「………ぜぇ…………ぜぇ………」
「あのーちょいとお兄さんや、そろそろお開きに致しませんか?
あたしも人間、頃合い既に晩飯時、いい加減帰って腹の虫を黙らせたい所存でござんして」
「黙れ……! お前こそいい加減くたばれ!!」
「あのーちょいとお兄さんや、そろそろお開きに致しませんか?
あたしも人間、頃合い既に晩飯時、いい加減帰って腹の虫を黙らせたい所存でござんして」
「黙れ……! お前こそいい加減くたばれ!!」
ド派手な赤いマントを翻し、男――「赤マント」は、制服を着た高校生と思しき少年にナイフを突き刺す
壊れた水道のように、勢い良く血が噴き出す
壊れた水道のように、勢い良く血が噴き出す
これが、果たして“何十回目”の試行だっただろうか
既に少年の身体には、某海賊救出ゲームの如く無数のナイフが突き刺さっていた
黒い制服も血に染まっており、立っているのが不思議な状態であった
既に少年の身体には、某海賊救出ゲームの如く無数のナイフが突き刺さっていた
黒い制服も血に染まっており、立っているのが不思議な状態であった
「く、くそ……赤くは染めたが………死なない!?」
「ほらーもうお分かりでしょう? あたしゃ死なないんですよ、ええ」
「ふざけるな…何者だ貴様!!」
「あ、よくぞ聞いてくれました、知らざあ言って聞かせやしょうってね」
「ほらーもうお分かりでしょう? あたしゃ死なないんですよ、ええ」
「ふざけるな…何者だ貴様!!」
「あ、よくぞ聞いてくれました、知らざあ言って聞かせやしょうってね」
どこからともなく扇子を取り出し、
少年はそれをぴしゃりと広げて軽く煽いでのほほんと笑いながら胸を張る
少年はそれをぴしゃりと広げて軽く煽いでのほほんと笑いながら胸を張る
「あたしゃね、姓は扇ヶ野原宮崎と申しましてね、長いでしょう?
名はもっと長いんですよ、耳かっ穿ってよぉく聞いといて下さいね?
寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助
どうです覚えられましたか?
全部繋げて名乗りますとね、
扇ヶ野原宮崎 寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助ってんですよ」
名はもっと長いんですよ、耳かっ穿ってよぉく聞いといて下さいね?
寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助
どうです覚えられましたか?
全部繋げて名乗りますとね、
扇ヶ野原宮崎 寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助ってんですよ」
「赤マント」、美しい程に呆気に取られている
「長い名前でしょう? 察しの通りこれがなかなかどうして不便でございまして
小学校に入学して名札が配られるでしょう? あれが小さすぎて、名前が収まりきらなくなって字も小さくて読めやしない
後から読めるようにしてくれましたけどね、これがまぁ難儀なものでリボンのように長くなってまして
ずるずる引きずって歩いて、『紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助』辺りが土埃で真っ黒になっちまって結局読めやしない
それと出席ね、出席というのはご存じの通り毎朝行うもんでしょう?
それにあたしの苗字が『お』なもんですから、クラスで一番最初に呼ばれるんですよ
先生が言います。『これから出席を取ります。扇ヶ野原宮崎 寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助くん』
これはあたしだからすらすら言えますけどね、先生はもう噛んだり一個飛ばしたりで散々でしたよ
先生だからってんで、プライドもあるんでしょうね、一回間違えたら律儀に最初から始めるんですよ
あたしのクラスは30人でした。残り29人ほったらかしですよ、他は授業の合間に出席をつけてくんです
そういうのが丸1年続きましてね、結局先生は覚えてくれませんでした
その次の年もその次の年も誰も覚えてくれやしない、でも存在は覚えてくれるんですよね
何でかって、『名前が長いから』ってだけじゃないんですよ。先生があたしを呼ぶだけで授業の半分削れちまいますから
そんな良い意味でも悪い意味でも思い出の詰まったこの名前、勿論あたしの両親が願いを込めてつけてくださったんですけどね?
