そこが分からないから所詮凡人とバカにされるんだよ。」
「どっちの台詞に言ったんですか。」
「なんのことだい?それよりもあれだぜ。」
「なんです?」
「やったね、明尊君、家族が増えるよ!!」
「ヤメテェェェェッ!!」
「明尊兄……。」

 こんな状況でも明だけは俺に同情してくれる。
 なんて可愛いやつなんだろう。
 どこの馬の骨とも知れぬあの女と違って本当に優しくて俺のことを考えてくれる。

「明……。」

 黒いガラス玉のようなつぶらな瞳が俺を見ている。
 神様ありがとう、この子は俺の数少ない心の癒し……

「私、妹がほしいな。」
「イヤァァァァァァァァァッ!!」
「イヤーじゃ済まないよ、あの人仕込むときは確実に仕込むからね。」
「聞きたくない!可能なかぎり聞きたくない!父親の子作りの話とか聞きたくない!」
「おいおい明尊君だって思わぬ展開ではあったけどその過程で生まれたんだぜ。」
「思わぬ展開ってなんだよ!さらっと嫌な事実に触れられちゃったよ!」
「話せば長くなるがあの頃上田さんはそれはもうはっちゃけていてね、まさに全盛期だった。
 今の十倍は強かったね、人間強度が圧倒的だったもん。
 そんな頃の上田さんがまず契約能力を使えない状態で当時野良都市伝説だった茜さんに襲われて……」
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!」

 おれはにげだした。
 ともみさんは0のけいけんちをえた。

「あー、待ってよー。」

 後ろから明がヒョコヒョコ付いてきた。

「二人とも夕飯までには帰ってきなさいよ。」
「今日は婆ちゃんの所で食べてきます!」
「あらそう。」

 仕方ないので俺は明を連れて祖父母の家に行くことにした。
 これ以上ここにいると確実に聞きたくないことまで聞かされる。
 ここからだと少し遠いので地下鉄に乗って行くとしよう。

「ほら明、地下鉄乗って行くぞ。」
「はーい。」

 俺も明も定期券を持っているので結構平気で地下鉄に乗る。
 定期が無いと高いので乗れないのだがそこら辺は普段遠距離通学しているのを幸運に思うべきか。
 休日の地下鉄は乗客も少なくてそこそこ快適である。
 明がやたら体を押し付けてくるがまあそれは気にしないことにしよう。

「これからおばあちゃんのところに行くの?」
「うん。」
「お祖母ちゃんってすごい優しいよね。」
「まあちょっと甘いけど良い人だよな。」
「お父さんもああやって甘やかされてたから悪い人になったのかな。」
「そんな気がする、前に親父の女癖の悪さについて叱るように頼んだんだよ。
 そしたらなんて言ったと思う?」
「さあ?」
「孫が増えると嬉しいわね、だってよ。」
「あはは、おばあちゃんらしいや。」
「あははじゃないってば……。」

 朗らかに笑う明。
 鈴のような笑い声、笑い事じゃない気がするんだけどな。
 あまり大きな声を出すと周りの人に迷惑……あれ?

 その時やっと俺は地下鉄内部の異変に気がついた。

「アナタが上田明尊さんですか?」

 そう、俺達と同じ車両に居たはずの人々がいつの間にか居なくなっていたのだ。

「無視?凹みますね。」
「怪しいやつね、凹んだんなら凸凸にしてやっても良いんだよ?」
「明、それを言うならボコボコだ。」

 その代わりにくせ毛で碧眼金髪の五、六歳くらいの少年が俺達の前に立っていた。
 こいつがこの異変の原因といったところか。

「それにしてもおかしいな、明尊さんだけを招いたつもりだったんだけど……。
 ああそうか、体が密着してたから一緒についてきちゃったのか。」
「貴様、他の乗客をどこにやった?」
「他の乗客?消えたのは他の乗客じゃなくてあなた方なんですよ?」
「ふぅん、そういうことか。ならばまあ焦る必要も無いか。
 名を名乗ってから話すなら、話も聞いてやろう」
「明尊兄、こんな奴相手にしちゃだめだよ。ぶん殴って捕まえておばあちゃんの所に引き渡そうよ。」
「偉大なる俺は他人の話を許可する程度には偉大なのだ。」
「また出たよ自信過剰モード。こっちの方が強いから安心だけど。」
「それはそれはありがとうございます。
 まず私の名前はジャック・ジョーカー。
 子供の子供による子供の為の世界を作る組織ネバーランドの一員です。」

 少年は恭しく頭をさげる。
 ふむ、まあ礼儀は分かっているようだな。

「今日偉大なる上田明尊様にお会いしに来たのは他でもありません、
 明尊さまには是非とも我々ネバーランドの同志に加わっていただきたく勧誘に参った次第です。」
「ネバーランド?前にお祖母様の開いたパーティーを邪魔した無粋な輩共じゃないか。」
「その節は大変失礼いたしました。」
「まったく、そんな奴らが何故俺を仲間に入れようとする?」
「それはアナタが我々と同じように大人を嫌っているからです。」
「……。」

 明の方をチラリと見る。
 なんかめっちゃ威嚇していた。

「アナタも大人がロクでもないものであることは分かっているはずだ。」

 正直言って否定はできない。
 父しかり、母しかり、ろくな人間ではない。
 まあ母の場合は精神年齢の低さが関わっている気もしないでもないが。
 しかしそれでもまともな人だっている。
 エーテルさんや祖父や……他には……あれ?

