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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-12

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ゲーム王国編 第五話
【私亡確認】

 初めて至村さんと出会ってから一ヶ月。
 戦い方を教えてやると言われ師事していた時から約三週間。
 至村さんは今日も公園に来なかった。

「何かあったのかな」
「だろうな」
「アメにも何があったかわからないの?」
「てめえと一緒に行動してる俺にわかるわけねえだろうが」
「匂いとか」
「匂いでわかんならてめえもわかるはずだ、契約者」

 この三週間で『人面犬』との関係も若干変わり、『人面犬』にはアメという名前をつけた。
 最初は永六輔のような声をしていたからロクスケと呼ぼうとしたんだがめっちゃ怒られた。
 じゃあ浅田飴だと言うと呆れたような口調でアメでいいとのこと。だから『人面犬』のフルネームは浅田アメだ。
 その代わりというか何というか、アメもこちらを契約者と呼ぶようになった。
 信頼の表れと取っていいものかどうか。

「で、今日はどうする気だ?」
「別にいつも通りかな。後一時間くらい待って来ないようなら帰ろう」
「帰りに都市伝説と遭わなきゃいいけどな」
「怖いこと言うなよ……」

 ちなみに、あれから都市伝説と三回ほど戦っている。
 最初が『口裂け女』で、次が『トイレの花子さん』、昨日が『首無しライダー』だ。
 都市伝説相手の戦い、というか喧嘩すらしたことがないもんだから怖くて怖くて仕方がない。

 昨日なんておしっこチビるかと思った。……いや、思っただけであって実際に漏らしたりはしてないよホントに。いやいやマジでマジで。思わぬことが起きたらビックリするのは当たり前のことじゃん? いきなり首が無い人見たら驚くに決まってるじゃない。人じゃなかったんだけどさ。あくまで比喩的な表現でチビると言っただけであって、実際は足が震える程度だよ。そうそう、めっちゃ足が震えただけ。決して漏らしたりなんかしてないッスよ。確かに悲鳴を上げて逃げ出そうとした情けない自分を認めるけどさ、漏らすわけなんかないじゃない、嫌だなあ。それでもなんとかかんとか撃退できたんだからそのくらいどってことないよ、うんうん。ほとんどアメが戦ったことも認めるよ、遠くから石投げつける程度しかできなかったしね。それとおしっこ漏らすとは話が違うんじゃないかなあと思うわけよ。戦いの役に立ってないこととおしっこ漏らすことはイコールで結んじゃあダメなんだよ。役立たずが皆、おしっこ漏らすわけじゃないでしょ? そういうことを言いたいわけ。わかる?

「てめえは少し自衛のために戦いに慣れとくべきなんだよ」
「うーん、別に逃げれば死なないからいいんじゃない?」

◆  □  ◆  □  ◆

「死んだよ」
「そうか」

 西区にある小さな喫茶店――江良井と錨野のふたりは奥の席に座っていた。
 利発そうな少年が運んできたコーヒーを一口飲み、一息吐く。

「きみが原因なのは言うまでもないとは思うけど」
「ああ」
「あの日〈組織〉との戦いを終えた僕らがきみらの戦いを止めることが出来たのは本当に偶然だった」
「ああ」
「あの時点ですでに重傷。両手両足はもとより臓器に至っては全滅――この一ヶ月、僕らに出来たのは痛みと苦しみを取り除くだけだった」
「安らかに逝けたのか?」
「多分、きっと」

 一月前、〈組織〉との戦闘が終わってすぐに、高城が自らの能力である『アメリカ村』が強制的に解除されたのを知った。
 おっとり刀で駆けつけた彼らが見たものは血塗れになって横たわる新居と、顔色ひとつ変えずに立つ江良井。
 高城が咄嗟に『アメリカ村』を発動させて〈ゲーム王国〉の面々を異界に匿った。
 都市伝説とはいえ、イリアスも左半身をやられている。
〈組織〉の黒服をひとり屠った後の黒服の撤退までは錨野の描いた絵の通りに進んだものの、江良井の復活と参入は予想外であった。
 病院へ運ばれた新居の状態は言うまでもない。

