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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代編-01

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匿名ユーザー

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Next Generation 01


 部屋に響き渡る軽快なメロディ
 最新モデルのスマートフォンを取り出して、青年は朗らかに応える

「はいもしもし、こちら『誘拐結社』でございまーす」

 青年は『交通標識のモデル』という都市伝説
 昔と何一つ変わらぬ姿形でそこに在り続けていた彼は、昔と何一つ変わらぬ組織の一員にしてリーダー的存在であり

《仕事を、依頼したい》

 そう告げてくる通話相手に、軽い口調で問い返す

「ターゲットはどちらさまで?」

 通話相手は無機質な口調でこう告げる

《場所は、学校町。ターゲットの名前は……逢瀬、百華》

―――

 広瀬十也(ひろせ・とおや)、小学校六年生
 学業成績は可も無く不可も無く
 運動神経は人並み
 やや幼さが際立つものの、飄々とした性分のせいか年齢相応に見られてはいる
 社会的に表沙汰にはできない仕事をしている父と、三十路に達したというのに並んで歩くと姉弟と思われる母を持つ、学校町ではさほど珍しくもない家庭環境である

「どうしたの、十也くん。いつもに増して顰めっ面だよ?」

 そう声を掛けてきたのは、隣を歩いている少女
 菊花・ドランスフィールド(きっか・-)、十也のクラスメイトにして幼馴染
 学業成績は極めて優秀
 運動神経は加減していないと超人的能力を発揮しがち
 艶やかな長い黒髪とまだ幼いながらもすらりとした体躯は、男子からも女子からも羨望の眼差しを向けられており、並んで歩くとその眩さに十也の存在など霞んで消えてしまいそうな程だ
 父は強大な力を持つ都市伝説で、母親はその契約者
 そして本人は元・母親の契約都市伝説で、転生を経て娘として生まれ変わったというこの町でもなかなかのハイブリッド的存在だった

「いや……どうも嫌な予感がしてならない。また姉さんに何があるんじゃないかと」

 溜息混じりに漏れたその言葉に、菊花は苦笑を浮かべる

「百華お姉ちゃん、よく何も無いところで転ぶしね」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
「歩いてて電柱にぶつかる人、私は初めて見たし」
「いや、だから……」
「色々危なっかしいせいで、何かと目立つんだよね。前に銀行強盗の現場に居合わせて真っ先に人質にもなってたし」
「待て、俺はそれ知らないぞ」
「うん、家族で買い物行ってたら偶然見掛けてね? お父さんがこっそり犯人をやっつけて居合わせた人達には夢って事にして、無かった事にしちゃったからニュースとかにもなってないし」
「それ、百華姉さんもそう認識してるのか?」
「多分ね? お父さんの能力に抵抗できるレベルの人、そうそう居ないよ」
「……じゃあ、自重の種にはならないか」

 小さな背中を丸めて、また一つ重い溜息を吐く十也

「こらー、子供が辛気臭い雰囲気かもし出すなー」

 そんな背中に、のしかかってくる小柄な少女
 背中に感じる体温と、ふわりと香るシャンプーの匂いに、十也は思わず顔を伏せる

「そういう姉さんは、もう中学生なんだからもう少し年長の自覚を持って下さい」
「自覚はあるよ? あとね、十也くんにとってあたしは叔母なんだから、姉さんじゃなくておばさんね?」

 逢瀬百華(おうせ・ももか)、中学校一年生
 母の血筋のせいか、十也や菊花より年上であるにも関らず、見た目も雰囲気も二人より年下に見られがち
 頭は悪くはないはずなのだが勉強が苦手で、何も無いところで転ぶ事が容易に可能な運動神経を持ち合わせている
 容姿は割と異性受けする造形だが、綺麗というよりは可愛いといったタイプかもしれない

「普通、女性はおばさんって呼ばれるの嫌がりませんか」
「そう? そこらへんがやっぱり、年長者としての自覚ってやつなのかな」
「年長者の自覚というものは、そういうものじゃないです」

