がっこうのかいだん 01
噂話
怪談
伝承
悪戯
創作
勘違い
どんな形であれど、数多の人を伝い姿形を変えながら
一時でも、それは『ある』ものだと信じられ
その存在を語られ、騙られ、形られ続けたもの
それをこの町では
怪談
伝承
悪戯
創作
勘違い
どんな形であれど、数多の人を伝い姿形を変えながら
一時でも、それは『ある』ものだと信じられ
その存在を語られ、騙られ、形られ続けたもの
それをこの町では
『都市伝説』
と呼ぶ
―――
少年は息を切らせて廊下を駆ける
窓の外は既に薄紅く染まった黄昏時で、その色に染まった廊下はどこか現実感を失わせる印象だった
部活動も既に終わり、教師も大半が校舎から引き上げたこの頃合
忘れ物を取りに
そんなありがちな理由で
学校の怪談などで、人気の無い校舎に入り込むためのありがちな理由で、人目を避けて校舎に入り込んだ少年は
出会うべくして『それ』に出会った
廊下の突き当たり、タイル張りの床の上に、うつ伏せにぺたりと張り付いた少女の姿
遠目には頭と腕しか見えなかったそれは、ただ誰かが倒れているようにしか見えない
だが、生徒など誰も居ないはずの放課後の校舎で
この学校の制服ではないセーラー服で
そして何より、突然腕を立てて起き上がったその少女の下半身には、スカートが無かった
何も履いていなかったという意味ではなく、何もついていなかった
赤黒く染まったセーラー服の裾から覗く、ちらちらと揺れる臓物の色がただただ鮮明に目に焼き付いていた
起き上がり、上げた顔が少年に向けられ
目が合うと同時に、『それ』はまたべたりと床に張り付くと、恐ろしい速度で床を這いずり少年に向かって一直線に迫ってきたのだ
少年は思わず逃げ出した
すぐ脇にあった階段を駆け上がるとほぼ同時に
それまで少年が立っていた場所を掴むかのように少女の細腕が空を切り、勢い余って廊下の反対側まで
そのまま何処かへ行ったのか、それとも戻ってくるのか
そんな事を確認する余裕も無く、駆け上がった二階にある教室の一つへと飛び込み
素早く、だが音を立てないように扉を閉じて、扉からは死角になるよう教壇の影に腰を下ろす
「何だよアレ……なんか小学校の時に、あんなのの怪談とか聞いた事あるような……」
「どんなの?」
「上半身だけで這いずってくる女の、こ……?」
不意に聞こえた疑問の声に、少年はつい答えてしまっていたが
それが少女の声だと気付くと、背中に悪寒が駆け巡る
転げるように教壇から身体を離し、声がした方、教壇の下に視線を向けると
「襲うとか殺すとかめんどいから、そんなに恐がらなくてもいいよ……ああ、石の下に住んでる虫になりたい」
そこに居たのは、小学生ぐらいの年齢だろうか
Tシャツにスパッツ、バスケットボールで着用するようなゼッケンを付けた、小柄な女の子だった
ただその頭部は本来ある位置には存在せず、体育座りをした膝の上に置かれ、頭の上に手を組んで乗せて身体を預けるという不気味な格好ではあったが
その言葉のせいか、態度のせいか、はたまた追いかけられた上半身だけの少女との比較のせいか、その恐怖感はやや控え目である
「上半身だけってのは、多分『テケテケ』。引き千切られて同じ姿にされるとか、大体そんな感じの奴」
「引き千切っ……!?」
「ああいう迷惑掛ける奴がいるから、脅かすだけの私達みたいなのが割を食うのよね……空き地に生えてる草になりたい」
死んだ魚のような濁った目をして、床にぐりぐりのの字を書き続ける少女
「ね、ねえ……どうにかあれから逃げられないかな?」
「何で私に聞くかなぁ、めんどい……遭遇したなら判ると思うけど、あれ足速いよ? 使ってるの手だけど」
「隠れて待ってたら消えたりは……」
「しない。むしろ日が沈んだら本番」
そんな話をしているうちに、静かな校舎の中で廊下に響くぺたりぺたりという音
「ど、どうしよう、見付かったらどうしよう!?」
「上手い事逃げ切るか、やっつけるしかないんじゃないかな。まあ頑張って、私はここで床に埃が積もっていくのを眺めてるから」
「逃げようにも無茶苦茶動きが早いし、やっつけるとか更に無理なんじゃ……手伝ってくれたりは、その、しないのかな?」
「めんどい。やる気しない……あ、でも見捨てたとか知られたら怒られそう……でもめんどい」
ぐずぐずと何事か思案していた少女だったが、何か諦めたように顔を持ち上げる
