アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-11

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
ゲーム王国編 第四話
【逝存競争】

「さて、今日はこんなところで勘弁してやっか」
「……ありがとうございまし、た……」
「だらしないぞ」
「んなこと言われたって仕方ないだろ。こっちだって逃げるのに必死なんだよ」

 至村さんに都市伝説の説明を受けた翌日は都市伝説の能力の判別方法を教えてもらった。
 その翌日は都市伝説や契約者との戦い方における注意点を。
 さらにその翌日は契約していない非能力者との戦い方を。
 そして今日は――実戦。
 その辺に落ちていた棒切れを手渡され、ひたすら打ち込まれた。
 体中血だらけ痣だらけになったが、至村さんに首筋を叩かれると不思議と痛みも痣も消えた。

「素質も無けりゃも才能も無い。後は鍛錬次第だな」
「どれだけやればいいの?」
「そいつは決まってるだろ、どれだけもこれだけもねえよ。――そうさな、都市伝説と関わらずに過ごしたいなら脚力を鍛えて逃げまくるしかないだろうな」
「そんなあ……そうだ、引きこもるってのは?」
「家の中も危険だけどな。『隙間女』や『ベッドの下の男』、ネットをやってりゃ『赤い部屋』なんてのもいるし。部屋の中で逃げ切れるか?」
「うう……」
「いつも通り生活して危ないのには関わらないってのが上策だろうな」
「逃げる前提の話か」
「あったりまえだろ! 怖いもん! 超怖いもん!」
「都市伝説と都市伝説は惹かれ合うって言ってな。これから先都市伝説に関わらず生活するなんてのは無理な話だぞ」
「マジで?」
「超マジ。『人面犬』、お前さんもここで野良やってたんなら聞いたことくらいあるだろ?」
「ああ。一説によるとこの町が契約している都市伝説って話もあるな」
「ちなみに契約解除して都市伝説の記憶もなくなった人間が再度都市伝説と関わる確率は六割だそうだ。この数字を多いと感じるか少ないと感じるかはお前さん次第だ」
「それは信用できる話なの?」
「さあな、うちのリーダーが言ってた」
「リーダー? そう言えば〈ゲーム王国〉とやらを造ると前に言っていたな」
「俺らのリーダーさ。昔〈組織〉とやりあったらしくてな。その時に聞いた話らしい」
「……〈組織〉とやりあっただと?」

 至村さんの言葉に『人面犬』が眉を顰める。
 見た目おっさんなのに犬って良く考えればシュールだよなあ。
 いつの間にか慣れてしまった自分にもビックリだ。
 今でこそ慣れたけど、都市伝説が実在して知らないところで戦ってるって話は眉唾もんだ。もしかしたら同じ工業高校の奴の中にも契約者がいたりして。……流石にそんなことになってたら契約者のバーゲーンセールになっちゃうか。
 でもなあ、都市伝説がこんなにメジャーだったとは知らなかった。もしかして妖怪とかも都市伝説の括りに入ってんじゃないの? んなわけないよなあ……いや待て、そう言えば前に『人面犬』がそれっぽい話しをしていたような。
 つーか、『人面犬』と契約してまだ六日目だってのにいつの間にか馴染んじゃってるのはどうなんだろう。

「ちょうど良く北海道に転勤になったから〈組織〉の眼を逃れたって聞いたな」
「そいつは運のいい話だな。連中に一度目をつけられたら逃げることはまず難しい」
「〈組織〉と何かあったのか?」
「……昔、少しな」

 どうでもいいことを考えていると話は進んでしまっていたらしい。
 なんだかシリアスな雰囲気を醸し出してる『人面犬』を意外そうに見る至村さん。
 至村さんも謎が多いけどそれ以上に『人面犬』も謎が多い。
 謎というか存在自体が不思議世界の住人だけど。