「永遠に子供で居られる国なんてあったら幸せだと思いませんか?
 大人になってしまえばどんどん心が汚くなっていく。」

 居ない。
 まともな大人が周りに居ない。
 まったく居ないとは言わないが絶望的に少ない。

「貴方のところの霙さんでしたっけ?
 彼女だって昔は無邪気だったはずですよ。
 なのに今は……。」
「何故貴様がそれを知っている!?」
「さぁ?あれだけ派手に騒げば解っちゃうと思いますけど。」
「…………明尊兄、やっぱこいつ怪しいよ。」
「やれやれ、嫌われたものだ。」
「まあ確かに怪しいな。子供だけで国など作れるものか。」
「それなら簡単、都市伝説の力を使えば食料の供給も今よりずっと簡単にできる。」
「そんなことをすれば社会は大混乱に……」
「社会を混乱させるのは欲に目が眩んだ大人だ。」
「…………それを始末すれば子どもだけの国で皆幸せに過ごせると?」
「ええ、そう思います。」
「非現実的だな、却下だ。俺たちをさっさと元の空間に戻せ。」
「そうですか、それは残念。では今回は帰らせていただきます。」

 突如辺りに話し声が帰ってくる。
 空間操作系の都市伝説独特の“酔い”は感じられない。
 つまり……認識をいじって俺達と他の乗客とを互いに察知できなくしていただけか。

「貴方が本当に大人に絶望した時、大人を憎しみ始めた時、また会いに来ますよ。
 その時は是非一緒にネバーランドを作りましょう。」
「あっ待て!」
「妹さんの方も、大人が邪魔になったならいらしてください。
 きっとあなたとわたしたちの利害は一致する。」

 それだけ言ってジャックという少年は霧のように消え去ってしまった。
 車内アナウンスは俺達が降りるべき駅の名前を告げていた。
【不思議少女シルバームーン~第五話 第一章「ネバーランドと箱入り息子」~】


【不思議少女シルバームーン~第五話 第二章「少年とはいてないおねえさん」~】

「おっちゃーん、いつもの定食おねがー…………」
「あらいらっしゃい。」

 彼誰飯店、僕の行きつけの中華料理店だ。
 安くてうまくて早く飯が出るので塾に行く前によく食べに来ている。
 時々やっていなくて腹ペコのまま授業を受けたりするがまあそんなことはどうでもいい。
 そんなこと問題にならないレベルの異常事態が今ここで発生していたのだ。

「おっちゃん……じゃない、何時かの和服のお姉さん!?」
「うふふ、お久しぶりですね。
 店長は数日前に子供をかばってダンプカーにはねられて全身複雑骨折の上意識不明の重体から昨日回復したばかりなんですよ。
 しばらくは自分よりはるかに年下の美人看護師に付き添われて自宅療養ですね。
 だからその間は私がラーメン屋さんやってまーす。」
「酢豚は?」
「無理」
「回鍋肉」
「できるわけないじゃないですか」
「青椒肉絲」
「ごめんなさい♪」
「……なんてこったい。ちなみにお姉さん普段のお仕事は?」
「ダンプカーの運転手かな?」
「…………わーすごーい。」
「とまあそれはそうとしてこれメニューです。」
「あ、はぁ……じゃあこの味噌ラーメンで。」
「はいかしこまりました。」

 意外とお姉さんの手際は良くてあっという間にラーメンが目の前に出てくる。
 まずは礼儀としてスープだ。
 ふむ、濃厚な海鮮系の出汁か。時間をケチる為に仕込みに手間がかかる豚骨や鶏がらを避けたのか。
 確かに飲んでいる分には良いが麺と絡んでもこの味わいが出し続けられるか……。

「いかが?」

 麺を勢い良くすすする。
 卵を練りこんだ至って普通の麺、ムチムチプリプリしていて頬に吸いつき舌で弾む。
 噛むごとに絡んだスープの鮮烈な味わいが口腔内で迸っては消えていく。
 喉越しも最高、するりと喉の中を這って行き胃袋にしっかりと収まるこの感触。
 まさに比べる物はない。