 そんな話をしながら十也に負ぶさったままの百華の襟を、誰かがひょいとつまんで引き離す

「そのへんにしとき。十也くん重そうやん、色々な意味で」

 楽器の音色を思わせるたおやかな声が、どこか調子外れなイントネーションの似非関西弁と混ざって独特の存在感を放つ
 朝露に濡れる蜘蛛の糸のような、日の光を浴びて輝く銀髪をさらりと靡かせるその少女は、百華と同じ中学の制服に身を包んでいた

「あ、真兎ちゃん」

 染桐真兎(そめぎり・まこと)、百華と同じ中学一年生
 深窓の令嬢を思わせる見目麗しい顔立ちと、見る者の庇護欲をそそる儚げな肢体
 だがその姿形とはアンバランスな、肩に担いだ使い込まれた竹刀袋
 赤面した顔を伏せていた十也を、どこかニヤニヤとした顔付きで眺めていた

「あれ、部活は? 剣道部入ったって言ってたのに」
「アカンわ。ウチ、ああいう競技的なモン向いとらへん」

 そう言って、ばつが悪そうに頬を掻く真兎

「剣投げ付けるんも、足払いかますんも、腕極めんのもダメやて。つーかオカンに習った必殺技出したらマジで死人出そうやし」
「都市伝説に関ってる身体能力もあるんだろうけど、確かに葵さんの戦闘スタイルは実戦的過ぎて剣道には向かないかもね」

 親を通じて知り合い、幼馴染であるこの四人
 ただ幼馴染であるというわけではなく、百華を中心とした一種のコミュニティである
 しかし百華がリーダーシップを発揮しているとか、特別頼れる存在であるとか、そういう事は全く無い
 では何故、彼女が中心であるかというと

「モカちゃん、巻き込まれ体質やからなぁ。もちっと身体鍛えた方がええで?」
「体質って、そういうものなのかなぁ?」

 先程の菊花の話にもあったように、百華はトラブルに巻き込まれた話が異様に多い
 まるで誰かが仕組んでいるかのように

「母さんも割とそういう体質だったみたいだね。結婚してからはぴたりと収まったらしいけど」
「え、ホント!? じゃああたしも早く結婚しないと!」
「何でそうなるんですか、姉さんは」
「おばさんだってば」
「一歳しか違わないし、ずっと姉さんって呼んでるから慣れちゃってるんです」

 四人で喋りながら歩いているその最中、三人がぴたりと足を止め
 そのまま百華一人がふらっと前へ足を踏み出しかけたところへ、その腕を掴んで引き留める

「姉さん、信号。赤」
「おおっと!?」

 ふらりと車道に踏み出しかけた百華の姿を見たのか、交差点に近付いていた車がスピードを落としながら、運転手が訝しげに様子を伺っている

「巻き込まれ体質もありますが、注意力が散漫過ぎです。事故とかが起きてからじゃ遅いんですからね」
「うにゅ、ごめん」

 いつもの十也の説教に、菊花と真兎がくすくすと笑う
 そんないつものやりとり、日常の光景を
 非日常は唐突に打ち壊す
 四人の姿を見て徐行運転をしていた車が、百華の後ろを通り過ぎようとしたその瞬間
 そのドアが勢い良く開かれ、男の腕が百華の身体を車の中に引き摺り込む
 即座に飛び掛ろうとした十也の身体を容赦無く蹴飛ばし、百華が持っていた鞄を放り出し、車はタイヤを軋ませて全速力でその場を離れていった

