ある日の学校町。
ひとりの青年が、日頃の人柄には似合わないうきうきした足取りで家路を急いでいた。
彼の名は嶋貴也。見た目からはどこといって面白味のあるようには見えない青年だが、実際そうだ。
ほぼ着たきりに近いライダースやグローブも、それより遙かに濃いキャラ付けを持つ学校町住人の間では異彩を放つものではないし、言動は至って普通人。
けれど彼は、そんな普通人な自分に至って満足している。
「あ、貴也だー!」
親しげに声を掛けてきたのは彼の同居人新宮幻の友達、ノイ・リリス・マリアツェル。とその保護者であるムーンストラック、自称婚約者の浅倉柳。
あまり集団行動を好まない幻がなぜ、ノイに近づいたか彼には解らない。至って善良な性格が彼女を安心させたのか、それとも他に理由があるのか。
「貴也なんだかゴキゲンだね。どうしたの?」
こんなチビッ子にも気取られる程浮かれていたのかといささかげんなりしたが、
「急ぐのでまた今度」
とやり過ごそうとすると、誰かに袖を掴まれた。
「『それ』都市伝説?面白そうなモノ持ってるじゃない」
「飛縁魔さん」
この人も、悪い人じゃないんだけどな。心中密かにため息をつく貴也。
面倒見がいいのか単に物見高いのか、しょっちゅう自分と幻の仲を聞いてくる。
普段は提供すべきネタなど無いのだが、今日という日がよくなかった。都市伝説には都市伝説の存在が判る。
貴也は観念して抱えた荷物の正体を明かした。
「…『イモリの黒焼き』ですよ」
「イモリの黒焼き」惚れ薬として名高いそれは、飛縁魔に負けず劣らず物見高いο(オウ) -No.3、桐生院るりに押しつけられた物だった。
モニターなどと云えば聞こえは良いが実際は無給のモルモット、
しかもゴシップ好きのるりの茶飲み話まで提供しなければならないとあっては、断ってやりたいのは山々だが・・・
「惚れ薬」の三文字についよろめいてしまった自分が情けない。
「イモリって、あのトカゲみたいなのー!?」
うぇーマズそう、と苦い薬でも飲まされたような顔をしたノイに、飛縁魔が効能を説明すると
「わかった!それ幻に飲ませるんだ!」
一瞬でぱっと目が輝きだした。
(どいつもこいつも・・・)
「ねーねー、それ飲んだら、幻が貴也のことスキになっちゃうの?」
こちらも好奇心満々の様子を見て、女性はたとえ子どもでもこうした話が好きなのだなあと呆れを通り越していささか感心した。
「・・・それじゃ」
これ以上ここにいたらるりだけでなく新田家でまでお茶の間の格好のネタだと判断した貴也は早々に立ち去るべく踵を返した。
否、返そうとした。
ひとりの青年が、日頃の人柄には似合わないうきうきした足取りで家路を急いでいた。
彼の名は嶋貴也。見た目からはどこといって面白味のあるようには見えない青年だが、実際そうだ。
ほぼ着たきりに近いライダースやグローブも、それより遙かに濃いキャラ付けを持つ学校町住人の間では異彩を放つものではないし、言動は至って普通人。
けれど彼は、そんな普通人な自分に至って満足している。
「あ、貴也だー!」
親しげに声を掛けてきたのは彼の同居人新宮幻の友達、ノイ・リリス・マリアツェル。とその保護者であるムーンストラック、自称婚約者の浅倉柳。
あまり集団行動を好まない幻がなぜ、ノイに近づいたか彼には解らない。至って善良な性格が彼女を安心させたのか、それとも他に理由があるのか。
「貴也なんだかゴキゲンだね。どうしたの?」
こんなチビッ子にも気取られる程浮かれていたのかといささかげんなりしたが、
「急ぐのでまた今度」
