万聖節の前日、ハロウィン。
この日はあの世とこの世を繋ぐ門が開き、両方の世界で自由な行き来が出来るという―
そう。魑魅魍魎の跋扈する日。
この日はあの世とこの世を繋ぐ門が開き、両方の世界で自由な行き来が出来るという―
そう。魑魅魍魎の跋扈する日。
「あー!落っこちちゃったぁ」
「お前、馬鹿だな。一度に削りすぎなんだ」
「ハロウィンのゲームってぇのも、なかなか楽しいわねぇ」
新田家ではきゃあきゃあと明るい声が弾けていた。
ノイは魔女のとんがり帽子に胸元にリボンを飾ったワンピースの上からマントを羽織り、
柳はカボチャ宜しくオレンジの着ぐるみに、カボチャのヘタを模した緑の帽子を被っていた。
飛縁魔は服装こそTシャツジーンズのままだが、付け牙を付けていて、にやりと笑うとさながら吸血鬼、という各人思い思いの仮装姿。
「極くんも、なにか仮装すれば良かったのに」
「いえ、僕はそこまでは・・・」
ノイと小麦粉の山の上の硬貨を落とす「小麦粉切り」に興じていた極は、柳の風体に苦笑いしながら答えた。
「あれ、幻は?」
「呼ばれてもないのに押し掛けておいて、いなくなるとは失礼な奴だな」
リジーがむっと斧に手を掛けるのを、極が待てと制した。
「トイレかも知れない、少し待ってみよう」
「あたし、他のお部屋見てくる!」
ノイが襖を開けると、
「俺は外を見てきます」
と、幻に無理矢理全身に血塗れ(塗料)の包帯を巻かれ、ここまで連れてこられた貴也が後に続いた。
「お前、馬鹿だな。一度に削りすぎなんだ」
「ハロウィンのゲームってぇのも、なかなか楽しいわねぇ」
新田家ではきゃあきゃあと明るい声が弾けていた。
ノイは魔女のとんがり帽子に胸元にリボンを飾ったワンピースの上からマントを羽織り、
柳はカボチャ宜しくオレンジの着ぐるみに、カボチャのヘタを模した緑の帽子を被っていた。
飛縁魔は服装こそTシャツジーンズのままだが、付け牙を付けていて、にやりと笑うとさながら吸血鬼、という各人思い思いの仮装姿。
「極くんも、なにか仮装すれば良かったのに」
「いえ、僕はそこまでは・・・」
ノイと小麦粉の山の上の硬貨を落とす「小麦粉切り」に興じていた極は、柳の風体に苦笑いしながら答えた。
「あれ、幻は?」
「呼ばれてもないのに押し掛けておいて、いなくなるとは失礼な奴だな」
リジーがむっと斧に手を掛けるのを、極が待てと制した。
「トイレかも知れない、少し待ってみよう」
「あたし、他のお部屋見てくる!」
ノイが襖を開けると、
「俺は外を見てきます」
と、幻に無理矢理全身に血塗れ(塗料)の包帯を巻かれ、ここまで連れてこられた貴也が後に続いた。
(幻・・・)
(幻・・・どうしてあんなことを)
「うるせーですよ!」
ピンクの髪をツインテールに束ね、赤い薔薇をあしらった黒いヴェールで飾った頭を振る。
子どもが嫌々をするように激しく頭を振る度、黒い編み上げのワンピースに重なる白いアンダードレスの裾と、レースのふんわり広がった姫袖が揺れた。
「声」は彼女の心にのみ響き、彼女にしか見えない白い腕を伸ばして彼女を打つ。
(幻・・・育ててやった恩も忘れて)
(あなたがわけのわからない子だから、普通にしようと思っただけなのに)
白い手の数は増える。まだまだ増える。
(新宮さん、あたしたち、別に虐めたつもりなんかなかったのに)
(新宮さんが変な子だったから、勝手に虐めだと思いこんで)
(あんな酷いことを)
彼女の過去が、葬った両親と級友の魂が、幻を責め苛んだ。
白い手は勢いを増して幻を小突き回す。
「大人しくあの世に帰れなのですよ!」
「アルキメデスの鏡」の能力で焼き払おうとしても、効果がない。
「これなら・・・」
次に幻が向けた能力は、
「鏡は魔を跳ね返す」
幽霊だろうが他の都市伝説だろうが、人でない、「魔」の存在である限り、これが通じないはずはない・・・が。
(無駄だよ・・・幻)
手の勢いが減じることはなく、とうとう彼女の喉頸にも手が伸びる。
「がっ、げほっ・・・」
(お前が悪い子だから)
(お前が私たちを殺したから)
(あなたが私たちと同じようにしなかったから)
(あなたがいけなかったのに)
(お前のせいだ)
(お前のせいだ)
もう息ができない。視界が闇と手の生白さに隠されていく。
ああ、その通りかも知れない。
自分さえ「普通の」女の子に生まれていれば。
家族からも愛されて、友達も沢山いて。
ああ、でも、そんな「たられば」すら考えるのもバカバカしい。
自分は自分なのだ。今更他のものになんか―
