「キャッホー♪ たっだいまー♪」
「つ・・・疲れ、た・・・」
「つ・・・疲れ、た・・・」
女に付き合うとこうも疲れるものなのか
結成すらしていないというのにこのザマとは、本当に早くも先が思いやられる
ともかく、オレとロールは「組織」本部内の徘徊を終え、
ようやく自分達の部屋に戻って来たのだった
そこには、湯呑みに注がれた緑茶を啜る蓮華さんの姿があった
が、ローゼさんは見えない
結成すらしていないというのにこのザマとは、本当に早くも先が思いやられる
ともかく、オレとロールは「組織」本部内の徘徊を終え、
ようやく自分達の部屋に戻って来たのだった
そこには、湯呑みに注がれた緑茶を啜る蓮華さんの姿があった
が、ローゼさんは見えない
「お帰りなさい2人とも」
「ん、連ッ・・・と、R-No.1、R-No.0は何処に?」
「あれ? そういや地味にいない系?」
「あぁ、置手紙がありましたよ。フランスに行ったそうです」
「フランス? またどうして?」
「さあ? 独りが寂しくて気晴らしにでも向かったのではないでしょうか」
「ん、連ッ・・・と、R-No.1、R-No.0は何処に?」
「あれ? そういや地味にいない系?」
「あぁ、置手紙がありましたよ。フランスに行ったそうです」
「フランス? またどうして?」
「さあ? 独りが寂しくて気晴らしにでも向かったのではないでしょうか」
気晴らし、か・・・あの人の気晴らしとなると少し不安だが
「すまん、オレも行ってくる。何かあったら連絡する」
「えぇ、お気をつけて」
「行ってらっしゃーいってカンジー」
「えぇ、お気をつけて」
「行ってらっしゃーいってカンジー」
腹いせにとんでもないことをしでかしてないといいが・・・女の心は難しい
そんな事を考えつつ、オレは部屋を出、廊下を走っていった
そんな事を考えつつ、オレは部屋を出、廊下を走っていった
「R-No.3、これを」
蓮華さんの声が聞こえ、振り向くと、何かがこちらに投げられていた
咄嗟にそれを掴み確かめると、ペン型の機械だった
咄嗟にそれを掴み確かめると、ペン型の機械だった
「・・・これは?」
「先程、私が部屋に帰った時に届いたものです
役に立つかも知れませんので、念の為」
「ありがとう、蓮華さん!」
「先程、私が部屋に帰った時に届いたものです
役に立つかも知れませんので、念の為」
「ありがとう、蓮華さん!」
しまった、またNo.で呼び忘れた・・・次から気をつけよう
オレはその機械をスーツの裏にあるポケットにしまい、また走り出した
オレはその機械をスーツの裏にあるポケットにしまい、また走り出した
† † † † † † †
フランス―――
「あらぁ? 何処かしら・・・」
大きな独り言を呟いているのは、赤い長髪の少女――ローゼ・ラインハルト
その手には買い物バッグらしきものが提げられていた
その手には買い物バッグらしきものが提げられていた
「お紅茶のお共に良いと思ったのだけれど・・・
シュールストレミング、フランスが原産だと伺ったのに~」
シュールストレミング、フランスが原産だと伺ったのに~」
どうやらシュールストレミングを探しに来たようだが、彼女は大きな間違いを犯していた
シュールストレミングの原産は、スウェーデンである
シュールストレミングの原産は、スウェーデンである
「ん~、無いなら仕方ありませんわね、何か代わりに・・・あ、そうですわ!