とやり過ごそうとすると、誰かに袖を掴まれた。
「『それ』都市伝説?面白そうなモノ持ってるじゃない」
「飛縁魔さん」
この人も、悪い人じゃないんだけどな。心中密かにため息をつく貴也。
面倒見がいいのか単に物見高いのか、しょっちゅう自分と幻の仲を聞いてくる。
普段は提供すべきネタなど無いのだが、今日という日がよくなかった。都市伝説には都市伝説の存在が判る。
貴也は観念して抱えた荷物の正体を明かした。
「…『イモリの黒焼き』ですよ」
「イモリの黒焼き」惚れ薬として名高いそれは、飛縁魔に負けず劣らず物見高いο(オウ) -No.3、桐生院るりに押しつけられた物だった。
モニターなどと云えば聞こえは良いが実際は無給のモルモット、
しかもゴシップ好きのるりの茶飲み話まで提供しなければならないとあっては、断ってやりたいのは山々だが・・・
「惚れ薬」の三文字についよろめいてしまった自分が情けない。
「イモリって、あのトカゲみたいなのー!?」
うぇーマズそう、と苦い薬でも飲まされたような顔をしたノイに、飛縁魔が効能を説明すると
「わかった!それ幻に飲ませるんだ!」
一瞬でぱっと目が輝きだした。
(どいつもこいつも・・・)
「ねーねー、それ飲んだら、幻が貴也のことスキになっちゃうの?」
こちらも好奇心満々の様子を見て、女性はたとえ子どもでもこうした話が好きなのだなあと呆れを通り越していささか感心した。
「・・・それじゃ」
これ以上ここにいたらるりだけでなく新田家でまでお茶の間の格好のネタだと判断した貴也は早々に立ち去るべく踵を返した。
否、返そうとした。
「・・・で、なんで俺、新田さんちでお菓子作りの準備してるんですか」
「まあまあ、手伝ってやるって言ってんのよ」
「幻が貴也のことスキになっちゃう瞬間、見たーい!」
「・・・・・・」
「で、どーやってソレ、飲ませるのよ?」
正面から頼んでも恐らく、いや絶対無理だろう。
偏食の幻は、お菓子はよく食べてもまとまった食事はしたがらない。
(昔はよく、給食残して立たされてたっけ)
そんなわけで、食事に混ぜても彼女が口にする可能性は薄い。とすればお菓子を手作りし、それに薬を仕込むしかない。
ふるった小麦粉にココアパウダーを混ぜ、溶かしたバターと砂糖を合わせてさっくり混ぜる。冷蔵庫でしばらく生地を寝かせ、形を整えて焼けばココアクッキーの完成だ。
黒焼きは確実に幻の口に入るように、一枚分だけ生地を分け、それに粉にした黒焼きを混ぜて、判りやすいように他のクッキーとは形を違えて焼く。
「わ、ハート型、かわいー!」
「あんた、お菓子作りも上手いんじゃないの」
ちなみに新田家の住人はと言えば、極は学校、リジーは台所が使えない間に買い物に行き、ムーンストラックが荷物持ちとして連行されていった。
それ以外の面子はお菓子作りを見守るだけの簡単なお仕事。
「いー匂いだねー」
一枚ちょーだい、と袋から一枚ひょいっとクッキーを取ったノイを後目に、貴也は新田家を辞した。
「まあまあ、手伝ってやるって言ってんのよ」
「幻が貴也のことスキになっちゃう瞬間、見たーい!」
「・・・・・・」
「で、どーやってソレ、飲ませるのよ?」
正面から頼んでも恐らく、いや絶対無理だろう。
偏食の幻は、お菓子はよく食べてもまとまった食事はしたがらない。
(昔はよく、給食残して立たされてたっけ)
そんなわけで、食事に混ぜても彼女が口にする可能性は薄い。とすればお菓子を手作りし、それに薬を仕込むしかない。
