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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代編-02

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elfriede

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Next Generation 02


 手入れもされず曇った窓ガラスから、中の様子を窺う菊花
 六人の男達のうち、二人が百華の見張りとして残り、残りの四人も二人一組で外からは死角になる位置から出入り口を監視している

「うーん、ツーマンセルは厄介だなぁ……どうしたものかな」

 採光用の窓ははめ殺しで開けられず、百華がいる部屋の窓は侵入するには見張り達に近過ぎる
 どうにか入れるところを探そうと、出入り口から死角になっている裏手の窓の前に降りて翼を畳み、ブラウスに袖を通しながらそっと中を覗き込み

「……やばっ」

 丁度、窓に視線を向けていた男と目が合った
 慌てて頭を引っ込めるものの、直後に携帯電話が着信を告げる振動を起こす
 マナーモードにこそしていたものの、人気の無い場所ではその振動すら音として響いてしまう

《菊花、今どんな感じなん? 今、現地っぽいとこ着いたんやけど》
「ごめん、見付かっちゃった。とりあえず隠れるから一旦電話切るね」

 そう言って通話を切った、その瞬間
 それまで完全に電話に気を取られていた菊花の首筋に、何か冷たいものが触れ

「ぴ、ふぐっ!?」

 その全身を、スタンガンの電流が貫いた

―――

「子供か。ここを遊び場にでもしていたか?」
「事前の下調べではそんな様子は無かったんだがな」

 二人の男が、倒れぐったりとした少女を見下ろしながら囁き合う

「一人が二人に増えようが別に問題無いがな。クライアントは引き取ってはくれないだろう?」
「別口に売るなり殺して捨てるなり、いくらでも始末はつけられる。とりあえず逃げられないようにしておけ」
「そうだな」

 動かない菊花の細腕を掴み、手を後ろに組ませて左右の親指をプラスチックの結束バンドで手早く拘束する

「先に攫ったガキとは別の部屋に放り込んでおけ。流石にガキでも結託させると何をするかわからんからな」
「そうだな……それにしても」

 男の一人が気絶した菊花の髪を掻き上げ、その顔を食い入るように見詰める

「まだガキだが、随分と……なあ?」
「まあ……ただ処分するには、勿体無いな」

 男達の手が
 その幼い肢体に触れ

―――

「良い夢見れてるかな、このロリコンどもめ」

 虚ろな顔でぼんやりと座り込んだ二人の男の頭部から手を離し、ふふんと鼻で笑う菊花
 彼女は淫らな性の夢を操る夢魔の血族
 実際の経験こそまだ無いものの、相手の欲望を増幅させ夢に引き摺り込む程度は朝飯前である

「それにしても……いたた……不意打ちとはいえスタンガンの直撃は痛かった。まだ身体がぴりぴりする」

 男達が持っていたスタンガンは、普通なら一瞬で身体が硬直し意識を失う威力だったが、それでも菊花は身体の動きを鈍らせるに留まった
 ただ、手に持っていた携帯電話にも影響があったのか、どんな操作をして全く反応が無い

「うーん、十也くんと真兎さん大丈夫かなぁ」

 夢に引きずり込まれてびくびくと痙攣している二人の男達を見下ろしながら、菊花は不安げに呟いた

―――

 その異様さに気が付いたのは、正面の出入り口を見張っていた男達だった
 廃工場の敷地に悠然と踏み込んでくる、日本人には見えない見目麗しい美少女の姿
 その頭部に、縁日で売られているお面のような雰囲気で斜めに被っていたものは、物々しい雰囲気のガスマスクだった