フランスと言えば世界三大ブルーチーズのゴルゴンゾーラがある筈ですの♪
これは全精力をかけて探し出しませんと!」
フランスと言えば世界三大ブルーチーズのゴルゴンゾーラがある筈ですの♪
これは全精力をかけて探し出しませんと!」
惜しかった
確かにフランスのブルーチーズはそうなのだが、フランスはロックフォールだ
ゴルゴンゾーラはイタリアである
それにしても、紅茶を飲むというのに何故よりにもよってそんなゲテモノばかり求めるのだろうか
その疑問に答えてくれる事はなく、彼女はただただ美しい町並みを堪能しながら町を練り歩いていた
だが、そんな町に突如響いた、甲高い悲鳴
同時に、彼女が身体中で感じ取った、邪悪な気配
確かにフランスのブルーチーズはそうなのだが、フランスはロックフォールだ
ゴルゴンゾーラはイタリアである
それにしても、紅茶を飲むというのに何故よりにもよってそんなゲテモノばかり求めるのだろうか
その疑問に答えてくれる事はなく、彼女はただただ美しい町並みを堪能しながら町を練り歩いていた
だが、そんな町に突如響いた、甲高い悲鳴
同時に、彼女が身体中で感じ取った、邪悪な気配
「ッ!!・・・都市伝説、ですわね」
彼女の瞳の紫水晶が、ゆらりと揺らめいて柘榴石に変化する
きょろ、きょろと視線をあちらこちらに向け、気配のする方向とその地点への最短ルートを導き出す
きょろ、きょろと視線をあちらこちらに向け、気配のする方向とその地点への最短ルートを導き出す
「まだ少し早いけれど、お先に始めてしまいましょうか・・・「組織」のお仕事!」
膝を曲げ姿勢を低くして両手で自らの足に触れると、触れた所から脚部全体に赤いスパークが迸り、
直後にクラウチングスタートのような格好で地を蹴り駆けだした
町中のどよめく人々を、目にも止まらぬ速さで縫うように駆けめぐること僅か数秒
直後にクラウチングスタートのような格好で地を蹴り駆けだした
町中のどよめく人々を、目にも止まらぬ速さで縫うように駆けめぐること僅か数秒
「あれは・・・!」
ローゼは通りの真ん中に堂々と立っている、騒ぎの原因と思しき影を捉えた
真っ白なワンピースを紅く染めた、紫の長い髪の少女
長いどころではなく、後ろ髪は腰まで、前髪は胸まで伸びて顔が殆ど見られない
それ故に髪の間から覗く眼鏡と怪しい笑みが、不気味さを醸し出している
さらに特筆すべきは、少女の傍にいる化け物だ
黒い粘液上の生命体らしきそれは、アメーバの如く蠢きながら少女につき従って前進しつつ、
不自然に生えた巨大な人間の腕で建物を破壊していた
真っ白なワンピースを紅く染めた、紫の長い髪の少女
長いどころではなく、後ろ髪は腰まで、前髪は胸まで伸びて顔が殆ど見られない
それ故に髪の間から覗く眼鏡と怪しい笑みが、不気味さを醸し出している
さらに特筆すべきは、少女の傍にいる化け物だ
黒い粘液上の生命体らしきそれは、アメーバの如く蠢きながら少女につき従って前進しつつ、
不自然に生えた巨大な人間の腕で建物を破壊していた
「そこの貴方! これ以上の破壊活動はおやめなさい!」
「・・・む」
「・・・む」
ぎろり、髪と眼鏡の二重の壁の奥で光る少女の鋭い眼が、ローゼを見据えた
そして、液状生物に破壊行為を止めるよう、手だけで指示する
そして、液状生物に破壊行為を止めるよう、手だけで指示する
「・・・何者?」
「ワタクシはッ、と・・・まぁ良いですわ、R-No.0と申しますの。コードネームだけれどお赦しになって?」
「そう」
「ワタクシはッ、と・・・まぁ良いですわ、R-No.0と申しますの。コードネームだけれどお赦しになって?」
「そう」
少女は短く答えると、静かに手を頭上に挙げ、
「往きなさい。私の、可愛い子供・・・「ショゴス」」
「テケリ・リ、テケリ・リ」
「テケリ・リ、テケリ・リ」
前方のローゼに指差すように下ろすと、粘液の生物―――「ショゴス」と呼ばれたそれは、
巨大な腕を何本も生やして宛ら蜘蛛のような動きでローゼに向かって突撃を仕掛けてきた