生首に真っ直ぐ見詰められ、少年は思わず怯みそうになる
「めんどいけど、『契約』でもする? そうでもしないと戦うとか無理だし」
「け、契約? 何それ、魂とか寄越せとかそういうの?」
「そういうのも居るけど……大体の『都市伝説』はね、一緒に居て、忘れないでくれればいいだけ」
何処かの誰かになんとなく知られているだけでも、存在するには充分ではあるが
たった一人でも強くその存在を認識され、必要とされる事でより力を得る事ができる
それが『都市伝説』の、契約という名の絆
「す、する! だから助けて!?」
「ん、それじゃ」
少女は手にしていた自分の頭部を、ひょいと少年に向かって放り投げる
「わ、わわ!?」
少女の生首という不気味な物体ではあったが、流石に落とすわけにもいかずにそれを受け止める
「受け入れてくれて、ありがとう。頑張るよ?」
少年の腕の中で、少女の生首はにっこりと微笑んだ
そんなやり取りの声で気付かれたのだろう
ばん、と大きな音を立てて教室の扉が開かれる
「見つけたぁ」
床を這いずる少女『テケテケ』が、獲物を見つけ嬉しそうに声を上げ
「させないよ」
首の無い少女が、『テケテケ』に向かって駆ける
「何、あんた? 首のついでに、その身体も切り離してやるわ」
『テケテケ』の腕が床を叩き、その身体を跳ね上げて首の無い少女に躍り掛かる
「ばらばらになって、消えろ」
「やだ、めんどい」
人体を易々と引き裂くであろうその腕を、身体を捻りぎりぎりのところですり抜けるように避ける
そして、それと同時に
「え」
『テケテケ』が素っ頓狂な声を上げた
首の無い少女の手の上で、生首となって
「何、を」
首が無くなった『テケテケ』の胴体が、視界と感覚の不一致で、ひっくり返された虫のようにじたばたともがく
「夜中の体育館で、床にボールをつく音がする。不思議に思って見てみると、そこには自分の頭をボールのようにドリブルをしている姿が……そんな学校の怪談」
手の中でくるりと『テケテケ』の生首を回し、少年が抱える自分の首へと向ける
「それが私。呼び方は色々だけど、長いとめんどいから『生首バスケ』でいいよ?」
「く、首を奪えたからって、それで殺せるわけじゃ!」
よろよろと胴体を立て直し、探るように手を蠢かせる『テケテケ』
「そりゃそうだけど」
『生首バスケ』の少女は、『テケテケ』の生首をひょいと空中に放り上げ
「戦闘不能ぐらいにはできるかな?」
「に゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
腰を落としての高速ドリブル
凄まじい勢いで揺れる視界と、床にぶつかる痛みこそ無いものの脳は思い切り揺さ振られる
こういった『都市伝説』に脳があるのかと疑問視される事もあるが、人間の造形をしているものは身体構造も人間と同じ存在が多いのだ
「まいった?」
「だ、だれが……」
「あっそ」
ドリブルを止めて問い掛けたものの、焦点の定まらない目をしながら強がる『テケテケ』の生首を、今度は指の上で思い切りくるくると回す
「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう!?」
「まいった?」
ぱしりと回転を止めて、完全に目を回した『テケテケ』の生首に再度問い掛ける
「おえっぷ……ぅぇ……」
完全に目を回し、グロッキーになった『テケテケ』
「契約者を見逃してくれるなら、元に戻してあげるよ?」
「わ……わかったから……勘弁して……」
胴体も完全にぐったりした様子に、『生首バスケ』の少女は安心して首を戻してやる
「それじゃ、帰ろっか」
「え、その……いいの? 放っておいたらまた襲われる人とか出るんじゃないの?」
「やっつけてもどうせまた別のが湧くし。それに……懲りないで危ない事するなら、もっと酷い目に遭うから」
それは少年への解答というより、『テケテケ』への念押しのような言葉だった
「この町にはね、『都市伝説』がいっぱい湧くけど、それだけ契約者も多いからね」
未だ釈然としない様子の少年から、ひょいと自分の生首を取り上げて
『生首バスケ』の少女はにっこりと微笑む
「ま、これからは私が守ってあげるから。めんどいけど」
「これからって……」
「一度『都市伝説』に触れちゃうと、なんか遭遇しやすくなるみたいだよ?」
「マジで!?」