「待て」

 異様な相手だとは思ったものの、見た目は子供である
 入り口を見張っていた男の一人が、少女――真兎に声を掛けて制止を促す

「ここは子供の来るところじゃない、帰りなさい」

 普通の大人として、普通の対応をして様子を見る
 そんな男の対応を嘲笑うかのように、真兎はけらけらと声を立てて笑う

「なぁに言っとるんや、オッサン。他人様の塒に勝手に入り込んどるんはそっちやろ?」

 するりとガスマスクを下ろして、その美麗な造形を覆い隠し

「ここはウチの縄張りや。そっちこそ、死にとぉなかったら……とっとと去ねぇや」

 マスク越しにくぐもった声が、粘りつくように男を威圧する
 縄張りを主張したのは、相手の出方を窺うためのはったりである

「ガキが……脅しのつもりか?」
「脅しに聞こえたんか? そのガキの言葉が」

 するりと竹刀袋から抜き放たれた、真新しい竹刀
 一瞬、本物の抜き身が出てくるのかと警戒していた男達だが、そのスポーツ用品にすぐさま警戒の色を解く

「アホウが、ド三流」

 その一瞬の警戒の緩み
 それに合わせるように、真兎は身を屈めてあっという間に男に肉薄する
 居合抜刀のような片手での打撃
 切っ先を地面に擦るような剣筋で繰り出された跳ね上げる一撃は、男の片腕で受け止められる
 まともな防具も無しに竹刀での殴打を受けて、肌を裂くような痛みが男の腕を貫く
 が、荒事には慣れているのか、それをものともせずに反対の手に握られたスタンガンが突き出される
 だが、竹刀を受け止められたその体勢の死角から、布状のものが飛び出しスタンガンを持つ手を絡め取る
 それは先端に石か何かを入れた竹刀袋

「ぐっ!?」

 男はとっさにそれを振り解こうとするが、それよりも速く真兎が竹刀袋を踏みつけて、男は腕を引っ張られる形となり前のめりに倒れ込む

「しばらく寝ときや」

 竹刀袋を掴んでいた手の、その袖口
 そこに何か金属製のノズルのようなものが見えたかと思った瞬間、男の視界は真っ白に塗り潰されていた
 それは、袖の中を抜けて腰のボンベにチューブで繋がれたノズル
『マッドガッサー』の血族である彼女もまたガスを使う
 まだ幼いせいもあってか、使えるガスの種類も少なく威力も些細なものだが、血筋と戦闘スタイル次第でそれは強力な武器となる

「この……ガキが、調子に!」

 倒れた男から真兎が離れ、誤射の心配が無くなったと判断したのだろう
 もう一人の男が懐から拳銃を抜き放ち、消音機の取り付けられた銃口を向けてくる

「言う前に撃たんのがド三流ってとこやな。まあ撃たれても避けたるけどな」

 だらりと下げた左手のノズルから、勢い良く噴出したガスがあっという間に周囲の視界を白く染める
 すぐさま真兎が立っていた場所に向けて銃弾が放たれるが、手応えはなくガラスが割れた音だけが響いてきた

「ど……何処だ……!?」

 白いガスに視界を覆われて、慌てふためく男
 だがガスは視界を覆うだけではない
 僅かずつではあるものの、呼吸と共にその内側に侵入し

(ガキは何処に……いや、何処って……何が、だ? 何で俺は、こんなところに)

 数秒前の、数分前の記憶が真っ白く塗り潰されるかのように抜け落ちていく

「ま、長くて一時間ぐらい忘れるぐらいで済むはずやで?」

 ガスを切り裂き顎を打ち抜いた竹刀の一撃
 靄の中に立つガスマスク姿の少女が何者なのか、すっかり忘れてしまったまま
 男はどさりとその場に崩れ落ちていた

―――

「……何が起きている?」
「わからん。警察、じゃあなさそうだが」

 百華の見張りをしていた男達は、不安と苛立ちの募った顔を見合わせて、懐の武器に手を伸ばす

「別の場所へガキを移動させておくべきか?」
「状況が状況だ、仕方ない。ガキを車へ運べ」

 男達がそう言って百華を抱え上げようとした、その時

「助けに行ってあげた方がいいんじゃないかな」

 その声は、耳元で囁くように聞こえてきた

「仕事仲間を放り出して逃げると、色々困る事になるんじゃないかな? 色々と情報を吐かれてもまずいよね?」
「しかし、今はこいつの身柄の方が。引渡しの期限はすぐだし、場所の変更程度なら問題は」
「引渡し? 誰かに頼まれたのかな、この誘拐は」
「それは……」
「何をぶつぶつ喋ってんだ。俺が状況を確認する、お前はすぐにガキを運べ!」