「げふっ……! ぐ……っ……くそっ!」

 腹部に受けた衝撃に、こみ上げる吐き気を広がる鈍痛を気合いで捻じ伏せ、十也は叫ぶ

「菊花、ナビを頼む!」
「了解」

 するりとブラウスを脱ぎ、幼い肢体を曝け出す菊花
 その背中から流麗な造形の蝙蝠のような翼がばさりと飛び出し、羽ばたき一つで大空へと舞い上がる

「真兎さん、菊花のナビで追跡を!」
「わかっとる!」

 真兎が鞄から取り出したスマートフォンは、GPSで菊花の携帯電話の位置を報せている
 最初から百華をGPSで追わなかった理由は、誘拐犯が即座に百華の鞄を放り出した事にある
 犯人は携帯電話のGPSの存在を考慮した上で、まず最初に百華の荷物を捨てた
 そこから察するに、鞄ではなく制服のポケットに入っている携帯電話もまた、すぐに見付かって捨てられるだろうという判断である

「……母さんですら、ここまでハードだったって話は聞かなかったな」

 そう言って十也は、百華の携帯電話のGPSの位置を追う
 もし途中で捨てられるなら、後の更なるトラブル回避のために回収しておきたいし、犯人が空から追跡する菊花に見えない形で妙な手を打つかもしれない
 思考を巡らせ、GPSの様子を確認してからまずは父に連絡を取ろうとするのだが、通話中なのか繋がる気配が無い

「相変わらず忙しいか……すぐに連絡がつきそうな『組織』の人は、誰かいたっけ」
「『組織』の人を呼ぶのは、正直どうかな?」

 その声は、十也の傍らに佇む何者かのもの
 幼馴染の誰とも違う、知っている誰かであって知らない誰か
 姿形も性別も何もわからないが、確かに知っている『ともだち』
 それが十也の契約している都市伝説である

「どういう意味だ?」

 十也の問いに、『ともだち』は困ったように呟いた

「だって……」

―――

 学校町には昔から、再建の目処も立たずに朽ちるに任せられた廃工場がいくつか存在している
 工場としての頑健さから、それは長い年月を経ても敷地に雑草が生え散らかり、金属を錆びが覆うばかりでその形を残している場合が多い
 廃工場というものが怪談の舞台となる事で都市伝説と結び付き形を維持していたり、勝手に住み着いた都市伝説や契約者が手入れをして長持ちさせていたりもするのだが
 誘拐犯達が車を滑り込ませた廃工場は、幸か不幸か都市伝説の類が住み着いている様子は無い
 中で待機していたらしい仲間と思わしき数人が、車から引き摺り出される百華の元へと集まってくる

「こいつの携帯は?」
「途中でバッテリーを抜いて捨てた」
「随分と大人しいみたいだが、生きてんのか?」
「暴れ具合はたかが知れてたが、やかましかったからな。スタンガンで黙らせた」
「そうか。それじゃあ依頼人に連絡する。引渡しまで気を抜くな、人気が無い場所とはいえ、何があるかわからん。騒がせるなよ」
「わかってる」

 車から三人
 工場から三人
 合計六人の男達が、百華を担いで廃工場の中に引き上げていく様子を、上空から見下ろしながら菊花が携帯電話で真兎に報告する

「真兎さん、犯人は今のところ六人。所持している武器はスタンガンを確認。刃物や拳銃は今のところ確認できないけど……多分持ってるんじゃないかな、あの雰囲気は」
《オッケー、現場への到着はもう少し掛かりそうやから、もうしばらく監視しとってな》
「了解。でも建物の中に引き上げるみたいだから……ちょっと近付かないと、わからないかも」
《誘拐の目的とか、そういうのはどないな感じ?》
「流石に声までは聞こえなかったからなぁ」
《身代金目的とか人身売買ならええねん、時間に余裕あるわけやし。都市伝説絡みだと性的暴行や殺傷が主眼やったらちと困る》
「うん……その辺り、ちょっと確認しておきたいね」

 菊花は通話を切ると、ばさりと翼を羽ばたかせて廃工場の屋根へと舞い降りる
 決して重いとはいえない小学生女子の体重だが、錆びた施設は僅かな負荷だけでもみしりと嫌な音を立てる