ふるった小麦粉にココアパウダーを混ぜ、溶かしたバターと砂糖を合わせてさっくり混ぜる。冷蔵庫でしばらく生地を寝かせ、形を整えて焼けばココアクッキーの完成だ。
黒焼きは確実に幻の口に入るように、一枚分だけ生地を分け、それに粉にした黒焼きを混ぜて、判りやすいように他のクッキーとは形を違えて焼く。
「わ、ハート型、かわいー!」
「あんた、お菓子作りも上手いんじゃないの」
ちなみに新田家の住人はと言えば、極は学校、リジーは台所が使えない間に買い物に行き、ムーンストラックが荷物持ちとして連行されていった。
それ以外の面子はお菓子作りを見守るだけの簡単なお仕事。
「いー匂いだねー」
一枚ちょーだい、と袋から一枚ひょいっとクッキーを取ったノイを後目に、貴也は新田家を辞した。
「おかえりなのですよー」
マンションに帰ると、いつもの声が出迎えてくれる。ただし声だけ。
本体はリビングでDVDでも見ているのだろう。原宿系の妙ちきりんな衣装が話題のアイドルの声が聞こえてくる。
「新宮さん」
「んー」
「クッキー食べない?」
その言葉に初めて振り返った幻が、クッキーの包みを見て怪訝な表情になる。
「それ・・・手作りなのですか?」
「うん」
「なんで外から手作りクッキー持って帰って来やがるんです」
しまった。せめて既製品っぽく装うべきだったか。
「あ・・・い、頂き物・・・」
「ほんとー、なのですか」
今なら「照心鏡」は勘弁してやるですよ、ホントの事を言えですよと責められてポーカーフェイスを保てるほど図太い彼ではない。
どのみち幻が「照心鏡」を使えば、考えは読みとられてしまうのだ。
「・・・ごめんなさい、俺が焼きました」
それ以上は怪しまなかったのか、何でわざわざ外でクッキー焼くんですか、お料理教室か何かですかとぶつぶつ云いながら袋に手を突っ込み―取り出したのはハートのクッキー。
(やった、大当たり!)
そのまま幻が口に運ぶのを固唾を呑んで見守る。
が。
「なにじろじろ見てるですか」
「あ!いや・・・美味しいかなって」
幻はしばしば、じーっと貴也を見つめ。
「なんか怪しいのですよ。やっぱりいらねーですよ」
そこで一旦引き下がればいいものを、
「なっ!困るよ!」
ついついムキになってしまったものだから、幻はますます怪しんだらしい。
「なんでボクがクッキー食べないと困るのですか」
いつもは食事前にお菓子食べるなって言うですよねー。
そう言って取り出した、小さな手鏡。
「照心鏡」で心を覗かれると悟った貴也は、咄嗟にクッキーの袋を抱えて部屋を飛び出した。
マンションに帰ると、いつもの声が出迎えてくれる。ただし声だけ。
本体はリビングでDVDでも見ているのだろう。原宿系の妙ちきりんな衣装が話題のアイドルの声が聞こえてくる。
「新宮さん」
「んー」
「クッキー食べない?」
その言葉に初めて振り返った幻が、クッキーの包みを見て怪訝な表情になる。
「それ・・・手作りなのですか?」
「うん」
「なんで外から手作りクッキー持って帰って来やがるんです」
しまった。せめて既製品っぽく装うべきだったか。
「あ・・・い、頂き物・・・」
「ほんとー、なのですか」
今なら「照心鏡」は勘弁してやるですよ、ホントの事を言えですよと責められてポーカーフェイスを保てるほど図太い彼ではない。
どのみち幻が「照心鏡」を使えば、考えは読みとられてしまうのだ。
「・・・ごめんなさい、俺が焼きました」
それ以上は怪しまなかったのか、何でわざわざ外でクッキー焼くんですか、お料理教室か何かですかとぶつぶつ云いながら袋に手を突っ込み―取り出したのはハートのクッキー。
(やった、大当たり!)