「病院に無茶を言ってまだ霊安室にいる。生前からの希望は遺体はその辺に捨てといてくれと言われていたが、法律上は流石にそうはいかない。本人の希望通り、火葬のみで結構。遺骨はぼくらが連れて行く。そこで江良井くん。きみが搬送し、きみが火葬場まで連れて行くんだ。それが新居忠を殺した男の義務だ。――嫌だとは絶対に言わせない」

 いつも身に纏う飄々とした空気がない。
 悲しみと怒りと別の感情と。
〈ゲーム王国〉の仲間、新居忠の死は錨野にとってどれだけのものなのか。その心中は本人にしかわからず、錨野は語らない。そして江良井も問おうとしない。

「俺は葬儀屋だ。依頼が入れば動く」
「そうか……いや、そうだったね。きみはいつも――いや、今言うことじゃないか」

 自分のコーヒー代をテーブルに置き、錨野が立ち上がる。

「遺体の引き取りは今から……そうだね、準備もあるだろうから三時間後で結構。それじゃ、また後で」

 それ以上何も言わず、振り返らず錨野は立ち去った。
 葬儀屋という仕事に就いてから何度も見た光景。
 ひとりになった者の背中――しかし、今の錨野は似て非なるものだ。
 彼にはまだ仲間がいる。

 対して江良井は――

◆  □  ◆  □  ◆

「お、元気してたか、バカ息子。一ヶ月も顔見せないから熊に食われたのかと思ったぞ」
「お蔭さんでな」
「お前のことだからどうせまーたロクでもないことに巻き込まれてるとは思ったけどよ、あんまり俺を巻き込むなよ」
「会社から電話がいったそうだな」
「当たり前だろ。従業員が連絡なしで三日も四日も無断欠席なら普通の会社なら心配するだろ」
「で、お前は何と答えたんだバカ親父」
「お尻ピリピリ病にかかりまして、しばらく入院してるんです。面会謝絶と言われてるのでお見舞いは結構です。いつもいつも愚息がご迷惑をおかけしてすみません、だけど?」
「殴られる覚悟は出来たか?」
「おいおい、父親を殴るなんてとんでもない息子だな。大体何日も無断欠勤するお前が悪い。悲しいなあ、父さんはそんな風に育てた覚えはないぞ」
「育てられた覚えもない」
「――で、若返ったのはそのゴタゴタが原因か?」
「そうだ」
「また面倒臭いことしやがって。お前はナイスミドル向けじゃないな。チョイ悪親父はブームを過ぎたかに見せかけて今まさに盛り上がろうとしてるんだぞ? この俺を中心に」
「……もう喋るな」

 疲れたように頭を抱える江良井。
 新居から逃げられた翌日に会社に出向いた江良井が上司から聞いたのは奇病に罹ったせいで出勤できなかったとの言葉であった。
 犯人は言うまでもなく実の父。
 四日ぶりに出社した日から今日まで同僚を含めて妙に温かい眼で見られたのはそのせいだった。
 もっとも、都市伝説絡みで無断欠勤をせざるを得ない場合は過去にも何十回もあり、その都度父親の虚言で免れているのだが。明らかな作り話なのに未だに会社ではバレた様子がないのが不思議である。

「んで、今日は何の用だ?」
「ここ最近この町で何かおかしなことはなかったか?」
「別になーんにも。この町にしてはいつも通りさ。どこかしこで暴れる連中がいたり、表沙汰にできない人死にが出たりは日常茶飯事だ。そう言えばここ最近『山崎渉』の落書きは見ないな」
「そうじゃなく……上手く言えないが、この町がこの町じゃないようなことはないか?」
「言いたいことが良くわからねえな。今のお前が巻き込まれていることがそれか?」
「確信は持てないが」
「何かあれば〈組織〉の連中が動くだろうよ」
「動いていないから問題なんだ」