(幻・・・どうしてあんなことを)
「うるせーですよ!」
ピンクの髪をツインテールに束ね、赤い薔薇をあしらった黒いヴェールで飾った頭を振る。
子どもが嫌々をするように激しく頭を振る度、黒い編み上げのワンピースに重なる白いアンダードレスの裾と、レースのふんわり広がった姫袖が揺れた。
「声」は彼女の心にのみ響き、彼女にしか見えない白い腕を伸ばして彼女を打つ。
(幻・・・育ててやった恩も忘れて)
(あなたがわけのわからない子だから、普通にしようと思っただけなのに)
白い手の数は増える。まだまだ増える。
(新宮さん、あたしたち、別に虐めたつもりなんかなかったのに)
(新宮さんが変な子だったから、勝手に虐めだと思いこんで)
(あんな酷いことを)
彼女の過去が、葬った両親と級友の魂が、幻を責め苛んだ。
白い手は勢いを増して幻を小突き回す。
「大人しくあの世に帰れなのですよ!」
「アルキメデスの鏡」の能力で焼き払おうとしても、効果がない。
「これなら・・・」
次に幻が向けた能力は、
「鏡は魔を跳ね返す」
幽霊だろうが他の都市伝説だろうが、人でない、「魔」の存在である限り、これが通じないはずはない・・・が。
(無駄だよ・・・幻)
手の勢いが減じることはなく、とうとう彼女の喉頸にも手が伸びる。
「がっ、げほっ・・・」
(お前が悪い子だから)
(お前が私たちを殺したから)
(あなたが私たちと同じようにしなかったから)
(あなたがいけなかったのに)
(お前のせいだ)
(お前のせいだ)
もう息ができない。視界が闇と手の生白さに隠されていく。
ああ、その通りかも知れない。
自分さえ「普通の」女の子に生まれていれば。
家族からも愛されて、友達も沢山いて。
ああ、でも、そんな「たられば」すら考えるのもバカバカしい。
自分は自分なのだ。今更他のものになんか―
「―幻!」
声と共に、視界が開けた。喉が開き、新鮮な空気が肺に流れ込む。
「ごほっ、ごほっ」
手の戒めから解放されて、その場に膝を付いた。
「なーんだ、失敗しちゃった」
「あなた、だれ!?」
ノイの誰何に、新田家の生け垣にふわりと佇んだ少年がくすりと笑う。
「え、俺はただの『死霊』の契約者だよ?ハロウィンで死霊が使いやすくなってるから、ちょっと遊んでやっただけさ」
「ウソだもん!」
「何!?」
「幻のお父さんとお母さんが、幻をイジメるはずがないもん!」
「ノイ」
「幻!大丈夫?」
「ボクの親なら、それくらいやりかねませんよ。でも、てめーのそれは、『死霊』じゃねーですね」
もし「死霊」が都市伝説本体なら、「鏡は魔を跳ね返す」で撃退できないとは思えない。よほど強力なものでない限り。
「―つまり、てめーの使う『死霊』には“都市伝説”としての実体がない。つまりは、幻。違うですか?」
「ふん・・・違わない。俺の都市伝説は『蜃気楼』チャラけた馬鹿女だと思って、遊んでやったのに。それと、なぜお前の過去を知ってるかは企業秘密な」
悪く思うなよ!と一声残して少年は生け垣の向こうに飛び降りる。
「あっ!待って!」
ノイの叫びも空しく、足音と共に気配は遠ざかる。
「ノイ・・・」
「幻!だいじょーぶ?」
「ボクは、大丈夫なのですよ」
ノイに抱え起こされて、いささか無理矢理に笑顔を作った幻は、ややよろめきながらも部屋へ足を向けた。
ノイの心配げな表情には、あえて気づかない振りをして。
声と共に、視界が開けた。喉が開き、新鮮な空気が肺に流れ込む。
「ごほっ、ごほっ」
手の戒めから解放されて、その場に膝を付いた。
「なーんだ、失敗しちゃった」
「あなた、だれ!?」
ノイの誰何に、新田家の生け垣にふわりと佇んだ少年がくすりと笑う。
「え、俺はただの『死霊』の契約者だよ?ハロウィンで死霊が使いやすくなってるから、ちょっと遊んでやっただけさ」
「ウソだもん!」
「何!?」
「幻のお父さんとお母さんが、幻をイジメるはずがないもん!」
「ノイ」
「幻!大丈夫?」
「ボクの親なら、それくらいやりかねませんよ。でも、てめーのそれは、『死霊』じゃねーですね」
もし「死霊」が都市伝説本体なら、「鏡は魔を跳ね返す」で撃退できないとは思えない。よほど強力なものでない限り。
「―つまり、てめーの使う『死霊』には“都市伝説”としての実体がない。つまりは、幻。違うですか?」
「ふん・・・違わない。俺の都市伝説は『蜃気楼』チャラけた馬鹿女だと思って、遊んでやったのに。それと、なぜお前の過去を知ってるかは企業秘密な」