そのまま幻が口に運ぶのを固唾を呑んで見守る。
が。
「なにじろじろ見てるですか」
「あ!いや・・・美味しいかなって」
幻はしばしば、じーっと貴也を見つめ。
「なんか怪しいのですよ。やっぱりいらねーですよ」
そこで一旦引き下がればいいものを、
「なっ!困るよ!」
ついついムキになってしまったものだから、幻はますます怪しんだらしい。
「なんでボクがクッキー食べないと困るのですか」
いつもは食事前にお菓子食べるなって言うですよねー。
そう言って取り出した、小さな手鏡。
「照心鏡」で心を覗かれると悟った貴也は、咄嗟にクッキーの袋を抱えて部屋を飛び出した。
「・・・ここまで来れば、大丈夫かな」
それにしても何をやっているんだろう。クッキーを食べさせるつもりが、そのクッキーを抱えて食べさせるべき相手から逃げ回っている。
「あれっ?」
「貴也さんじゃん、どーしたんすか?」
行き合ったのは「組織」o-Noに所属する敷島響、桜の兄妹だった。
「No.3から聞きましたよー?首尾はどうですか?」
桜がなんともいえないによによ笑いを浮かべてすすっ、とすり寄る姿は先程までのノイや飛縁魔の姿を彷彿とさせて貴也は目眩がしてきた。
「オンナってそーゆー話、ホント好きだな。惚れ薬とかおまじないとか」
「惚れ薬」の現物に釣られた自分はなんなんだろうなと貴也はいささかモニターを引き受けた自分に疑問を感じつつ。
ともかく経緯を話すと、響は協力を申し出てくれた。
「食べる・・・?」
桜はなにやらぶつぶつ言いながら首を傾げていた、そのとき。
「ここにいたですか!」
「に、新宮さん」
「お!飛んで火に入る夏の虫たぁこのことだな!」
響はざっ、と日傘を構え、とっさにクッキーの袋を隠した貴也を何をやってんすかと叱咤した。
「それですよ!その怪しいクッキーの正体を言えですよ!」
「食べたら教えてやるよ!」
片手に日傘、片手にクッキーを手に響が突進する。幻は直線的な攻撃をひょいっと交わし、手鏡を取り出した。
「鏡に映んなきゃいーんだろ!?」
響は日傘に隠れながら慎重に幻との距離を測って近寄ろうとする。
貴也はといえばふたりの攻防をただ呆然と見守り、桜はといえば端末で誰かと通信していた。
「え!やっぱりそうですか・・・はい、ええ」
やがて。
「笑わせんなですよー!!」
幻の喚き声と響の悲鳴とともに、袋が破けてクッキーが宙を舞う。
「これかっ!」
驚異的な反射神経というべきか。響は落下するハートのクッキーを、地面に叩きつけられる寸前でキャッチした。
「あとは食わせるだけだぁ!」
「誰が食べるかですよ!」
だが、喋るために口を開けたのが運の尽き。
「そこだあっ!」
「むぐぐっっ!」
響の雄叫びと共に幻の口にクッキーが押し込まれる。
「やった!喰わせたぜ!」
響はガッツポーズと共に快哉を叫び、貴也は慌てて幻に駆け寄る。
「うう・・・」
「新宮さん、大丈夫?」
返事は一発の左ストレートだった。利き手なだけに力が入って余計痛い。
「このとーりなのですよ!何か文句あるですか?」
「なー、なんか変な感じとかしねーの?・・・その、動悸とか、心境の変化とかは?」
食べさせた手前もあってか、響もいささか緊張気味に尋ねる。
問われた当の本人はけろりと
「なんともねーですよ?」
「あ、あれ・・・?」
「変っすねぇ・・・?」
ふたりが首を傾げていると
「貴也さん、違う!」
通信が終わったらしい桜が三人の間に割って入る。
「あのね、『イモリの黒焼き』って・・・食べたり飲んだりする物ではないらしいんです」
『え!』
「イモリの黒焼き?・・・イモリ・・・?」
三人が三人それぞれの驚きの表情でフリーズした。それこそまるで時間が凍り付いたかのように。
「本来あれは、粉にしてターゲットにふりかけるものだったらしい、です」
No.3、取説渡したって言ってましたけど・・・とおそるおそる貴也をのぞき込む桜。
(取説・・・?そういえばクッキーを作る前に、黒焼きの入った箱から何か紙切れが落ちたっけ)