 江良井と新居が戦った同日、錨野達は〈組織〉と戦っていた。
 早々に撤退して以来、〈組織〉の動きはないと言う。

 錨野達に対する警戒を緩めたか。
 ――否。〈ゲーム王国〉建国を掲げる連中を見逃すほど〈組織〉は甘くない。
〈ゲーム王国〉と〈組織〉の間で何らかの密約が交わされたか。
 ――否。穏健派ならいざ知らず、彼ら過激派は密約など交わしはしない。
 共通の敵を江良井に定めたか。
 ――否。〈ゲーム王国〉は江良井を敵とすればどうなるか知っているし、〈組織〉も第一級監視対象者である江良井に対して敵との認識はしない。
 別の案件を抱えて手一杯の状況か。
 ――否。以前姿を現したA-№102のナンバーから察するに彼が所属しているのは、たとえ〈組織〉全体が動いていても独自の行動が許されている異端のグループである。別の案件で手一杯ということはありえない。

〈ゲーム王国〉を泳がせている最中か。
 そう考えるのが可能性として一番高い。

「どうでもいいけど俺が巻き込まれるのだけは勘弁してくれよ」
「文句はあいつらに言ってくれ」
「ところでよ、今度ニコ生主やろうと思うんだけどどう思う?」
「知るかアホ」

◆  □  ◆  □  ◆

 新居の火葬が終わった後も、〈ゲーム王国〉は動きを見せなかった。
 火葬に立ち会ったのは錨野ただひとり。
 火葬場から立ち上る煙を見上げ、何を思ったのか。
 誰も何も言わず、錨野が口を開いたのは葬儀の金額を払い終えてからだった。

「四十九日が終わり次第、ぼく達はきみの敵となる」
「そうか」
「最初からそうすべきだった。ぼく達の――いや、ぼくの覚悟が足りなかった」

 錨野は語りだす。
 自らの思いを、新居が骨となった今。

「この町における何者にも勝る最善は敵対しないことだと思っていた。この町は怖い。祟り神や笛吹き、寺生まれ、三国時代の猛将、魔法使い、影使いや変身ヒーロー――今では話もあまり聞かないが――最強の主婦もいる。名前を挙げればキリがないが、ぼく達は彼らとは関わらずに水面下で事を進める予定だった。だがそうはいかない。江良井卓――きみがいるからだ。ぼく達……というよりは、ぼくがこの町で何かをする上できみだけは避けて通れない存在なんだ」
「過大評価だ」
「敵にならないのであればそれでよかった。だが、ぼく達のような異分子はこの町で誰かの敵にならなければならない。それがきみなんだよ。そういう風にできているのさ。この町――あえて括弧つきで呼ばせてもらおう――『学校町』の意思によってだ」
「『学校町』の意思とやらに俺が選ばれたとでも言うのか?」
「いや、違う。彼らこそが『学校町』そのものなのさ。皆は違うと言うだろう。だが、この町の害意に対して彼らはどうして戦う? 何かを守るため? 誇りのため? そこに戦いがあるから? 与えられた任務だから? 快楽に浸りたいから? 気に入らないから? どれも違うね。彼らこそが『学校町』だからだよ。彼らが『学校町』だから彼らは戦うのさ」
「……」
「異変に対して素知らぬ態度で何も知らぬ一般人のようにただ過ごしていればいい。次の朝にはいつも通りお日様は東から昇る。きみも知っている通り、この町は国の内外問わず各機関から目をつけられている。放っておけば彼らが終わらせてくれるのにどうして自分達の手で決着をつけるんだい? 『学校町』に住む彼らには戦わないという選択肢があるのにそれを選ばないのはどうしてだい? 一般人は『学校町』に意思はないと言うだろう。本当のところはどうだかなんてぼくにもわからない。だがね、ぼくは思うのさ。『学校町』が彼らを生み出したんじゃないかってね」
「自分を守るためにか?」
「いいや。『学校町』が『学校町』であるためにさ」

 町の意思。
 何かの比喩でそう言う者はいるだろう。
 だが錨野は本気で言っている。
 錨野風に表現するならば『学校町』は己の意思を持っていると。
 俄かには信じられない話だが、ありえないと江良井が一蹴しないのは江良井もまた感じているからなのか。
 信じられぬことが罷り通るこの町なら意思があってもおかしくはないと。