「おい」
「ん?」
「前にてめえを襲った黒服――〈組織〉には関わるなよ」

◆  □  ◆  □  ◆

「いつかは関わるとは思ってたけどこんなに早くなるとはね」
「戯けたことを」

 A-№103が飛ばす苦無を避けながら錨野が笑う。
 雨霰の如く彼らに降りかかる苦無の数、およそ五十。
 錨野同様に高城も避け、残りのふたりはその場から動かない。

「――イリアス」
「出番だよ、シルビア!」

 嘉藤の背後から現れた鋼鉄の剣を握る優男が、いつの間にか中元の隣に立っていた妙齢の美女が、飛んできた苦無を全て弾き落とす。

「こやつらは敵か?」
「ああ。ぶっ殺してかまわねえぜ、イリアス」
「楽しませてもらおう。いつぞやの黒服のようにすぐに死んでくれるなよ?」
「どうせ『NINJA』あたりだろうが、そんなことはどうでもいい。遠慮も容赦もしなくていいと言われてるんだ。その通りやらせてもらうぜ」

 イリアスと呼ばれた男がA-№103へと白刃を振り下ろした瞬間、四人の黒服の中で一番大柄なA-№102が間に割って入る。
 白刃を防いだのは成人男性の身長ほどもある大太刀。

「我の剣を防ぐか」
「太郎太刀に防げぬものは無い」

 イリアスの鋼鉄の剣を防いだA-№102が笑う。
 大太刀の長さをものともせずに振り払い、イリアスとの距離を取る。
 その隙にすでにA-№103は後方へと退避を終えている。

「太郎太刀……? 真柄直澄、いや、真柄直隆か?」
「ほお、私を知る者がいるとはな」
「同一人物説か!」
「如何にも。『真柄直隆・真柄直澄同一人物説』。私は真柄直隆でもあり真柄直澄でもある。――さて、イリアスとやら、貴殿はどんな都市伝説だ?」

 イリアスから視線を逸らさずにA-№102――朝倉義景が家臣、たったひとりの真柄兄弟は口元に笑みを浮かべる。
 袈裟懸けに襲いかかる巨大な太刀の軌道を力任せに剣で逸らし、口から吐き出すは灼熱の炎。
 炎に包まれんとするA-№102を救ったのは突如巻き起こった一陣の風。
 A-№104の起こした風はA-№102を救うのみならず、鋭利な風の刃となりシルビアと中元を襲う。
 シルビアは動じる様子無く、緩慢な動きで上下に開いた両の掌底を風の刃に当て、くるりと時計回りに一回転。
 たったそれだけの動きなのに風の刃は霧散した。
 中国拳法がひとつ、太極拳の動きである。
 中元はその様子を横目で見つつ、忍者刀を持つA-№103に向かう。
 逆にシルビアに見向きもせずに走り出したのは嘉藤だ。
 狙いはひとつ――動く様子のないA-№109。

「イリアス、武器を貸せ!」

 嘉藤の言葉に呼応するかのように嘉藤の足元から赤い刀身の剣が出現した。
 走る勢いを殺さず剣を引き抜き、A-№109へと殺到する。
 A-№109も落ち着いた様子で懐から玩具のような銃――黒服の標準装備のひとつである光線銃を取り出し乱射する。
 右へ左へ避け、一閃。
 A-№109の体は両断される――はずであった。

「大体わかりました」

 傷ひとつないそのままの姿で静かに告げるA-№109。

「イリアスとシルビアどちらもゲーム系の都市伝説です」
「ゲーム系?」

 イリアスの乱撃を大太刀ひとつで振り切ったA-№102が問う。

「一度本部に戻りデータベースで照合する必要がありますが恐らくはガセネタとして扱われていた都市伝説です」
「江良井卓と同種か」

 江良井卓の契約している都市伝説『×ターン以内に斃せばエスタークが仲間になる』はゲーム発売後に子供達の間で広まったガセネタである。
 能力はその名前通り、エスタークの召喚。
 江良井卓との同種。――ゲームのキャラであるイリアスとシルビアの召喚。

「ネタが割れてもどうでもいい」
「バレたからって困ることじゃないしね」

 A-№109の指摘に驚く様子も見せず、嘉藤と中元が並ぶ。
 その横には契約した都市伝説のイリアスとシルビア。

「俺の契約都市伝説は『ドラクエ8のラスボスは主人公の兄イリアス』」
「こっちは『スパルタンXを24周クリアするとシルビアが襲ってくる』って都市伝説さ」
「能力はイリアスの召喚とシルビアの召喚。それがバレたからといって何ら不都合は無い」