今まで自分のした苦労は何だったんだと貴也はがっくりうなだれた。
「嶋くん・・・?イモリってどーゆー事ですか?」
ふと見ると、誰にもはっきり分かるような怒りのオーラを纏わせた幻が居て・・・ その後は、惨劇。
それにしても何をやっているんだろう。クッキーを食べさせるつもりが、そのクッキーを抱えて食べさせるべき相手から逃げ回っている。
「あれっ?」
「貴也さんじゃん、どーしたんすか?」
行き合ったのは「組織」o-Noに所属する敷島響、桜の兄妹だった。
「No.3から聞きましたよー?首尾はどうですか?」
桜がなんともいえないによによ笑いを浮かべてすすっ、とすり寄る姿は先程までのノイや飛縁魔の姿を彷彿とさせて貴也は目眩がしてきた。
「オンナってそーゆー話、ホント好きだな。惚れ薬とかおまじないとか」
「惚れ薬」の現物に釣られた自分はなんなんだろうなと貴也はいささかモニターを引き受けた自分に疑問を感じつつ。
ともかく経緯を話すと、響は協力を申し出てくれた。
「食べる・・・?」
桜はなにやらぶつぶつ言いながら首を傾げていた、そのとき。
「ここにいたですか!」
「に、新宮さん」
「お!飛んで火に入る夏の虫たぁこのことだな!」
響はざっ、と日傘を構え、とっさにクッキーの袋を隠した貴也を何をやってんすかと叱咤した。
「それですよ!その怪しいクッキーの正体を言えですよ!」
「食べたら教えてやるよ!」
片手に日傘、片手にクッキーを手に響が突進する。幻は直線的な攻撃をひょいっと交わし、手鏡を取り出した。
「鏡に映んなきゃいーんだろ!?」
響は日傘に隠れながら慎重に幻との距離を測って近寄ろうとする。
貴也はといえばふたりの攻防をただ呆然と見守り、桜はといえば端末で誰かと通信していた。
「え!やっぱりそうですか・・・はい、ええ」
やがて。
「笑わせんなですよー!!」
幻の喚き声と響の悲鳴とともに、袋が破けてクッキーが宙を舞う。
「これかっ!」
驚異的な反射神経というべきか。響は落下するハートのクッキーを、地面に叩きつけられる寸前でキャッチした。
「あとは食わせるだけだぁ!」
「誰が食べるかですよ!」
だが、喋るために口を開けたのが運の尽き。
「そこだあっ!」
「むぐぐっっ!」
響の雄叫びと共に幻の口にクッキーが押し込まれる。
「やった!喰わせたぜ!」
響はガッツポーズと共に快哉を叫び、貴也は慌てて幻に駆け寄る。
「うう・・・」
「新宮さん、大丈夫?」
返事は一発の左ストレートだった。利き手なだけに力が入って余計痛い。
「このとーりなのですよ!何か文句あるですか?」
「なー、なんか変な感じとかしねーの?・・・その、動悸とか、心境の変化とかは?」
食べさせた手前もあってか、響もいささか緊張気味に尋ねる。
問われた当の本人はけろりと
「なんともねーですよ?」
「あ、あれ・・・?」
「変っすねぇ・・・?」
ふたりが首を傾げていると
「貴也さん、違う!」
通信が終わったらしい桜が三人の間に割って入る。
「あのね、『イモリの黒焼き』って・・・食べたり飲んだりする物ではないらしいんです」
『え!』
「イモリの黒焼き?・・・イモリ・・・?」
三人が三人それぞれの驚きの表情でフリーズした。それこそまるで時間が凍り付いたかのように。
「本来あれは、粉にしてターゲットにふりかけるものだったらしい、です」
No.3、取説渡したって言ってましたけど・・・とおそるおそる貴也をのぞき込む桜。
(取説・・・?そういえばクッキーを作る前に、黒焼きの入った箱から何か紙切れが落ちたっけ)
今まで自分のした苦労は何だったんだと貴也はがっくりうなだれた。
「嶋くん・・・?イモリってどーゆー事ですか?」
ふと見ると、誰にもはっきり分かるような怒りのオーラを纏わせた幻が居て・・・ その後は、惨劇。
ちなみに、幻は後遺症か、しばらくの間ココアのクッキーを食べることが出来なかったとか。
「ねーねー幻、貴也のこと、スキになった?」
「ならねーですよ!」
「ねーねー幻、貴也のこと、スキになった?」
「ならねーですよ!」
END