悪の秘密結社 08
「さて、来た時より人数を増やしてしまった事ですし。帰りもバスジャックですかね」
「午後の良い時間を狙えば、幼稚園バスに遭遇できるかもしれません」
「やはり悪は、弱者をいたぶってこそですよね」
「午後の良い時間を狙えば、幼稚園バスに遭遇できるかもしれません」
「やはり悪は、弱者をいたぶってこそですよね」
ヴィッキーの集団はあれこれ相談をしながら、悠然とビルの出入り口へと向かう
エレベーターを降りて通路の角を一つ曲がれば辿り着く、小さな造りの雑居ビルである
だが
エレベーターを降りて通路の角を一つ曲がれば辿り着く、小さな造りの雑居ビルである
だが
「……ん?」
先頭を歩いていた最年少のヴィッキーが、小首を傾げる
通路の角を曲がった先には出入り口のガラス扉は存在せず、いくつもに枝分かれした通路と無数の扉や階段が視界一杯に広がっていた
通路の角を曲がった先には出入り口のガラス扉は存在せず、いくつもに枝分かれした通路と無数の扉や階段が視界一杯に広がっていた
「これは、あの子の」
そう呟いた刹那、がちんとレバーを引く音が一つ、二つ、三つ、たくさん
がちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがち、と獣が牙を打ち鳴らすかのように響き渡った音は
右から
左から
正面から
背後から
頭上から
全方位から取り囲むように
何も無い中空に浮かぶ古めかしいデザインの無数のライフル銃
それは、ウィンチェスター銃と呼ばれるもの
怨念を塗り固めたかのような不気味な貌で浮かぶ怨霊達が、重力も物理法則も無視して半球状の銃口の檻を作り上げていた
がちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがち、と獣が牙を打ち鳴らすかのように響き渡った音は
右から
左から
正面から
背後から
頭上から
全方位から取り囲むように
何も無い中空に浮かぶ古めかしいデザインの無数のライフル銃
それは、ウィンチェスター銃と呼ばれるもの
怨念を塗り固めたかのような不気味な貌で浮かぶ怨霊達が、重力も物理法則も無視して半球状の銃口の檻を作り上げていた
「あの子の能力は、迷わせるだけでは。攻撃的な悪霊を無作為に彷徨わせるだけでは」
恐怖や戦慄ではない、純粋に驚きだけを口にして
ヴィッキーは歓喜が溢れんばかりに笑顔で嬌声を上げる
ヴィッキーは歓喜が溢れんばかりに笑顔で嬌声を上げる
「元からあったが使わなかったのか、それとも新しい力に目覚めたのか……どちらにせよ、素晴らしい成長です!」
無数の銃声と共に、無数の弾頭が狭い通路を暴れ回る
引き裂かれ
打ち砕かれ
千切れ飛び
ぶち撒けて
ばらばらになった身体を縫い合わせようとした、その指すら撃ち抜いて
執拗に
念入りに
丁寧に
肉の、骨の一片にまで鉛弾が叩き込まれていく
引き裂かれ
打ち砕かれ
千切れ飛び
ぶち撒けて
ばらばらになった身体を縫い合わせようとした、その指すら撃ち抜いて
執拗に
念入りに
丁寧に
肉の、骨の一片にまで鉛弾が叩き込まれていく
「ああ、この成果を伝えなければ! 我らが大首領様に伝えなければ! メイ・ゴスリングという少女の成長を伝えなければ!」
数人のヴィッキーがただの血溜まりと肉片に変貌していく中、まだ比較的傷の浅いヴィッキー達は銃口を払い除けて駆け出していく
だが、ひとたびメイの支配下に置かれた建物は無限の迷宮と化す
やがて、動くものの居なくなった通路で、ウィンチェスター銃を提げた悪霊の群れは班を組み上げる
無限の迷宮の方々から集まってきた悪霊はどんどんと合流してその数を増し
班が小隊となり
小隊が中隊となり