寸でのところで、ローゼは高くジャンプをする事で「ショゴス」の攻撃を難なく避けた
巨大な腕を何本も生やして宛ら蜘蛛のような動きでローゼに向かって突撃を仕掛けてきた
寸でのところで、ローゼは高くジャンプをする事で「ショゴス」の攻撃を難なく避けた
「「ショゴス」・・・確かにそう仰ったわね
どういうことですの? 確か「ショゴス」は、創作上の生物じゃ・・・」
どういうことですの? 確か「ショゴス」は、創作上の生物じゃ・・・」
今度こそローゼの脳内の正しい記憶の引き出しが開放された
「ショゴス」とは、そもそもクトゥルフ神話に登場する架空の生物であり、都市伝説とは言い難いものである
しかしながら、それは確実に、今彼女の目の前で形をなし、実際に被害を与えているのだ
「ショゴス」とは、そもそもクトゥルフ神話に登場する架空の生物であり、都市伝説とは言い難いものである
しかしながら、それは確実に、今彼女の目の前で形をなし、実際に被害を与えているのだ
「創作上?・・・違う、この子は私の子。私の愛する子供
私がお腹を痛めて生んだ、正真正銘、私の子」
「えっ!? そ、そんな―――ッ!」
私がお腹を痛めて生んだ、正真正銘、私の子」
「えっ!? そ、そんな―――ッ!」
「ショゴス」から繰り出される拳を、赤い光の壁で防ぎ距離を取る
改めて、彼女の発言からの情報を整理した
“実の子供”
と言われても、どう見ても彼女自身が子供であり、その外見はローゼのそれと同じくらい幼い
そもそも、“子供”と言われている対象である「ショゴス」が人間ではないのだ
未成年、非人間、架空の生物―――様々な疑問が彼女の脳内を埋め尽くす
改めて、彼女の発言からの情報を整理した
“実の子供”
と言われても、どう見ても彼女自身が子供であり、その外見はローゼのそれと同じくらい幼い
そもそも、“子供”と言われている対象である「ショゴス」が人間ではないのだ
未成年、非人間、架空の生物―――様々な疑問が彼女の脳内を埋め尽くす
(こんなの、勘違いや思い過ごしとしか言い様がありませんわ・・・思い、過ごし?)
はっと何かに気付いたと同時に、「ショゴス」の拳を弾きつつ回し蹴りを命中させ、
蜘蛛型の「ショゴス」が吹っ飛び近くにあった建物を粉砕して倒れた
蜘蛛型の「ショゴス」が吹っ飛び近くにあった建物を粉砕して倒れた
「ッ、私の子が・・・」
「分かりましたわ、貴方は「自己暗示」の契約者・・・それによる想像妊娠、と言ったところかしら」
「分かりましたわ、貴方は「自己暗示」の契約者・・・それによる想像妊娠、と言ったところかしら」
ここにきてようやく彼女の読みが当たる事になる
「自己暗示」とは、簡単に言えば自分にかける「催眠術」だ
少女は自らに暗示をかける事によって、架空の生物である「ショゴス」を生み出した、ということらしい
「自己暗示」とは、簡単に言えば自分にかける「催眠術」だ
少女は自らに暗示をかける事によって、架空の生物である「ショゴス」を生み出した、ということらしい
「・・・ほぅ、君が只者ではないのは分かった
君の言う通り、私が契約したのは「自己暗示」・・・想像妊娠の件も見事正解だ」
「だけど、まだ子供貴方がどうしてそんな――――」
「理解出来なかった
何故男女間でなければ子孫を残す事ができないのか
女同士で子孫が残せても別に良いのではないだろうか
君もそうだと思わないか?」
「・・・へ? あの、仰ってる意味がよく分からないのだけれど」
「まぁ良い、そんなことが分かった程度で、君が私の子に勝利した事にはならない」
君の言う通り、私が契約したのは「自己暗示」・・・想像妊娠の件も見事正解だ」
「だけど、まだ子供貴方がどうしてそんな――――」
「理解出来なかった
何故男女間でなければ子孫を残す事ができないのか
女同士で子孫が残せても別に良いのではないだろうか
君もそうだと思わないか?」
「・・・へ? あの、仰ってる意味がよく分からないのだけれど」
「まぁ良い、そんなことが分かった程度で、君が私の子に勝利した事にはならない」