「どこか、中を覗けるところはないかな」

 あちこちに採光用の窓らしきものはあるが、中の様子を窺うために翼を羽ばたかせていては、すぐに存在を知られてしまうだろう
 菊花は慎重に慎重に、建物の様子を探り始めた

―――

『組織』本部の執務室の一つ
 この組織ではアルファベットによる部署分けの他に、その部署内で相応に人数をまとめている派閥があれば、大体はこういった部屋を所有している
 単純に事務処理のための場所であり、重要な報告を他の派閥に漏らさないよう受けるべき場所である
 そして、派閥の長たる立場に収まるのは概ね長く『組織』に在籍している、番号が一桁台かそれに近い黒服なのだが
 この派閥の部屋の現在の主である男の番号は、5桁
『組織』の黒服で言えば十把一絡げの雑魚レベルである

「……あ、もしもし。お久し振りです」
《本当に久し振りだな。結婚式以来か?》

 数年前に前任者が更迭され、後任としてとりあえず椅子を押し付けられたA-No.18782
 そして電話の相手は

「奥様と共に息災でいらっしゃいますか、広瀬さん」
《仕事が忙しくて佳奈美とイチャイチャする時間が減る。もう少しAナンバーの方でどうにかしろよ、まったく》
「そこまでの権限は私にはありませんので。うちは前線じゃなくて資料室みたいなものですからね、今は」
《その資料室が何の用だ? ただ久々の挨拶に連絡を寄越すようなタマじゃないだろ、お前さんは》
「勿論、そんな暇は無いので」

 A-No.18782は手元の資料に視線を落としながら、声のトーンを落とす

「先日、こちらのデータベースが荒らされましてね。物資保管庫にも侵入をされたようでして」
《そりゃあご愁傷様だな。犯人や目的は?》
「犯人についてはさっぱり。ただ目的があからさまだったので、そちらに連絡をしておこうと思いまして」
《こっちに関係がある事なのか?》
「ええ。十三年前にそちらに引き渡した、『蟲毒』。あれを一時保管してた結界倉庫がやられたもので」
《なるほどな。だが、それなら上に直接伝えた方がいいだろ》
「いえ、あなたに確認しておきたい事があったものですから」

 A-No.18782は、静かに訊ねる

「奥様、本当に都市伝説との契約は解除されてますよね?」
《そりゃあ間違い無いが……何故だ?》
「奥様の契約していた都市伝説、あれの資料も荒らされてました……『蟲毒』の作り方、ご存知でしょう?」
《なるほどな。だがあいつは間違いなく契約は解除されてるよ、問題無い》
「まあそれでも、勘違いや穿った見方をする輩がいるかもしれませんからね。しばらく休暇でも取って、奥様とのんびり過ごしては如何ですか?」
《全然のんびりじゃねぇな、それは》
「念の為ですよ。多分、有給扱いになるでしょうし」
《まあ……とりあえず保管してある『蟲毒』について確認したら、休暇の手続きをしてすぐに帰るわ》
「できれば、学校町からしばらく出てしまうのが良いんですがね」
《子供達の事もあるし、なかなかそうもな》
「ともあれ、身辺には気をつけて下さいね。伝える事は伝えましたから、何かあって私の責任を問われても困りますからね」
《相変わらずだな、お前さんも》
「変われる余裕も暇も切っ掛けもありませんので。それではこちらも、犯人の追跡調査がありますので」
《ああ、気をつけろよ? 『組織』に外側から侵入するってのは、相当なやり手だって事だからな》

 外部からそのような輩が侵入したとすれば、『組織』全体の警戒網を容易に通り抜けられるという事
 感知系の能力を持つ契約者や黒服も多々居る中で、それはまず考えられない
 そうなれば、宏也の言葉が指し示す意味は一つ
 内部の者の犯行

「……気をつけますよ。私は危ない事は嫌いですから」

 そう言って通話を切り、A-No.18782は椅子に背を預けてため息を吐く

「過激派や急進派の排除がここ十数年で大きく進みましたからねぇ……そっちの線も洗わないといけませんか、やはり」


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