悪の秘密結社 09
無数の悪霊を従えて、一人、また一人と敵を仕留めていく
その表情には怒りと共に愉悦が浮かび、汗ばみ頬を上気させたその表情は妖艶ですらあった
だがそれは、メイ・ゴスリングという少女が本来持ち得る側面ではない
怨敵を追い詰め、蹂躙し、殺傷する事で本懐を遂げる悪霊達の感情に、そしてその存在そのものに呑み込まれているのだ
その表情には怒りと共に愉悦が浮かび、汗ばみ頬を上気させたその表情は妖艶ですらあった
だがそれは、メイ・ゴスリングという少女が本来持ち得る側面ではない
怨敵を追い詰め、蹂躙し、殺傷する事で本懐を遂げる悪霊達の感情に、そしてその存在そのものに呑み込まれているのだ
「元々はっ……そっちに誘う……側だったってのに、いっ!」
スカートをたくし上げ、千切れたワイヤーで太股の付け根を縛り一時的な止血処置にして
血溜まりに浸り赤く染まった足を引き摺り、這うようにメイの元へと近寄っていく
だがこの負傷による動きの鈍さが幸いした
普段の勢いで駆け寄りでもしようものなら、大まかな命令で自動的に動いている悪霊達に撃ち殺されかねない
血溜まりに浸り赤く染まった足を引き摺り、這うようにメイの元へと近寄っていく
だがこの負傷による動きの鈍さが幸いした
普段の勢いで駆け寄りでもしようものなら、大まかな命令で自動的に動いている悪霊達に撃ち殺されかねない
「あと三人……あと二人……」
ヴィッキーの残り人数カウントは着実に減っていく
全てを殺し、復讐を遂げた達成感は、間違いなくメイを呑み込むだろう
そして、それ以上に沙々耶には一つの懸念があった
全てを殺し、復讐を遂げた達成感は、間違いなくメイを呑み込むだろう
そして、それ以上に沙々耶には一つの懸念があった
「電話、ここに」
メイの呼び掛けに応じて、その傍らにスツールと電話がぱきぱきと音を立てて形成されていく
今、メイが電話を掛ける相手がいるとしたら、それは一人しか居ない
今、メイが電話を掛ける相手がいるとしたら、それは一人しか居ない
《もしもし》
受話器から聞こえてきたのは、嫌になるほど耳に残るあの女の声
「あとは、あなた、一人、です」
そのメイの言葉に、沙々耶は時間切れが間近な事を悟る
ヴィッキーという女は、自分が殺される事に躊躇がない
それどころか、状況を悪い方向に転がすためになら、進んで自らの命を投げ出す性分である
ヴィッキーという女は、自分が殺される事に躊躇がない
それどころか、状況を悪い方向に転がすためになら、進んで自らの命を投げ出す性分である
「落ち着け、私……いくら力を失ったからとはいえ、知識や経験ってのは残ってるもんなんだから」
大きく深呼吸をすると、ワイヤーで縛った太股の付け根と、ざっくりと切れた傷がずくんと痛む
「私は『悪魔の囁き』だったんだからね……人の意識の隙間に潜り込む『間』ってのは……判ってんだから」
受話器の向こうで、ヴィッキーが何かを言ったのだろう
メイの双眸が見開かれ、最期の命令を下そうとしたその瞬間
メイの双眸が見開かれ、最期の命令を下そうとしたその瞬間
「しっかりしなさい、メイ! そいつの挑発に乗ったら、私だけじゃない! もっとたくさんの人が大変な目に遭うわよ!」
沙々耶が床に座り込んだ状態でも、小柄なメイに対してドクター似の長身である沙々耶は、その身を起こしていれば充分に顔は近付く
その腕に縋りつき、強引に顔を振り向かせて、小さな声しか出ない声帯に渾身の力を込めて
その腕に縋りつき、強引に顔を振り向かせて、小さな声しか出ない声帯に渾身の力を込めて
「……さ、さや……?」
「やっとこっち見たわね……まったく」
「やっとこっち見たわね……まったく」
その雰囲気も、渦巻く力も、まだ全く衰えを見せないが
ただ視線だけは沙々耶に向けている
ただ視線だけは沙々耶に向けている
「電話、貸して……そいつと、話があるから」
―――
《しっかりしなさい、メイ! そいつの挑発に乗ったら、私だけじゃない! もっとたくさんの人が大変な目に遭うわよ!》
その声に、ヴィッキーは受話器を持ったまま目を瞬かせる
周囲を囲む悪霊達の無数の銃口は、この場に残るただ一人である幼い容姿のヴィッキーに向けられたまま止まっていた
周囲を囲む悪霊達の無数の銃口は、この場に残るただ一人である幼い容姿のヴィッキーに向けられたまま止まっていた
《ホント、もう……色々やらかしてくれたわね》