す、と再び少女が手を挙げると、先程伸されていた「ショゴス」が瓦礫の山を掻きわけて這い出てきた
尚も不定形なジェル状の身体から蜘蛛のように8本の腕を出現させつつ、今度はタコの触腕が8本追加される
尚も不定形なジェル状の身体から蜘蛛のように8本の腕を出現させつつ、今度はタコの触腕が8本追加される
「テケリ・リ、テケリ・リ」
「しぶといですわね・・・あ、確か生命力が強いのだったかしら」
「私の子は強い。今なら許しておいてあげよう。諦めて出直すが良い」
「そうはいきませんわ。悪人さんがいらっしゃるのにみすみす見逃せませんもの」
「しぶといですわね・・・あ、確か生命力が強いのだったかしら」
「私の子は強い。今なら許しておいてあげよう。諦めて出直すが良い」
「そうはいきませんわ。悪人さんがいらっしゃるのにみすみす見逃せませんもの」
ローゼは右手を前方に差し出すと、人差し指を立て、
指先を「ショゴス」に向けて構えた
指先を「ショゴス」に向けて構えた
「ワタクシの力、お見せして差し上げますわ!」
瞬間、彼女の指先に赤い光が集まり、小さな光球となって留まっている
果たして、光が一点に留まり続けることなど在り得るだろうか
感情が希薄だった少女から、ようやく驚きの色が見えた
果たして、光が一点に留まり続けることなど在り得るだろうか
感情が希薄だった少女から、ようやく驚きの色が見えた
「ッ!?・・・何だと言うのだ?」
「んー、折角人々を守るお仕事に就いたのだから、何かそれらしい事を・・・
そうですわ、『フォトン・クラッシャー』!!」
「んー、折角人々を守るお仕事に就いたのだから、何かそれらしい事を・・・
そうですわ、『フォトン・クラッシャー』!!」
技の名前らしきものが宣言され、赤い光が一筋の細い光条となり、「ショゴス」の腕1本に命中した
被弾した腕に真っ赤なスパークが走ると同時に、ぱぁんっ!!と弾け飛び、
突然7本の腕で支えることになった「ショゴス」はバランスを崩し、地を鳴らしてその場に倒れた
被弾した腕に真っ赤なスパークが走ると同時に、ぱぁんっ!!と弾け飛び、
突然7本の腕で支えることになった「ショゴス」はバランスを崩し、地を鳴らしてその場に倒れた
「っく・・・まだだ、私の子はこの程度で負けはしない」
「なら、こちらも少し本気を出させて頂きますわ! えっと・・・『フォトン・エッジ』!!」
「なら、こちらも少し本気を出させて頂きますわ! えっと・・・『フォトン・エッジ』!!」
右腕に赤光の刃を出現させ、ローゼは「ショゴス」に斬りかかる
対する「ショゴス」も腕を再生させ、触腕を伸ばして応戦した
ローゼの刃は触腕をことごとく斬り落とし、最後に腕が生えているアメーバ状の中心部を一刀両断するが、
「ショゴス」はそこから同じ姿を持つ2体の怪物へと分裂し、ローゼを挟み撃ちにする
対する「ショゴス」も腕を再生させ、触腕を伸ばして応戦した
ローゼの刃は触腕をことごとく斬り落とし、最後に腕が生えているアメーバ状の中心部を一刀両断するが、
「ショゴス」はそこから同じ姿を持つ2体の怪物へと分裂し、ローゼを挟み撃ちにする
「本当にくどいお子様ですこと・・・気絶でもして下されば楽なのだけど」
手を左右に広げ、伸ばした五指にそれぞれ光を集中させる
それを、襲いかかる2体の「ショゴス」に向けて放った
それを、襲いかかる2体の「ショゴス」に向けて放った
「『フォトン・ウェーブ』!!」
1体には命中し、そのまま痺れて地面に倒れ伏し、ドロドロになって動かなくなった
もう1体は寸前で翼を生やし、飛翔する事で攻撃から逃れてしまった
もう1体は寸前で翼を生やし、飛翔する事で攻撃から逃れてしまった
「やりますわね、でも逃しは致しません!」
もう一度、指先に光をチャージし始めた時だった
「ぐ・・・ぁ・・・」
「ッ!?」
「ッ!?」
呻き声が耳に入り、咄嗟にその方向に目を向けた
刹那に、紫の長髪を乱しながら、少女はうつ伏せになって倒れた
刹那に、紫の長髪を乱しながら、少女はうつ伏せになって倒れた
「しまっ――――」
