「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

死神少女は修行中-番外.吸血鬼達が狩りをする夜、ゴスロリ少女は自由落下する

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 「マヤの予言」騒動があらかた収束してしばらく後のある夜。
 学校町の外れ。人気のないそこが、彼らの戦場であり狩り場。
 「吸血鬼」ギルベルトとの契約者、藤原風夜と「カラドボルグ」の契約者であるアーサー、そしてギルベルト。
 『組織』過激派や強硬派に属する者に「死」という悪夢を見させるべく、彼らは今日もその力を、刃を振るう。

「今日のは、案外あっけなかったね」
 風夜がお気に入りのマントをばさりと翻す。夜風にふわりとはためく様はいつだってちょっとばかり華麗で、彼は満足げに笑った。
 そんな彼にやれやれと肩をすくめるアーサーと、わずかに残る戦いの影にまだ怯えを隠せないギルベルトと。
 これが幸せかなんてわからない。けれども彼らの心に灯りがともる、ほんの一瞬。

「そこをどけですよおぉぉぉ!」

 どことなく間延びした叫びとともに、彼らのほぼ真上、空中に現れた黒い影
「ひ!?あ、ぅああああ!!!!」
 ギルベルトの絶叫が響き、風夜が彼を背後に庇う動きを見せる。
 とっさにアーサーが差し出した腕をすり抜けて着地したのは、ピンク色の髪の華奢な少女。
 ふんわりと袖がふくらんだ黒いドレスには鮮やかな青色で十字架の意匠があしらわれ、
 ツインテールに結わえられた髪を飾るヘッドドレスと首もとのチョーカーには、青い薔薇と銀の十字架のモチーフ。
 所謂ゴシックロリータ。愛らしさと暗黒の気配が過不足なく両立したその出で立ちは
 可憐でいかにも繊細そうではあるものの、少女らしい天真爛漫さにはどこか欠ける雰囲気のこの少女にしっくりと馴染んでいる・・・けれど。 いきなし空から降ってくる真っ黒いゴスロリ少女というのは可愛い可愛くない以前に不審者としか表現の仕様がない。
(あ、あぅ・・・なん、だろう。すごく派手・・・怖い・・・)
(風夜のマントも悪目立ちすると思ったが・・・まさか、それ以上がいたとは)
 唖然とするギルベルトとアーサー。風夜の表情には好奇心がちらついている。
「いきなり空から降ってくるなんて、危ないじゃないか」
 風夜は言葉でこそ咎め立てをしているがその声色にも表情にも笑いが滲んでいて
ああ面白がっているなと、アーサーは密かに溜め息をついた。

「てめーらこそ、そんな所に突っ立ってたら危ねーのですよ」
 自らの非常識な登場の仕方はどこぞの超高層ビルより高い棚に放り上げて偉そうに少女が言い募ると同時に。
 空気が揺れた。

「ひゃっ」
「うわ!」
 4人の間を俄に突風が吹き荒れる!
「・・・・・・!」
「あ、あ・・・!」
「アーサー!ギル!」
 立ちすくむアーサーとへたり込むギルベルトの所へ走り出した風夜のマントの布地が、嫌な音を立てて裂けた。
「ちきしょーですよ!」
 幻のドレスもスカート部分と袖だけが器用に切り裂かれ、所々素肌が剥き出しになっている。
 アーサー達を守るように抱きしめた風夜も、切り刻まれたマントに気づくとああと悔しそうに声を上げた。
「ボクは追われてるのですよ。そいつの仕業なのです」
 巻き添えが怖かったら逃げろですよと少女は言うが、マントを切り裂かれては黙ってはいられなくなった。
「アーサー、ギル。少しだけ待ってくれないか?」
 大丈夫。すぐ終わらせるよと言い聞かせ、止めようとするアーサーを制した。
 心配顔のギルベルトともの言いたげなアーサーを庇うように背にして少女に歩みよる。
「そこのお人形のコスプレみたいな人」
「コスプレじゃねーし、ボクには新宮幻という名前があるですよこのマント野郎」
 てめーのそれは何のコスプレですかと睨まれて、風夜の眉が少し上がった。
「失礼だな、靡くマントはロマンだよ!?それに俺だって、マント野郎じゃなくて、藤原風夜って名前がある」
「ゴシック&ロリータだってロマンですよ!
美しいものを愛する乙女がちっとも美しくねー現実と戦う為の戦闘服なのですよ!」