「『都市伝説』に詳しい人とか探して、ちゃんと話とか聞いた方が良いかもね。知らなかったと思うけど、この学校って契約者の人いっぱい居るから」
かくして少年は、非日常の世界へと否応無しに引っ張り込まれ
妙な事件や命の危機、数多の契約者に遭遇していく事になるのだが、それはまた別の話
窓の外は既に薄紅く染まった黄昏時で、その色に染まった廊下はどこか現実感を失わせる印象だった
部活動も既に終わり、教師も大半が校舎から引き上げたこの頃合
忘れ物を取りに
そんなありがちな理由で
学校の怪談などで、人気の無い校舎に入り込むためのありがちな理由で、人目を避けて校舎に入り込んだ少年は
出会うべくして『それ』に出会った
廊下の突き当たり、タイル張りの床の上に、うつ伏せにぺたりと張り付いた少女の姿
遠目には頭と腕しか見えなかったそれは、ただ誰かが倒れているようにしか見えない
だが、生徒など誰も居ないはずの放課後の校舎で
この学校の制服ではないセーラー服で
そして何より、突然腕を立てて起き上がったその少女の下半身には、スカートが無かった
何も履いていなかったという意味ではなく、何もついていなかった
赤黒く染まったセーラー服の裾から覗く、ちらちらと揺れる臓物の色がただただ鮮明に目に焼き付いていた
起き上がり、上げた顔が少年に向けられ
目が合うと同時に、『それ』はまたべたりと床に張り付くと、恐ろしい速度で床を這いずり少年に向かって一直線に迫ってきたのだ
少年は思わず逃げ出した
すぐ脇にあった階段を駆け上がるとほぼ同時に
それまで少年が立っていた場所を掴むかのように少女の細腕が空を切り、勢い余って廊下の反対側まで
そのまま何処かへ行ったのか、それとも戻ってくるのか
そんな事を確認する余裕も無く、駆け上がった二階にある教室の一つへと飛び込み
素早く、だが音を立てないように扉を閉じて、扉からは死角になるよう教壇の影に腰を下ろす
「何だよアレ……なんか小学校の時に、あんなのの怪談とか聞いた事あるような……」
「どんなの?」
「上半身だけで這いずってくる女の、こ……?」
不意に聞こえた疑問の声に、少年はつい答えてしまっていたが
それが少女の声だと気付くと、背中に悪寒が駆け巡る
転げるように教壇から身体を離し、声がした方、教壇の下に視線を向けると
「襲うとか殺すとかめんどいから、そんなに恐がらなくてもいいよ……ああ、石の下に住んでる虫になりたい」
そこに居たのは、小学生ぐらいの年齢だろうか
Tシャツにスパッツ、バスケットボールで着用するようなゼッケンを付けた、小柄な女の子だった
ただその頭部は本来ある位置には存在せず、体育座りをした膝の上に置かれ、頭の上に手を組んで乗せて身体を預けるという不気味な格好ではあったが
その言葉のせいか、態度のせいか、はたまた追いかけられた上半身だけの少女との比較のせいか、その恐怖感はやや控え目である
「上半身だけってのは、多分『テケテケ』。引き千切られて同じ姿にされるとか、大体そんな感じの奴」
「引き千切っ……!?」
「ああいう迷惑掛ける奴がいるから、脅かすだけの私達みたいなのが割を食うのよね……空き地に生えてる草になりたい」
死んだ魚のような濁った目をして、床にぐりぐりのの字を書き続ける少女
「ね、ねえ……どうにかあれから逃げられないかな?」
「何で私に聞くかなぁ、めんどい……遭遇したなら判ると思うけど、あれ足速いよ? 使ってるの手だけど」
「隠れて待ってたら消えたりは……」
「しない。むしろ日が沈んだら本番」
そんな話をしているうちに、静かな校舎の中で廊下に響くぺたりぺたりという音
「ど、どうしよう、見付かったらどうしよう!?」
「上手い事逃げ切るか、やっつけるしかないんじゃないかな。まあ頑張って、私はここで床に埃が積もっていくのを眺めてるから」
「逃げようにも無茶苦茶動きが早いし、やっつけるとか更に無理なんじゃ……手伝ってくれたりは、その、しないのかな?」
「めんどい。やる気しない……あ、でも見捨てたとか知られたら怒られそう……でもめんどい」
ぐずぐずと何事か思案していた少女だったが、何か諦めたように顔を持ち上げる
生首に真っ直ぐ見詰められ、少年は思わず怯みそうになる
「めんどいけど、『契約』でもする? そうでもしないと戦うとか無理だし」
「け、契約? 何それ、魂とか寄越せとかそういうの?」
「そういうのも居るけど……大体の『都市伝説』はね、一緒に居て、忘れないでくれればいいだけ」