中隊が大隊となり
ただ数人の女を追い回すために、狭い雑居ビルの中の無限の戦場で、戦線を作り上げていく
だが、ひとたびメイの支配下に置かれた建物は無限の迷宮と化す
やがて、動くものの居なくなった通路で、ウィンチェスター銃を提げた悪霊の群れは班を組み上げる
無限の迷宮の方々から集まってきた悪霊はどんどんと合流してその数を増し
班が小隊となり
小隊が中隊となり
中隊が大隊となり
ただ数人の女を追い回すために、狭い雑居ビルの中の無限の戦場で、戦線を作り上げていく
「ああ、復讐という己の内なる正義のためだけに! 相手の意義も理想も思想も事情も問答無用で踏み躙る正義の味方! それが、私を殺すだけで満足して潰えてはいけないのに!」
扉を開け、階段を駆け、窓を乗り越え、エレベーターを動かし
一人、また一人と無数の銃弾で粉微塵にされていくヴィッキー
やがて残された、たった一人
ドクターの研究資料を抱えた、メイと変わらぬ年齢ほどの容姿をしたヴィッキーは
元の雑居ビルの風体を残した事務所のような部屋に辿り着く
スチール机の上に乗った電話が突然、着信を告げる電子音を鳴らし
ヴィッキーは迷う事無く一呼吸で受話器を取る
一人、また一人と無数の銃弾で粉微塵にされていくヴィッキー
やがて残された、たった一人
ドクターの研究資料を抱えた、メイと変わらぬ年齢ほどの容姿をしたヴィッキーは
元の雑居ビルの風体を残した事務所のような部屋に辿り着く
スチール机の上に乗った電話が突然、着信を告げる電子音を鳴らし
ヴィッキーは迷う事無く一呼吸で受話器を取る
「もしもし」
《あとは、あなた、一人、です》
「どうやらそのようで。あなたを甘く見ていましたが……実に満足がいく結果だと私は思っていますよ? ともあれ、全滅する前にお話できたのは僥倖です」
《あとは、あなた、一人、です》
「どうやらそのようで。あなたを甘く見ていましたが……実に満足がいく結果だと私は思っていますよ? ともあれ、全滅する前にお話できたのは僥倖です」
追い詰められた事に微塵も臆せず、そう告げるヴィッキー
「まあ捨て台詞というか、負け犬の遠吠えみたいなものですが。私はあくまで『ヴィクター・フランケンシュタイン博士』の契約者であるヴィクトリア・フランチェスカに作られた『フランケンシュタインの怪物』の一人に過ぎません。研究資料やあなたの存在についての情報を持ち帰る事ができなかったのは残念ですが、まあそれだけの事です」
―――
時間はしばし遡る
メイが沙々耶に突き飛ばされ、砂埃が積もった床の上に尻餅をついた
沙々耶のすぐ背後にまで迫る刃の暴風が、その身を引き裂こうとしたその時
ざわりと、冷気にも似た冷たい空気が室内に吹き荒れた
何が起きたのか、沙々耶には一瞬理解できなかった
木材が削れ引き裂かれる音
金属同士がぶつかり合い擦れ合う音
沙々耶のすぐ背後にまで迫る刃の暴風が、その身を引き裂こうとしたその時
ざわりと、冷気にも似た冷たい空気が室内に吹き荒れた
何が起きたのか、沙々耶には一瞬理解できなかった
木材が削れ引き裂かれる音
金属同士がぶつかり合い擦れ合う音
「なに……これ……」
洗車機もどきは、その刃と刃の間に大量のライフル銃を捻じ込まれ、噛み砕く事ができずにぎしぎしと軋むばかり
呆然としている沙々耶だが、その足に繋がれたワイヤーは未だ引く力を緩めていない
だがそれもすぐさま、新しいライフル銃を構えた悪霊の群れが、ワイヤーとそれに繋がるウィンチに向かって無数の銃弾を発射する
ワイヤーはあっという間に千切れ飛び、ひしゃげ部品を撒き散らし沈黙するウィンチ
呆然としている沙々耶だが、その足に繋がれたワイヤーは未だ引く力を緩めていない