「お前らこっちを見ろおおおおお!」

 当人達は大真面目だけれど不毛なロマン談義は再び吹き荒れた突風と罵声で中断された。
 見れば青年以上中年以下中程度のメタボ、といった雰囲気の男がスルーされた怒りに顔を真っ赤にしている。
「あれが、君を追ってるっていう奴かい?」
「まあそんなとこなのですよ。追っ払っても追っ払ってもしつこくついて来やがるですよ」
 追われる心当たりを問われた幻が「組織」に入手を依頼された品を狙われている、と答えると風夜とアーサーは暫し顔を見合わせた。
 もし彼女の依頼主とやらが「強硬派」「過激派」に属する者ならば、狩ってしまってもよい。
「穏健派あるいは中立派ならば、当たらず障らず・・・かな」
 とはいえ、向こうに自分達の存在が知れてしまうのは避けたい。
「ねえ幻」
「なんですか」
「俺もマントの仇を取りたいんだけどさ、君の依頼主はどこに属してる?」
 過激派とか穏健派とかには興味はないが、о(オウ)-No.の上位メンバーである。と
 幻の返答を受けた風夜が携帯を開いて何事かを確認するように頷いた。
「情報があった。『被害者のケアに重点を置いている穏健派』か・・・
君の依頼主との接触は避けたいから、俺達はあいつを倒したらすぐ退散する。
何か聞かれても俺達の事を出さないで欲しいんだけど」
 頷いた幻と、風夜が男に向き直る。
「わざわざ待っててくれたんだ。見かけによらず義理堅いね」
「悪役のお約束なのですよ」
「誰が悪役だぁ!」
「もちろん君だよ」
「てめーなのですよ!」
 ますます顔を赤くして怒鳴り、飛びかかってくる男をふわりと避けて、男の喉元に狙いを付けた風夜。
「ははっ、バカめ!」
 刹那、男の姿がかき消え、再び猛烈な風の刃が4人を襲う。「消えた・・・!?」
「これですよ!攻撃しようとすると消えやがるです!」
 そのくせ何時までもついてくるという事は、彼女が品物を渡すまでは諦める気はないのだろう。
「ここまでして欲しがる奴が居て『組織』までが入手したがってる“品物”って?」
「・・・もしそれが何か知ったら、てめーらはくだらねーと笑うでしょーね」
「でも彼等にとってはそれだけの価値のある物か」
 そういうのは嫌いじゃないよと風夜は笑う。
 その間にも絶え間なく襲い来る風を纏った刃。今のところ[ピーーー]気まではないのか、衣服と精々皮膚の表面を浅く傷つける程度に留まっている。
「ふ、風夜・・・!」
「くっ・・・風夜、これは恐らく『鎌鼬』か何かの類だろうが、契約者を見つけない事には!」
『鎌鼬ではない、「鎌風」だっ!これ以上切り刻まれたくなければ、その小娘に品物を渡させろ!』
 相手の攻撃手段が「風」であるだけに、見切りようも捉えようもない。
 そして風夜達が目視で確認できる範囲にはその契約者はいないのだ。
「どこかに隠れたか、何かに擬態しているか、かな」
 風夜の言葉に、幻がはっと反応した。
「そーです!これがあったですよ!」
 言うや否や彼女が取り出したのはコンパクトミラー。黒い地にドレスと同じ、青い十字架の意匠が浮き彫りにされている。
 鏡を開くと、幻は鏡面をあちこちに向けながら注意深く覗き込む。
「居たですよー!」
 叫ぶと同時に駆け出し、数メートル先で前蹴り一発。
 風夜達の耳にもはっきり聞こえた呻き声と、どさりと重い物が倒れる音。
 幻が3人に示した鏡面には彼女の「照魔鏡」で映し出された「鎌風」の契約者である、あの男の姿が映っていた。
『くそ・・・よくも「透明人間」を見破ってくれたな!しかぁし!』
 言うが早いか鏡の中の男は身を翻して駆け出した。
『これで勝ったと思うなよ!』
「おっと、お前は俺のマントの仇だぞ」
 風夜の姿が消え、その代わりに霧が立ちこめる。
『幻。あの男の位置をナビしてくれないか?』
「りょーかいですよ」
 幻が鏡を見る。釣り込まれるようにギルベルトとアーサーも彼女の背後から鏡を覗き込んだ。
「いましたですよ!あと数メートル位で通りに出るですよ!」
 この辺かな?と風夜の声が辺りに響き、霧が収束する。
「悪いな。今度は俺の番だよ」
 姿を現した風夜の、幻の前蹴りより遙かに強力な「吸血鬼」の怪力を乗せたハイキック。
「うげっ・・・」
 今度こそ男は失神し、「透明人間」の能力が解け、倒れ込んだ姿が露わになる。
 風夜はやれやれと肩をすくめ、このマントどうしてくれる?と男に問いかけたが、返答はなかった。