でもその親がまた欲張りで、あたしに『とにかく長生きして欲しいから』っておめでたい言葉をずらっと並べてつけたのがこのみょうちくりんな名前ですよ
お陰でこの通り事故にも遭わず病気にもならず無遅刻無欠席、至極健康な生活を送っているという事でございます
というのはですね――――――――」
「あーもうやかましい!?」
小学校に入学して名札が配られるでしょう? あれが小さすぎて、名前が収まりきらなくなって字も小さくて読めやしない
後から読めるようにしてくれましたけどね、これがまぁ難儀なものでリボンのように長くなってまして
ずるずる引きずって歩いて、『紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助』辺りが土埃で真っ黒になっちまって結局読めやしない
それと出席ね、出席というのはご存じの通り毎朝行うもんでしょう?
それにあたしの苗字が『お』なもんですから、クラスで一番最初に呼ばれるんですよ
先生が言います。『これから出席を取ります。扇ヶ野原宮崎 寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助くん』
これはあたしだからすらすら言えますけどね、先生はもう噛んだり一個飛ばしたりで散々でしたよ
先生だからってんで、プライドもあるんでしょうね、一回間違えたら律儀に最初から始めるんですよ
あたしのクラスは30人でした。残り29人ほったらかしですよ、他は授業の合間に出席をつけてくんです
そういうのが丸1年続きましてね、結局先生は覚えてくれませんでした
その次の年もその次の年も誰も覚えてくれやしない、でも存在は覚えてくれるんですよね
何でかって、『名前が長いから』ってだけじゃないんですよ。先生があたしを呼ぶだけで授業の半分削れちまいますから
そんな良い意味でも悪い意味でも思い出の詰まったこの名前、勿論あたしの両親が願いを込めてつけてくださったんですけどね?
でもその親がまた欲張りで、あたしに『とにかく長生きして欲しいから』っておめでたい言葉をずらっと並べてつけたのがこのみょうちくりんな名前ですよ
お陰でこの通り事故にも遭わず病気にもならず無遅刻無欠席、至極健康な生活を送っているという事でございます
というのはですね――――――――」
「あーもうやかましい!?」
怒り心頭に達した「赤マント」は、寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助の胸にナイフを突き立てる
血が吹き出るが、やはり寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は倒れない
寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は、その腕をがしっと掴んだ
血が吹き出るが、やはり寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は倒れない
寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は、その腕をがしっと掴んだ
「地の文まで愚行を!?」
「ほぉら、だから言ったじゃないですか
あたしゃ長生きするんですよ。死なないんですよ
あたしの名前…寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助ってのはね、
「縁起が良い名前」なんですからね
とまぁ、そろそろここらでお暇させて頂きましょう」
「ほぉら、だから言ったじゃないですか
あたしゃ長生きするんですよ。死なないんですよ
あたしの名前…寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助ってのはね、
「縁起が良い名前」なんですからね
とまぁ、そろそろここらでお暇させて頂きましょう」
さっ、と扇子を閉じると、それを高々と振り上げ、
「御後が宜しいようで」
寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は、扇子を「赤マント」の頭に振り下ろした
ぐしゃっ、と鈍い音が響き、「赤マント」はその場に力無く倒れ、光となって消えていった
『あーあー、また派手にやってくれちゃって』と呟きながら、寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は刺されたナイフを1本、また1本と捨ててゆく
ぴしゃり、と再び扇子―――否、血濡れた鉄扇が開かれる
ぐしゃっ、と鈍い音が響き、「赤マント」はその場に力無く倒れ、光となって消えていった
『あーあー、また派手にやってくれちゃって』と呟きながら、寿限無寿限無五劫之擦切海砂利水魚之水行末雲来末風来末食寝処住処藪小路之藪柑子拝歩拝歩拝歩之朱鈴願朱鈴願之紅鈴代紅鈴代之本矛飛之本矛奈之長久命之長助は刺されたナイフを1本、また1本と捨ててゆく
ぴしゃり、と再び扇子―――否、血濡れた鉄扇が開かれる
「じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ
かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ
くうねるところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ
ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん
しゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの
ちょうきゅうめいのちょうすけ」
かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ
くうねるところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ
ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん
しゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの
ちょうきゅうめいのちょうすけ」
暮れなずむ夕日に、歌が響いた
...end