「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 魔法少女銀河-15

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【不思議少女シルバームーン第七話 第四章「悪夢の色は」】

「いやー壮絶な戦いだったな!まさか組織がこんな辺境の研究所にあそこまで沢山の兵力を動員してこようとは……」
「本当だよ、ジャックちゃんが咄嗟に退却を選択してなかったら皆仲良く核融合されてたよね!」
「戦闘中に復活したサンジェルマンをシンクが止めてなかったらかなり不味いことになっていたな。
 組織のゼロナンバーは皆ある程度自らの力を抑えていると聞いていたが……。
 まさかそれが本当だったとはね。
 まあとにかくよくやってくれたよシンク。」
「いえいえ、サンタさんだってあの能力で大量の黒服を足止めしていたじゃないですか。」
「まあね、無傷とはいかなかったが……」
「ところでジャック意識有るの?」
「駄目だわ、気絶してる。」
「そういえばあのタイミングで縁さんが来てくれなかったら退却できませんでしたよね。」
「ジャックは私が来ることを確信してたからそれも彼の功績よ。
 なんだかんだでリーダーしてるわよね、彼って」

 全員が満身創痍だ。
 俺も、ジャックも、ルルも、全員がかなりの深手を負っている。
 とはいえジャックは縁さんからもらった血液のおかげでもう傷口が全てふさがって治りかけているし、
 俺は言わずもがなの半人半魔の身の上だ。
 目玉がとれても首が折れてもそれほど問題にはならない。
 いや自分で言っていて本当に訳が解らないのだが大丈夫なのだ。
 ルルだって最新型のターミネーターみたいな体しているから大丈夫。
 それよりも心配なのはサンタさんや縁さんやライディーンみたいな普通の人間達だ。
 皆が皆能力を限界まで行使して器が悲鳴を上げている。
 遡ること数時間前、橙さんとジャックが戦闘を開始したところから全ては始まった。
 彼らの戦闘自体は一進一退。
 同じワイヤー使い同士ということもあって肉弾戦大好きな俺としては非常にたるい戦いだった。
 そんな状況が動いたのがそれから数分後。
 サンジェルマンが復活してしまったのだ。
 当然俺が倒しにかかろうと思ったのだが彼は橙さんを置いてすたこらさっさと逃げ出したかと思うと突然大量の黒服を呼び出したのだ。
 元々少数による潜入任務であり、戦闘による制圧はあまり考えていなかった俺たちのチームは一度にピンチになったかに見えた。
 当然俺たち劣勢、超劣勢。
 一人一人は黒服よりずっと強いに決まっているが、
 十倍二十倍の数で来られては元々戦闘要員である俺でも厳しかった。
 どれくらい厳しかったかというとじいちゃんとの修行で谷底に突き落とされて三日間歩いて自宅まで戻った時くらいきつかった。
 ていうか黒服の中に知ってる人居たんだけどわりとガチで殺しに来られた。
 死ぬかと思った。
 冷静に考えるとエーテルさんは俺を埋伏の計に使ってることを組織の他のメンバーには言える訳ないわけで、
 当然俺の扱いは今のところ裏切り者なわけで、
 こういう状況になるのは予想できたんだけど本当に怖かった。
 でも怖くてもなんかテンション上がってくるのな、びっくり、超びっくり。

「シンクちゃん一人言多すぎ。」
「俺今なんか喋ってた?」
「心のなかで。」
「いやーん、えっち。」
「安心しなさい、どんな卑猥な妄想をしていても言わないであげるから。」
「お前この状況下でエロいこと考えてたのかよ!」
「私も14,15の時は四六時中妄想にふけっていたものだよ。」
「え、ちょ、それ黙っていたことにならないじゃん!」
「気にしない気にしない。」
「…………ん、ここはどこ?」
「おおジャック起きたか。」
「なんとか全員撤退できたよ。」
「それは良かった……。」
「ちなみに此処は車の中だ。」
「ああ、車無事だったんだ。」
「うん、アジト見えてきたよ。」