受話器の向こうから聞こえてきたのは、消え入りそうに弱々しい、だがはっきりと聞き取れる沙々耶の声
《悪いけど、あんたの目論見は……程々で邪魔させてもらうわよ》
「目論見? どういう事ですかね」
《声からして、一番小さい奴でしょ、あなた……ドクターのところへ、交渉へ向かった》
「そうですが、それが何か?」
《そう……じゃあ、あなたが例の『スイッチ』……持ってるんでしょ?》
「目論見? どういう事ですかね」
《声からして、一番小さい奴でしょ、あなた……ドクターのところへ、交渉へ向かった》
「そうですが、それが何か?」
《そう……じゃあ、あなたが例の『スイッチ』……持ってるんでしょ?》
受話器を持ったまま、ヴィッキーの表情が固まる
《ドクターとの交渉で使えるなら……使おうとするでしょうね、あんたなら》
「………………」
《それに、他の奴が持ったまま死んだなら……とっくにその事でメイを煽ってるでしょう?》
「………………」
《それに、他の奴が持ったまま死んだなら……とっくにその事でメイを煽ってるでしょう?》
くく、と
ヴィッキーの喉から、笑い声が漏れる
ヴィッキーの喉から、笑い声が漏れる
「よくもまあ、気付いたものですね」
《今、その事を言わないって事は……後に爆弾テロの事が伝わってから、私の口から真相を告げさせたかったんでしょう? 折角生き残ったんですもの、有効に使いたいわよね》
「くくく……あはははははは、良い、凄く良いですよ。あなたとはとても波長が合いそうです、沙々耶ちゃん?」
《悪い冗談ね……とにかく、よ……ドクターの資料を置いて大人しく引き上げるのね……これは最後通牒よ》
「では私も最後の交渉といきましょうか」
《交渉? そんなものの余地は残されていないわ……あなたがこちらに従わないなら、ずっとここで迷っててもらうわよ……どうせ飢え死にとかもしないんでしょう、『フランケンシュタインの怪物』さん?》
「別に、自爆とかも簡単にできますけどね?」
《今、その事を言わないって事は……後に爆弾テロの事が伝わってから、私の口から真相を告げさせたかったんでしょう? 折角生き残ったんですもの、有効に使いたいわよね》
「くくく……あはははははは、良い、凄く良いですよ。あなたとはとても波長が合いそうです、沙々耶ちゃん?」
《悪い冗談ね……とにかく、よ……ドクターの資料を置いて大人しく引き上げるのね……これは最後通牒よ》
「では私も最後の交渉といきましょうか」
《交渉? そんなものの余地は残されていないわ……あなたがこちらに従わないなら、ずっとここで迷っててもらうわよ……どうせ飢え死にとかもしないんでしょう、『フランケンシュタインの怪物』さん?》
「別に、自爆とかも簡単にできますけどね?」
ヴィッキーはそう言って、ポケットから例のスイッチを取り出した
「交渉はこうです。私はこのスイッチの機能を停止し、爆弾も全て解除する。その代わりにこの資料だけは持ち帰らせてもらいたいのですが」
《そこまでその資料に執着して……何をしようというの?》
「別に、私が何を企んでいようといいじゃないですか。そんなに不安なら……この場を収めた後で、私が何かやらかす前に倒せばいいだけの事ですよ?」
《そこまでその資料に執着して……何をしようというの?》
「別に、私が何を企んでいようといいじゃないですか。そんなに不安なら……この場を収めた後で、私が何かやらかす前に倒せばいいだけの事ですよ?」
未だ周囲を取り囲む悪霊達をぐるりと見回し、ヴィッキーは笑う
「私としては、ここでメイちゃんに殺されても別段問題ありませんし、閉じ込められたところで自害でもスイッチの十六連打でもやる事は色々ありますから」
《……あんたの『約束は守る』ってのは、信用できないのよ》
「では、このまま私はくたばって、巻き添えで爆弾テロ祭が開催されて、本懐を遂げたメイちゃんは都市伝説に呑まれて……こちらの悪霊さん達の仲間入りですかね?」
《……あんたの『約束は守る』ってのは、信用できないのよ》
「では、このまま私はくたばって、巻き添えで爆弾テロ祭が開催されて、本懐を遂げたメイちゃんは都市伝説に呑まれて……こちらの悪霊さん達の仲間入りですかね?」
言葉に詰まる沙々耶を見透かして、けたけたと笑いながら
だが、言葉では伝わらない、その表情は苦々しく歪めながら
だが、言葉では伝わらない、その表情は苦々しく歪めながら