「ハワード・フィリップス・ラブクラフトの名前を聞いたことは?」
「クトゥルー神話なら読んだ」
「彼の綴った物語の中に『ネクロノミコン』と呼ばれる書物がある」
「知っている」
「それはラブクラフトが作り出した空想上の書物さ。どんな巨大な図書館にも置いていない」
「……大英図書館にもな」
「その通り。彼は世間に想像上の本が現実に存在すると思わせることに成功した数少ない者のひとりなのさ。彼の素晴らしさはそれだけじゃない。『アーカム』に向かおうとする者だって現れた。存在しない本や町を求めてだ。彼が綴る物語により、たくさんのモノが現実味を帯びた。そう、まるで――」
「――都市伝説のように、か」
「さて、ここまで言えばぼくの目的もわかってきただろう? 『学校町』はどこにある? 千葉県? 埼玉県? それとも東京? もっと言おう。学校町は通称にしか過ぎない。いつから、誰が呼び始めたのかもわからない。じゃあ、この町の本当の名前は? 今、僕らが立っているこの場所の正確な住所は?」

 今この場に存在するが世界中のどこにも存在しない町――学校町。
 だからこそ錨野は括弧をつけたのか。敬意の証に。

「『学校町』は存在しない町だ。だが、ぼく達がいるこの場所は『学校町』に間違いがない」
「だからお前達は『学校町』を〈ゲーム王国〉に書き換えるのか」
「違うね」

 静かに首を振る錨野。
 己の高揚を隠さず。だが、強く。

「現存しない国を現存させる。存在しないものが存在した時、世界はどうなるのかが知りたい。それだけだ」
「ラブクラフトはシェアワールドという形を取ることにより己の創作物を都市伝説に近づけた。お前のしていることは――」
「――ラブクラフトの一歩先だ」

 無から有を生み出す奇跡は都市伝説で行える。
 それとは限りなく似ているが限りなく異なる奇跡は可能なのか。
 ラブクラフトの一歩先と錨野は口にした。
 彼の眼には学校町がどのように見えているのか。

「そのためにはね、江良井くん。きみはぼくの敵じゃなければダメなんだ。ぼくにとっての『学校町』はきみなんだよ。遅いと笑われてしまうかもしれないが、ようやく覚悟ができた」

 正面から江良井の目を見据え、

「ぼくはきみの敵だ」

 ――敵となる宣言。
 対して、江良井の答えはひどくシンプルなものであった。

「そうか」

 この瞬間、錨野は江良井の敵となり、江良井は錨野を敵と認めた。
 老若男女区別なく、一切の容赦なく。
 総ての敵を殺害する男――江良井卓が錨野蝶助を敵と看做した。
 そして、物語は動き出す。

◆  □  ◆  □  ◆

「なあ。あんた、〈ゲーム王国〉の人間だろ?」

 至村賢が声をかけられたのは陽が落ちるか落ちないかというくらいの夕方。
 彼らの仲間が死に、ひとりで火葬を終えたリーダーの下へと向かう最中のことであった。

「〈組織〉所属の契約者って言えば用件はわかるな?」

 やや恰幅の良い男――年齢は三十代であろうか――は口元にどこか野卑な笑みを浮かべて至村の前方に立っている。

「……用件はわかった」
「そりゃ良かった。場所はここでいいな?」
「かまわない」
「そう固くなるなよ。俺は金堂摩沙彦。能力は――自分で判断してくれ。〈ゲーム王国〉さんよ」

 黒の手袋をはめる金堂。
 その指先からは白い筋のようなものが見える。

「……〈ゲーム王国〉じゃない、俺は至村賢ってんだよ」
「ちなみにあんたの能力は?」
「企業秘密だ」

 前方の金堂へと同じくらいの警戒心を後方にも向ける。
 金堂の武器はほぼ間違いなく手袋に装備された斬鋼線だろう。となると警戒すべき都市伝説は『首なしライダー』か『ピアスの穴から出る白い糸』だ。
 どちらかが囮で油断したところをもうひとつの本命での攻撃に繋がるはずだ。
 微かに聞こえてくるバイクの駆動音は味方か、都市伝説か。