 とまあそんなこんなでアジトに到着。
 一応手配していた治癒能力者が俺たちを治そうとするのだが、
 俺は断ってそそくさと自分の部屋に戻った。
 医者はサンジェルマン以外あまり信用出来ないのだ。
 ていうか人間用の薬があんまり効かなかったり毒だったりするし。
 都市伝説による治療だって人間とは勝手が違うんだ。

「さてと……。」

 電子タバコ(無論ニコチンは入ってません)を一服する。
 一昔前までは煙草が格好いい男の象徴だったのだと親父は言っていた。
 あの時、俺は今はどうなのだと聞いた。
 親父は悲しそうな眼をして首を横に振ったのを覚えている。

「って、なんで俺は好きでもない父親のことを考えているんだ。」

 嫌いだからか?
 まあ良い、嫌な奴のことを考えるのに自分の時間を使うなんてアホみたいだ。
 それよりも俺が今考えるべきことは……
 自分の引き出しの中からジャックに渡された指令書を取り出す。
 そして何時も持ち歩いているエメラルド・タブレットと呼ばれるパソコンの画面とにらめっこする。
 俺が任されているのは英国方面への空挺作戦だ。
 問題は俺がパラシュートとかまったく使ったこと無いことなのだが、
 そこらへんはジャックが手配する兵士が全部なんとかしてくれるのでまったく問題ないとのこと。
 俺も高度100mくらいからなら問題なく飛び降りられるしそれは良いだろう。

「しかしまあ……。」

 どのタイミングで裏切ればいいのだろうか。
 エーテルさんには「とりあえず一般人に損害が出る前になんとかしろ」
 というあの人らしからぬ割とゆるふわな指示しか受けてないし、
 いやゆるふわなんて言ったけど怪しまれない為に俺がこっちに移動してからはまったく連絡を受けてないので動きようがないのだ。
 「いざとなったら絶対に解るタイミングで絶対に邪魔されない絶対に解る指示を出す」と言っていたから心配はしてないのだが。

「明尊ちゃん居るぅ?居るね、何時ものいちごの香りがするし。」
「……って、またお前か。」
「いやほら、明尊ちゃんにどうしても話したいことが有ってさ。」
「お前の体のことか。」
「うん、誰にも言わないでね?」
「そんなこと気にするなよ。
 そもそも俺もお前に色々秘密にしてもらっているしな、お互い様だろう。
 俺の抱えている秘密に比べてお前のはバレてもきっと大丈夫なレベルだし。」
「でも嫌なの、自分が変わったことを認めちゃったらさ、自分の周囲も変わらざるを得なくなる。
 今までの自分の居場所が本当に無くなっちゃう。」

 俺はルルに抱きついて彼女を押し倒すような姿勢のまま、彼女の耳元でそっと囁く。
 ルルの心拍数が爆発的に上がっているがこの際気にしてはいけない。
 ここは敵の本拠地だ、こうでもしないと誰が見ているかわからない。
 俺の都市伝説としての能力で電子機器は操作できるから盗聴と盗撮は完璧に対処できるし、
 結界も張って都市伝説対策はしているから探知系の都市伝説でも中は見れないし俺の許可無しで部屋には入れない。
 しかしながらアナログな監視や聞き耳やらにはこうでもしないと対応できないのだ。

「どのみち無くなるぜ。ジャックの作戦なんて失敗するに決まってる。」
「うーん、……明尊ちゃんはジャックの狙いが本当にネバーランドの建国だと思ってる?」
「どういうことだ?」
「世界に仕掛ける戦争なんてジャックの目的じゃないよ。
 それとは別に彼にはもうひとつ狙いが有る。
 そしてそれが成功しちゃえばどのみち私の居場所は無くなるよ。」
「……どういうことだ。」
「私にも詳しくはわかんな……」

 コンコンと俺の部屋の扉がなる。

「二人とも居る?治癒を受けてなかったから体が大丈夫か気になって来たんだけど。」

 ジャックだ。
 俺の耳に足音が入ってこなかった辺りからして足音を殺してきたか。$
 今の会話は聞かれていただろうか?

