「こっそりお家を出てきちゃったんだ」
しいっと指を唇にあててにかっと少女が笑った。
その人懐こい笑顔に柳の胸がほっこりと暖かくなる。
お家の人に黙って出てきたら良くないよ、と言うべきなのだろうが、
今までこの子が送ってきたであろう生活と、昨日の赤毛の男の態度を考えるとノイを叱る気にはなれなかった。
「じゃ・・・ちょっとだけ、街を歩いてみる?俺から離れないようにね?」
しいっと指を唇にあててにかっと少女が笑った。
その人懐こい笑顔に柳の胸がほっこりと暖かくなる。
お家の人に黙って出てきたら良くないよ、と言うべきなのだろうが、
今までこの子が送ってきたであろう生活と、昨日の赤毛の男の態度を考えるとノイを叱る気にはなれなかった。
「じゃ・・・ちょっとだけ、街を歩いてみる?俺から離れないようにね?」
それからはもう大騒ぎだった。
物心ついてから初めて外の世界を見たノイは大はしゃぎで公園の鳩を追いかけ回したり、
アイスクリーム売りの車から生まれて初めて買い物をしてみたり。
「あたしね、おかねだして『これください』っていうのはじめて!」
それは嬉しそうにアイスクリームをぱくついては、お家で食べるのよりずっと美味しいと
口の周りをべたべたにして笑って話すノイの顔を拭いてやったり。
木漏れ日がきらきらする川べりで裸足になって水遊びをした。
子供らしく小魚を追いかける様は無邪気そのもので、なぜこのような少女がと
彼女の送ってきた、否、送らされてきた生活に改めて柳が不審に感じると同時に、不意に思い出した事。
「わーん!」
急にノイの泣き声が上がり、吃驚した柳がノイに小走りで近寄ると・・・
「かにさんがはさんだのー」
ちいさな人差し指を柳に示す。幸い血などは出ていないようだ。
「・・・あれ?」
カニを摘み上げた柳は、それが既に動かなくなっていることに気づいた。
(死んでる?)
死んだカニが挟む訳はない。ノイの指を挟んだ時は生きていて、柳が駆け寄るまでのわずかな間に死んだ・・・としか思えない。
(そんな・・・でも、まさか)
先ほど不意に思い出した、ノイが漂わす『死』の匂い。
物心ついてから初めて外の世界を見たノイは大はしゃぎで公園の鳩を追いかけ回したり、
アイスクリーム売りの車から生まれて初めて買い物をしてみたり。
「あたしね、おかねだして『これください』っていうのはじめて!」
それは嬉しそうにアイスクリームをぱくついては、お家で食べるのよりずっと美味しいと
口の周りをべたべたにして笑って話すノイの顔を拭いてやったり。
木漏れ日がきらきらする川べりで裸足になって水遊びをした。
子供らしく小魚を追いかける様は無邪気そのもので、なぜこのような少女がと
彼女の送ってきた、否、送らされてきた生活に改めて柳が不審に感じると同時に、不意に思い出した事。
「わーん!」
急にノイの泣き声が上がり、吃驚した柳がノイに小走りで近寄ると・・・
「かにさんがはさんだのー」
ちいさな人差し指を柳に示す。幸い血などは出ていないようだ。
「・・・あれ?」
カニを摘み上げた柳は、それが既に動かなくなっていることに気づいた。
(死んでる?)
死んだカニが挟む訳はない。ノイの指を挟んだ時は生きていて、柳が駆け寄るまでのわずかな間に死んだ・・・としか思えない。
(そんな・・・でも、まさか)
先ほど不意に思い出した、ノイが漂わす『死』の匂い。
「かにさんしんだ?」
その一言に柳はぎょっとしてノイを見つめる。
ノイはにこにこ笑ったまま
「かにさん、しんだ?」
ノイは今までと何も変わらない、人懐こい笑顔で柳を見上げている。
その一言に柳はぎょっとしてノイを見つめる。
ノイはにこにこ笑ったまま
「かにさん、しんだ?」
ノイは今までと何も変わらない、人懐こい笑顔で柳を見上げている。
「そうだよ。カニさん死んじゃったんだ」
可哀想だね。お墓を作ってあげよう。
やっとのことでそれだけを言うと、ちょっと離れた木陰を選び、カニを埋めてその上に石を置いた。
「カニさんかわいそうなの?」
「そうだよ」
「しんじゃったから?」
「・・・そうだよ」
「しんじゃうとかわいそうなの?」
「・・・生き物は、生きていれば、いずれは死んでしまうんだ」
だめだ。てんで答えになっていない。なんて説明すれば良いんだろう。
「うん。知ってるよ」
しにがみがね、教えてくれるよ。生きものはしぬとやすらかになるんだよ。
「死神・・・」
・・・この子は契約者なのか。それも、命を奪うためだけの存在との。
こんな・・・まだ「死」の意味も現実も知らないような幼子が。
「カニさん、やすらかになったかなあ」
やすらかになればかわいそうじゃないよね。
ちょっとばかり心配そうに表情を曇らすノイに、柳は震えそうになる己を叱咤して尋ねた。
「ノイちゃんにそれを教えてくれた『死神』は・・・お家にいる赤毛のおじさんかな?」
「ううん」
少女が頭を振ると、それに合わせて黒髪がさらさらと揺れる。
可哀想だね。お墓を作ってあげよう。
やっとのことでそれだけを言うと、ちょっと離れた木陰を選び、カニを埋めてその上に石を置いた。
「カニさんかわいそうなの?」
「そうだよ」
「しんじゃったから?」
「・・・そうだよ」
「しんじゃうとかわいそうなの?」
「・・・生き物は、生きていれば、いずれは死んでしまうんだ」
だめだ。てんで答えになっていない。なんて説明すれば良いんだろう。
「うん。知ってるよ」
しにがみがね、教えてくれるよ。生きものはしぬとやすらかになるんだよ。
「死神・・・」
・・・この子は契約者なのか。それも、命を奪うためだけの存在との。
こんな・・・まだ「死」の意味も現実も知らないような幼子が。
「カニさん、やすらかになったかなあ」
やすらかになればかわいそうじゃないよね。
ちょっとばかり心配そうに表情を曇らすノイに、柳は震えそうになる己を叱咤して尋ねた。
「ノイちゃんにそれを教えてくれた『死神』は・・・お家にいる赤毛のおじさんかな?」
「ううん」
少女が頭を振ると、それに合わせて黒髪がさらさらと揺れる。
「ここにいるよ」
柳は慄然とした。
周囲を見回しても、自分と彼女以外の人影はない。
だが少女の周囲にたゆたう死の匂いを柳はいっそう色濃く感じていた。
周囲を見回しても、自分と彼女以外の人影はない。
だが少女の周囲にたゆたう死の匂いを柳はいっそう色濃く感じていた。