黒猫遊歩
夜の住宅街、塀の上を黒猫が歩く。
街灯に照らされた艶やかで美しい毛並みは、この黒猫が飼い猫であると判断するにたやすい。
今この黒猫は夜の散歩を満喫していた。
街灯に照らされた艶やかで美しい毛並みは、この黒猫が飼い猫であると判断するにたやすい。
今この黒猫は夜の散歩を満喫していた。
そろそろお腹も空いてきたし、帰ろうか。
黒猫がそう思ったとき、前方からこちらに走り寄る影を捉えた。
黒猫がそう思ったとき、前方からこちらに走り寄る影を捉えた。
「こんばんは!今日はいつもより遅いんだね。違う道に行ったのかと思ったよ。」
よくてせいぜい1歳くらいであろう若い犬が、塀の上の黒猫を見上げる。
この犬は黒猫の散歩コースによく現れ、このようにことあるごとに話しかけてくるのだ。
そしてよく見るとこの犬、顔が人間によく似ている。
いわゆる「人面犬」である。
この犬は黒猫の散歩コースによく現れ、このようにことあるごとに話しかけてくるのだ。
そしてよく見るとこの犬、顔が人間によく似ている。
いわゆる「人面犬」である。
お腹が空いてるし特に話す用事も興味もない、と、黒猫は無視して家路に向かう。
「あ、待って!オレこれから晩飯漁りにいくんだ!キミも一緒にいかない?」
その言葉に黒猫の足が止まる。
いつものカリカリもいいが、たまには外のご飯を食べてみるものいいかもしれない。
そう思った黒猫は、ひらりと塀から飛び降りて人面犬へと歩み寄る。
そして、まるでそうするのが当然であるかのごとく、その背中に飛び乗った。
いつものカリカリもいいが、たまには外のご飯を食べてみるものいいかもしれない。
そう思った黒猫は、ひらりと塀から飛び降りて人面犬へと歩み寄る。
そして、まるでそうするのが当然であるかのごとく、その背中に飛び乗った。
「にゃー」(いって)
「え、乗せていけってこと?これじゃ歩きにくいんだけど……」
「にゃー」(いって)
「ねえ、降りてよ。うまく歩けないってば……」
「にゃー」(いって)
「……わかったよもう」
「え、乗せていけってこと?これじゃ歩きにくいんだけど……」
「にゃー」(いって)
「ねえ、降りてよ。うまく歩けないってば……」
「にゃー」(いって)
「……わかったよもう」
黒猫に押し切られる形で、黒猫を乗せた人面犬は繁華街のほうへと歩いていった。
・
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とある料理屋の裏口。
そこに設置されたゴミ置き場に、残飯を漁る人面犬と黒猫の姿があった。
そこに設置されたゴミ置き場に、残飯を漁る人面犬と黒猫の姿があった。
「この店、他の野良犬たちにも人気なんだ。ねぇねぇどう?おいしい?」
「にゃ」(まずい)
「にゃ」(まずい)
飼い猫に残飯など口に合わない、といわんばかりに短く鳴き、食べるのをやめて毛づくろいを始める黒猫。
人面犬はそれをがっかりした様子で見ると、再びゴミ置き場に向き直り残飯を漁り始める。
興味なさ気に毛づくろいをしていた黒猫の手がぴたりと止まる。
人面犬は周りの気配に気づき、あわてて後ろを振り返る。
二匹は野良犬の群れに取り囲まれていた。しかもそれは、この辺りでは危険な部類に入るグループだった。
人面犬はそれをがっかりした様子で見ると、再びゴミ置き場に向き直り残飯を漁り始める。
興味なさ気に毛づくろいをしていた黒猫の手がぴたりと止まる。
人面犬は周りの気配に気づき、あわてて後ろを振り返る。
二匹は野良犬の群れに取り囲まれていた。しかもそれは、この辺りでは危険な部類に入るグループだった。
『おうおう、そこのチビ犬にチビ猫。誰に断ってここの飯食ってんじゃゴラァ!?』
『てめぇここがボスのシマだって知ってんだろうなぁ。ああん?』
『いい度胸だな貴様ら……残飯と一緒に食ってやろうか?』