「旨い!」
「あら良かった。」

 そのままチャーシューに突撃、細かく刻んだタイプだ。
 昨今主流の直火で徹底して炙るものではない。
 煮豚だ。
 角煮に近い食感。
 濃厚な海鮮スープに負けないしっかりとした味付け。
 若干甘めなところが塩辛くなりがちなラーメンにおいてアクセントになっている。
 もやしのジャキジャキした食感で柔らかめの麺にアクセントをつけているところも芸が細かい。

 しかし、一つだけわからない。

 海鮮スープと只の卵麺ではここまで調和はとれない。
 何かしらの隠し味が仕込まれている。
 それがわからないのだ。

「ふぅ……美味かったぜお姉さん。」
「ありがとうございます。」
「代金ここに置いておきますね。」
「はーい。」
「それじゃあ……と、その前に。」
「なんですか?」
「いや、このラーメン、あなたのオリジナルでは無いでしょう?
 おそらく誰かから指示されて貴方はそのとおりに作っただけ……。」
「……あら、分かります?」
「お姉さんの手からは食材の匂いがしない。
 日々最高の食材を探し求め扱う中でどうしても染み込む匂いがしないんだよ。
 普段貴方はあまり料理を作らない。」
「あらぁ言ってくれるじゃない。これでも私主婦なんですけど。」
「料理はあんまりしていないだろう。」
「……何故?」
「やっぱりそれも手ですよ。どんだけきれいな手してるんですか。」
「うぐぅっ!そ、それはうちの子が……!
 私料理つくると目に見えてテンション下がるから!
 正直……これで良いのかなって……グスッ
 でもあの人が家事とか全部やってくれるし……。
 だからつい普段のお仕事の方にばかりかまけちゃって……うわああああん!」
「ていうか子供居るんですか、何歳なんですかお姉さん。後泣かないでください。
 それに旦那さん誰ですか?まさかあの店長とかって……」
「え、いやそうですけど…………グスッ。あと年齢は聞かれると色々危ないんでやめてください。」

 おいおい意気揚々とおっちゃんにパンツの話しちゃったぞ俺。
 どうするんだよこれ。

「え、あ、ごめんなさい。」
「いえ、良いんです別に……。」
「あれ、そういえば今何時でしたっけ。」
「午後二時二十二分ですね。」
「ああー、じゃあもうそろそろ行かないと。」
「どこかに行くんですか?」
「ええ、近くの道場に行くことになっていまして。」
「ああーそっか。でも貴方は都市伝説の能力を持っていない筈じゃあ……。」
「ええ、だから持っている知り合い二人ほど誘ったんですけどね……。」
「何か有ったの?」
「一人はなんかここ数日体調崩しただかで学校休んでて。
 もう一人は親がダンプカーにはねられた姿をモロに見てトラウマになったらしく学校休んでいるみたいです。」
「まあ大変。」
「という訳で俺は今日は一人ですね。ではこんどこそさようなら。」
「ありがとうございました。」

 店を出て道場に向かう。
 約束の時間まではまだ少しだけ余裕がある。

「やあスバル!」
「…………またお前か。」

 幽霊のように路地裏から現れた少年。
 こいつは死んだはずなのだ、故に正しく幽霊の筈なのだ。

「どこに行くんだい?君の二人のガールフレンドのところ?
 少しやいちゃうなー、僕と君ってそれこそ友達以上恋人以上だと思ってたのに。」
「やめろ、俺は男といちゃつく趣味はない。」
「そっかー残念、せっかく良いお知らせを持ってきたのに。」
「なんだ?」
「これから一週間後、どこかで派手な事件でも起こそうと思う。
 それと同時に世間にネバーランドの存在を知らしめよう。
 同志も集まってきたしこの辺りが頃合いってことになったんだよね。
 で、ネバーランドのオープン記念には是非とも君という最上のゲストが欲しい。」
「俺にもう一度戦えって?」
「いや、契約者じゃない君にそんな無茶は言わない。
 僕はただ君の作戦立案能力を買っているんだ。」
「俺はもう嫌なんだよ、奪ったり奪われたりするのが。」
「おいおい、僕達から奪ったり奪われたり殺したり殺されたり燃やしたり燃やされたりを奪い取ったら何があるっていうんだよ。
 僕達はどうせ戦争の為のおもちゃなんだぜ?
 諦めるって君が言っていたじゃないか!」
「あれは間違っていた。生きる価値、奪ったり奪われたりする以外に生きる価値ってのは有ったんだ。
 奪うでなく与えられる、奪われるでなく与えることだってできる。」
「嘘だ!」