 どちらも能力ありきの都市伝説ならば己の契約する都市伝説が割れてしまうと戦闘が不利になるだろう。
 だが、どちらの能力もゲームキャラの召喚。
 江良井の能力と同じく、戦闘に不利はない。

「そっちは『同一人物説』と『NINJA』がふたり。君は『ラプラスの魔』や『アカシックレコード』ではなさそうだけど検索や知覚に特化した都市伝説っぽいね」
「否」

 A-№104の体が闇の中に消える。
 同時にA-№103が流水のような動きで中元に迫る。

「遅い!」

 A-№104の姿が消失した辺りより左側に剣を突き立てるイリアス。
 どこからか聞こえてきた鈍い金属音は剣を防いだ音だろう。

「闇に属する我に闇の攻撃が通じると思うな」
「中国四千年の歴史に流れ水くらいじゃあ勝てると思わないでほしいな」

 同じく、左手で忍者刀を防いだ中元。
 愉快そうに、子供のように錨野が笑う。

「〈ゲーム王国〉が建国したら王国内に〈日光江戸村〉を造ろう。どうだい、君達も〈組織〉なんか辞めて僕らの仲間にならないか?」

 そうすることが当たり前のことのように、勧誘の手を差し伸べる。
 嘉藤も、高城も、中元もこの勧誘に手を握り返した。
 ある時は喧騒賑わう喫茶店で。
 ある時は誰もいない夜道で。
 またある時は血に塗れた一室で。
 手を握り返さなかったのは江良井卓――ただひとりだけ。

 不思議な男だとA-№102は考える。
 彼は元人間ではなく都市伝説そのものだ。
 彼らA-№100からA-№110までは、A-№100を頭とし、独自に動いている集団だ。
 その誰もが元人間ではなく都市伝説そのもの。

『真柄直隆・真柄直澄同一人物説』であるA-№102はもとより、A-№103は『忍者服部半蔵』、A-№104は『忍者猿飛佐助』。
 それぞれ元は別のナンバーに所属していたがA-№100が引き抜いてきた。
 だからといって忠誠心がないかと言われると答えは否である。
 彼らがA-№100に引き抜かれた最大の理由、それはA-№0への絶対の忠誠にある。
 まだ誰も顔を見たことがないと言われる〈組織〉のトップであるA-№0――全てはA-№0のために。

 総ての都市伝説を〈組織〉の管理下に。
 総ての契約者を〈組織〉の力に。
 総てを〈組織〉に。

 全てはA-№0のためだけに。

 非人道的な人体実験も人道的な支援も〈組織〉のために行なう。
 A-№0の考えではなく、A-№0のために尽くす。それが全て。

 無私。

 A-№0のためなら彼らは何も持たない。
 主義も主張も時間も空間も。己の姓名も他の生命も。
 もしも彼らを分類するなら過激派よりも狂信派と呼ぶに相応しい。

 その彼らに対し、仲間になれなどという勧誘。
 今まで敵対してきた者達の中にも勧誘してきた者はいた。
 命乞いのひとつとして、断わられるであろうことを予想しての勧誘だった。
 だが、眼前に立つこの男は。
 本気で言っている。
 仲間にならないかと。

 だが――A-№102の答えはひとつ。
 今までの誰にも返した答えを。

「否」

 この一言を口にする。

「そうか……残念だよ」

 首を振りながら溜息を吐くと、彼らを見据える。
 先刻までの愉快そうな笑みは無い。その眼はどこまでも冷酷に、残酷に。

「みんな」

 一言一言を静かに。

「彼らを」

 告げる。

「殺せ」

 イリアスの右手に業火の塊が浮かぶ。

「メラ――ガイアー!」

 A-№102へと振り下ろすと同時に立ち昇る狂炎の柱。
 先刻と同じくA-№104から起こる突風を防いだのはシルビアの回す両の掌。
 突風はきれいな太極図を描き、掻き消えた。
 A-№103の手から放たれた苦無をイオで回避し、そのままA-№103へと殺到。
 身を躱すべく足に力を入れた瞬間、中元の拳が膝をありえぬ方向へと折る。
 そのまま左腕を絡め取り、横へ。
 体制を崩したA-№103の右手を槍を手にした嘉藤が貫き、地面に縫いつける。