 ぼんやりと受け答えをする男に、もう一人の男の怒声が飛ぶ

「あ、ああ? ああ、すまない」
「何を一人でぶつぶつ喋ってやがる。変な薬でもやってるんじゃないだろうな?」
「いや、今、友達が」
「友達?」

 訳のわからない事を言う仲間に、男は眉をひそめる

「それよりも、見張りをしていた人達がやられちゃったみたいだよ?」

 それまで強い口調で仲間を叱咤していた男の耳元で囁く声

「ほら、もうこっちに来た」

 金属製の階段を駆け上がる音に、男は拳銃を抜いて舌打ちする

「くそっ、何が起きてやがるんだ……」

 足音と共に、辺りにじわじわと白いガスが立ち込めていく
 ほんの数秒の間を置いて、白いガスがぶわりと攪拌され
 何者かが部屋の入り口に現れた瞬間、男は引き金を引いて立て続けに銃弾を叩き込んだ
 ガスで霞む向こう側で、とさりと床に何かがぶつかる音がする

「当たったよ、良かったね」

 耳元で聞こえたそんな囁き声に、安堵と共に緊張感が抜けていく
 それと同時に部屋の中に踏み込んできたガスマスクの少女が、その側頭部を空を裂く勢いで放った竹刀の一撃で殴打する
 脳を揺さ振られ霞み倒れる視界に映ったのは、仲間の男が苦も無くあっさりと打ち倒される姿と
 そして、銃弾で穴の開いた制服のを拾い上げる少女の姿だった

―――

 洗剤を落とされた水面の油のように、さぁっと一瞬で引いていく記憶消去ガスの白い霞

「外の連中は、奴らが持ってた結束ワイヤーで拘束してある。裏でぼんやりしてた連中はあんまり触りたくない様子だったけど」
「……てへ」

 部屋に入ってくる十也と菊花

「気を引いてくれてありがとうな、『ともだち』」
「まあ、今の僕はこれぐらいしかできないんだけどね」

 男達の倒れた傍に何気なく立っていた『ともだち』は、そう言ってするりと十也の傍らへと戻る

「菊花も真兎さんもお疲れ様」

 倒れた男達を見下ろし、十也は溜息を吐く

「手加減、大変だったでしょう? 一般人相手ですから」

 十也の言う一般人とは、社会的に普通の人間という意味ではない
 都市伝説や契約者ではないという意味

「とはいえ、後始末は『組織』の方に頼まないといけないな。警察沙汰にすると色々と面倒過ぎる」

 その言葉を待っていたかのように、部屋の入り口に一人の黒服の女性が現れる

「そう言っていただけると、わざわざ来た甲斐がありました」

 中肉中背、短めの髪、見た目の年齢は二十歳前後
 黒いスーツにサングラスという、典型的な特徴の無い黒服の女である

「お姉さん……所属は?」
「Aナンバーの下っ端です。たまたま近くを巡回中だったんですがね」

 黒服の女は苦笑混じりに、菊花と真兎の顔を見る

「日も落ちる前から、あんまり派手に走ったり飛んだりしてるのを見かけたら、そりゃあ注意しにも来ますよ」
「ま、結果オーライやん。後始末お願いできるんやから」
「いや、私も本来は別の仕事があるんですけどね。居合わせちゃった以上は仕方ないです。犯人っぽいのは表の二人とここの二人で?」
「建物の裏にも二人、拘束されています。多分その六人で全部かと」
「ふむ……それじゃあ後始末はこちらでやっておきます。裏に変な組織が絡んでないとも限りませんしね」
「何か判ったら、DナンバーかHナンバーの方に連絡をお願いできますか?」
「了解しました。何か判りましたらそちらに連絡しておきます。皆さんは早く帰らないと親御さんが心配しますよ?」

 そう言って黒服の女は、携帯電話を取り出す

「上司への連絡もありますので、私はこれで」

 小学生と中学生を相手にぺこりと頭を下げて電話へと向かう黒服の女
 十也は気を失ったままの百華を背負い、軽く頭を下げて部屋を出て行く

「なー、重たない? ウチが運んだろか?」
「いや、いい」
「ふーん、そうかそうか」

 何か微妙に満足げににやつく真兎と、ほんわかとした微笑を浮かべる菊花

「……何だよ」
「いーや、べっつにー?」
「ふふ、何でもないよ?」

―――

 時間はしばし遡り
 携帯電話を手にした『誘拐結社』のリーダーである青年、『交通標識のモデル』は誘拐の依頼に朗らかに応える

「うん、それ無理」
《……理由を聞かせてもらえるか?》
「うち、学校町で仕事できないんだよね。色々と約束があってさぁ、バレたら全滅どころじゃないの」
《バレないのが、あなた達の仕事ぶりなのでは?》
「ははは、それがねぇ?」

