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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

死神少女は修行中-番外.本日、くしゃみ後キス

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「・・・くしょっ!」
「・・・大丈夫?」
 風邪なんか引くような人じゃないと思っていた、と言うと
「てめーはボクの事をバカだと思ってるんですかこんちくしょー・・・くしょん!」
 事実その通りですとは言えないから丁重に目をそらすだけに留めて、新しいティッシュの箱を開ける貴也。
「うう。鼻水もひどいし、涙も止まらねーのですよ。ぐすっ」
 くしゃみの度に生成色のドレスに併せた白薔薇のコサージュをあしらったミニハットがずり落ちて、
 清くも正しくもなくていいから美しくあるべきロリィタがこれでは台無しと幻は鼻をぐすぐす鳴らせた。
 鼻のかみすぎで鼻もその下も真っ赤になってしまい、ティッシュが触れるだけでも痛い。
「まるで・・・はっ・・・花粉症なのですよ・・・くしゅっ」
「まるでじゃなくて、花粉症そのものだよ。マンションの隣の松の木じゃない?」
 確かに窓の外に目をやれば、隣のお屋敷の松の木々が傍迷惑な黄色い粉を風に任せて振りまいていた。
 都市伝説でも花粉症になるのだなあと、改めて感心しながら貴也は冷蔵庫の扉を開ける。
「はい、ヨーグルト。花粉症にいいらしいよ」
「それこそ都市伝説じゃ・・・はっ・・・」
 くしゃみが途中で止まったらしく、もどかしげに鼻をぐすぐすいわせる幻の前にヨーグルトのパックを差し出すと
 玄関から響いた軽快なチャイム音に返事をしながら貴也が出て行く。
 それを見送った幻はヨーグルトを一口ぱくり。
「勝手にシリアルを入れんななのですよ・・・くしゅ!」
「・・・あれ、桐生院さん」
 玄関に立っていたのは、黒髪の兄妹。「組織」о(オウ)No.に属する桐生院蘇芳と、その妹のるりだった。
「何か?」
「聞いたわよ~」
「幻さん、花粉症なんですってー?」
 物見高いるりがどこからか聞きつけたものらしい。抱えた書類らしき紙袋を貴也に向かって突き出した。
「ささやかだけどお見舞いよ。貴也、あんた仮契約ぐらいは出来るわね?」
「・・・仮契約?」

 幻がくしゃみと共に3個目のヨーグルトのパックを開封した所で
「新宮さん」
「るり達くしゅっ!帰ったのですか。何しに・・・ずびっ来やがったですかあいつらくしゅん!」
 貴也はそれには答えず
「俺と・・・あの・・・」
「早く言えですよ」
「えーと・・・俺と、キスしよう?」
「・・・・・・」

 中身入りのヨーグルトのパックが、貴也の顔面を直撃した。

「ちょっと!これ非道い!」
「ひどいのはてめーの脳味噌ですよ!ぐすっ・・・何寝言言ってんですか!」
 「キス」なんて甘い単語が何光年の彼方に吹っ飛ぶような色気のない罵倒に、貴也の反論もしぜん声が高くなる。
「ちがっ・・・違う!」
 何が違うのか彼自身にもわからないまま一枚の書類を突きつけた。
「・・・都市伝説・・・仮契約書?」
 桐生院兄妹が持参した『お見舞い品』
「『花粉症はキスで治る』・・・!」
「・・・治療行為の一環で仕入れた都市伝説のモニターになれってさ」
「ふざけやがってですよー!くしゃん!」
「じゃ、・・・そーゆー訳で」
 幻の腰掛けている椅子の前に立ち、片手は彼女の肩に、もう片手は顎にそっと触れる。
「どーゆー訳ですか!どけですよふざけんなですよ!」
「いやあの・・・大丈夫だから。ちょっと目瞑っててくれれば、すぐ終わるから」
 これからキスをする男女、というよりむしろ歯医者の治療台に乗っかる子供を宥めるような口調だが、今はお互いそれどころの話ではない。
「すぐ終わりゃーいーってもんじゃねーですよ!ずびっ・・・嫌なもんは嫌なのですよ!」
 尚も近づいてくる同居人の頭をぐいぐい押して遠ざけようとはするものの
 目は痒いし涙は出るし鼻水が出る。それだけで集中力はがた落ち。押しのける力もいつもの3割減と言ったところだ。
(やべーですよ!)
 このままではいずれ力負けしてしまう。
「わかったのですよ・・・・」
「新宮さん?」
 急に体の力を抜いた幻を、貴也は訝しげに見下ろした。
「さっさと済ませろですよ。・・・ぐしゅっ」
「あ、ああ・・・」
 幻の態度の急変には不審を抱いたものの、貴也はあまり遠慮せずに幻の両肩に手を掛け、そっと顔を近づける。
「てめーも目を瞑れなのですよ。くしゅん!」
 言われたとおりに目を瞑ると・・・
「えい!!」
 ごがっという鈍い音と衝撃の中、貴也の意識は遠のいていった。
 テーブルの上の一輪挿しで殴られた事を知るのは、彼が目を覚ましてからの事となる。