「まずは一殺」

 バイキルトで強化されたイリアスの豪腕がA-№103の身体を――喰らう。

「次はどいつだ?」

 地面から引き抜いた槍をそのままA-№103の額に突き刺して動かぬことを確認した嘉藤がA-№102を睨む。
 睨まれた当人は眉ひとつ動かさずにまだ手にしていた光線銃を構えて撃ちだす。

「次はてめえか――!」

 嘉藤が動くよりも走り出したA-№102。
 巨大な刀を二刀――太郎太刀と次郎太刀。
 重量をものともせず二刀を構え、そのままイリアスへと斬りかかる。
 一刀は防いだが、もう一刀はイリアスの肩を割った。

「グッ……」

 思わずイリアスが落とした剣を拾い上げたのは中元。苦し紛れに吐いたイリアスの炎をその剣に纏わせて逆袈裟に一閃。
 闇の中から現れたA-№104がその身に棒手裏剣を連射する。
 棒手裏剣を受けて威力を失った燃える剣は難なく弾かれ、飛び込んでいったシルビアの行く手を防ぐべく太郎太刀が迫る。
 分身の術により嘉藤も行く手を遮られるも、イリアスは左肩を押さえてどうにか距離を取る。

「〈ゲーム王国〉建国者のあなたは動かないのですか?」
「んー、きみが動かないからね。きみ達も聞いての通り、高城くんは今回大事な任務があるから動けない。彼らはあの三人を相手してるし、もしきみが動いたらきみの相手をするのはこの僕ってワケさ」
「あなたが動かないのなら好都合です」
「そんなことよりいいの? きみのお仲間は殺られちゃったよ」
「そうですね」

 顔色ひとつ変えず、A-№109はA-№102に呼びかける。
 撤退です――と。

「ここいらが潮時か。――退くぞ」
「御意」
「逃げられると思ってるのかよ!」
「無論」

 懐から取り出したのは記憶消去装置。
 一般人相手にならばその名の通り記憶を消す。
 都市伝説、契約者相手には意味をなさないそれを躊躇わず作動。

 赤光は目眩ましとなり、彼ら〈ゲーム王国〉の面々の網膜を焼く。
 視力が戻ってきた彼らが見たものは地面に突き刺さる苦無と棒手裏剣。そして戦闘の跡を色濃く残す血溜りであった。

「うーん、実に鮮やかな撤退だね」

◆  □  ◆  □  ◆

 戦闘が行なわれていたのと同刻。
〈ゲーム王国〉建国のメンバーである新居忠は公園にいた。
 場所は四日前に高城が江良井と黒服を閉じ込めた場所である。
 彼が戦闘に参加しなかった理由――幽閉した異界出入口の監視。

 一度能力が発動してしまえば高城には『アメリカ村』で何が起きているかを知ることはできない。せいぜいが出入口が開いたか閉じたかがわかる程度だ。
 自らの意思で出入口の開閉は可能だが、開けた場合に江良井が生きていたら出てくる可能性がある。
 高城は現実世界の一日が『アメリカ村』内で三年過ぎるように設定した。
 幽閉されてから四日。単純に十二年の時を江良井は過ごしていることになる。
 都市伝説も封じられ、十二年の月日を異界で過ごせるとは思えないが、万が一ということもある。
 江良井卓と相対した者ならば感じる不安――生きて戻るという可能性を完全に否定できない。