何処かの誰かになんとなく知られているだけでも、存在するには充分ではあるが
たった一人でも強くその存在を認識され、必要とされる事でより力を得る事ができる
それが『都市伝説』の、契約という名の絆
「す、する! だから助けて!?」
「ん、それじゃ」
少女は手にしていた自分の頭部を、ひょいと少年に向かって放り投げる
「わ、わわ!?」
少女の生首という不気味な物体ではあったが、流石に落とすわけにもいかずにそれを受け止める
「受け入れてくれて、ありがとう。頑張るよ?」
少年の腕の中で、少女の生首はにっこりと微笑んだ
そんなやり取りの声で気付かれたのだろう
ばん、と大きな音を立てて教室の扉が開かれる
「見つけたぁ」
床を這いずる少女『テケテケ』が、獲物を見つけ嬉しそうに声を上げ
「させないよ」
首の無い少女が、『テケテケ』に向かって駆ける
「何、あんた? 首のついでに、その身体も切り離してやるわ」
『テケテケ』の腕が床を叩き、その身体を跳ね上げて首の無い少女に躍り掛かる
「ばらばらになって、消えろ」
「やだ、めんどい」
人体を易々と引き裂くであろうその腕を、身体を捻りぎりぎりのところですり抜けるように避ける
そして、それと同時に
「え」
『テケテケ』が素っ頓狂な声を上げた
首の無い少女の手の上で、生首となって
「何、を」
首が無くなった『テケテケ』の胴体が、視界と感覚の不一致で、ひっくり返された虫のようにじたばたともがく
「夜中の体育館で、床にボールをつく音がする。不思議に思って見てみると、そこには自分の頭をボールのようにドリブルをしている姿が……そんな学校の怪談」
手の中でくるりと『テケテケ』の生首を回し、少年が抱える自分の首へと向ける
「それが私。呼び方は色々だけど、長いとめんどいから『生首バスケ』でいいよ?」
「く、首を奪えたからって、それで殺せるわけじゃ!」
よろよろと胴体を立て直し、探るように手を蠢かせる『テケテケ』
「そりゃそうだけど」
『生首バスケ』の少女は、『テケテケ』の生首をひょいと空中に放り上げ
「戦闘不能ぐらいにはできるかな?」
「に゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
腰を落としての高速ドリブル
凄まじい勢いで揺れる視界と、床にぶつかる痛みこそ無いものの脳は思い切り揺さ振られる
こういった『都市伝説』に脳があるのかと疑問視される事もあるが、人間の造形をしているものは身体構造も人間と同じ存在が多いのだ
「まいった?」
「だ、だれが……」
「あっそ」
ドリブルを止めて問い掛けたものの、焦点の定まらない目をしながら強がる『テケテケ』の生首を、今度は指の上で思い切りくるくると回す
「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう!?」
「まいった?」
ぱしりと回転を止めて、完全に目を回した『テケテケ』の生首に再度問い掛ける
「おえっぷ……ぅぇ……」
完全に目を回し、グロッキーになった『テケテケ』
「契約者を見逃してくれるなら、元に戻してあげるよ?」
「わ……わかったから……勘弁して……」
胴体も完全にぐったりした様子に、『生首バスケ』の少女は安心して首を戻してやる
「それじゃ、帰ろっか」
「え、その……いいの? 放っておいたらまた襲われる人とか出るんじゃないの?」
「やっつけてもどうせまた別のが湧くし。それに……懲りないで危ない事するなら、もっと酷い目に遭うから」
それは少年への解答というより、『テケテケ』への念押しのような言葉だった
「この町にはね、『都市伝説』がいっぱい湧くけど、それだけ契約者も多いからね」
未だ釈然としない様子の少年から、ひょいと自分の生首を取り上げて
『生首バスケ』の少女はにっこりと微笑む
「ま、これからは私が守ってあげるから。めんどいけど」
「これからって……」
「一度『都市伝説』に触れちゃうと、なんか遭遇しやすくなるみたいだよ?」
「マジで!?」
「『都市伝説』に詳しい人とか探して、ちゃんと話とか聞いた方が良いかもね。知らなかったと思うけど、この学校って契約者の人いっぱい居るから」
かくして少年は、非日常の世界へと否応無しに引っ張り込まれ
妙な事件や命の危機、数多の契約者に遭遇していく事になるのだが、それはまた別の話