「・・・てゆーわけなのですくしゅん。るりにも嶋くんにも困ったものなの・・・はくしゅん!」
 幻が『避難先』に選んだのは新田家だったが、正直これは失敗と言わざるを得なかった。
 わりかし広い日本家屋である新田家の、それなりに広い庭には
「ここにも松の・・・くしゅっ!まさかあるなん・・・は、はっ・・・」
「幻、だいじょーぶ?」
 ノイがいたわしげに背中をさするが、吐きそうとかそういう訳ではないのであまり役には立っていない。
「早く治してもらえばいーじゃないの」
 飛縁魔はによによと笑いを浮かべて携帯を手に取る。貴也を呼ぶつもりなのだ。
 やめろですよーと飛縁魔から携帯を取り上げようと詰め寄る幻を羽交い締めにすると、柳に携帯を放り投げる。
「はやく貴也を呼びなさいっ」
「オッケー!」
 柳の方も飛縁魔に負けず劣らず、表情から野次馬根性があふれ出ている。
「やめなよ、幻がいやがってるよー」
 ちなみに極とリジーは無視を決め込み、新田家一番の常識人ムーンストラックは外出中。
 この場で幻の味方をしているのは最年少のノイだけという有様だ。
(どいつもこいつも、大人気のねー連中なのですよ!)

 此処にいてはかえって危険と新田家を早々に辞すると、マンションに帰る事もできず
 アイスクリームショップに立ち寄るとそこには先客が。
「やあ、幻」
「・・・てめーらですか」
 其処にいたのは藤原風夜。と彼の連れであるアーサー、ギルベルト。
 とある事件で幻が知己を得た契約者達だ。
「買い出しの帰りにさ、甘いものが欲しくなっちゃって」
「そ、そーなので・・・くしゅん!ボクは今追われはくしゅん!」
「また追われているだと?」
「ど、どうか、したのか・・・?」
 幻がこれまでの経緯を粗方話すと、風夜がくすくす笑い出す。
「笑うんじゃねーですよ。ずびっ・・・ボクは深刻に切羽詰まってるのですよ。ぐすっ」
「いや、悪い・・・でもさ、ホントにそんなに嫌なのかい?」
「嫌に決まってぐしゅっ・・・だって」
「で、でも、幻は・・・貴也のこと、そんなに、嫌じゃないように、見える・・・俺には」
 やっとという体で言葉を紡ぎ出したギルベルトを、幻がじとーっと睨む。
「ひ!ご、ごめん・・・」
「ギルを怖がらせないでくれよ。俺もそう思うよ」
 嫌いだったら一緒に住んだりしないだろ?と震えるギルベルトを抱きしめつつ風夜。
 それは正論ではあるのだが・・・
「まほろー!」
 ミント色のワンピースに白いベレーを合わせた少女が、大声と共に店に飛び込んできた。
「ノイ・・・ぐしゅっ」
「あのね、貴也がうちに来たの」
 無理強いして悪かったって。柳と飛縁魔も、ちょっとははんせーしてるって。
 聞きながら幻は鼻水がまた出てきたのでぢーんと鼻をかみ、
 物を食べてるところでとアーサーが辟易した表情で幻を見やる。
 風夜が肘で幻をつついた。
「愛されてるじゃないか?」
「うるせーのですよこのやろー」
「いいじゃないか。嫌いじゃないなら」
 花粉症治したいから。今はそれでいいじゃないか。
「・・・幻ってさー、もしかしてキスしたことないの?」
 だからもっとロマンチックなのがいーのと聞かれて内心大いに慌てたが
「秘密なのですよー」
 と誤魔化しておいた。もっとも、風夜はによによと笑っていたので、彼に通用したかは定かではないが。

「ずびっ、くしゅっ」
 帰ってきてからもひっきりなしに鼻をかみ、くしゃみを連発する幻と文庫本に
 交互に視線をやっては、何事かを言いあぐねて口を閉ざす貴也。
 そしてそんな貴也の隣に腰掛け、横目でちらちら様子を伺う幻。

(ホントにそんなに嫌なのかい?)
(幻は・・・貴也のこと、そんなに、嫌じゃないように、見える・・・俺には)
(だからもっとロマンチックなのがいーの?)
 皆の言葉が次々に胸中に蘇る。
 ボクはこいつが・・・
 どうなんだろう。
 風夜の言うとおり、嫌いではない。
 でも、「嫌いじゃない」と「好き」はきっと、たぶん違う・・・

(花粉症治したいから。今はそれでいいじゃないか)

「そーですね・・・『今は』それでいーんですね」
「?どしたの?新宮さん」
 貴也が幻を振り返った瞬間。
 本日2度目の一輪挿しが、貴也の側頭部を直撃した。
「いって・・・っ!!」
 その一言を残して気絶した貴也をそっと覗き込めばゆっくり重なり合う互いの顔。

 ぎゅっときつく目を閉じて、唇に、柔らかく触れる感触。

「起きろなのですよー」
「・・・!ちょっ、新宮さん!」
「モニターのお役目終了なのですよ。ご苦労さんなのですよ」
 腰に手を当て言い募る幻の涙と鼻水は既に綺麗に止まり、くしゃみももうする様子すら見せない。
「え・・・いつの間に!?ちょっと待って!」
 もう一回試させてと叫ぶ貴也にふざけんなとばかりに蹴りが入り、本日3度目の気絶と相成った。

 同じ頃、学校町内のо(オウ)-No.本拠地。
「るりさん、なんであっちの方を渡したのー」
 そう呟く蘇芳が手にしているのは「ヨーグルトを食べると花粉症が治る」の仮契約書。
「あのふたりにあれ渡したら、揉めるの見えてるけどなー」
「あら、だって兄上」
 苺の柄のティーカップにカモミールティーを注ぎながら、るりが意味ありげに笑う。

「今日は『キスの日』なんですってよ」



END

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