「居るけど全力で御取り込み中だ。俺はお取り込まれてる側だけど。
 そうだ、赤飯の準備でもしておいてくれ。」
「あ、……なんかごめん。」

 帰っていった。
 ルルがハァ!?みたいな顔してこっち見てるが気にしない。

「な、なに言ってるのさ!」
「声がでかいぞ。」
「あ、ご、ごめん……。」
「それで、ヤツの本当の狙いってのはなんなんだ?」
「どうも……日食が絡んでるってことしか……。」
「日食?」
「太陽が月によって打ち破られる時こそ吸血鬼である僕の力は最高になる。
 と言っていたからたぶんその高まった力で何かしたいんだろうけど……。」
「ふむ……。さっぱり分からないな。
 普通に考えたらその状態の力を利用して敵と戦うんだろうが……。 
 まあその地域に立てこもって眷属増やして戦闘を有利に運ぶんじゃないかなあ。」
「それだけだったら良いけど……。」
「まああれだ、とりあえずこれから作戦決行までの間、お前は絶対俺から離れるなよ。
 逆もまたしかりだが一人でいるところで何かあったら打つ手が無くなる。」
「私だけだと予知しても荒事に向いてないし、明尊ちゃんは不意討ちに弱いしね。」
「まあな。常に固まっていれば手出しもすまい。」
「そうだね。」
「しかしこの戦争が終わったらお前はどうするんだ?」
「うーん……あの変な研究者のところに行ってみようかな。」
「やめておけ、腕は世界一だが変態だ。」
「変態でも親らしきものだからねぇ……。」
「そんなに親というものに興味が有るのか?」
「あるさ……そりゃあ有るに決まってる。」
「そっか…………。」
「ねえ教えて、両親ってどんなものなの?」

 聞かれて答えに詰まる。
 俺にとっての両親?
 今まで考えたことがなかった。
 なにも言えないままで居るとルルがポツリと

「幸せなんだね」

 と呟いた。

「明尊ちゃん。」
「なんだ?」
「あたしのしていること間違ってないよね?ジャックが間違っているんだよね?
 すごく不安で眠れないの、震えが止まらないの、このままここで寝て良い?
 私が眠るまでこうしてここでずっとそうしていて。
 私が作り物だってことを忘れるくらい優しくして。
 お願いもう私には過去も未来も無いの……。」

 やっぱり、彼女は知っているんだ。
 彼女はジャックの計画の全容を知っていて、あえて俺に言っていないんじゃないだろうか。
 言えば俺の振る舞いからジャックが勘付くから、そうなったら俺たちの身が危ないから、
 “真相に迫っているが大事な所を間違っている”状態の振りをしているのか?

「未来がないなんてことはないさ。
 俺がお前の未来になってやるんだから。」
「ありがとう、好きだよ。」

 俺の裏切りを知っていてジャックは手元に置いている。
 その理由は?
 俺を人質にしてあいつの動きをわずかにでも封じる為?
 確かに戦いあうつもりではあるがそんなことをして何になるのだ。
 作戦の邪魔になる可能性の方が高い。
 いや待てよ、でも世界への戦争がダミーなのだとしたら……
 そこまで大規模な陽動をかけて何をする気なのだ?
 一分一秒でも時間を稼いで、成功さえすれば勝利が確定するようなもの。
 思考の歯車がカチカチと噛み合う。
 待てよ、つまり……!

「駄目、それ以上は駄目。」
「……解った。」
「今は忘れて、ジャックは恐ろしく勘が鋭いから、気づいちゃえば表情読まれてアウト。
 なにも考えないで、絶対に気づかないで、何かあっても忘れて。」

 となると、結局全ては当日の流れ任せか。
 大規模な戦争で組織が動けないとなると頼みの綱はフリーの契約者達。
 腹は立つが、学校町に戦場を限定すれば霙やあの魔法少女も十分な戦力だ。
 あいつらがそこそこに仕上がっていれば俺も心配しないで自分の仕事ができるのだが……
 ―――――まあいいや

 おれは少し眼を閉じてルルと抱き合ったまま眠ることにした。
 ちょっと暖かくて春先のまだ寒い季節には丁度良いのだ。


【不思議少女シルバームーン第七話 第四章「悪夢の色は」】

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