「……やば」
『てめぇここがボスのシマだって知ってんだろうなぁ。ああん?』
『いい度胸だな貴様ら……残飯と一緒に食ってやろうか?』
「……やば」
辺りを囲む十数匹の野良犬は皆、人面犬より一回りも二回りも大きい。
このままじゃ本当に食べられる……と思ったとき、すい、と黒猫がボス犬に歩み寄った。
このままじゃ本当に食べられる……と思ったとき、すい、と黒猫がボス犬に歩み寄った。
「あ、危ないよ!」
『何だチビ猫、俺とやり合おうってのか?チビだからって容赦は……』
「にゃー」(じゃまだよ)
『何だチビ猫、俺とやり合おうってのか?チビだからって容赦は……』
「にゃー」(じゃまだよ)
黒猫はボス犬の目の前を横切ると、再び人面犬の元へと帰る。
それと同時に、料理屋の裏口のドアが開いた。
それと同時に、料理屋の裏口のドアが開いた。
「ゴルァ野良犬共!また残飯漁りやがって!今日こそとっ捕まえて保健所に送ってやらぁ!」
『やべぇ、オヤジだ!全員逃げろ!犬鍋にされんぞ!』
『あ、待ってくださいボス!見捨てないでぇ!』
「……っ今だ!早く、こっちに!」
『やべぇ、オヤジだ!全員逃げろ!犬鍋にされんぞ!』
『あ、待ってくださいボス!見捨てないでぇ!』
「……っ今だ!早く、こっちに!」
野良犬たちは蜘蛛の子を散らすかのように方々に逃げ去っていった。
そのドサクサに紛れ、黒猫と人面犬もその場から走り去った。
そのドサクサに紛れ、黒猫と人面犬もその場から走り去った。
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「あっははは!あいつらざまあ見ろ!あの店のオヤジ、野良犬を目の敵にしてるんだ。あー、スカッとした!」
黒猫は先ほどの続きとばかりに毛づくろいをしている。
この黒猫、実は「黒猫が横切ると不吉」の力を持っている。
おかげで黒猫に横切られた野良犬たちは、店の主人に見つかるという不吉な目に見舞われたというわけだ。
そんなこととは露知らず笑っていた人面犬だったが、ふと辺りを見渡して呆然とする。
この黒猫、実は「黒猫が横切ると不吉」の力を持っている。
おかげで黒猫に横切られた野良犬たちは、店の主人に見つかるという不吉な目に見舞われたというわけだ。
そんなこととは露知らず笑っていた人面犬だったが、ふと辺りを見渡して呆然とする。
「……ここ、どこだ?」
二匹が逃げ込んだのはどことも知れない公園。
人面犬に連れられてやってきた繁華街は、黒猫のテリトリーの外である。
そして黒猫を連れてきた人面犬も、現在位置がわからない。
ここに来て二匹は迷子の様相をかもし出していた。
人面犬に連れられてやってきた繁華街は、黒猫のテリトリーの外である。
そして黒猫を連れてきた人面犬も、現在位置がわからない。
ここに来て二匹は迷子の様相をかもし出していた。
「やべ、どうしよう、父さんにどやされる……。ってかそもそも帰れねぇじゃん。どうしよう……」
あたふたする人面犬をよそに、黒猫は耳を澄ませてあたりをうかがう。
そして何かを見つけた様子で公園の奥のほうへと歩くと、特にあてもない人面犬もそれについていく。
二匹がたどり着いたのは打ち捨てられた数本の土管。
そこには多数の猫たちが、のんびりぐだぐだと猫会議に興じていた。
その中の一匹が、人面犬たちに気づく。
そして何かを見つけた様子で公園の奥のほうへと歩くと、特にあてもない人面犬もそれについていく。
二匹がたどり着いたのは打ち捨てられた数本の土管。
そこには多数の猫たちが、のんびりぐだぐだと猫会議に興じていた。
その中の一匹が、人面犬たちに気づく。
『……ん?誰だお前ら』
「にゃー」(やあ)
『んにゃ?見かけない子だにゃあ。どこから来たにゃ?』
「にゃー。にゃー」(まいご。○○ってどっち?)
