「キライ、キライ、キライ・・・」
薄青い瞳をぼんやりと彷徨わせ、ただ拒絶の言葉を紡ぐ少女。
「いかん!」
ノイの自我が危うい状態であると悟ったムーンストラックは彼女の肩を揺さぶり反応を見て、おもむろにノイの額に手を当てた。
「ムーンストラック・・・・さん、いったい何を?」
彼は元々、生物の精神に干渉する都市伝説。
力の源泉たる月光を欠いている今は最大に力を振るえるわけではないが、契約者の精神を引き戻す程度の事なら出来るはず。
薄青い瞳をぼんやりと彷徨わせ、ただ拒絶の言葉を紡ぐ少女。
「いかん!」
ノイの自我が危うい状態であると悟ったムーンストラックは彼女の肩を揺さぶり反応を見て、おもむろにノイの額に手を当てた。
「ムーンストラック・・・・さん、いったい何を?」
彼は元々、生物の精神に干渉する都市伝説。
力の源泉たる月光を欠いている今は最大に力を振るえるわけではないが、契約者の精神を引き戻す程度の事なら出来るはず。
(邪魔をするでない・・・)
だがそれを阻むかのように、ひとつの影がノイの背後に現れる。
巨大だが瀟洒な銀の鎌を携えた、黒い襤褸を纏った骸骨。 その眼窩はただ暗く虚ろ、その鎌は精神の弱い者なら見るだけで命を奪われそうに冷たく鋭く輝いていた。
「これが・・・『死神』」
柳は元来神経が鋭い質ではないが、それでも肌が粟立ちぴりぴりする程の生あるものを拒絶する気配に半ば圧倒されてしまう。
こんな幼い少女が、なぜこんな禍々しい都市伝説を。
巨大だが瀟洒な銀の鎌を携えた、黒い襤褸を纏った骸骨。 その眼窩はただ暗く虚ろ、その鎌は精神の弱い者なら見るだけで命を奪われそうに冷たく鋭く輝いていた。
「これが・・・『死神』」
柳は元来神経が鋭い質ではないが、それでも肌が粟立ちぴりぴりする程の生あるものを拒絶する気配に半ば圧倒されてしまう。
こんな幼い少女が、なぜこんな禍々しい都市伝説を。
(人間、そちもだ・・・死に行く定めの者が)
(死を司る我に刃向かうでない)
死神。死を司る“神”柳は心の中で、その名を反芻する。
だったら何をしてもいいのか?命を奪うことが存在意義として、それを幼い子と契約して行う必然性は?
「お前が死神でもなんでもいいけど」
いったん言葉を切って呼吸を整える。
だったら何をしてもいいのか?命を奪うことが存在意義として、それを幼い子と契約して行う必然性は?
「お前が死神でもなんでもいいけど」
いったん言葉を切って呼吸を整える。
「こんな小さな子供に、殺しなんかさせるなっ!!」
肺の中の空気を全て目前の骸骨に叩きつける勢いで、柳は怒鳴った。
(そちの与り知るところではない。)
(“これ”は我が契約者、リリス・マリアツェルが末裔)
(生まれながらに我がもの。死の女神たるを運命づけられし存在)
(生まれながらに我がもの。死の女神たるを運命づけられし存在)
「生まれながらに・・・お前のものだって!?」
「・・・そうだ」
小さなノイを抱えたまま、ムーンストラックが消え入りそうに呟く。
その昔「死神」と契約したリリス・マリアツェルという女がいたという。
彼女は自分の直系の血に連なる女子を捧げる事で契約を強化し、自らが「生ける死の女神」となった。
生まれながらに死神に捧げられた子供。それがノイ・リリス・マリアツェルの、契約者としての存在意義。
「・・・だからノイちゃんは、『死神』と契約しなくちゃならないって?」
顔も知らない先祖の為にしたくもない契約をし
死の意味も知らずに“命を奪う”という行為のために心身を―自らの“器”を捧げなければならない?
