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死神少女は修行中-番外.鏡と錬金術師

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「てめー、待てですよ」

 生地は光の加減で艶やかな薔薇が浮き上がる繊細なジャンパースカートにシフォンのブラウス。
 ピンク色の頭には総レース張りのつば広のボンネット。その全てが深淵の黒・・・いわゆる、ゴスロリとか云うやつか。
 その珍妙な出で立ちの少女から声を掛けられて、彼、本田書物は黙って立ち止まった。
「てめーと、取引をしたいのですよ」
 取引だと?心当たりのない彼は沈黙する。
「さっき、てめーがそこの店で入手したものですよ」
 ・・・思い出した。
 マキちゃんにたまには何か買ってやろうとした「黒いパピヨン」とやらいう変わった店で、どうした訳か店主の若い女に気に入られて
「貰ってちょうだいな」
 と半ば押しつけられた、石膏像のような噴水のオブジェ。水もきちんと出るそうだ。
 これだけ聞くとなんだか西洋のお屋敷にあるような瀟洒な噴水を思い浮かべそうだが、その水を噴きだしているのがゾウで、そこに蝶々が戯れているという全く意味不明な代物だった。
「対価は払うのですよ。ボクにそれをよこせですよ」
 彼は僕っ娘には優しいと自称している。よってこの訳の分からない少女の申し出を、話だけは聞く気に・・・
「ならねーようですね、プレゼントじゃとーぜんですか」
 そこそこ歴戦の彼には、少女が人の内心を知る能力を持つことを、その台詞が無くても推し量れた。その媒体が、手にしている鏡である事も。
「何が目的だ?」
「おっと」
 少女は彼から瞳を逸らす。既にお見通しと云うわけか。
「もう一度聞くですよ。取引する気は・・・」
 そこまで言い掛けた少女がはっと身を引く。
 彼の忠実な下僕と化した黒服の、光線銃の一撃を避けたのだ。
 ただの小娘にしては反射神経が優れている。もしかして、人間ではない・・・か。結論づければ、彼の行動は早い。
「何が目的でこいつを欲しがる?」
「欲しいからなのですよ!」
 そんな理屈があるか。・・・いや、あるかも知れない。世の中は広いのだ。
 しかし、この噴水に何か・・・もっと言えば、好奇心をそそるようなモノがないとも限らない。
「店から付けてたですよ!」
 怒鳴ってから、少女ははっと口を押さえるが、もう遅い。既に体も硬直したように棒立ちになった。
「それボクが欲しくて狙ってたのに、てめーにはどーせ価値なんて判らねーから、取り引きの振りして持ち逃げしてやるつもりなのですよ!」

 もはや少女の意志とは関係なく次から次へ言葉を紡ぎ出していく。
 脳内物質を変成させて、自白剤に近い成分を作り出すことなど、思いのまま。
 ついでに体も動かないはずだ。随意筋肉への神経伝達は声帯を除き一時的に麻痺している。
 目的を聞きだし、これが興味をそそるようなモノでなければ、対価次第でくれてやってもいい。
 なんたって彼は、自称僕っ娘には優しい男なのだ。
「一見アンティークっぽいけど、実は中国製だって、オーナーさん言ってたですよ!都市伝説なんか欠片も関係ねーですよ!」
 よし、もう一押し。
「対価は、今ボクが持ってる一番可愛い物をくれてやるですよ!」
 ・・・これを言わせた事で、彼は勝ちを確信した。
 少女は顔の筋肉すら動かすことがままならず、操られるままに首から紅水晶で作られた、繊細な薔薇の意匠のネックレスを外して男に手渡す。
 ネックレスを受け取った男は、そっと少女の前に悪趣味な噴水を置く。取引成立だ。
 本当はジャンパースカートでも良かったのだが、マキちゃんに着古しを着せるのも躊躇われたし、ブラウス一枚で放り出すのも何だと思ったので、ネックレスで妥協した。
 ネックレスが彼の手に渡った途端少女は解放され、地面にへたり込む。
「なんで・・・僕を操れたですか」
 目は見てない筈なのに、と納得のいかない様子に、男は黙って少女を指さす。正確には、少女の手鏡を。
「鏡って、ガラスに銀やらなにやら吹き付けたりして作るって、知ってるか」
 鏡を構成する金属に少々悪戯をして、マジックミラーに変えたのだ。ほんの一瞬だったから、気づく暇すら与えなかった。
「くっ・・・完敗なのですよどちくしょー!」
「じゃあな。これに懲りたら持ち逃げなんて企むんじゃないぞ」
 ちょっといい人っぽく締めて、田中書物はその場を去った。
 マキちゃんはネックレスを喜んで受け取り、出所については突っ込まれなかった。物々交換だから、別に後ろ暗いところもなかったが。


幻「ひでー話じゃねーですか!」
貴也「いや、一番酷いのはアナタだから!」



END

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