人間に怪我を負わせてしまった
一瞬、彼女はショックで動けなくなってしまったが、すぐに少女の元へと駆け寄った
上半身を抱き上げ、胸に耳を当てて鼓動を確認する
一瞬、彼女はショックで動けなくなってしまったが、すぐに少女の元へと駆け寄った
上半身を抱き上げ、胸に耳を当てて鼓動を確認する
「・・・良かった、まだ間に合いますわ!」
そのままお姫様抱っこの要領で持ち上げると、周囲に赤い光を出現させた
が、背後からの重撃に吹き飛ばされてしまった
が、背後からの重撃に吹き飛ばされてしまった
「くはぁっ!?」
だんっ!と強く壁に叩きつけられ、持たれるようにへたり込む
追撃に備え、攻撃の姿勢を取るローゼだったが、彼女の見た物は
追撃に備え、攻撃の姿勢を取るローゼだったが、彼女の見た物は
「・・・え? ど、どうなって・・・」
母親である筈の少女に、無数の触腕を向ける「ショゴス」の姿だった
何が起こったのか、推理する前に彼女はその答えに気付いた
何が起こったのか、推理する前に彼女はその答えに気付いた
「ッ! あ、あの子はもう契約者じゃ、ない・・・
ワタクシの攻撃の所為で、「自己暗示」との契約が切れてる!?」
ワタクシの攻撃の所為で、「自己暗示」との契約が切れてる!?」
ならば何故、「自己暗示」の産物である「ショゴス」が消滅しないのか
疑問は湧くが、ローゼは今それどころではなかった
すぐに少女を助け出さなければ、「ショゴス」に殺されてしまう
疑問は湧くが、ローゼは今それどころではなかった
すぐに少女を助け出さなければ、「ショゴス」に殺されてしまう
「もう、ワタクシの目の前で、人を死なせは致しません!!」
赤い光の刃を振り上げ、彼女は「ショゴス」の腕を斬り落とさんとする
しかし、「ショゴス」は新たに腕を出現させ、真剣白刃取りを決め込んだ
ローゼが次の手を導き出し、行動に移そうとする直前だった
「ショゴス」が、触腕の内1本で少女の頬を撫でたかと思えば、
触れた個所から光が生まれ、輝きがどんどん強くなっていく
しかし、「ショゴス」は新たに腕を出現させ、真剣白刃取りを決め込んだ
ローゼが次の手を導き出し、行動に移そうとする直前だった
「ショゴス」が、触腕の内1本で少女の頬を撫でたかと思えば、
触れた個所から光が生まれ、輝きがどんどん強くなっていく
「―――――――――――――う、嘘、これって・・・!?」
目と、心で感じ取っていた
そもそも、最初から気づくべきだったのだ
『液状の身体の一部をあらゆる器官に変化させる能力』
『2つの個体に分裂、または1つに融合する能力』
『とても強い生命力』
クトゥルフ神話における特徴を全て所持し、且つ、この大通りでこれだけ暴れてみせたのだ
人々の噂、疑念、信じる気持ちがあれば、都市伝説として存在するには十分である
この「ショゴス」はもはや都市伝説の副産物ではなく、「ショゴス」という都市伝説として確立してしまっていた
そして、都市伝説が求めるものは、永遠にして絶対なる存在の確立―――――――『契約』である
そもそも、最初から気づくべきだったのだ
『液状の身体の一部をあらゆる器官に変化させる能力』
『2つの個体に分裂、または1つに融合する能力』
『とても強い生命力』
クトゥルフ神話における特徴を全て所持し、且つ、この大通りでこれだけ暴れてみせたのだ
人々の噂、疑念、信じる気持ちがあれば、都市伝説として存在するには十分である
この「ショゴス」はもはや都市伝説の副産物ではなく、「ショゴス」という都市伝説として確立してしまっていた
そして、都市伝説が求めるものは、永遠にして絶対なる存在の確立―――――――『契約』である
「あ゙・・・あ゙があぁぁぁあ・・・ッぁぁ゙あ゙!?」
だが様子がおかしい
「ショゴス」が契約しようとしていた、その生みの親である少女が、
苦悶の表情を浮かべて唸り声を挙げている
「ショゴス」が契約しようとしていた、その生みの親である少女が、
苦悶の表情を浮かべて唸り声を挙げている
「容量オーバー・・・このままじゃ飲まれてしまいますわ!