 とはいえ、すでに四日。
 見えぬ異界に何ら変化はない。
 ――所詮は杞憂に過ぎないか。
 異変が起きたのはそう考えた時である。

 空気が――震えた。

 どこからか聞こえる何かを叩く音。
 頬を振動する空気が叩く。

「まずい!」

 そう叫ぶと同時――宙が割れた。

 紙を破いたような亀裂。
 この世界と異界との裂け目。

「ここは……あの公園か?」

 江良井卓が十二年の時を越え、四日振りに学校町の地を踏みしめた。

「ど……どうやって……」

 信じられぬものを見た眼で新井が震える。

「あそこに行った時に初めて見たポケモンがホウオウで助かった」
「どういう……」
「『アメリカ村』か『アジア村』か知らんが、あれはレアなポケモンが出てくるという都市伝説――ガセネタだ。ホウオウが飛び立つのを見た俺は、ここなら空間を破る力を持つポケモンがいると踏んだ。お前の年齢ならポケモンは子供のゲームとしか認識していないだろうな。パルキアと呼ばれるポケモンの名を聞いたことはないか? そいつが持つわざ、あくうせつだん――亜空切断。空間を切り裂く技だ。異空間を斬り裂くくらいは容易なことだろう?」
「だが、そう簡単に……」
「時間はかかったがな。見つけてしまえば後は捕らえるだけ。理には適っているはずだ」

 あるモンスターが老教授のメガネケースの中に入り込んだことから、衰弱時に縮小して狭いところに隠れるという本能が発見された。そこから試行錯誤の上製作されたのがモンスターボール。また、地方によってはぼんぐりという木の実で捕獲していたこともあり、ぼんぐりをボールに加工する職人も存在する――というのがゲームの設定である。

 ゲームの中に入り込んだ江良井は、ゲームの設定に則ってモンスターと徒手空拳で戦い、捕らえることに成功した。
 そこから先は異界を切り裂くモンスターを探すだけである。
 江良井にとって幸いだったのが高城の都市伝説が子供達の間で伝えられた通りだったことだ。
 レアなモンスターが出てくる――子供達の間では何匹までという制限は無い。
 伝説と呼ばれるゲーム上では一体しか手に入らないレアなモンスター。それらが一体ではなく数体存在していた。
 パルキア以外の伝説クラスのモンスターとも数え切れないほど遭遇している。
 正式なモンスターボールを有していない江良井は自生している木の実を加工し、簡易的なボールを作成。数え切れないほどの失敗を繰り返した上、ようやく目的のモンスターの捕獲に成功した。

「捕獲後に行なったことは空間の境界がどこかを見極めることだった。あの世界は延々と広い空間のように見せかけているだけで、ある一点でループしている。もっとも、気がつけたのは偶然だがな」
「だからといって……そんなことできるはずがない!」
「時間は無限にあった。戦うための力を得ることすらもな」
「……力を得る?」
「あれはポケモン同士を戦わせて経験値を得て強くするゲームでもある。何も捕らえるだけがゲームの楽しみだけじゃないということだ。次から次に出てくる仕様のせいで実戦には事欠かなかった。お蔭様で多種多様の敵への攻略法も編み出すことができた」

 十二年であり、四日間の時は江良井を強くするための時間となった。
 逆境を糧に。
 言葉にするのは簡単だが生半可な精神力でできることではない。

「説明はこれで終わりだ。次は俺が質問させてもらおうか。見たところ俺が閉じ込められてからそう時間は経っていないようだが、今は何年の何月何日だ?」
「……今は平成二十三年の――」

 問いに答える新居だが、ふと違和感を抱いた。
 江良井が過ごした時は年数にして十二年。四日前、彼は三十代だったはずだ。高城の設定通りなら目の前に立つ江良井は少なくとも四十代でなければおかしい。
 それなのに、今いる江良井はどう見ても四十代には見えない。
 それどころか以前一度だけだが見た時よりも若々しく、まるで二十代のような精悍さではないか。

「その若さは一体……?」

 新居は知らない。
 一千年に一度目覚め、三つの願いを叶えるモンスターがいることを。
 高城の空間を破る直前に江良井が叶えてもらった願い――亜空切断に異界を破る力を与えること、今の記憶をそのままに二十年前の肉体に戻すこと、捕らえたモンスター全てを逃がすこと。
 かくして願いは叶えられ、江良井は無事に戻った。
 十二年の記憶と技術をそのままに、江良井が二十代の頃の肉体を取り戻して。

「説明は終わりと言ったはずだ。俺からの最後の質問をさせてもらう――お前は敵か?」

 諦めたような笑みを口元に浮かべ、問いに応えるように新居は静かに構えた。
 江良井への敵対を禁じていた錨野に侘びることはできないだろうとの覚悟を決めて。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー