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赦しは少女仕掛けの…-02

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「切り裂きジャックを殺さないで、か・・・」
「無理だろ」
 何か憂うようなアルの呟きをエディはさらりと流した。
 生きて捕らえる事が出来たとして、どのみち死刑は免れないだろう。すでに数えるのも困難なほど殺しを重ねているのだから。
「あの子どもは何らかの事情を知っている、そういう事だな」
「そのあたりはお前さんが探ってくれよ」
 俺は良い身なりしてやがる連中には、口もきいて貰えねぇからな、と皮肉っぽく言い放ち、ジャケットを引っかけて出て行くエディの背に、アルの誰にともない呟きは届かなかった。
「奴に何か理由があるとして・・・誰もを救う事は出来ないのだろうか・・・」

 夕刻、再びホワイトチャペル地区。
「なー、俺こーゆーモンなんだけど」
 町のそこここに立ち客を待つ娼婦に、臨時に支給された警察手帳を持ったエディが軽い調子で声を掛ける。
 娼婦たちはいぶかしみながらも、若くそこそこ見栄えのする容姿を持つエディにさしたる悪い印象は抱かなかったようで、誘いには事欠かなかった。
「悪いな、“そっち”はまた今度にしてくれ」
 もとより今更聞き込みで新しい情報が入るとは思っていない。
 犯人は現場に戻る、とはよく言ったもので、彼自身はあまりそれを信じてはいないものの犯人が他で“獲物”を調達出来る当てがあるかと言えば―
「ねえよな、やっぱり」
 眼前には、黒いドレス姿の少女。手には牛でも解体するような大振りのナイフを携えている。
「殺さないでって、言ったのに」
「切り裂きジャックを殺さないで、か。・・・命乞いは自分の為か、他の誰かの為か?引っかかる物言いじゃねえか」
 少女は何も言わず、ナイフを構えた。
「ガキが相手じゃ気が進まねえが…悪く思うなよ」
 呟くと、エディは銃を取り出した。
 彼の契約する〈伝説〉・・・「魔法の弾丸」
 旧くドイツに伝わる〈伝説〉悪魔から与えられたその弾丸は、射手の望みのままに命中するが、最後の一発、それだけは、必ず悪魔の望むところに当たるという。
「お前に俺が殺せるか?」
 〈伝説〉は自らを造り上げるそれによってしか動けない。
 仮にこの子どもが娼婦たちの惨殺犯であったとして、女しか殺さない、殺せない・・・だろうか?
(それとも、罠か)
 あえて女の死体しか残さず、男の死体は何らかの方法で始末する。あるいは殺し方を変え、犯人が同一である事を悟らせない。
 「犯人は女しか殺さない」と錯覚させて、捕縛者は返り討ちにする。あり得そうなことではある。
(やってみなきゃ、わかんねぇか)
 先ずは動きを止める意図で足に狙いを定めた。「魔法の弾丸」は何者をも逃さない。
 がちゃりと音がして、回転式の拳銃の弾倉が回った。
 そのまま引き金に掛けた指に力が入った、その時。

「待てーっ!!」

 大声と共に、息せききって駆けつけたのは。

「アル・・・!?」

 思わぬ闖入者に驚いたエディだったが、今更引き金を引く指を止められるものでもない。

 ぱんっ

 乾いた破裂音が響き、少女のドレスを易々と貫いた弾丸はその細い足を撃ち抜いた。

「・・・・・・!」

 片足を撃ち抜かれバランスを失った少女がその場にくずおれる。
 すかさずエディが走り寄り少女の手首を掴んだ瞬間・・・

「こんな子供を撃つなんて!」

 アルがエディと少女の間に割って入った。

「てめえ状況見ろ!」
 子供とはいえ大振りのナイフを振り回して襲ってくる相手にどう手加減しろというのか。
 エディが少女の前に立ちはだかるアルを押し退けようとした時、少女の手元で銀色の刃がひらめいた。

「・・・邪魔」

 布が裂ける嫌な音がして、膝をついたアルの背中をエディが覗き込むとスーツの背中が真一文字に裂けていた。
 そこからみるみる広がっていく深紅。一目で軽くない傷を悟ったエディはこの場は撤退する事を決めた。

「逃げるのは趣味じゃねえ、なんて格好つける気もねえけどな・・・それにしても、足引っ張りやがって」
 アルが膝をついたまま痛みにうつ伏せるのを苦々しく見ていたエディの表情に、不審の色が横切る。
 スーツ越しに触れる、人肌にしては堅い感触。
「ちょっと傷見せろ」
 スーツとその下のシャツをさっとめくると、更に布地が見えた。リボンも華やかな柄もない、けれど高価そうな黒絹に、幾筋かの鯨髭の骨が通っている。
 間違いない。これは―

(コルセット・・・だと!?まさか、こいつ・・・女!?)

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