もう止めなさい、貴方も消えてしまいますわよ!?」
もう止めなさい、貴方も消えてしまいますわよ!?」
必死に問いかけるローゼだったが、「ショゴス」は聞く耳も持たない
腕に止められていた刃を消し、光を帯びた拳で殴りかかろうとしたものの、触腕で巻き取られて身動きが出来なくなってしまった
しかしそれも束の間の出来事だった
何事もなかったかのように「ショゴス」が消え、少女の身体だけが残されたのだ
まずは生きているかどうか、拘束から放たれ自由にローゼは再び少女の生死を確認する
腕に止められていた刃を消し、光を帯びた拳で殴りかかろうとしたものの、触腕で巻き取られて身動きが出来なくなってしまった
しかしそれも束の間の出来事だった
何事もなかったかのように「ショゴス」が消え、少女の身体だけが残されたのだ
まずは生きているかどうか、拘束から放たれ自由にローゼは再び少女の生死を確認する
「・・・脈がある・・・ということは、都市伝説に飲まれて存在を留められたのかしら・・・?
何にせよ、本部に連れていった方が宜しそうですわね・・・」
何にせよ、本部に連れていった方が宜しそうですわね・・・」
と、ローゼが少女を抱き上げようとした時だった
小さな呻き声と共に、少女が僅かに動き出したのだ
小さな呻き声と共に、少女が僅かに動き出したのだ
「あ! し、しっかりなさって!」
2、3度大きく揺すると、髪の間から藤色の瞳が覗いた
その様子を見て、ローゼはほっ、と胸を撫で下ろす
その様子を見て、ローゼはほっ、と胸を撫で下ろす
「・・・・・な・・・」
「無理なさらないで! 今、貴方を安全な所へ――――」
「・・・・・・・ん・・・・・・な・・・・・・」
「無理なさらないで! 今、貴方を安全な所へ――――」
「・・・・・・・ん・・・・・・な・・・・・・」
え?と、首を傾げるローゼ
その刹那
その刹那
「 オ ン ナ 」
がばっ!と少女が起きあがり、その長い髪がジェル状に変化し始め、
ローゼの身体にぐにゃぐにゃと纏わりついた
ローゼの身体にぐにゃぐにゃと纏わりついた
「し、しまった!? っく、どろどろしてて千切れない・・・!?」
「女・・・女・・・オンナ・・・テケリリリリリリリ・・・」
「女・・・女・・・オンナ・・・テケリリリリリリリ・・・」
髪が変化してできたジェル状の触手を使いローゼを持ち上げると、
少女は不気味な笑い声をあげて立ち上がり、彼女の顎をくっと掴んだ
少女は不気味な笑い声をあげて立ち上がり、彼女の顎をくっと掴んだ
「テケリリリリリリリ・・・可愛らしい顔だ、今すぐ食したい程に」
「い、一体何をおっしゃtむぐっ!?」
「い、一体何をおっしゃtむぐっ!?」
ローゼの口が、少女の唇によって塞がれる
口腔内を執拗に舐めまわされ、舌で押し返そうとしてもジェル状の舌に対しては暖簾に腕押しだった
さらに粘液状の舌は口の中に飽き足らず、喉の奥へと入り込んだ
口腔内を執拗に舐めまわされ、舌で押し返そうとしてもジェル状の舌に対しては暖簾に腕押しだった
さらに粘液状の舌は口の中に飽き足らず、喉の奥へと入り込んだ
「ん、んぐっ!?んんぅっ!!」
「テケリリリリリリ・・・テケリリリリリリ・・・なかなか良い声で泣くな、と私は恍惚の表情で感想を述べる
さて、次はこちらの口を味見するとしようか・・・テケリリリリリリリリリリ・・・」
「テケリリリリリリ・・・テケリリリリリリ・・・なかなか良い声で泣くな、と私は恍惚の表情で感想を述べる
さて、次はこちらの口を味見するとしようか・・・テケリリリリリリリリリリ・・・」
ぬるり、ローゼの艶やかな太腿を這いまわるように、少女のジェル状の手が触れる
それは太腿に沿って、徐々に、徐々に上がってきていた