『おや、そんな遠いとこからよく来たねぇ』
『そこなら中央区の方だにゃ。あっちに真っ直ぐ行くとわかると思うにゃ』
「にゃー」(ありがと)
『犬どもに気をつけな。もし会っちまったらさっさと逃げろよ』
「にゃ」(わかった)
「あ、待って!そっちでいいの?オレも一緒に行く!」
「にゃー」(やあ)
『んにゃ?見かけない子だにゃあ。どこから来たにゃ?』
「にゃー。にゃー」(まいご。○○ってどっち?)
『おや、そんな遠いとこからよく来たねぇ』
『そこなら中央区の方だにゃ。あっちに真っ直ぐ行くとわかると思うにゃ』
「にゃー」(ありがと)
『犬どもに気をつけな。もし会っちまったらさっさと逃げろよ』
「にゃ」(わかった)
「あ、待って!そっちでいいの?オレも一緒に行く!」
黒猫は会話を終えると、さきほどの猫が指し示した方向へ歩き出した。
そしてその後ろをあわてて人面犬が追いすがる。
そしてその後ろをあわてて人面犬が追いすがる。
『にゃ、可愛らしいわんこにゃ。あの二匹、どんな関係にゃ?』
『猫の方はそうでもないけど、犬の方は猫に惚れてると見たにゃ』
『いやぁ、案外あの猫の態度も、愛情の裏返しだったりするもんだよ?』
『まさかの両思いにゃ!?許されざる恋にゃ!燃えるにゃー!』
『ただ仲がいいだけの犬と猫だろ。なに言ってんだか』
『にゃはは。惚れた腫れたに種族の壁なんてないのにゃー』
『猫の方はそうでもないけど、犬の方は猫に惚れてると見たにゃ』
『いやぁ、案外あの猫の態度も、愛情の裏返しだったりするもんだよ?』
『まさかの両思いにゃ!?許されざる恋にゃ!燃えるにゃー!』
『ただ仲がいいだけの犬と猫だろ。なに言ってんだか』
『にゃはは。惚れた腫れたに種族の壁なんてないのにゃー』
話の肴を得た猫会議は妙な方向へと舵を切るのだった。
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先ほどの猫が教えてくれた方向に歩くこと十分と少々、二匹はお互いに見慣れた道へとたどり着くことができた。
「よかったぁ……本当にもう帰れないのかと思った……」
「にゃー」(つかれた)
「にゃー」(つかれた)
人面犬はちらりと黒猫を見ると、おずおずと向き直る。
「あ、あのさ。オレ、ただキミと一緒に遊ぼうと思ってて、こんなことになるとは思ってなくて……その……ごめん」
耳も尻尾も垂れ下がり、しゅんとする人面犬。
黒猫は人面犬に歩み寄り、前足を振り上げる。
引っかかれる、と思った人面犬はぎゅっと目を閉じた。
黒猫は人面犬に歩み寄り、前足を振り上げる。
引っかかれる、と思った人面犬はぎゅっと目を閉じた。
ぺふ。
感じたのは意に反してやわらかい感触。
人面犬の鼻先には黒猫の前足が乗せられていた。
人面犬の鼻先には黒猫の前足が乗せられていた。
「にゃあん」(きにしなくていいよ)
黒猫は人面犬の目を見据えてそういうと、ひらりと塀の上に飛び乗った。
しばしの沈黙の後、人面犬はぶんぶんと尻尾を振りながら黒猫に呼びかける。
しばしの沈黙の後、人面犬はぶんぶんと尻尾を振りながら黒猫に呼びかける。
「ほんとにごめん!でも、またいつか遊ぼうね!いつもみたいに待ってるから!」
黒猫は振り返らず、しっぽをゆらりと揺らしてそれに応えた。
そして黒猫が塀の向こうに消えたのを見届けると、人面犬は父親の待つ住処へと駆けて行った。
そして黒猫が塀の向こうに消えたのを見届けると、人面犬は父親の待つ住処へと駆けて行った。
……なお、住処へと無事たどり着いた人面犬が父親にこっぴどく叱られるのは、また別のお話。
そして、帰りが遅くなった黒猫が罰として飼い主からシャンプー責めにあうのも、また別のお話。
そして、帰りが遅くなった黒猫が罰として飼い主からシャンプー責めにあうのも、また別のお話。
【終】