悪く思うなよ!と一声残して少年は生け垣の向こうに飛び降りる。
「あっ!待って!」
ノイの叫びも空しく、足音と共に気配は遠ざかる。
「ノイ・・・」
「幻!だいじょーぶ?」
「ボクは、大丈夫なのですよ」
ノイに抱え起こされて、いささか無理矢理に笑顔を作った幻は、ややよろめきながらも部屋へ足を向けた。
ノイの心配げな表情には、あえて気づかない振りをして。
「いやっほー!私の一人勝ちね!」
「火の中の干しブドウ取るなんて、普通の人は熱くて出来ないよ!」
「あのー、そろそろ・・・」
「UNOとかトランプとか、普通のパーティゲームしませんか?」
ハロウィン独特のゲームに興じる柳と飛縁魔に極と貴也がカードを押しつける。
「ただいまなのですよー」
「新宮さん、どこ行ってたの」
貴也はいささか呆れ顔でカードを手渡すと、
「顔色、悪いよ」
耳打ちをされた幻は、苦笑いをして首を振る。
「次、幻ちゃんの番だよー」
柳の声に、慌ててカードを幾枚か置いた。
「・・・パスだ」
リジーの恨めしそうな眼差しに一同はどっと笑い、パーティの和やかな夜は更けていった。
「火の中の干しブドウ取るなんて、普通の人は熱くて出来ないよ!」
「あのー、そろそろ・・・」
「UNOとかトランプとか、普通のパーティゲームしませんか?」
ハロウィン独特のゲームに興じる柳と飛縁魔に極と貴也がカードを押しつける。
「ただいまなのですよー」
「新宮さん、どこ行ってたの」
貴也はいささか呆れ顔でカードを手渡すと、
「顔色、悪いよ」
耳打ちをされた幻は、苦笑いをして首を振る。
「次、幻ちゃんの番だよー」
柳の声に、慌ててカードを幾枚か置いた。
「・・・パスだ」
リジーの恨めしそうな眼差しに一同はどっと笑い、パーティの和やかな夜は更けていった。
「ねえ・・・ノイ」
「ん・・・何かな?」
「昔、ボクもそうだったから言うですよ」
「幸せを勝ち取ることは、不幸に耐えることより勇気がいる。
だから、大切なものを見つけたら、それを絶対手放さない。
守り抜く。たとえ他の大きなものを失うことになろうと・・・
―いーですね、ノイ?大事なものは、闘わなくちゃ、守れねーですよ?」
しばらくノイは真剣な表情で幻の言葉を反芻していた。
「・・・うん」
「今は、意味が分からなくても、将来も分からなくても―ごめんなのです、ボクが言いたかっただけなのです」
「うん・・・ねえ、幻」
「なんですか?」
「あたしね、幻が好きだよ」
「あたしと友達になりたいって言ってくれた幻が好き」
「幻の友達だから、貴也も好き。あたしのした事を知って、それでも迎えてくれたイタルが好き」
「ムーンストラックも、飛縁魔も、リジーも好き。もちろん柳は、この世でいちばん好き」
「みんなが、あたしの大切なものなの。だからあたし、今より強くなって、みんなの事、絶対守るからね」
ありがとう、としか言えないのが口惜しいくらい嬉しくて。
「ありがとう・・・ボクも、ノイの事頑張って守るですよ」
ああ、この賑やかな友達さえいたなら。
(あいつら―“死霊”も、別に本物でも、また受けて立ってやってもいいのですよ)
そんなハロウィンの、夜
「ん・・・何かな?」
「昔、ボクもそうだったから言うですよ」
「幸せを勝ち取ることは、不幸に耐えることより勇気がいる。
だから、大切なものを見つけたら、それを絶対手放さない。
守り抜く。たとえ他の大きなものを失うことになろうと・・・
―いーですね、ノイ?大事なものは、闘わなくちゃ、守れねーですよ?」
しばらくノイは真剣な表情で幻の言葉を反芻していた。
「・・・うん」
「今は、意味が分からなくても、将来も分からなくても―ごめんなのです、ボクが言いたかっただけなのです」
「うん・・・ねえ、幻」
「なんですか?」
「あたしね、幻が好きだよ」
「あたしと友達になりたいって言ってくれた幻が好き」
「幻の友達だから、貴也も好き。あたしのした事を知って、それでも迎えてくれたイタルが好き」
「ムーンストラックも、飛縁魔も、リジーも好き。もちろん柳は、この世でいちばん好き」
「みんなが、あたしの大切なものなの。だからあたし、今より強くなって、みんなの事、絶対守るからね」
ありがとう、としか言えないのが口惜しいくらい嬉しくて。
「ありがとう・・・ボクも、ノイの事頑張って守るですよ」
ああ、この賑やかな友達さえいたなら。
(あいつら―“死霊”も、別に本物でも、また受けて立ってやってもいいのですよ)
そんなハロウィンの、夜
END