それは太腿に沿って、徐々に、徐々に上がってきていた
「んぃっ!? んんんぁっ!?」
必死に抵抗するローゼだが、少女の手は止まらない
最も敏感な所に嫌な感触が伝わった時、彼女の目から大粒の涙が頬を伝った
最も敏感な所に嫌な感触が伝わった時、彼女の目から大粒の涙が頬を伝った
「やれ、「銭塘君」!!」
彼女の目の前にいた少女は、真っ赤に燃える火球によって吹き飛ばされた
† † † † † † †
「ローゼさん! 大丈夫か!?」
赤い東洋龍――「銭塘君」から飛び降りたオレは、力無くへたり込んだローゼさんの元に駆け寄った
間に合った、のだろうか
既に襲われていたようだったが、何にせよ、無事で良かった
しかしローゼさんは一向にこちらに顔を向けない
まさか、「銭塘君」の炎が掠めたのか!?
間に合った、のだろうか
既に襲われていたようだったが、何にせよ、無事で良かった
しかしローゼさんは一向にこちらに顔を向けない
まさか、「銭塘君」の炎が掠めたのか!?
「おいローゼさん、怪我は無いか―――――ッ!?」
怪我は、無いようだったが
彼女は―――ローゼさんは、泣いていた
彼女は―――ローゼさんは、泣いていた
「・・・えっと、ろ、ローゼさ」
「日天さぁん!!」
「日天さぁん!!」
オレが尋ねる前に、彼女はオレに飛びつき、そのままオレの胸の中で只管に泣きじゃくった
「ひっぐ・・・こわ、かった・・・すっご、く、怖かった・・・」
彼女は何度も何度も、ただ「怖かった」とだけ訴え続けた
オレは彼女が襲われていたという漠然とした事実しか知らず、実際どんな形だったのかは分からない
もう少しで内臓を抉られそうだったのか、はたまた人質か何かが理由で抵抗できなかったのか
だが、オレの心には一つだけ・・・そう、たった一つだけ、
オレは彼女が襲われていたという漠然とした事実しか知らず、実際どんな形だったのかは分からない
もう少しで内臓を抉られそうだったのか、はたまた人質か何かが理由で抵抗できなかったのか
だが、オレの心には一つだけ・・・そう、たった一つだけ、
「・・・分かった。もう、安心してくれ。オレが、ついてるから」
『この人を護りたい』、と・・・そんな気持ちが生まれた
数分後――――
「なるほど、「ショゴス」か・・・本ッ当にしぶといな」
先程「銭塘君」の炎で吹き飛ばした少女が、今目の前でその姿形が復元されていた
というか、“少女だった”と言う事自体、今知ったのだが
どうやら今は気絶しているらしい
それにしても、都市伝説に飲まれていたとはいえ、人間を吹き飛ばすとは我ながら酷い事をしたものだ・・・
というか、“少女だった”と言う事自体、今知ったのだが
どうやら今は気絶しているらしい
それにしても、都市伝説に飲まれていたとはいえ、人間を吹き飛ばすとは我ながら酷い事をしたものだ・・・
「ところで、こいつはどうするんだ、ローz・・・R-No.0?」
ようやく心が落ち着いたローゼさんに、オレは少女の行方を尋ねた
「えぇ、「組織」に連れてゆきますの」
「そうか、なら・・・ん?」
「イクトミというお方に伺ってみますわ、この子を「組織」にして下さらないか」
「待てよ!? あんたこいつに襲われたんだろ!?」
「でも、この子はもう人間ではありませんのよ?
都市伝説に飲まれた・・・ワタクシ達と同じ存在ですわ
この子に、元の生活に戻る事は困難だと思いますの
なら、ワタクシ達と同じように「組織」にいる方が宜しいのではなくて?」
「そうか、なら・・・ん?」
「イクトミというお方に伺ってみますわ、この子を「組織」にして下さらないか」
「待てよ!? あんたこいつに襲われたんだろ!?」
「でも、この子はもう人間ではありませんのよ?