「それがこの子の運命だと!?ふざけるなっ!!」
「やなぎ・・・?」
「ノイ・リリス!?」
「ノイちゃん!・・・気が付いた?」
意識は戻ったものの、依然茫洋と青い瞳を彷徨わせるノイの顔を二人が覗き込むが、反応はあまり芳しくない。
「これで・・・いいのかな・・・?」
「お魚も、とりさんも、やすらかにしたよ・・・あたし、いいけいやくしゃ・・・?」
『・・・!!』
二人の見たところ、ノイは死神の操り人形として“飲まれ掛けて”いる。
このまま本人が自我を取り戻さねば行き着く末は明白だった。
「やめなさい、ノイ・リリス。お前がしているのは・・・悪いことだ」
ぎゅっとムーンストラックがノイを抱きしめた。呼び掛ける声がどうしても震えてしまう。
「ノイちゃん」
もう見えていないかも知れないと思いつつ、柳はノイの青い瞳を見つめた。
「あの子たちも、やすらかにしなく、ちゃ・・・」
「ノイちゃん」
きゅっと、力の入らないちいさな手を握りしめて続ける。
「死神の言うことを聞けば、いい契約者になれるかも知れない。でも」
「そうしたら、ノイちゃんは独りぼっちになってしまうんだ」
「生き物を安らかにするっていうのは、死なせることなんだ。
理由もないのに、ただ死神が言うからって、生き物を死なせては駄目なんだ」
変化があった。
青い瞳が僅かに震え、暖かく透き通るものが、柳の手を濡らす。
「ひとりは、いや・・・」
「ひとりは、いや。あそんでくれた犬さんも、お庭の鳥さんもみんないなくなっちゃったの。
さみしいの。だれかもとにもどして・・・ひとりぼっちは、いや・・・!」
ぱたぱたと滴が落ちる。水滴の反射だけでなく、瞳がはっきりと、元の光を取り戻しつつあった。
ノイの手が柳の手を強く握り返す。
「ノイ・リリス!」
「ノイちゃん・・・!」
「・・・そうだ」
小さなノイを抱えたまま、ムーンストラックが消え入りそうに呟く。
その昔「死神」と契約したリリス・マリアツェルという女がいたという。
彼女は自分の直系の血に連なる女子を捧げる事で契約を強化し、自らが「生ける死の女神」となった。
生まれながらに死神に捧げられた子供。それがノイ・リリス・マリアツェルの、契約者としての存在意義。
「・・・だからノイちゃんは、『死神』と契約しなくちゃならないって?」
顔も知らない先祖の為にしたくもない契約をし
死の意味も知らずに“命を奪う”という行為のために心身を―自らの“器”を捧げなければならない?
「それがこの子の運命だと!?ふざけるなっ!!」
「やなぎ・・・?」
「ノイ・リリス!?」
「ノイちゃん!・・・気が付いた?」
意識は戻ったものの、依然茫洋と青い瞳を彷徨わせるノイの顔を二人が覗き込むが、反応はあまり芳しくない。
「これで・・・いいのかな・・・?」
「お魚も、とりさんも、やすらかにしたよ・・・あたし、いいけいやくしゃ・・・?」
『・・・!!』
二人の見たところ、ノイは死神の操り人形として“飲まれ掛けて”いる。
このまま本人が自我を取り戻さねば行き着く末は明白だった。
「やめなさい、ノイ・リリス。お前がしているのは・・・悪いことだ」
ぎゅっとムーンストラックがノイを抱きしめた。呼び掛ける声がどうしても震えてしまう。
「ノイちゃん」
もう見えていないかも知れないと思いつつ、柳はノイの青い瞳を見つめた。
「あの子たちも、やすらかにしなく、ちゃ・・・」
「ノイちゃん」
きゅっと、力の入らないちいさな手を握りしめて続ける。
「死神の言うことを聞けば、いい契約者になれるかも知れない。でも」
「そうしたら、ノイちゃんは独りぼっちになってしまうんだ」
「生き物を安らかにするっていうのは、死なせることなんだ。
理由もないのに、ただ死神が言うからって、生き物を死なせては駄目なんだ」
変化があった。
青い瞳が僅かに震え、暖かく透き通るものが、柳の手を濡らす。
「ひとりは、いや・・・」
「ひとりは、いや。あそんでくれた犬さんも、お庭の鳥さんもみんないなくなっちゃったの。
さみしいの。だれかもとにもどして・・・ひとりぼっちは、いや・・・!」
ぱたぱたと滴が落ちる。水滴の反射だけでなく、瞳がはっきりと、元の光を取り戻しつつあった。
ノイの手が柳の手を強く握り返す。
「ノイ・リリス!」
「ノイちゃん・・・!」
(余計な真似をしおって・・・!)
ふたりの頭上に、黒い影が落ちた。