 青年は電話をしたまま、ちらりとすぐ脇に視線を向ける
 そこにはシャンパンのグラスを傾けている、『組織』の元Z-No.0であるサロリアス・サジャスの不機嫌そうな顔があった

「なんていうか、タイミングが最悪だったね? まあこのタイミングでなくても受けるつもりは無いけど。じゃ、まあそういう事で」

 相手の返事も聞かずに携帯電話の通話を切る青年

「お前ら、まだそんな仕事してんのか」
「そりゃまあ、そういう集団だしね。それでも社会的に悪い事はそんなにしてないよ? 多分」
「多分かよ」
「まー全部を把握してもいられないからね。それでもさ、やらかしてる自覚があったらこんな席に来ないって」

 元Zナンバー所属の妖怪が集まる宴の席で、青年は苦笑いを浮かべる

「『さとり』を抱えてる相手に嘘ついたって、何の得も無いでしょ? あとはまあ、ね」
「お父さーん、娘の結婚式の二次会なのに、そんなに隅っこで何してるのー?」

 その昔、人間の女性との間に戯れにできてしまった娘
 まともに育っている事も知らなかった『シャボン玉の歌』と契約している少女は今は大学生で
 育ての親として懐いていた男性を、年齢差を押し切ってゴールインに至ったのである

「こういう席で、物騒な仕事を受けるのも難じゃない?」
「随分と父親らしい考えをするようになったもんだな」
「顔を合わせたが最後、お父さんお父さんって呼ばれてれば、なんだかんだでね」

 ちびちびとシャンパンに口をつけながら、青年はぼそりと呟く

「まあアレだよ、子供できたらわかるよ? 君んとこはまだ?」
「まだも何も、結婚すらしてねぇよ」
「え、嘘!? それすらまだ!? 『さとり』の娘ととっくにくっついてるもんだと思ってた!」
「黙れ、蜂の巣にされてぇか」
「銃は置いてきてるのは知ってるよ。ていうかさ、まさか『自分みたいな男が女を幸せにできるわけがない』とか女々しい理由で結婚してないわけじゃないよね?」
「黙れ、半分に折り曲げて反対側に折り曲げ直すぞ」
「……板金加工も結構お金掛かるんだから止めてよね」
「なら黙って娘の門出でも祝ってろ。俺に絡むな」
「はいはい」

―――

「さて、と」

 廃工場に残った黒服の女は、拘束された誘拐犯達を一箇所に集めて一息つく

「プロを雇えないと厳しいですね、やっぱり……攫うまではできても、受け渡しまでの数時間すら持ちませんか」

 ソフトボールほどの大きさの正二十面体を取り出し、その表面を撫で、捻り、押し、回し、かちかちとその形を組み替えていき

「どうやっても、まだここまでしか出来ませんね」

 ことりと床の上に置かれたそれは、熊のような形に組み替えられており
 廃工場の入り口から差し込む夕日に照らされて、大きな影を浮かび上がらせる
 細工はその形を変えないまま、影が無数の手が伸びて絡み合うように膨れ上がったかと思うと、集められた男達の影の上半身を丸呑みにしてしまう
 そして
 男達の身体から、影に呑まれたのと同じ部分が
 腹から上辺りが食い千切られ丸呑みにされたかのように一瞬で消滅していた

「供物はちゃんと平らげて下さいね。血の跡とかが残っては困ります」

 その言葉に呼応するかのように、影はべろんと床を舐めるように蠢き
 そこには血の跡どころか砂埃の塵一つ残らない、磨き上げられたような床だけがあった

「強大な魔力があれば、これの段階を進めて……門を開く事ができる」

 床に置かれていた『それ』は、いつの間にか組み替えられる前の正二十面体に戻っていた
 黒服の女はそれを拾い上げると、丁重に懐に収めて
 重たい溜息を一つ漏らす

「逢瀬百華と、その契約都市伝説。どうしても欲しいのですが……やはり現状では如何ともし難いですね」

 夕日がゆっくりと沈み、夜闇が辺りに這い寄り
 黒服の女の姿は、それに溶け込むように消えていったのだった


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