 風夜に幻達が駆け寄ると同時に、人工的な明かりとヘリコプターのホバリングの音が頭上から降り注いだ。
「今度は何だ」
 アーサーが訝しげに呟く間にヘリは地上に音もなく降り立ち、中からひとりの少女が現れる。
 年の頃なら10歳前後、肩より少し下まで伸ばされた黒髪は縦ロールと言うには些か緩く少女の輪郭を縁取っている。
 纏った滑らかな生地のドレスは漆黒。少女の膝下くらいの丈のそれは控えめなフリルとレース、共生地で作られた沢山のくるみ釦で装飾されていた。
 続いて幾人もの黒服達が降りて来て「鎌風」と「透明人間」の契約者を引っ立てる間に
 少女は幻に歩み寄ったが、傍らの風夜達を認めると、優雅な仕草で一礼した。
「ご機嫌よう。わたくし『組織』о(オウ)-No.3《桐生院るり》と申します。どうぞお見知り置きを」
「そ、『組織』・・・!」
「組織」にトラウマのあるギルベルトは震え上がるが、風夜が大丈夫だよ、と軽く抱きしめて宥めると、彼の震えが少し治まる。
 るりは幻に向き直り、片手を腰にあて、もう片手は何かを請求でもするように幻に差し出し高圧的に言い放った。
「やああっと捕まえたわよ、さっさと約束の品をお渡しなさい、このお馬鹿!」
「気が変わったですよ。これはてめーには渡せねーですよ」
「えっ」
「えっ」
 言い放った幻に皆の視線が集中する。
「えーと、つまり」
 呆気にとられる3人のうち、風夜が辛うじて口を開く。
「このお馬鹿は、わたしが手に入れてくれと頼んだ品を約束の時間に持って来ずにバックレようとしたのよ」
「あの男が強盗なら、幻は持ち逃げ犯・・・だったわけ」

 3人の視線の先では、追いつめられた幻がなお抗弁していた。
「報酬も経費もいらねーので、これはボクのモノですよ!」
「ふん、これを見てもそんな事が言えるかしら?・・・出ておいでなさい」
 姿を現したのは、年の頃なら二十歳前程の長身の男。革のグローブをはめた両手を降参よろしく上げている。
「嶋・・・くん?」
 幻の同居人、嶋貴也はひとつ大きな溜め息をつくと、手を降ろす代わりに肩をすくめた。
「そういう訳で、俺は新宮さんの話には乗らないから」
 貰うものも貰ったしねとポケットから封筒のようなものを出して見せた。
「この裏切り者ですよ!」
 涙目で睨む幻にも動ずる事なく歩み寄り、その肩をぽんと叩く。
「俺は少なくともあんな代物いらないし。新宮さんが持ってる分も報酬貰っちゃったし」
「う、うう・・・」
「ざまー見なさい幻!この世に悪が栄えた試しなんか無いのよ!」
 るりは我が世の春とばかりの高笑い。
「言ってる事は正しいけど、言い方は悪役そのものだね!」
 すっごくいい笑顔で言い放った風夜に
 アーサーは悪の女幹部というものが居るならばまさしくこのような物言いをするのだろうと心の中でだけ賛同し、
 ギルベルトはと言えば先程までの恐怖は薄らいだが、やはり何も言えずに風夜の後ろでおたおたしている。
 ともかく、幻はがっくり項垂れると何処からともなくポップなプリントが施された紙袋を取り出した。
「やっと手に入ったわ!『学校町限定販売・七色B級グルメラムネ7本セット』! 」
 歓声を上げるるりを恨めしそうに見つめる幻。
 風夜一行は“品物”のとんだ正体に開いた口が塞がらない。
「び、びーきゅうらむねせっと・・・」
「そんな下らない物のために、あれほどの大騒ぎを」
「そ、『組織』、までが一緒に、なって・・・」
 呆然と呟いた彼らを、るりがきっと睨みつける。
「下らないですってぇ!?」
 貴也がぽつりとその通りと呟いたが、誰にも聞こえる事はない。
「このラムネの販売を全国のお菓子ブロガーがどれほど待ちくたびれていたか!」
 名称から想像するにむしろゲテモノ喰いと呼んだ方が相応しい気もするが、誰もツッコむ者はいない。少なくともこの場には。
「あの強盗は何を考えてそんな物を?」
 首を傾げた風夜たちの耳に、件の強盗未遂男の絶叫が届いた。
「放せええええ!俺は単なるグルメライターだあぁ!あれを記事にしたかっただけなんだああ!」
 徹夜組まで出る程の前評判だったし、なんとしても試飲したかったのねと訳知り顔のるり。
 幻と貴也を並び屋として雇いラムネを入手させたものの、その後幻は現れず
「てめーの分も渡さねーで持って帰って来いですよ」
 との幻からのメールを受け取った貴也がるりに報告、今回の捕り物と相成ったのだった。