 そうだ、嘘だ。

「心からそんなおめでたいことを信じているなら!
 なんで君は、君のその冷たい瞳の色は変わっていないんだい?」

 でも、嘘でもそう言い続けていればそうなるような気がするから。
 確かに俺は自らを偽り続けている。
 正直に言えば俺はどうでもいい。
 すべてがどうでもいいんだ。
 人が死のうが生きようが。
 人を殺そうが殺されようが。
 すべてが等価値すべてが無価値。

「あの魔法少女と初めて出会った時、君は契約者を撃ち殺したね?
 君くらいクールな男だったら手足に銃弾を撃ちこんで誰も死なせずに逃げられた筈だ。
 そしてその後あの魔法少女にイケシャアシャアと『仕方がなかった。』と言ったそうじゃないか?」
「……なんで知ってる。」
「地獄耳なんだよ、同志の一人がね。
 その話を聞いたとき、僕は改めて君を誘おうと思ったんだ。」
「どうしてだ。」
「君はやるべきことに飢えている。
 誰かから命令されたがっている。
 そしてその過程でできれば人を殺したい、できれば戦いを始めたいと思っている。
 意識では思っていなくても刷り込まれた経験が君にそうさせる。
 ならば君は僕と共に世界を変えるべきだ。
 ただ一人の修羅として、ただ一人の悪魔として、ただ一人の英雄として。
 子供の心を代弁し、大人への憎しみを滾らせながら、全世界六十億にこの世界の規範を問い直す兵の一人となればいい!」

 知った事ではない。
 あえて言わせてもらえば大人ってのもそれほど捨てたものではないということだけか。
 だがまあ言っても詮なきこと。
 こいつの憎しみがそんな言葉で止まるわけもない。

「この際だ、思想なんてどうでもいいんだ。
 スバル、また君と戦いたい。
 戦場の中を走りまわりたい、昨日まで同じ飯を食った連中がゴミのように死ぬ中で君と僕だけは歩き続けるんだ!
 共に!常に共に!イイぞお、すごくイイ。
 何人も何人も死んで死んで死んでの大戦争。
 子供を戦争の道具にした人間ども、
 そんな人間どもを許す社会を作った人間ども、
 そんな人間どもが住まう社会、
 すべての悲劇の種を摘みとって全部ゼロにして、
 そこには君と僕が立っているんだ。
 それは一つのハッピーエンドで、君と僕でなくては描けない物語なんだ。
 これはきっっと君の義務だ。
 君の為すべきことだ。
 君と僕とその他大勢が奏でる戦争交響曲だ。
 指揮は君、作曲は僕、観客は世界。
 胸が高鳴るぞ、戦争だ。
 君ももう一度生きている実感を得られるだろう戦争だ!
 あんな情けない正義の味方の犬なんて君はもうする必要無いんだ!」
「……もうこうなっちまったら悪くないかもな。
 朔夜があんな状況である以上、俺もやることがないし。
 考えておくよ。」
「そうかい!それじゃあ良い返事を待っているよ!
 なにせ僕も忙しいからそろそろ皆のところに戻らないといけないんだ。」
「ああ、そうしてくれ。もどるにしても準備がしっかりしてないと作戦も立てられない。」
「そうだねそうだね!やる気になってくれたかうれしいよ!」

 そう言ってジャックは霧のように消え去ってしまった。
 そうだ、俺は行ったのだ。
 彼女が学校を休み始めてからすぐに。
 ちょうどこんな感じの晴れた日に。
 彼女の家に。
 そこであった彼女は変わり果てていた。
 彼女は正義の味方なんてもうやらないと言っていた。

「といってもまあ俺のやることは変わらないんだけどね。」

 今日、俺はおっちゃんと約束したとおり道場に向かう。
 今日、俺にはやるべきことがある。
 明日から俺がやるべきことは……なんだろう。
 宿題やって、学校行って、クラスメートとたわいない世間話。
 それだけか。
 やることが欲しい。
 確かに俺は命令されたくてしょうがない人間だ。
 朔夜が居なくなってしまった今、素直にまた生きてても死んでても一緒の無味乾燥な生き方に戻るのは……
 正直、少しだけ嫌だ。
 ジャックのところにいって、また戦争の犬になるのもいいかも知れない。

「でもさ……。」

 でも、俺は少しだけ親友であるあいつが許せなかった。

「朔夜は、情けない正義の味方なんかじゃないよ。
 あいつは……、あいつは……。」

 会ってまだ三ヶ月も経ってないのに、なんで俺は彼女のことでこんなムキになっているのだ。
 全てのことをどうでも良いと思っていたのに。
 なのに何故俺はほんの少しだけであってもジャックの言葉に怒りを覚えているのだろう?
 口をついて出る言葉が風に吸い込まれて儚く消えていくのと対照的に、
 俺の中の蟠りは黒くよどんで消えようとはしなかった。
【不思議少女シルバームーン~第五話 第二章「少年とはいてないおねえさん」~】

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