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死神少女は修行中-番外.ベッドの下のボディーガード

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「・・・軽い肺炎ですね」
 熱でぼうっとした極と、その極をそっと支えるリジー、心配そうにはらはら見守るノイに、それほど大きくないクリニックの老医師は告げた。
「大した事はありませんが、大事をとって、2、3日入院しましょう」
 少し学校を休んだとて、勉強が遅れる心配も要らない極は、こくっと赤い顔で頷いたのだった。

 その日の夜中。極が目を覚ましたのは熱の為か、喉が渇いたせい。
 枕元の水差しは空になっている。
「知らないうちに、そんなに飲んだのかな」
 点滴のおかげでいくぶん頭がはっきりしてきた。たしか待合室のロビーには給水機があったはず。
 よっこらしょと体を起こし、病室を出た極の背を、ひとりの女が見つめていたが、もちろん彼は気づかなかった。

「ふー」
 喉が中からひんやりするような冷たい水を飲み、病室に戻ろうと踵を返した、その時。
「注射は、いらんかね~」
 目の前には、注射器を持ち、力の抜けたような様相で佇む男。

(ち、注射男・・・!)

 悟った瞬間、極はダッシュで走り出した。嫌だと言ってもどのみち注射される。
(別に僕は、注射が怖いんじゃないぞ。何を打たれるかわからないから逃げるんだ!)

 心の中でつぶやきながら逃げ込んだ場所は、トイレの一番奥の個室。

(何をやってるんだ僕は!)

 後がない最悪のシチュエーションに、自ら窮地に飛び込んでしまったことを悟った極は舌打ちする。
 ホラー映画や小説なんかによくある。
 主人公やヒロイン達がそれはどうみても危険フラグだろうとしか思えない方向に飛び込んでいく。
 読者であるところの極は、「バカだな」と思いながら予想通り主人公達が絶叫しながら逃げ回る様に、自らの予測の正しさに悦に入るのだ。男子高生としては可愛くないこと極まりない。

「結局、僕も愚かな人類のひとりだったって事か・・・」

 人類全体の業にすり替えながら極が己のバカさ加減を悔やむと同時に。

「みぃ~つけ・・・ぐげっ!」

 個室の扉の上から顔を出した注射男は、一瞬でその姿を消した。まるで下から見えない何かに引きずり降ろされるように。
「この不審者!イタル様に何をするつもりだったああああ!」
 続いて、続けざまに鈍い音が狭いトイレに反響する。

「り、リジー・・・?」
 リジー・ボーデン。
 彼女こそは両親殺しの嫌疑を掛けられた故に童謡「マザー・グース」に歌い継がれるようになり。生きながら、都市伝説と化した女性。
 彼女は歌の通りに、哀れな注射男を斧で殴りつけて行く。かつて、両親をそうしたと歌う西洋の童歌のように。

「答えろと言っているのだこの不審者!」
「いやちょまっ!待ってぎゃああああ!」

 そして注射男は。
 意味のある言葉を一言すら発さないうちに、光となって四散した。

「さあ、イタル様。もう大丈夫です。またあの様な輩が現れぬよう、入院の間は、私が付き添いと看護を致します」
(看護は、看護師さんの仕事じゃないのかなあ・・・)

 その後、極が入院していた間にしばしば目撃された
「入院患者のベッドの下の斧女」
 について、新しい都市伝説が生まれたか否かは、また別のお話。




END

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