「俺はお前さんだけを倒せばいいのか?」
「あんたらの敵は沢山いるが、あんたの敵は俺ひとりだ。――俺の能力、見当はついたようだが甘く見てるとあっさり死ぬぜ」
「そいつは怖いな」

 ゆっくりゆっくりとふたりの距離が縮まる。
 金堂の射程距離がどれだけのものなのか、至村の射程距離がどれだけのものなのか、どちらも間合を計りつつ近づく。
 至村の間合まであと一歩のところで金堂が動いた。

「いくぜ、至村賢!」
「来い、金ど――え、あ……」
「一丁あがり」

 血も噴かず傷もつかずその場に崩れ落ちたのは至村であった。
 見るまでもなく、その顔は死の色に染まっている。
 あっけなく決着はついたのだ。

「ご苦労様でした」
「これで契約破棄っと」
「契約を続けなくていいのですか?」
「使いどころのない都市伝説だって説明したのはあんただぜ? こうして結果が出ただけ良しとしてもらいたいな」
「まあいいでしょう。十分とは言えませんが『志村けん死亡説』のデータが取れたのは僥倖でした」

 どこからともなく現れた黒服から渡された契約書にサインし、彼が元々契約していた都市伝説との再契約を済ませる。
 このためだけに本来契約していた都市伝説との契約を破棄し、『志村けん死亡説』と契約していたと知れば至村は何を思うだろうか。

〈ゲーム王国〉と戦闘後、〈組織〉がしたことは戦闘時にいた〈ゲーム王国〉の面子の徹底的な調査と監視であった。
 電話の盗聴は元より、彼らが使用した通信の徹底的な監視。
 彼らの能力全てを知ることは出来なかったが、彼らのメンバーは調べ終えた。
 メンバーは全部で六人。うち、江良井が殺した新居を除くと五人。
 その上で立てられた作戦――〈ゲーム王国〉メンバーの殺害。

 金堂摩沙彦を受け持つ黒服、A-№107に割り当てられたのは至村賢の殺害であった。
 A-№107が入手できたのは顔写真と名前、身長、体重――表層的な情報のみであり、何と契約しているのかは全く不明。
 そこで利用したのが使いどころのない都市伝説『志村けん死亡説』である。
 都市伝説の中で使い道のないものは多々存在するが、『死亡説』もそのひとつ。何しろ、使うにあたって相手が同姓同名でなければ意味がない。
 だから己の担当する嘱託契約者、金堂に契約させて拡大解釈により同音異語でも発動可能にした。元から契約している都市伝説を契約破棄させたのは多重契約で金堂が飲まれるのを危惧したためだ。

「俺の仕事は終わりだな?」
「今回の報酬です」
「はいどうも。それじゃ、また何かあったら呼んでくれ」
「どちらへ?」
「風呂だよ風呂、泡風呂」
「そうですか」
「人ひとり殺した金が泡風呂一回分ってのは悲しいなあ。今度からもうちょっとイロつけてくれよ」
「考えておきましょう」

 立ち去った金堂を見送ることもせず、横たわる至村の遺体を少し調べたA-№107もまた現れた時と同じように姿を消した。

 ただ遺された至村を見つけたのは他の誰でもない江良井であった。
 一般人がするのと同じように至村に近づき声をかける。
 とはいえ、至村の顔色を見て事切れていると判断できたのは、数多くの敵を屠ってきたからであり、葬儀屋として数多くの遺体を見てきたからである。
 このまま放置するか否か――この町では人死は珍しくない。
 ただの殺人であれば警察の管轄だが、少しでも都市伝説が絡んでいれば事情は変わる。
 江良井は至村の死因が何に拠るものか見当がつかないでいた。

「人、殺し……?」

 その迷いがあったから――少年と『人面犬』に出遭った。


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