だがそれもすぐさま、新しいライフル銃を構えた悪霊の群れが、ワイヤーとそれに繋がるウィンチに向かって無数の銃弾を発射する
ワイヤーはあっという間に千切れ飛び、ひしゃげ部品を撒き散らし沈黙するウィンチ
「この銃、まさかメイが?」
そう呟きメイに向き直る沙々耶
尻餅をついていたメイはいつの間にか立ち上がっており
顔を半ばまで、肩から膝下までを覆う長い髪が、周りを渦巻く悪霊の放つ冷気で浮かび舞い踊っている
普段は髪に隠されていた素顔は、たまに見せる幼さと純真さなど欠片も残されてはおらず、周囲を取り巻く悪霊達と同じ怨嗟に彩られていた
尻餅をついていたメイはいつの間にか立ち上がっており
顔を半ばまで、肩から膝下までを覆う長い髪が、周りを渦巻く悪霊の放つ冷気で浮かび舞い踊っている
普段は髪に隠されていた素顔は、たまに見せる幼さと純真さなど欠片も残されてはおらず、周囲を取り巻く悪霊達と同じ怨嗟に彩られていた
「落ち着きなさい、メイ! 私は大丈夫だから! 機械も止まってる!」
だがその声が届いた様子は無い
周囲に浮かび上がる怨霊達は更にその数を増し、次々とライフル銃を携えて怨敵を追うべく放たれていく
周囲に浮かび上がる怨霊達は更にその数を増し、次々とライフル銃を携えて怨敵を追うべく放たれていく
「まず、三人」
ぼそりと、メイが呟く
「一人……もう、一人。あと、八人」
どこか愉悦にも似た笑みを浮かべ、迷宮の中を逃げ惑っているであろうヴィッキー達を追い詰めていくメイ
「逃がす、ない。許す、ない。でも、簡単、殺す、ない」
その様子を見て、沙々耶が舌打ちをする
「あの馬鹿っ……呑まれかけてる」
すぐさま駆け寄って引っ叩いてでもやろうとした沙々耶だが、その両足はワイヤーからは解放されたものの枷はつけられたまま
更にぎりぎりまで引き寄せられた折に引っ掛けられたのであろう、ふくらはぎ辺りにざっくりと切り裂かれた傷があり、動こうとするだけで激痛が走る
更にぎりぎりまで引き寄せられた折に引っ掛けられたのであろう、ふくらはぎ辺りにざっくりと切り裂かれた傷があり、動こうとするだけで激痛が走る
「ああもう……悪魔に、柄でもない事、させんじゃないわよ」
ぎりと歯を食い縛り、沙々耶は芋虫のように這い進む
ついさっき思い切り突き飛ばした、その僅かな距離が
とても、とても遠く感じられた
ついさっき思い切り突き飛ばした、その僅かな距離が
とても、とても遠く感じられた
―――
「あれ、おっかしいなぁ」
この町で三十年働き続け、どんな小さな裏路地も知り尽くしていると自負していたタクシー運転手が、声を上げて首を傾げる
「お客さん、乗ったのって三丁目のコンビニの前ですよね?」
「ええ、そこで買い物したばっかりですから」
「ええ、そこで買い物したばっかりですから」
客席に座っていた中年のサラリーマンが、傍らに置いたコンビニの買い物袋に視線を落としながらそう返す
「三つ目の角で曲がればすぐバス通りに出たはずなんですがねぇ」
「ですよねぇ……自分もこの辺よく来るんですが。確かに三つ目の角で曲がってましたよ」
「ですよねぇ……自分もこの辺よく来るんですが。確かに三つ目の角で曲がってましたよ」
―――
「おーい、何やってんのさ。もうすぐ昼休み終わるぞ?」
「いや、そうなんだけどさ……」
「いや、そうなんだけどさ……」
昼休み、グラウンドでサッカーに興じてた男子中学生が、下駄箱の前で呆然と立ち尽くしていた
「うちの学校、廊下にこんな分かれ道いっぱいあったっけ?」
―――
暴走し溢れ出したメイの力は小さな雑居ビルから溢れ出し
結界も都市伝説に対する免疫も無いこの町をじわじわと侵食し始めていた
結界も都市伝説に対する免疫も無いこの町をじわじわと侵食し始めていた