「で、俺のこのマントは、誰に弁償を求めたらいいんだと思う?」
 知らねーですよと罵声を上げる幻。
 その背後にいつの間にか、10代半ばと思しきるりによく似た面差しの少年が立っていた。
「それ・・・お困りなら、オイラに任せて下さい」
 風夜からマントを受け取った少年は、既にボロ布と大差ないそれに、ふううと息を吹きかけた。
 マントは見る見るうちに凍りつき・・・
「はい、この通り」
 少年が広げて見せると、新品同様になっていた。
 彼は《о(オウ)-No.0・桐生院蘇芳(きりゅういん すおう)》と名乗り、
 『CDは冷凍させると復活する』と『雪女』の能力を持つ黒服であると自己紹介した。
「幻さんも、明日にでも持ってきてくれれば、そのドレス直すよー」
 ヘリに乗り込もうと身を返した少年にるりが歩み寄る。
「さ、帰ったら試飲をしてブログに記事を書いて・・・兄上、もたもたしている場合ではないわよ」
「オイラはそのラムネいらないなあ。ええと、ご協力感謝します。それじゃ」
 兄妹と黒服達は去り、その場には静寂と4人の男とひとりの少女が残された。

(・・・もしそれが何か知ったら、てめーらはくだらねーと笑うでしょーね)
 幻の言葉を反芻してホントにくだらなかったなあとごちる風夜に貴也が軽く頭を下げ、変な事に巻き込んで申し訳ないと詫びた。
 幻はそっぽを向いたまま、笑いたければ笑えですよちくしょーとちいさく呟き、風夜はくすくすと笑う。
「言ったろ。そういうの嫌いじゃないって」
 さ、アーサー、ギル。帰ろうか。
 いちどきにふたりに抱きつきながら家路に就く風夜は、苦笑いしながら風夜に抱きしめられているアーサーは、
 最初から最後までおどおどおたおたしているギルベルトは。
 幻と貴也には幸せそうに見えたし、事実彼らは幸せだった。誰にもそれを奪うことは出来ないほどに。

「・・・帰って行きやがったですね」
「俺たちももう帰ろうよ。明日『フェアリーモート』で好きなだけ奢るからさ・・・って!?」
 貴也が幻に視線を向けると彼女は鏡を手にしていて。
 その照準はしっかりと貴也に合わせられていて、彼は冷たい汗を背中に感じながら後ずさりで逃げを図る。
「それで済むとでも思ってんですかてめーは!食い物の恨みはこえーんですよ!」
「いやちょっと待ってごめんやだ熱つつつつ!!」
「そこへ直れですよこんちきしょー!」
 ふたりの追いかけっこは夜明けまで続き、貴也は大火傷、
 幻は晩秋の夜風にあてられて風邪を引くという双方痛み分けの結果に終わったとか。


END

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