都市伝説に飲まれた・・・ワタクシ達と同じ存在ですわ
この子に、元の生活に戻る事は困難だと思いますの
なら、ワタクシ達と同じように「組織」にいる方が宜しいのではなくて?」
思わず、溜息が出てしまった
呆れている訳ではない
何というか、その・・・この人は、強い
呆れている訳ではない
何というか、その・・・この人は、強い
「決まりですわね♪」
「S-No.0が許してくれるかどうか、だがな・・・」
「もぉ、意地悪仰らないで!・・・あぁそういえば、貴方のあの龍は?」
「ん?「銭塘君」の事か?」
「あれが貴方の契約都市伝説ですの?」
「いや、オレが契約したのは「画竜点睛」だ」
「がりょぉてんせぇ?」
「S-No.0が許してくれるかどうか、だがな・・・」
「もぉ、意地悪仰らないで!・・・あぁそういえば、貴方のあの龍は?」
「ん?「銭塘君」の事か?」
「あれが貴方の契約都市伝説ですの?」
「いや、オレが契約したのは「画竜点睛」だ」
「がりょぉてんせぇ?」
おっと、まだ言ってなかったな
さっき言った通り、オレは「画竜点睛」と契約し、飲まれて都市伝説になった
「画竜点睛」というのは四字熟語の一つで、
『龍の絵の仕上げに瞳を描いた途端に龍が飛び出して天に昇った』という故事成語がそのまま都市伝説となってしまったようだ
能力はそのままで、龍の絵を実体化させる事ができる
さっきの「銭塘君」も、オレの能力で召喚したものだ
なかなか便利だが、時間が経てば消えてしまうし、絵は戻らないので召喚する度に新しい絵を描かなければならない
オレ自身に戦闘力が身に付かないのも厄介なところだな
さっき言った通り、オレは「画竜点睛」と契約し、飲まれて都市伝説になった
「画竜点睛」というのは四字熟語の一つで、
『龍の絵の仕上げに瞳を描いた途端に龍が飛び出して天に昇った』という故事成語がそのまま都市伝説となってしまったようだ
能力はそのままで、龍の絵を実体化させる事ができる
さっきの「銭塘君」も、オレの能力で召喚したものだ
なかなか便利だが、時間が経てば消えてしまうし、絵は戻らないので召喚する度に新しい絵を描かなければならない
オレ自身に戦闘力が身に付かないのも厄介なところだな
「あらあらぁ、ワタクシもそんな楽しい都市伝説と契約してみたかったですわ♪」
「楽しいって・・・あんた前向きだな;」
「よく言われますの♪・・・っと、そろそろ本部に向かいましょうか」
「楽しいって・・・あんた前向きだな;」
「よく言われますの♪・・・っと、そろそろ本部に向かいましょうか」
ローゼさんが少女を背負い、オレに手を伸ばす
「ん?」
「あ、ワタクシは異空間に直接移動する能力がございますの」
「そうだったのか・・・だが少し待っててくれ、あとサングラスをつけた方が良い」
「え? これのことですの?」
「あぁ、オレは最後の仕上げをしてくる」
「あ、ワタクシは異空間に直接移動する能力がございますの」
「そうだったのか・・・だが少し待っててくれ、あとサングラスをつけた方が良い」
「え? これのことですの?」
「あぁ、オレは最後の仕上げをしてくる」
首を傾げるローゼさんを後にして、オレは再び「銭塘君」を呼び出し、その背に飛び乗った
そして、懐に忍ばせていた、蓮華さんに貰った機械を取り出して、未だパニックに陥っている人々に叫んだ
そして、懐に忍ばせていた、蓮華さんに貰った機械を取り出して、未だパニックに陥っている人々に叫んだ
「皆! こっちを見ろ!!」
全員がオレを見た瞬間に、オレは機械のスイッチを押す
この瞬間に、さっきまでの事件は光に包まれ、闇に消えた
この瞬間に、さっきまでの事件は光に包まれ、闇に消えた
...続く