「悔しい事に、あなたは最大限の最善手を打ちましたよ。それに対しての、私からの最大限の譲歩ですよ」
《……変な曲解をしたり、約束以外の事でろくでもない事をするつもりは無いでしょうね》
「この資料をいただけるなら、一切合財何もせず大人しく帰る事を誓います。何度も言いますが、私は約束は守る主義ですよ?」
《あんたを、信用しろって?》
「信用していただけないなら、前述の通りですが」
《……変な曲解をしたり、約束以外の事でろくでもない事をするつもりは無いでしょうね》
「この資料をいただけるなら、一切合財何もせず大人しく帰る事を誓います。何度も言いますが、私は約束は守る主義ですよ?」
《あんたを、信用しろって?》
「信用していただけないなら、前述の通りですが」
悪霊達に囲まれたまま、奇妙な沈黙が続く
だがヴィッキーは確信していた
沙々耶という少女は、自分以外の誰かを犠牲にして前に進めるような性分ではないという事を
だがヴィッキーは確信していた
沙々耶という少女は、自分以外の誰かを犠牲にして前に進めるような性分ではないという事を
―――
「メイ……落ち着いた?」
「……はい」
「……はい」
一方の沙々耶は、思案のために沈黙していたのではない
意識が混濁するほどに、失血と痛みが影響を与えていたのだった
元が都市伝説存在だったとはいえ、今は契約も何もしていないただの人間の少女である
極度の緊張、長時間の拘束、そして負傷と失血
非日常に関ってきた精神力だけが、今の彼女の意識を繋ぎとめていた
意識が混濁するほどに、失血と痛みが影響を与えていたのだった
元が都市伝説存在だったとはいえ、今は契約も何もしていないただの人間の少女である
極度の緊張、長時間の拘束、そして負傷と失血
非日常に関ってきた精神力だけが、今の彼女の意識を繋ぎとめていた
「悪いんだけど……能力……解除してくれるかな……あいつには逃げられるけど……私……限界だから」
体力はとっくに限界だという事は間違いは無い
今意識を失えば、またメイが暴走するかもしれない
だから、今のうちに決着をつけなければ
今意識を失えば、またメイが暴走するかもしれない
だから、今のうちに決着をつけなければ
「ドクターには悪いけど……責任は……私が取るから……メイ、お願い」
そして、メイの憎悪と殺意は沙々耶のためのもの
沙々耶の言葉が届いた今、それはあっさりと霧散していく
この雑居ビルへの、ひいては町全体に広がりかけていた『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の能力は解除されていく
沙々耶の言葉が届いた今、それはあっさりと霧散していく
この雑居ビルへの、ひいては町全体に広がりかけていた『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の能力は解除されていく
《それでは、交渉成立という事で》
既に二人の少女の手から離れた受話器から、ヴィッキーのよく通る声が聞こえてくる
《約束は、本当にきちんと守りますのでご安心を。ですが……そちらが約束を違えた場合。追っ手を差し向けてきたり、資料を奪い返そうとしたり破壊しようとした場合……相応の報復をさせていただきますので》
ぷつん、と
回線が切れる音と共に、メイの能力で作られていた電話機そのものが崩れ落ちて塵となる
回線が切れる音と共に、メイの能力で作られていた電話機そのものが崩れ落ちて塵となる
「一件……落着……とは、いかないけど」
心配そうに顔を覗き込んいるメイの頬を、沙々耶はそっと撫でる
「まあ、とりあえずマシな結果ぐらいにはなったかな」
それから数分後
学校町の外という事で反応が遅れた『組織』の黒服達が、メイと沙々耶が残された雑居ビルに現れる
沙々耶の保護と治療
大規模な暴走を起こしかけたメイの拘束
そしてこの雑居ビルの『後始末』
それらの目的を速やかに実行し、都市伝説に関るものは全て、速やかに学校町へと引き上げられていったのだった
学校町の外という事で反応が遅れた『組織』の黒服達が、メイと沙々耶が残された雑居ビルに現れる
沙々耶の保護と治療
大規模な暴走を起こしかけたメイの拘束
そしてこの雑居ビルの『後始末』
それらの目的を速やかに実行し、都市伝説に関るものは全て、速やかに学校町へと引き上げられていったのだった